潮目が変わる兆し

道路イメージ

国土交通省が6月19日に発表した2020年第1四半期(1-3月)の地価LOOK レポートによれば、地価は全体としては緩やかな上昇が続いたものの、トレンドに変化が見られた。
即ち、全国で100箇所の高度利用地を中心とする調査地区(東京圏43 地区、大阪圏25 地区、名古屋圏9地区、地方圏23 地区)のうち、地価の上昇地区数が2019年第4四半期の97地区から73地区に減少した一方、地価の横ばい地区数が2019年第4四半期の3地区から23 地区に増加した。

6年ぶりに下落地区

注目するべきは、4地区で地下が下落したことだ。

この調査で地価が下落した地区が現れるのは、2014年第2四半期以来約6年ぶりのことだ。
これらの結果から読み取れるのは、2013年頃から続いてきた地価の上昇トレンドに変化が生じつつあることが統計にも現れつつあり、不動産価格の進む方向が「上昇」から「横這い」、もしくは「下落」へと変わりつつあるということだ。

この変化は、9月に発表される7月1日現在の都道府県地価調査=基準地価の結果でより明らかに示されるであろう。

大きな価格下落の事例は、まだない

銀座イメージ

コロナがこれだけの事態になっているのだから「不動産の価格に悪影響を及ぼすのは当然だろう」と、一般には考えられているかもしれない。しかし現実には、不動産価格が大きく下落しつつあることを明確に示すような取引事例はまだ現れていない。

一つの理由は、不動産価格は実体経済を遅れて反映する「遅効性」の指標だからだろう。
今回のコロナ不況の局面では、コロナによって不動産会社や不動産ファンドの売買担当者や仲介担当者の活動が制限された結果、市場には不動産の売買情報の流通量が少ない状況がしばらく続いた。
そこで不動産取引が極端に少ない期間があったため、不動産価格の変動が顕在化しなかったことも事実だ。

とはいえ、緊急事態宣言解除後は不動産取引市場での活動も再開され、最近では大型の取引の成立も報道されるようになった。ヒューリックはティファニー銀座本店ビルを300億円超で芙蓉総合リースと共同で取得したと報道される一方(日本経済新聞2020年7月4日)、住友不動産はユニゾ八重洲ビルを800-900億円の価格で入札により取得したと報道されている(日本経済新聞2020年7月7日)。

報道によれば、ヒューリックの取得価格の300億円超は、売り主のソフトバンクグループの孫正義氏が購入した価格と報道される約320億円と、ほぼ変わらない。
ユニゾ八重洲ビルの800-900億円は、築50年超のビルであり、再開発目的の取得とみられる。建物の価値を「ゼロ」とみて、土地代だけで坪当たり1億円近く。東京駅前の好立地であることを考慮しても、「破格の安さ」とは言い難い。

即ちこれらの事例は銀座や東京駅前のような一等地の取引ではあるとはいえ、不動産価格が総崩れするような事態にはまだ至っていないことを示唆している。

短・中期的な価格下落圧力は比較的小さい

都会の景色イメージ

コロナで経済活動が停滞しているにもかかわらず、不動産価格がまだ高水準を保っている大きな要因は、言うまでもなく緩和が進んだ金融環境にある。長期金利がゼロ近辺の現状では、一般的に不動産投資の利回りはまだ魅力的だ。

2008年の金融危機の際に、極限までレバレッジをかけた不動産投資ファンドの投資がデフォルトに陥ったり、ハイレバレッジの不動産会社が破たんしたりした。その教訓から、今回はどの不動産投資プレーヤーのバランスシートも全般的に比較的穏やかなレバレッジのため、換金売りの圧力が比較的小さいという側面もあるだろう。

何よりも、ホテルや都心の一部の商業施設等を除けば、オフィスや賃貸住宅や物流施設から生み出される賃料収入が大きく毀損されたという事実はない。
コロナが収まれば、長期的には比較的安定したキャッシュフローが期待できるとの読みが投資をする側の頭の中にあると考えられ、投資家の関心は高めに維持されている。

