好調ベトナムに死角はないか?

アセアン域内で唯一、2020年度GDP前年比プラス成長を果たしたベトナムにおいて、5年に一度の共産党大会が開催され(2021年1月25日~2月1日)、現職グエン・フー・チョン書記長の3期連続(計15年)となる続投が決定した。3期目は、南北統一後初という異例の長期政権だ。チョン書記長を中心とした4名の執行チーム「四柱」の顔ぶれはほぼ変化なく、政治・経済運営に引き続き安定感・期待感を持つ。ベトナムに死角はないか、検証したい。

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経済成長に政治的安定は不可欠

 
経済成長に政治的安定は不可欠

国を問わず、経済成長ドライバーとして、政治安定は必須条件である。

その意味で、昨年度のベトナムの経済プラス成長が実現したのは、コロナ禍を抑え込み、矢継ぎ早に経済政策を打ち出し、これを実践したチョン書記長を中心としたベトナム共産党幹部の手腕である。「党書記長の任期は2期10年」との党規約を無視した今回の3期目突入との共産党大会での決定は、現行の幹部・政策運営チームに対する共産党・国民からの厚い信任の現れとも言える。

チョン書記長の政策運営の特徴は、書記長を含む4名の幹部(4柱)で政策執行を行うという、独裁色をあまり感じさせない点であり、つれてチョン氏の不安材料として度々挙げられる、健康・年齢問題(現76歳)をカバーする。

ミャンマー、軍部クーデターのネガティブインパクト

チョン書記長の続投の報道がされたのと同じ2021年2月1日、ミャンマーではアウンサン・スーチー女史を含む政権与党幹部が軍部に拘束されたと報じられた。

2020年11月に実施されたミャンマー同国総選挙の与党過半数獲得との結果に、不正があったとして、同国軍部が不満を表明していた。が、これが「クーデター再来」となった模様である。

総選挙を受け、ようやく経済が回り出す矢先であっただけに、同国での事業展開や関連M&Aも増えるとの期待感にも水を差す。

軍部の狙いは何か、軍部の背後に誰かいるのか、これから徐々につまびらかになるだろう。

加えてコロナ禍もあり、同国の経済成長へのネガティブ・インパクトは計り知れない。

先のミャンマーに加え、タイやマレーシアでも政治が不安定であり、2021年も経済のV字回復に暗雲が漂う。

ベトナムの抱える課題

ベトナムの抱える課題

上記の通り、アセアン域内で圧倒的なプレゼンスと魅力を持つベトナムは、2021年度もプラス成長に向け盤石な体制を引いていくことになる。

この経済成長の実現にとって、同国の政治手腕が今後大きく問われるものとして考えられるのが、①外資規制と、②通貨政策を含む通商問題だ。

①新しくなった外資規制について

ベトナムでは2021年度年初より、外資規制の枠組みが大幅に変更された。対象産業・事業領域を明示する、いわゆる「ネガティブリスト」方式を導入することを発表している。

従前に比べ、透明性を持つことにはなった一方、規制対象の幅がやや広くなったとの印象を持つ。

共産党大会を控え、自国産業を守るとの内向きな政策となっていた感もあることから、同大会の終了を受け、今後具体的にどのように各省庁が政策運営していくのか、注視している。

②「為替操作国」認定と通商問題

2020年12月、ベトナムは米国から為替操作国に認定された。

米財務省によれば、対米貿易黒字額は年間580億㌦と、日本より大きい(同570億㌦)。

即時の制裁関税発動は見送られたものの、同国の通貨政策は政府による恣意的な自国通貨安を助長しているとして、今後も注視される。

ベトナムドンは国際通貨ではなく、政府・中央銀行が為替レートを決める固定相場制を採用しており、「恣意的」との指摘は正しい。

同国では早速米国との通商交渉を開始。2020年末までに北米産豚肉の輸入増を表明した。今後、牛肉を含め、同国畜産業への影響が出てくる可能性がある。

またベトナムは、韓国サムスンのスマートフォンの一大輸出基地となっており、今後、通貨政策次第では、輸出価格上昇の可能性も出てくると予想する。

まとめに

上記の通り、2020年はベトナムの注目度・政策運営の優位性が域内でも突出していた。

一方その結果として「出る杭は打たれる」との課題も同時に負う格好となった。

とはいえ、日本から見たベトナムへの関心は2021年も非常に大きく、つれてM&A機会も増えることが見込まれる。注目産業としては、従来の製造業に加え、不動産開発(含むエンジニアリング)・ソフト開発・エネルギー分野辺りである。

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