「二次元でZ世代を取り込め」 熱気を増す中国市場

Z世代(1990年後半から2000年代に生まれた世代)は、消費者市場の重要な担い手として成長し続けてきた。同世代を取り込もうとして、各業界は必死に様々な方策を打ち出している。統計によると中国Z世代は約6.4億人、総人口の約19%を占めている。中国市場においても、Z世代に向けた市場活動が活発になっている。

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「真のデジタルネイティブ」 二次元との深い絆

「真のデジタルネイティブ」 二次元との深い絆

生まれた時からIT環境が既に整備されていて、スマートフォン、ビッグデータ、SNS、AIなどの技術進歩とともに成長してきたZ世代は、「真のデジタルネイティブ」とも呼ばれている。同じくデジタルの進歩で拡大してきた二次元文化は、ごく自然にZ世代に強く影響してきた。

二次元文化は、ACGN(Animationアニメ、Comic漫画、Gameゲーム、Novel小説)を主体とする平面の世界であり、二次元グループより形成された独特な価値観と理念である。二次元市場は、ACGN及びそれに関係する衣装、フィギュア、音楽、ビデオ、イベントなど幅広くカバーしている。

中国の調査会社iResearchの報告によると、中国の二次元市場規模は、2016年の189億元(約3900億円)から2020年の1000億元(約2兆500億円)まで急速に拡大、2023年は2000億元(約4兆900億円)以上に達すると見込んでいる。

図表1_2016-2023年 中国の二次元市場規模と成長率
※「iResearch」2021年10月調査「中国二次元産業研究報告」を元に作成

自分が認めた価値観や個性、独創性へのこだわりが強く、自分らしさを表現でき、趣味や自分の好きな商品やサービスに対してお金を惜しまない傾向がある。そのようなZ世代の消費者にアプローチするために、二次元を通じたマーケティング活動は、近年活発になっている。

中国最大のゲームイベント「China Joy」 来場者の8割が29歳以下

中国最大のゲームイベント「China Joy」来場者の8割が29歳以下

コロナでオフライン開催が一旦中止となった中国最大のゲームショーChina Joyは、20回目を迎え、2023年7月28~31日、上海新国際博覧センターで開催された。

一般向けのBtoCエリアでは、eスポーツ、VR/AR、サイエンス・フィクション、スマートモビリティ、時代の最先端のライフスタイルを意味する「潮生活」、フィギュアなどをテーマとする9つの展示ホールが設置され、200社を超える企業が出展した。

新設のBtoBエリアでは、デジタル・テクノロジー・イノベーション、ゲームクリエイティブ、IP 認可などをテーマとする展示ホールを設置し、約300社の企業が出展。さらにChatGPTや人工知能(AI)、AI生成コンテンツ、メタバース、デジタルヒューマンに関する出展、シンポジウムもあった。

会場では、新作ゲームのお披露目や体験、ゲームのエキシビションマッチや、ゲームの世界を再現するセットや、コスプレイヤーたちを配置した撮影スポットなど通常のゲームイベントから、アイドルのミニライブや、舞台演劇、コスプレイヤーコンテストなど様々なパフォーマンスも行われ、大いに盛り上がっていた。

イベント期間中に台風があったにもかかわらず、4日間の観客数は33万人を超える大盛況となった。

観客年齢構成から見ると、29歳以下は約81%を占め、まさにZ世代が主力になっていることがわかる。

図表2_「China Joy」観客の年齢構成
China Joy公式サイトのデータを元に作成

車メーカーも“痛車”で参加 人気コスプレイヤーと連携も

車メーカーも“痛車”で参加 人気コスプレイヤーと連携も

Z世代にアプローチできる貴重な機会として、一見ゲームと関係なさそうな異業種も積極的に出展している。

中国広州汽車集団傘下の広汽伝祺は、2021年からChina Joyに出展。今年は、影シリーズ3車種(影酷、影豹、影速)及び新エネルギー代表車種E9を展示。ブースでは大型の人気戦闘機フィギュアを設置、展示車を人気キャラクターで“痛車”(アニメキャラクターやアーティストのデザインがされたシートを車に貼って装飾した車を指す)に改装、さらに人気コスプレイヤーとも連携したことで、ファンが殺到した。

新エネルギー車新興勢である高合、蔚来は、クアルコム主導の“ハイテク+エンターテインメント”をテーマとするSnapdragon館にて、それぞれHiPhi Y、ET5Tの車種を展示、車内の大型スクリーンでのゲーム体験を観客に提供した。

統計によると、2022年の新車購入者のうち、90年代以降に生まれた消費者は全体の46%にまで達している。Z世代はこれからの消費主力となるが、伝統的な車ブランド、販売チャンネルは若者たちの中で認知度が下がっている。

新エネルギー車の台頭で新たな参入も増え、市場競争がさらに激化する中、Z世代の興味を引き、好きになってもらうことは競争に勝ち抜くための鍵となる。Z世代が多く集まるイベントへの出展は、有効なマーケティング活動とも言える。

美少女戦士や西遊記のキャラでコスプレする宅配員

美少女戦士や西遊記のキャラでコスプレする宅配員

フードデリバリーから始まり、ネット販売、ホテルまで幅広く事業を拡大している美団は、2~3社分の面積に相当する大きなブースを設置。

展示場でゲームや、舞台演出、人気コスプレイヤーとのライブ発信などを展開し、オフラインとオンラインで人気を呼んだ。さらにブランドカラーの黄色でマシンナイト、美少女戦士、西遊記などのキャラクターにコスプレした宅配員が場内を歩き回り、観客に水を配ったり、ドリンクやおやつを配達したりして注目を集めた。

