スーパーアプリとは何か?ヤフー・LINEが目指す新たなプラットフォームは

ヤフーを擁するZホールディングスとLINEとの経営統合が発表されて以降、「スーパーアプリ」という言葉が日本で話題となりました。 スーパーアプリとは、ひとつのアプリ内にさまざまなサービスを統合したアプリです。 なぜ現在「スーパーアプリ」が注目されているのでしょうか? 本稿では、スーパーアプリの概要や特徴、海外でのスーパーアプリの成功事例や日本国内における取り組みなどを紹介していきます。

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スーパーアプリとは?

スーパーアプリとは、ひとつひとつが独立した複数のアプリが統合され、プラットフォームのような役割を果たすアプリの通称。

海外でも「Super App」と呼ばれ、2015年頃から社会に浸透した言葉です。

日本においては、スーパーアプリ内で起動できるアプリ群を「ミニアプリ」と呼びます。
スーパーアプリ自体はアプリストアでダウンロードするタイプのアプリ(ネイティブアプリ)ですが、ミニアプリはダウンロードが必要ありません。

イメージを深めるために、スーパーアプリに近い構造をもつ「LINE」を例に挙げてみましょう。

「LINE」のメイン機能はメッセージチャットや通話サービスですが、決済機能が使える「LINEpay」や友だちにギフトを送れる「LINEギフト」などのサービスも同じアプリから利用可能です。

このように、スーパーアプリはひとつのアプリの中に多くの機能を搭載しており、スマホユーザーの日常生活における利便性を高める可能性を秘めています。

スーパーアプリが注目される理由とは?UXの向上がカギ

近年スーパーアプリが注目されているのは、スーパーアプリが既存のスマホアプリに潜む課題を解消し、スマホのユーザーエクスペリエンス(UX)を向上させるというメリットがあるためです。

既存のスマホアプリに潜む課題について

既存アプリの課題としては、主に次のような点が挙げられます。

  • アプリ毎にユーザー情報や支払情報の登録・管理をしなくてはならない
  • 複数のアプリをダウンロードし、起動する手間がかかる
  • スマートフォンの容量の関係上、ダウンロードできるアプリが限られる

消費者の視聴行動分析を得意とするニールセン・デジタル株式会社の調査では、ほぼ毎日利用されるアプリは平均8個で、1か月に新たにインストールするアプリの数は1〜3個である人が多数という結果となりました。

この数字は、アプリストアに登録される膨大な数のアプリと比べると圧倒的に少なく、ほとんどのアプリは日常的に使われていないことを示しています。

上記の課題がユーザーの負担となっているのは原因の一つと考えられるでしょう。

スーパーアプリはすべての課題を一気に解決

スーパーアプリは1つのアプリですべてが完結するため、ユーザーの負担が一気に軽減されます。

例えば、旅行で使うホテルや飛行機、レジャー施設などを予約するとき、従来ならそれぞれ別々のアプリで登録・予約・購入が必要ですが、スーパーアプリではすべてのプロセスを1つのアプリ内で済ませられます。

アプリを切り替える手間もなく、スーパーアプリを一度ダウンロードするだけでサービスを利用できます。

このように、スーパーアプリはユーザーの行動を導き、やりたいことを簡単に実現するため、ユーザーエクスペリエンス(UX)を大きく向上させるのです。

スーパーアプリの事業者目線でのメリット

スーパーアプリはスマホユーザーの利便性を向上させるというメリットにより注目される分野です。

では、アプリをサービスとして提供する側の事業者目線ではどのようなメリットがあるのでしょうか。

ユーザーを囲い込むことができる

スーパーアプリでは、複数のサービスをひとつのアプリで行います。
そのため、ターゲットとなるユーザーがバラバラのニーズをもっていたとしても、その多くに対して囲い込みが可能です。

実際に、高頻度のフードサービスを通じて獲得したユーザーを、低頻度のオンライン旅行サービスへのクロスセルに成功した事例もあります。

スーパーアプリでカバーできるサービスの範囲が拡大するほど、他社サービスへのユーザーの流出を抑止し、安定した収益が期待できます。

企業価値の向上を狙える

スーパーアプリは、複数のサービスを提供するプラットフォームとなります。

プラットフォームは「あって当たり前」という前提で、ほぼ毎日ユーザーの目に留まるものです。

世間での知名度アップやブランドイメージの定着によって、企業価値の向上が見込めるでしょう。

これによってユーザーが増えると、サービスの利便性を高めるためにリソースを割くことができ、さらに新規ユーザーを取り込むというサイクルが生まれます。

ミニアプリによって多彩な事業展開ができる

スーパーアプリが提供できるサービスは、登録されるミニアプリの数だけ拡張が可能です。

また、ミニアプリはネイティブアプリと異なり、iOSとAndroidの2つのOS向けにアプリケーションを別々に開発する必要がなく、開発費をおよそ半分にできます。

したがって、新機能としてミニアプリを追加すると、低コストで新たにユーザーの呼び込みができ、多彩な事業展開が見込めるでしょう。

世界各国におけるスーパーアプリの成功事例

現在ではスーパーアプリはすでに実用化され、主に中国や東南アジア諸国に成功事例が多く見られる情勢となっています。

こうした国では、インターネットとWebブラウザの時代をスキップしてスマホアプリが普及したため、サービスをアプリで受けるユーザーが多数です。

こうした環境では、地域の企業がメッセージアプリや生活サービスを提供するアプリを一気に統合し、シェアを独占しています。

それでは、実際に世界各国で提供されているスーパーアプリの事例を見ていきましょう。

中国「WeChat」

WeChat(ウィーチャット/微信)は、2011年から中国のTencent(テンセント)社が運営する、メッセンジャー機能とSNS機能が融合したアプリです。

同時に、世界で初めてスーパーアプリやミニアプリの仕組みを導入したアプリでもあります。

基本機能は日本で主流な「LINE」に近いですが、多種多様なミニアプリを搭載し、2019年の時点で100万個を超えていると言われています。

ショッピングやチケット予約、キャッシュレス決済から税金の申請、オンライン診療まで、社会生活を営む上で必要なあらゆるサービスがアプリ内で完結でき、中国ではITインフラのひとつとされるほどです。

