読了目安:11分
セグメンテーションの意味とは?ポイントや成功事例を紹介
商品を売るための仕組みづくりであるマーケティングは、消費者動向や生活スタイルの変化により、マーケティング手法も進化を続けています。 近年ではテクノロジーの発達により、消費者が商品について多くの情報を得られるようになりました。その結果、消費者は商品の選択肢が増え、ニーズの多様化が進んでいます。 多様化している消費者ニーズの「どこを狙っていくのか」を検討するために用いられるのが、STP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)分析です。 本記事ではS(セグメンテーション)の基本的な考え方と、時代に合わせたセグメンテーションで成功しているユニクロと花王の事例を紹介します。
セグメンテーションの意味とは
セグメンテーションは直訳すると「区分」です。
マーケティング戦略では、「誰に対してプロモーションや商品を届けたいか」狙いを定めることが非常に重要です。
狙いを定めるための前段階として、市場にいる消費者をあらゆる視点で細分化することで、共通項を持ったグループを作ることがセグメンテーションです。
セグメンテーションの目的
総務省の調べでは世帯ごとのスマートフォン普及率が令和元年に始めて8割を超えました(注1)。
多くの消費者が手軽に欲しい商品について情報を得られる中、万人受けするような商品では、他社の商品と比較され、コンセプトが弱い商品は選ばれません。
そこで、セグメンテーションを行い、市場のどこをターゲットに商品を販売するのかを定めることで、そのセグメントにフォーカスした商品開発や販売戦略が可能になります。
ターゲットとなる層のニーズを満たす商品販売により、他社と差別化でき、不要な価格競争も回避できるでしょう。
関連記事:競合に勝つための「差別化戦略」とは?企業の成功事例をわかりやすく解説
ターゲティングとポジショニング
セグメンテーションはターゲティング、ポジショニングと併せてSTP分析と呼ばれます。
マーケティングの流れの中では、まずマクロとミクロの視点から外部環境分析や内部要因整理を行い、自社の置かれている状況を理解した後、戦略立案のフェーズでSTP分析が行われます(注2)。
適切なセグメンテーションには、他の要素も理解する必要があります。
ターゲティング
共通項で分類したセグメントから、「どの市場で戦うか」を特定するプロセス。
自社製品・サービスとの相性だけでなく、そのセグメントの収益性や将来性、市場規模、競合状況なども加味して絞り込みを行います。
ポジショニング
ターゲティングした消費者群に選ばれるために「魅力的な商品とは何か」「魅力をいかに伝えるか」を検討するプロセスです。
市場で選ばれるためには他社優位性が重要であり、性能・価格・デザイン・コンセプトなどあらゆる要素で他社よりも魅力ある商品・プロモーション方法を策定します。
セグメンテーションのポイント
自社に有益な市場を見極めるためには、適切な切り口でのセグメンテーションがカギとなります。誤った切り口では、ターゲットを間違うため、マーケティングが無意味になります。
ここでは一般的なセグメンテーションの切り口と、適切な切り口かを見極める基準・ポイントを紹介します。
分類の切り口
一般的な切り口は4つのカテゴリに分けられます。
インターネットの発達により心理的な要素もデータ化しやすくなり、活用されるケースが増えています。
地理的変数
国や市町村、地域などの地理的情報を用いて分類します。
地理にはその土地の文化や気候、経済状況や交通状況なども含まれます。
主に食品や衣服、家電など、気温や文化の影響が大きい商品で重視されます。
人口動態変数
年齢・性別・年収や職業、家族構成など人口動態データを元に分類します。
顧客ニーズに直接的に影響することも多く、容易に計測できるため、幅広い商品で活用されています。
心理的変数
生活習慣や趣味嗜好、価値観など個人のパーソナリティに関する要素で分類します。
定性的で計測困難でしたが、インターネットの発達により、閲覧履歴や検索キーワードなど精度の高いデータを活用できるようになりました。
行動変数
消費者が商品を購入するまでの行動パターンを元に分類します。具体的には購入した時間帯や手段、購入時の商品知識を基準とします。
心理的変数同様、インターネットの発達により活用しやすくなりました。
考慮すべき基準の4R
セグメンテーションが自社に最適な切り口であるかの検証には、以下の4つの要素を基準に考えます。
- Rank(優先順位):自社にとっての重要度により優先順位をつけているか。
- Realistic(有効規模):重要度の高いセグメントで利益を見込める市場規模があるか。
- Reach(到達可能性):ターゲットの顧客群に製品やプロモーションを届けることが可能か。難易度が高すぎないか。
- Response(測定可能性):ターゲットの顧客群からマーケティングに対する反応を測れるか。
考え方のポイント
