実は製造大国のシンガポール 日本企業にM&A参入チャンスは

読者はシンガポールをどのように見ておられるだろうか? 観光立国・航空ハブ・金融ハブなどと思われがちだが、実は半導体をはじめとする製造大国でもある。その意外な側面を概観しつつ、M&Aを含め、日本企業にとっての参入機会の可能性について検討する。

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沖縄とシンガポールは似ている?

沖縄とシンガポールは似ている?

いくぶん前だが、筆者が日本に一時帰国した際、何かのテレビ番組で「沖縄はシンガポールを目指すべきだ。なぜなら観光立国であり、学ぶことが多いからだ」云々と紹介されており、いったい何を言っているのか、と感じた記憶がある。

今でこそシンガポールは旅行客を海外から呼び寄せる観光立国であり、税率の低さや租税制度の透明性から、金融ハブという印象が先行するかもしれない。

しかし、歴史的にはラッフルズ上陸以降、まず海運の貿易ハブであり(今でも周辺の海上で入港やメンテナンス待ちの船舶が並んでいるのが見える)、電機や化学といった産業も誘致し、石油・ガス領域では企業も多く、また大学の専攻で世界上位に位置するなど、産業立国の側面も持ち合わせているのである。

GDPに占める製造業のプレゼンス

製造立国とされる日本のGDPに占める製造業の比率は20.6%である(2021年)。シンガポールもほぼ同率の21.6%(2022年)であり、その意味では、比較対象としては沖縄というよりも日本全体のほうがより近い。

ただし、日本の製造業は裾野の広い自動車を中心に多岐にわたるのに比べ、シンガポールは半導体産業が約20%のうち7%を占める。AIや5Gの隆盛などを背景とした半導体ニーズは(一時的な悪化がありつつも)長期的に継続することが見込まれており、政府もエレクトロニクス産業を後押ししている(図表1参照)。

なお、半導体に振り切っている台湾の場合は、製造業がGDPの30%超、うち約60%(GDP全体の18%超)が半導体産業と、また別格である。

在シンガポールの有力半導体企業

在シンガポールの有力半導体企業

ところで、在シンガポールの半導体企業といっても、規模で上位に属するのはMicron(米国)、Infinion(ドイツ)、ASM系(オランダ)といった欧米発企業が占めている(図表2参照)。

最も大きいMicronは、売上高が実に3兆円を超える(幾分古いデータであり、更に成長している可能性あり)。なお、本稿執筆時点で第5位のASMPT(時価総額約4,400憶円)に対して、PEファンドPAGが買収に関心ありとの報道が出るなど、半導体もM&Aが活発な業界ではある。

図表2:シンガポール半導体企業、売上高上位10社


(写真:Micronのシンガポール工場/シンガポール経済開発庁サイトより引用)

日本企業にシンガポール参入の余地は

日本企業にシンガポール参入の余地は

前節でみたように、シンガポールの半導体産業はおおよそ欧米系によって占められている。また、半導体企業をそのまま買収しようとしても、世界的な需要の後押しもあり、値が高くついてしまう。

半導体製造工程に必要な材料・資材等のサプライヤーも、同様に欧米系が入り込んでいる例が多い。例えばガスでは仏エア・リキードのロゴをそこかしこで見ることができる。

シンガポールの半導体産業に入り込み、旺盛なニーズを享受する方法としては、決して広くはないが、裾野からの進出が考えられる。例えば半導体製造装置向け精密部品加工や、半導体工場向けのガス・液体供給工事、電気・空調工事などだ。

こういった領域であれば、欧米系というよりもシンガポール現地系の企業、特に事業承継に課題を抱えるオーナー系企業も存在しうる。半導体業界のニーズを享受しながらも、業種がそもそも異なるので、価格もそう吊り上がらずに済むだろう。

他方で、価格が吊り上がらないということは、買収しても手を加えなければ現状維持がせいぜいであることを意味している。より半導体産業に食い込むための事業上のシナジー、例えば追加的に販売できる何らかの製品・商品や、工場全体の設計・施工の受注などがあって然るべきであろう。そうしてこそ初めて、低価格で買収し、大きなリターンを得る絵図が描けるといえる。

製造大国を実感するには おすすめ交通ルート

最後にいくぶん脱線するが、シンガポールを短期で訪れた人々は、マリーナエリア(マリーナベイサンズ、金融街、アートサイエンスミュージアムなど)、セントーサ島(ユニバーサルスタジオやビーチクラブが所在)、ナイトサファリ等の自然系テーマパーク、チャイナタウンやリトルインディアを観光して回るのに忙しく、製造業を感じる機会が少ないかもしれない。

手軽にシンガポールの「製造大国としての顔」を見るには、チャンギ空港から東西を貫くMRT(地下鉄)のEast Westライン(いわゆるグリーンライン)に乗って西方に向かい、終着駅まで行ってみるのがいいだろう。

Jurong Eastを超えたあたりから、住宅街の雰囲気が一変し始め、少し高い位置から一面に外資・シンガポール双方の企業の工場や倉庫が立ち並ぶ景色が眺められる。便利なGrab(現地の自動車配車サービスアプリ)を活用して目的地まで一直線の移動もいいが、たまにはゆっくりと列車の窓から景色を眺めるのもおすすめだ。

西方にはシンガポール発祥のタイガービールの工場もあり、旅程に見学・試飲を抱き合わせるのもいいだろう。


(MRTのEast Westライン路線図=シンガポール陸上交通局の公式サイトから引用)

参考URL
DOS | SingStat Website – Singapore Economy
2021年度(令和3年度)国民経済計算年次推計(フロー編)ポイント(cao.go.jp)
Electronics Industry in Singapore | Singapore EDB
EDITORIAL: Taiwan needs new growth driver – Taipei Times
半導体製造装置メーカーのASMPT買収にPE会社が関心-関係者 – Bloomberg
Micron Technology | Company Highlights | Singapore EDB
LTA | East-West Line

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