生鮮デリバリー大手のフーマ(盒馬)も初出展。大きな火鍋の形をしたトランポリン遊具施設、箱をリユースする取り組みや野菜などの食材をモチーフとした展示、食材でのコスプレなどで注目されている。また、1.8メートルで人と同じ高さの“大黄魚”の抱き枕を観客にプレゼントして、話題を呼んだ。

若者が集まるイベントへの出展によってアピールし、好感度を高めることを狙っている。

Z世代の「聖地」を目指し変身 上海の老舗百貨店

近年、中国でのE-Commerceの急速成長につれて、伝統的な商業施設、特に百貨店業は、大きな打撃を受けている。有名な百貨店が閉店まで追い詰められたニュースも散見される。そんな中、積極的にZ世代と緊密に繋がる二次元を導入し、一気に若返りに成功した上海の老舗百貨店がある。

  • 「百聯ZX創趣場」外観と店内の様子_1
  • 「百聯ZX創趣場」外観と店内の様子_2

(写真:賑わいを見せる「百聯ZX創趣場」外観と店内の様子。筆者撮影)

上海繫華街の南京路歩行者天国にある華聯商厦。その前身は1918年開業の永安百貨で、2006年に中聯商厦があった現在の住所へ変更した。1階は老舗の時計屋、メガネ、カメラ店、2階はユニクロの旗艦店、3階は衣服、靴、鞄などを販売する伝統的な百貨店だった。繁華街に位置しているにも関わらず、面積が5400平米、大型ショッピングモールとの競争力は弱く、かつ業態も古く、集客力は年々低下していた。

10カ月間の改造を経て、2023年1月15日に新規オープンし、「百聯ZX創趣場」として変身。ZはZ世代、Xは無限、創趣場は同じ愛好と情熱で集まってくるというZ世代のために作った実験場所だ。“Play Together”というスローガンを掲げて、Z世代向けの「二次元文化聖地」を目指すことを宣言した。

TAMASHII NATIONS海外初の旗艦店、メガハウス中国初の店、Animate中国初の直営旗艦店、Boom Comic中国初の店、バンダイVR Zone、東映アニメーションなどの日本ブランドのほか、模玩熊、三月獣といった中国国内ブラントも多数出店。二次元文化を中核として、販売、展示、ゲーム及び飲食を含む多様な業態を一体化する新たな試みだ。

直近の中秋節・国慶節(2023年9月29日~10月6日)の期間中において、平均来客数は6万人を超えて、単日の販売額も歴史的な記録を更新したと報道された。

モンハンやバイオハザード カプコンが新世界に初のアンテナショップ

モンハンやバイオハザード カプコンが新世界に初のアンテナショップ

百聯ZXのほか、同じ南京路に位置する老舗百貨店「新世界」の4階に、日本カプコンが中国初のアンテナショップを2023年6月28日にオープン。「ストリートファイター」「バイオハザード」「モンスターハンター」などの人気ゲームキャラクターのTシャツやフィギュアなど200種類以上のグッズを販売。二次元を中心とする“2023 新世界 ACG 嘉年華”イベントの開催などで、若者から人気を呼んでいる。

積極的にZ世代を取り入れることで、南京路歩行者天国を年間で訪れた客数は2億人。うち、約44%は90年代生まれで、00年代生まれも増える傾向で、町全体が若返っている。

人気のスマホゲーム「原神」 ファストフードや観光地と次々コラボ

人気のスマホゲーム「原神」 ファストフードや観光地と次々コラボ

Z世代の消費者に知ってもらう、好きになってもらう、買ってもらうことは、これからの市場競争に勝ち抜く重要なカギとなっている。人気二次元とのコラボは、Z世代の世界に入り込むための有効な手段として、近年活発になっている。

異なるブランド、商品などのコラボは中国で“IP聯名”と呼ばれている。IP(Intellectual Property)は、「知的財産」のことで、中国では映画、マンガ、アニメ、ゲームだけでなく、ブランド、人物、イベントなども幅広く関わっている。

一定のファンと知名度を持つIPとコラボすることで、ブランドに新規顧客の獲得や認知度向上、売り上げ増加、 “1+1>2”の効果を期待できる。

日本でも人気の中国miHoYo(ミホヨ)社開発のヒット作スマホゲーム「原神」は、他社とのコラボでも人気である。

これまでは、ゲーマーに人気のRAZER、ファストフードのピザハット、ケンタッキー、お茶のHEYTEA、アパレルの梅花、高級車のキャデラック、観光地の黄龍、張家界など、幅広い業界とのコラボを行ってきた。

日系塗料メーカーの日本ペイント中国子会社の立邦中国も、2021年に原神とのコラボ商品を発売。さらに、2022年に剣をモチーフにしたコラボのブラシを発売。壁だけではなく、デスクや、棚などを自分が好きなキャラクターの色でDIYできることを宣伝、“若者の初めての塗料”として、ブランドをZ世代にアピールした。

まとめ

強い個性と特徴を持つ次世代市場の担い手・Z世代に、「二次元」を潤滑剤としてどのようにアプローチし、アピールしていくのか。企業にとっては激しい市場競争に勝ち抜けるための重要課題だ。いま、市場プレーヤーたちが真剣に立ち向かっている。

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