中国「Alipay」

Alipay(アリペイ/支付宝)は、中国の阿里巴巴集団(アリババ・グループ)が提供するキャッシュレス決済サービスです。

現在東アジアで最も利用されている決済サービスのひとつで、アクティブユーザー数は10億人以上、日本においても加盟店舗数が30万店を超える規模となっています。

スマホアプリを通したQRコード決済機能を備え、オフライン決済における幅広い支払シーンに対応しており、特にユーザーの多い国では生活必需品として扱われるほどです。

AlipayもWeChat同様にスーパーアプリ化が進み、バイクシェアリングサービスやタクシーの呼び出し、信用スコア診断や資産運用といった様々なミニアプリが統合されています。

シンガポール「Grab」

Grab(グラブ)は、マレーシア発の東南アジア最大となる配車サービスアプリです。

車を手配してタクシーのように利用でき、行き先を伝える、料金を支払うといったコミュニケーションがアプリ内で完結するため、安心して移動できるのが大きなメリット。

アプリを運営するGrab社が展開する事業は、配車サービスだけでなく、キャッシュレス決済の「Grab Pay」、フードデリバリーや事業者向け少額ローン、自動車保険と多種多様です。

これらのサービスをひとつのアプリに統合し、アジアでも有数のスーパーアプリへと進化していきました。

日本国内のスーパーアプリ市場は?

中国や東南アジアで急成長するスーパーアプリ市場ですが、日本国内ではどうなっているのでしょうか?

日本のような先進国では、スマホが普及する前からインターネットを通じたWebサービスが数多く存在していました。

そのため、スマホアプリが流行しても、Webサービスの分野で特定の会社がシェアを独占する状況は起こりにくいです。

これは、スーパーアプリのような複数の機能を統合する仕組みが生まれづらい環境ともいえます。

しかし、近年では明確にスーパーアプリへの取り組みを進める国内企業も出てきており、今後日本でもスーパーアプリ市場が発展していく可能性があります。

そこで、現在スーパーアプリ化が進められている2つの国内アプリとそれぞれの現況について解説します。

LINE

LINE(ライン)は、Zホールディングスの完全子会社であるLINE株式会社が運営するスマホ向けの無料通話・チャットアプリです。

日本国内では2020年9月末時点で約8,500万人のアクティブユーザーを誇り、国民の過半数が利用する連絡ツールとして普及しています。

2020年7月、LINE株式会社はLINEアプリ内に「LINEミニアプリ」をリリースし、飲食店や美容室の空き状況確認・予約などのサービス提供を開始しました。

LINEミニアプリは、QRコードやメッセージをやり取りするトーク画面から起動し、LINEアプリを拠点にさまざまなサービスへ導線が繋がる仕組みとなっています。

WechatやAlipayと比較すると後れをとっていますが、今後さらにミニアプリが充実していけば、大規模なスーパーアプリへと発展していく可能性は高いでしょう。

PayPay

PayPay(ペイペイ)は、ソフトバンクとヤフーが設立したPayPay株式会社が運営する、スマホ向けキャッシュレス決済サービスです。

同社は2019年11月、加盟店がそれぞれ自社で提供しているサービスをPayPayアプリ内から利用できる機能「ミニアプリ」の提供を開始しました。

現在、タクシー配車サービスやオンラインショッピング、ボーナス運用やふるさと納税(さとふる)といった数種類の機能が利用可能です。

この機能により、PayPayユーザーは各加盟店が個別に提供するアプリのダウンロードや、会員登録、支払方法登録などが不要になります。

同時に、加盟店にとってはPayPayユーザーに対して、自社サービスを利用するきっかけの提供が可能になりました。
これにより、新たなユーザーの獲得や、売り上げの拡大などが期待できます。

PayPay株式会社は、ミニアプリ機能の充実により、PayPayを決済アプリからスーパーアプリへと展開させていくビジョンを掲げており、今後もさまざまな加盟店との連携を行うとのことです。

スーパーアプリのさらなる普及・発展に期待

スーパーアプリは、多様な可能性やメリットがある新たなスマホのプラットフォームです。

Webブラウザと比較すると、スマホアプリの利用率は日々高まっており、スーパーアプリが普及すればユーザーの利便性の向上が期待されます。

すでに中国や東南アジアにおいて、スーパーアプリのユーザー数は急速に増大しており、その有用性が実証されつつあります。

日本国内でも、ヤフーを傘下に持つZホールディングスとLINEが2021年3月に経営統合が完了したと発表されました。
このニュース内で、「LINE Pay」を「PayPay」に統合する協議が開始したと明らかとなっています。

LINEとPayPayが中国のWechatとAlipayのようなスーパーアプリとなる日も近いかもしれません。

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