人類の英知⑩ 一般相対性理論(2/3) 人類史上最も美しい理論

前回「東京スカイツリーに上ると歳をとる」に続いて、一般相対性理論の第2回になります。今回は、アインシュタインが生み出した「宇宙の方程式」とその解について説明します。

シェアする
ポストする

▼人類の英知(シリーズ通してお読み下さい)
「人類の英知」シリーズ

宇宙の方程式

下記は、アインシュタインが生み出した、一般相対性理論の帰結となる方程式です。

一般相対性理論の帰結となる方程式

この方程式を私たち一般人が理解することは現実的ではありませんが、簡潔に説明すると下記のことを示しています。

  • 右辺は物質・エネルギーの分布
  • 左辺は時空の歪み具合(時間と空間は独立したものではなく、一体の「時空」として認識されます)

すなわち、物質がある→時空が歪む→物質が動く→時空が歪む……といった動的な方程式になります。我々は空間も時間も固定されたものと思っていますが、実はそうではなく、時空は動的な存在だったのです。人間には感知できないだけで、時間の進みが遅れたり速くなったり、空間が縮んだり伸びたりしているのです。

この方程式は「宇宙の方程式」とも言われます。私は初めてこの式を知ったとき、驚愕しました。「この宇宙を、森羅万象を記述する方程式があるんだ!」と。そして、宇宙を記述する方程式がこれほど簡素であることにさらに驚きました。アインシュタインを天才と言わずしてなんと言うのか。まさしく人類の英知だと思います。

この美しい式には多くの変数が含まれているため、解くことは極めて難しいそうです。そこで物理学者は、一定の前提を置くことでこの方程式を解き、宇宙の未来を予想しようとしてきました。解を見つけた場合、その人の名前が付けられます。

宇宙方程式の最初の解:戦場で解かれた「シュヴァルツシルト解」

宇宙方程式の最初の解:戦場で解かれた「シュヴァルツシルト解」

この宇宙方程式が初めて解かれたのは、なんと戦場です。

16歳で論文を作成するなど神童といわれたドイツ人天文学者・物理学者シュヴァルツシルトは、第1次世界大戦が勃発すると、40歳超であるにもかかわらず軍に入隊。ロシア戦線で弾道ミサイルの軌道計算をしていたときにアインシュタイン方程式を知り、塹壕のなかで計算をしたそうです(意思があればどんな環境でも勉強はしうるということかもしれませんが、これを我々一般人に当てはめるのは少々酷と言えそうです)。

シュヴァルツシルトは、(1)時空が真空で(右辺がゼロ)で、中心に星だけがある球対称構造、(2)宇宙は時間変化しない――との、もっとも単純な前提に立ってアインシュタイン方程式を解いたのです。すると、計算上許されない無限大が出てきてしまいました。シュヴァルツシルトはこの解をアインシュタインにも送ったのですが、アインシュタインは仮定が単純すぎて意味がないと判断しました。

しかし、これこそが歴史的な発見でした。物質が極端に一点に集中すると――トランポリンで言えば、トランポリンがどこまでも沈み込むようなとてつもなく大きいものが置かれると――、想像を絶する引力が働き、時空は極端に歪み、光でさえ逃げられなくなるのではないか……すなわち、ブラックホールを示唆するものでした。

ある物質がブラックホールになるための半径を「シュヴァルツシルト半径」と言い、太陽ほどの重量の物質であれば半径3km、地球ほどの重量の物質であれば半径9mm(! kmでもmでもなくmmです)まで圧縮すると、ブラックホールになります。この地球の半径が9mm‼ ブラックホールってすごいですね。

当初、そのようなものがあるはずがない、SFの中だけだ……と懐疑的な意見が多かったようです。しかし、実際にブラックホールが発見されたのです。

シュヴァルツシルトは、従軍中にかかった病気で早世してしまい、自身の計算が後にブラックホールとして認められることも知らずに世を去りました。

宇宙の未来を語る「FLRW解」

宇宙の未来を語る「FLRW解」

シュヴァルツシルト解に次いで有名なのが「FLRW解」で、なんと、宇宙の未来を予想する式です。物理学者アレクサンドル・フリードマン、ジョルジュ・ルメートル、ハワード・ロバートソン、アーサー・ウォーカーの頭文字をとっています。

未来永劫「ただそこに存在している」と考えられていた宇宙が、ルメートルおよびハッブルによって膨張していることが見いだされ、さらに後年、3人の学者によって、膨張が加速していることが発見されました(後者には2011年のノーベル賞が授与されています)。

宇宙が加速膨張しているということは、宇宙の未来は大きく分けると2つになると考えられています。

  1. いつかの時点で、物質の引力が勝り、宇宙は縮小に転じる
  2. 膨張が続く

宇宙はこのまま膨張を続けるのか、縮小に転じるのか。縮小に転じ、この広大な宇宙が超高密度の状態になる(「ビッグクランチ」と名付けられています)のはもちろん恐ろしいことですが、膨張が続く場合でも、宇宙が極端に引き伸ばされ絶対温度0度の冷えた世界になり何物も存在できなくなったり(「ビッグチリ」)、膨張しすぎてあらゆるものが引き裂かれたりする(「ビッグリップ」)可能性があるそうです。

これら可能性のある未来のうち、どれが実現するのでしょうか?宇宙の未来を決める要因は、宇宙の曲率、宇宙項の2つです。次回、この2つについて、および、アインシュタインとノーベル賞、そして2つの相対性理論のまとめについて書きます。

コメントを送る

頂いたコメントは管理者のみ確認できます。表示はされませんのでご注意ください。

※メールアドレスをご記入の上送信いただいた方は、当社の利用規約およびプライバシーポリシーに同意したものとみなします。

コメントが送信されました。

関連記事