シナリオプランニングとは?

シナリオプランニングとは、中長期的な将来にあり得る事業環境を複数のシナリオとして整理・共有化し、経営戦略の材料とするための一連の手法です。

従来この手法は、軍事的な戦略・戦術や外交政策などの検討・立案に用いられていました。

1960年代後半になり、オランダに拠点を置く石油会社ロイヤルダッチシェルが、企業として初めてシナリオプランニングを採用します。

以降、経営の舵取りにおける重要な思考法として、ビジネスの世界でも重宝されるようになりました。

シナリオは未来予測とは異なる

シナリオプランニングを考える上で、「シナリオは予測とは異なる」という本質を理解しておく必要があります。

予測は、あくまで過去と現在の延長線上にある未来を考えるという手法です。

例えば、統計学やトレンド分析を用いて未来のあり方を考えるのは予測であると言えます。

一方、シナリオは将来の見通しが立てにくい事象を構造化して理解しなければ見えてきません。

また、シナリオプランニングを実施する当事者は、自身がそのシナリオに組み込まれることが前提となる点も重要です。

したがって、組織の目的と将来のビジョンを明確にしなければ、シナリオプランニングへの着手は困難だと言えるでしょう。

シナリオプランニングが効果的な場面

シナリオプランニングが効果的に働く場面は、主に以下の2つです。

  • 現在の戦略・施策の妥当性を確認
  • 目指すべき未来を踏まえた施策の作成

シナリオプランニングは、その目的に応じて、「未来適応型」と「未来創造型」の2つがあると考えられています。

前者は、どのようなシナリオにも対応できる戦略・組織体制を構築する方法。

後者は、より素晴らしい未来を導き出す価値を創りだす方法です。

いずれも企業にとっては事業の生命力を高める結果につながりますが、一方で作成する上での目線や作成に携わるべき者、重視すべき要素が異なります。

それぞれの違いは以下の通りです。

プランニング類型 未来適応型 未来創造型
立つべき目線 市場の観察者 市場の主体者
携わるべき者 専門家や識者 多様なステークホルダー
重視すべき要素 リサーチと定量分析 関係者動詞の対話や感性的な同意

未来適応型は生存をかけた大企業が採用し、未来創造型は破壊的イノベーションを画策するスタートアップ企業が採用する傾向にあるのが定説です。

関連記事:破壊的イノベーションと持続的イノベーションの違いは?メリットや事例を解説

シナリオプランニングのやり方と注意点

シナリオプランニングに決まったやり方はありませんが、今回はその一例を手順としてご紹介します。

解説に入る前に、最低限注意すべき点を2つ押さえておきましょう。

まずは、5年未満の短期的なシナリオを考えても意味がないという点です。

設定する未来までの期間が短すぎると、単なる予想になりやすく、有意義なシナリオプランニングにならない可能性があります。

次に、確実に起きない極端なシナリオに時間を割くべきではないという点です。

少ない根拠で大胆に打ち出したようなシナリオに対する戦略の検討は、あまり有意義とは言えません。

これを踏まえ、以下に4つの手順を見ていきましょう。

1.将来社会に影響の大きい要素の列挙

ますは、現時点で存在していて、かつ将来的に社会へ与える影響の大きいであろう要素を列挙します。

ここで用いるのが、PEST分析と呼ばれるマーケティングフレームワークです。

「PEST」はそれぞれ以下の頭文字から構成されています。

  • P:Politics(政治)
  • E:Economy(経済)
  • S: Society(社会)
  • T:Technology(技術)

つまり、法律の施行・改正や景気動向、技術動向、人々のライフスタイルや流行といった多様な切り口からシナリオのヒントを探し出します。

2.インパクトと不確実性の大きい要素の決定

続いて手順1で抽出された要素に、重要度を割り振っていきます。

重要度の指標となるのは、「不確実性の高さ」と「自社への影響の大きさ」の2つです。

例えば、「少子高齢化は不確実性が低い」 、「決済用としての仮想通貨普及は不確実性が高い」といった仕訳を行い、業界に応じた影響度の高さによって要素に重みづけをしていきます。

これ以降の手順も含め、複数人が集まって対話やディスカッションの形式で進めると効果的です。

3.シナリオの描写

重要度の高い要素を選出できたら、次はシナリオを描きます。

具体的には、相関し合う2つの要素を2軸に交差して出来る4つの象限に、シナリオの元となるそれぞれの世界観を見出します。

簡単な例を挙げると、「国内人口分布」と「働き方」という2つの要素が抽出されたとして、それぞれの軸の正負は以下のような内訳になります。

要素 国内人口分布 働き方
正の軸 都市集中型 テレワーク中心
負の軸 地方分散型 オフィスワーク中心

さらにこれらを交差すると、以下の4象限が世界観として浮かび上がります。

  1. 超過密都市(都市集中×オフィスワーク)
  2. スマート都市(都市集中×テレワーク)
  3. 機会の平等(地方分散×オフィスワーク)
  4. ボーダーレスワーク(地方分散×テレワーク)

これは単なる一例ですが、各シナリオには名称を付けると議論がしやすくなるのでおすすめします。

4.それぞれのシナリオへの対応の検討

シナリオをいくつか構築できたら、最後に各シナリオに向けた組織の戦略を検討します。

そのシナリオで自身がどういった立ち位置になるのか、どういったプロダクトを投入すべきかを議論することで、不確実な将来に対する事業計画の基盤となるのです。

石油会社ロイヤルダッチシェルに見るケーススタディ

シナリオプランニングの先駆者である石油会社ロイヤル・ダッチ・シェル(以下、シェル)のケーススタディを見てみましょう。

シェルのシナリオプランニングが最初に注目を浴びたのは、1973年に起きた第1次石油危機がきっかけです。

戦後1950~60年代にかけた経済成長は、石油エネルギーに対する依存度が高く、石油需要の継続的増加によって、主要な石油輸出国は軒並み経済力を手にしていました。

シェルの経営トップはこうした状況の中、欧米の石油企業から産油国への主導権シフトや石油価格高騰による需要激減といった石油危機のシナリオを事前に見出します。

そして実際に、石油危機が起こる以前から各部門に警鐘を鳴らしていたのです。

シナリオの可能性を受容した石油精製部門は、重油をガソリンに転換する接触分解設備の増強を進め、1970年代は他社に比べて多くの損失を被らずに済みました。

シナリオプランニングで未来への適切な洞察を

シナリオプランニングを実施する上では、漠然とした要素は排除されなければなりません。

「こうなって欲しい、あるいはこうなって欲しくない」という主観ではなく、「こうなるかもしれないから、その時はこう動くと決めておこう」という、客観的な洞察と戦略の立案が重要となります。

シナリオと戦略をセットにした盤石の体制を築き、不確実性の高い現代社会で事業の存続やイノベーションの創造を目指しましょう。

<参考>
シナリオプランニングの理論: その技法と実践的活用
昭和55年 年次世界経済報告 第4章 供給管理政策の登場とその課題

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