野球における「二刀流」の意義とは

野球における「二刀流」の意義とは

大谷選手は2021年、打者としてリーグ3位の46本塁打、投手として9勝2敗、防御率3.18という素晴らしい成績を収め、アメリカンリーグのMVPに選出された。

一流の投手は、中学や高校時代は「投手で四番」を務めていた場合が多いが、プロになった時点でどちらかに専念するのが普通だ。

特に、専業化が進んだ現代の大リーグで、しかもDH制度があるアメリカンリーグにおいては、投手が打席に立つことすら珍しい。

大谷選手は、その常識を打ち破り、投手でも打者でも一流のパフォーマンスを示している点が超人的である。

かつては日本のプロ野球にも「二刀流」選手は存在していた。投手として237勝、野手として830安打を打った阪急(現オリックス)の野口二郎選手、投手として65勝、野手として1137安打を打った近鉄(現オリックス)の関根潤三選手、投手として310勝、野手として500安打を打った巨人の別所毅彦選手等が有名だ。

いずれの選手も「打撃の上手い投手」か「投手もこなせる野手」のように、いずれか一方のポジションが優れていた選手であり、大谷選手やベーブ・ルースのように双方が超一流という選手は存在しなかった。

「二刀流」 原点は宮本武蔵

「二刀流」 原点は宮本武蔵

「二刀流」という言葉の原点は、剣豪宮本武蔵にあると言われ、剣術「二天一流」として現在に伝えられている。

「二刀流」は現在の剣道のルールにも引き継がれており、大学生から公式の試合で使用可能になっている。

「二刀流」は、文字どおり二本の竹刀を同時に扱う構えであるが、左手に小太刀(短い竹刀)、右手に太刀(普通の竹刀)と異なる竹刀を持つ。その場合、小太刀では防御や崩しを中心に、太刀では攻撃を中心に行うのが基本だ。

戦後に衰退した「二刀流」

ルール上は使用が可能ではあるが、実際の試合では学生・社会人にて二刀流を扱うものは少なく、衰退の一途を辿っている。
これは、そもそも二本の竹刀を同時に使いこなすことが難しいことも理由にあるが、最大の理由は二刀流を教えることのできる指導者が不足していることだ。

戦前の剣道界では、この「二刀流」が隆盛していた。しかし、戦争時の出兵や戦後のGHQによる剣道禁止令により剣道人口は大幅に減少し、その後剣道が復活した後も戦前の「二刀流」を伝える師匠は、ほぼ不在の状況にある。
しかしながら、宮本武蔵がそうであったように、二本の竹刀を自在に扱うことができれば「二刀流」は本来強力な戦術であり、剣道界で「二刀流」の名選手が活躍する時代も来るかもしれない。

各分野で活躍する「二刀流」

各分野で活躍する「二刀流」

他のスポーツ界でも「二刀流」を実践している選手は存在する。まず、2020年の東京オリンピックにスケートボードで出場した平野歩夢選手は、冬季オリンピックのスノーボードで二度銀メダルを取得した名選手で、他人のできないことにチャレンジするために、スノーボードとスケートボードの両方の選手生活を送っている。

また、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の会長を務めた橋本聖子参院議員も、冬季オリンピックの女子1500mルスピードスケートで銅メダルを獲得するとともに、夏季オリンピックの自転車競技にも出場していることで有名だ。

また、米国では、異なる競技のアメフトと野球の「二刀流」プロ選手も存在している。

1980年代後半にMLBカンザスシティ・ロイヤルズとNFLのロサンゼルス・レイダース(現在ラスベガスが本拠地)の両方でプレーしたボー・ジャクソンは、両リーグでオールスターに選出される偉業を成し遂げ。

主に1990年代に活躍したディオン・サンダース選手は、MLBアトランタ・ブレーブスでワールドシリーズ、NFLダラス・カウボーイズでスーパーボウルに出場。2つの米国スポーツ最高の舞台に出場した、唯一の選手として有名だ。

医学の世界でも、脳神経外科医において、脳動脈瘤等の治療のため、血管内治療と直達手術の双方の専門医としての研修を積み、各患者の症状においていずれかの治療方法を選択する「二刀流」医師も増加してきている。

また、弁護士の世界でも、最近では、弁護士資格の他に、医師免許や公認会計士資格を併せて持つ「二刀流」弁護士も増えてきている。

もちろん、皆様がよくご存じの芸能界でも、福山雅治、柴咲コウ及び星野源等のようにシンガー(歌手)と俳優の双方の分野で同時期に大きな活躍をしている者も少なくない。

二刀流の分類

二刀流の分類

「二刀流」には、大別すると四種類のパターンがあると考えられる。

1 同時に異なる二種類の動作等を行う場合

剣道の「二刀流」のように、小太刀と太刀とを両方の手で使って試合をする場合、両方の太刀を使いこなすことができるのであれば、試合を有利に進めることができる。

このパターンはスポーツの分野で稀に存在するが、所謂「両利き」の選手が有利となり、専ら、当該スポーツ自体を有利に進めるための手段となっている。

2 それぞれ一種類の動作等を行うが、当該スポーツ等で二種類の異なる役割を果たすことでより大きな活躍ができる場合

大谷選手やベーブ・ルースの投手と野手の「二刀流」の場合がこれに該当する。また、野球のスイッチヒッターも左打席と右打席を相手の投手の利き腕に合わせて柔軟に選択できる点で、このパターンに該当する。
加えて、前述の脳神経外科の場合の「二刀流」は、患者に最適の治療という見地から行うものであり、これに該当する。