緩和された金融環境は、まだしばらく続く可能性が高い。今後半年から1年のスパンでみれば、不動産投資需要は引き続き高水準で、不動産価格は弱含みでありながらも、全般的には底堅く推移する可能性が高いと考えられる。

例外はホテルや一部の商業ビル

ニセコイメージ

不動産価格を決める要素は多々あるが、最も重要な要素の一つが、その不動産から生み出される収益だ。
アベノミクスで支えられたこの5-6年の景気回復やインバウンド需要によってもたらされた消費の拡大によって、オフィスや都心の好立地の店舗の賃料は上昇が続いた。この賃料上昇による収益の増加に低金利が相まって、これらの収益を裏付けとする不動産の価格も上昇が続いた。

それが、コロナによって変化しつつある。
コロナによる影響を最も大きく受けているのが、ホテル等の宿泊施設だ。
直前まで外国人旅行者の増加により、高い稼働率と宿泊単価の上昇を謳歌していた宿泊施設は、コロナによる外国人旅行者の「蒸発」と緊急事態宣言での移動制限を受けた国内需要の激減により、休業を余儀なくされ収益を失った。

5月末に緊急事態宣言が解除され、多くの宿泊施設が営業を再開したが、外国人旅行者がいつ再び以前のようなボリュームで戻るかはわからない。
また、景気低迷により国内需要の回復ペースも、スローなものとならざるを得ない。
Go Toトラベルキャンペーンも、東京都が対象外では効果は限定的だろう。収益の大幅な悪化は、これらの収益を裏付けとする宿泊施設の不動産としての価格が大きな調整局面に入ることを示唆する。
2020年1月1日現在の全国の公示地価の上昇率トップは北海道のニセコ地域にある倶知安町の土地で、商業地の年間上昇率は57.5%に及んだ。
ニセコといえば外国人利用者の観光の増加により、不動産価格が高騰していたことはよく知られている。コロナにより外国人利用者が激減した今、この地の不動産価格が大きな調整局面に入る可能性は否定できない。
また飲食のテナントを主体とした都心の商業ビルも、価格下落圧力は強まる可能性がある。

2-3年先の価格動向は景気次第

オフィスや賃貸住宅や物流施設から生み出されるキャッシュフローが今後半年から1年で見れば安定的であるとはいっても、それが2-3年先まで続くかどうかの保証はない。

オフィスの場合、今後在宅勤務と本社オフィス、シェアオフィスでの勤務を組み合わせた勤務態様が普及すると考えられる。
本社オフィスのスペースを中心に需要が全体として伸び悩むリスクもあり、また2023年に予想される大量供給も懸念材料だ。
結局これらの不透明要素を払拭するのは、景気回復に支えられた需要の回復しかないと考えられる。
コロナに有効な治療薬やワクチンが開発され、日本のみならずグローバルでの景気が底打ちしてⅤ字型の回復軌道に乗れば、不動産価格も現在の水準よりさらに上昇する余地さえ生まれる可能性がある。

一方、コロナの第二波や第三波で世界的に景気停滞が長期化したり、コロナが変異してせっかく開発した治療薬やワクチンの効き目が抑えられたりすれば、不動産価格の下落の幅は大きくなり、下落の期間は長くなる潜在性がある。

まとめ

これまで上昇が続いてきた不動産価格の潮目は、コロナによって変わりつつある。ただし、ホテル等の宿泊施設や一部の商業ビルを除けば、オフィス、賃貸住宅、物流施設等の不動産の短・中期的な価格下落圧力は比較的小さい。今後2-3年先の価格がどうなるかは、まさに日本経済とグローバル経済がどうコロナを克服して経済を回復軌道に乗せられるか、にかかっている。

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