今までは、計測容易な変数が分かりやすく、幅広い商品で活用されてきました。
しかし、多様化しているニーズに応えるためには数値で測れる切り口のみでは、消費者像が見えづらくなっています。
例えば人口動態変数の「30代/男性/ビジネスマン」というセグメントを設定した場合、その人物の家族構成や生活スタイル、仕事の特徴などにより、同じセグメント内でもニーズが大きく異なるでしょう。
自社の商品が選ばれるとは、自社の商品が消費者のニーズを満たすことと考えると、セグメンテーションの切り口は「消費者のニーズに着目する」ことが効果的と言えます(注2)。
セグメンテーションの成功事例
マーケティングでは、消費者ニーズの把握と深堀は非常に重要です。
「顧客がどのような商品が欲しいのか」ではなく「商品を通して何を実現したいのか」を理解しなければ、顧客の潜在ニーズにはたどり着きません。
ここでは、消費者ニーズに着目したセグメンテーションで成功している「ユニクロ」と「花王」の事例を紹介します。
普遍的なニーズに着目し全世代を市場としたユニクロ
ファーストリテイリングが運営するユニクロはLifeWear(究極の普段着)をコンセプトに、性別や年齢を問わず幅広い事業展開を行っています。
これは、人口動態に関わらず「質の良いものを安価に購入したい」「ベーシックで機能性を重視したい」という人々のニーズに着目したセグメンテーションによるものです。
この顕在ニーズから「良い服を通して豊かな生活を送りたい」という消費者の潜在ニーズを捉え、「美意識ある合理性をもち、シンプルで上質、そして細部への工夫に満ちている服」に拘り商品開発を行っています(注3)。
ユニクロは製品の企画・製造・販売まで一貫して自社で行う「SPA」と呼ばれる仕組みを持っており、消費者ニーズやトレンドの状況に応じて素早く生産調整ができることが強みです。
ニーズに着目したセグメンテーションは、この強みを活かす切り口と言えます。
2021年には「家での生活を豊かにしたい」というトレンドに合わせ、フリース・スウェットなどの定番商品に加え、自宅で快適に過ごせるラウンジウェアの販売を強化しました。
これが売上好調となり、前年同期比売上高5.6%増と成長を続けています。
市場を細分化し確かなニーズを捉える花王のスモールマス戦略
花王がマーケティングで掲げていることがスモールマス戦略です。
これは、多様化するニーズに合わせ、従来よりも細分化した市場の中から、一定のボリュームを見込めるセグメント向けに、商品の開発・販売を行うものです。
2015年以降様々な事業でスモールマス戦略を進めて来ましたが、花王の代表的な商品「衣料用洗剤アタック」の派生商品である「アタックZERO」もその戦略の一環です。
2019年に発売された「アタックZERO」は従来よりも高い洗浄力を持ち、レギュラータイプとドラム式専用タイプにそれぞれ通常ボトルとワンプッシュボトルを揃え、計4タイプでの発売となりました。
これは従来よりも細かいセグメンテーションから「洗濯にかける手間を減らしたい」「節水型のドラムタイプでもしっかりと洗いたい」というニーズの層をターゲットに、ラインナップを増やした結果です。
また、プロモーションではCMに若手俳優5人を起用しております。
5人それぞれに「汚れを気にする人」「においを気にする人」「洗剤残りを気にする人」「ワンハンドプッシュが好きな人」「ドラム式の洗剤を求める人」と洗濯での拘りポイントを設定し、TVCMでアプローチを行いました。
さらに、デジタル広告が増えてきている中、洗濯洗剤は「元から使っているものを使い続ける」傾向にあるため、自ら情報を取りに行くインターネットではなく、コアターゲットとなる主婦層が自然と目に入るTVCMを敢えて活用しました。
細かいニーズ毎の商品開発・プロモーションはコストと手間がかかりますが、花王は長年のノウハウを活かした商品開発と、ターゲット毎の行動分析により効果的なプロモーションを実現しています。
スモールマス戦略は高い知名度と開発力を持つ花王の強みを活かした手法と言えるでしょう。
セグメンテーションは販売戦略立案のカギに
適切な切り口でのセグメンテーションは、自社の強みを発揮し、売れる仕組みを作るために欠かせないプロセスです。
ユニクロの市場を大きく捉える手法と花王の従来より細分化する手法は、一見逆の発想ですが、どちらも消費者のニーズに着目し、自社の強みを活かしたセグメンテーションによるものです。
外部環境と内部要因を正しく理解し、適切なセグメンテーションを行うことが、有効な販売戦略立案に繋がります。
Frontier Eyes Onlineでは、社会のトレンドやマーケティング手法など、ビジネスに関わる情報をわかりやすく解説しています。
引用(参考)
注1:第2部 基本データと政策動向第2節 ICTサービスの利用動向|総務省
注2:金森 努『最新版図解よくわかるこれからのマーケティング』同文舘出版、2016年
注3:ユニクロ|公式ホームページ
コメントが送信されました。