3 同時期に別の機会に異なるスポーツ等を行うことに挑戦する場合

 
特定のプロスポーツに秀でた選手が、他のプロスポーツ選手にも挑戦する場合や学生時代から両方のスポーツに秀でた選手がそのまま両方でプロ選手として活躍する場合がある。

これは、特定のスポーツを有利に進めるためではなく、専ら、他人ができないことに挑戦をする場合や、より多くの報酬を稼ぎたいと思う場合が多い。

前述のアメフトと野球の「二刀流」やスケートボードとスノーボードとの「二刀流」、そして、芸能人の歌手と役者の「二刀流」もこのパターンに該当する。 

4 異なる時期に二種類以上のスポーツ等を行い、いずれも一流の成果を収める場合

一つの道に秀でた者が、違う道でも成功するケースは枚挙にいとまがない。お笑いの世界で第一人者の北野武(ビートたけし)が映画監督でベネチア国際映画祭の金獅子賞を受賞する等の成功を収めやり、同じくお笑いで活躍した又吉直樹が、小説「火花」で芥川賞を受賞したことも有名だ。

プロ野球選手として活躍したもののその後他のスポーツで大成功を収めた例として、ジャイアント馬場(プロレス)や尾崎将司(ゴルフ)も有名だ。弁護士資格と他の難関資格(医師、公認会計士)の「二刀流」もこのパターンである。

これらの場合は、同時期に複数のスポーツ等を行っていない意味で真の意味での「二刀流」ではないが、一つのスポーツや仕事での経験が他のスポーツ等の経験に活かせる意味で、我々が個人として目指すべきはこのパターンの「二刀流」であろう。

コンサルティングと二刀流

コンサルティングと二刀流

当社(フロンティア・マネジメント)では、コンサルティング業務とM&Aアドバイザリー業務を実施しているが、本人の希望に従い、両方の業務経験を積む者も生まれている。

企業の取り巻く環境がますます複雑化している状況の中、大胆な活躍ができる人材は多様なスキルを持った人材である。「二刀流」といっても、中途半端な状態のまま他の仕事に手を出すことは決してお勧めしないが、ある仕事をきちんとマスターした者が、進んで他の仕事や職種の仕事に携わることは大変有効である。

筆者自身、弁護士という職種から始まり、現在においては企業経営やコンサルティングの仕事に携わっている。

弁護士時代に培った法律知識や感覚が、経営やコンサルティングの仕事に生きており、このようなスタイルが私自身の特徴となっている。

企業戦略における「二刀流」とは

企業経営において、「両利きの経営」という著名な書籍(チャールズ・A・オライリー、マイケル・L・タッシュマン著)がある。同書では、知の探索(自身・自社の既存の認知の範囲を超えて、遠くに認知を広げていこうとする行為)と知の深化(自身・自社の持つ一定分野の知を継続して深掘りし、磨きこんでいく行為)の両方をバランスよく実施している企業は、イノベーションが起き、パフォーマンスが高くなると述べている。

同書も換言すれば、ビジネス戦略の「二刀流」の重要性を説いているものと言える。

コロナで影響を受けた観光や交通の事業者が、景気悪化や今回のようなパンデミックの悪影響を軽減すべく、異なる事業の柱を作るための「二刀流」戦略を採ろうとしている話を耳にする。

企業の場合は、個人の場合と異なり、各種事業の知見を持った社員を補強・育成することができれば、比較的早期に「二刀流」を実現することは可能である。

しかし、「二刀流」が、本来の企業としての強みにまで成長させることは容易でない。前述した通り、個人が「二刀流」で成功するのは、まずは一つの分野で成功した者がそこでの経験や能力を生かして他分野に進出する場合が多い。
それと同様に、企業の場合も既に成功している既存のコア事業とのシナジーを持てるような他事業に進出する方が、強みを生かしやすい点で成功確率が高い。

最後に(2022年以降の展望)

カーボンニュートラル、ESG、DXの浸透等のように急速に企業を取り巻く環境は変化が激しくなっている。このような時代において、従来の常識の中で物事を考えていては難しい。大谷が成し遂げた「二刀流」は、個人の能力の高さ故の異例のでき事であると考えるべきではない。変化の時代を乗り切るためには、「二刀流」が持つ本来の強みを信じ、従来の常識を乗り越えて挑戦する者が出てくるべきである。

異質な複数の業務の混合による新たなビジネス、異なる考え方・戦略を同時に行うことでの強みの発揮、顧客ニーズを全て満たすための多様なソリューションの習得等、「二刀流」がもたらす強みは様々である。混迷と変化の時代を乗り切るためには、「二刀流」がその有力な解を導くことを確信している。

以 上

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