シンガポール再進出、進行中

シンガポール再進出、進行中

テスラがシンガポール進出を着々と進めている。2021年に入り、2月に販売認可を取得。同6月にトアパヨの日産ディーラーの跡地でサービスセンターの開設が報じられた。

更に、中心地Raffles Cityとチャンギ空港直結のショッピングモールJewelに、「エクスペリエンスセンター」の開設も計画。本腰を入れてシンガポール市場を攻める姿勢が伺える。なお、空港直結のJewelはコロナ感染拡大の影響で旅客は大幅に減っているが、周辺住民たちで賑わっている。

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2010年、最初の挑戦

2010年、最初の挑戦

テスラは過去にもシンガポール市場への進出を試みたことがある。2010年に最初の販売店とサービスセンターをオープンし、政府の支援プログラムに申請したが「green tax incentives」(環境に優しいなど基準を満たした自動車への税制優遇)を得られず、わずか半年で撤退した。

なおこの際に通過したのはダイムラーと三菱である。

通過できなかった背景に、技術的な基準(technical requirement)が満たなかったことがある。

なお、この時点でのテスラ「Roadstar」の価格は、インセンティブを考慮してもSGD250,000(2,000万円)と高かった。テスラ車を欲しいと感じる人は一定程度いたものの、本腰を入れて市場開拓するにはシンガポールは小さすぎる面があった。

その後、並行輸入業者が少数ながら取り扱い、2020年末時点でテスラ車は41台の登録に留まっている。

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シンガポールでの価格は?

シンガポールでの価格は?

▲出所:テスラウェブサイト

シンガポールでは、狭い国土で渋滞が起こらないよう細かな規制があり、自動車の購入にも一種の税金が課される。モデル3 Performance(航続距離567km)は、Certificate of Entitlement (COE)考慮前・Additional Registration Fee(ARF、税金の一種、約440万円)考慮後でSGD154,815(約1,240万円)という価格だ。

COEはそのタイミングに応じオークションで変動する性質を持つが、こちらも税金の一種と理解いただければよいだろう。ARFは本体価格と同等の金額がかかるが、インセンティブにより軽減されているのがわかる。

なお、日本では同モデルは700万円強(補助金考慮後は約640万円)で、本体価格約760万円と比較すれば当然大きな差はない。

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それでも大きな競争力

それでも大きな競争力

▲出所:各社ウェブサイト、2021年7月時点

この価格は、航続距離も踏まえるとシンガポール市場におけるEVトップクラスと言って差し支えないだろう。もちろんより廉価で提供しているメーカーも存在するが、知名度、性能も踏まえれば十分に競争力があると言える。

チャージ・アフターセールス問題

チャージ・アフターセールス問題

知名度もあり、価格も競争力がある中で、最大の論点はチャージ問題だろう。シンガポールの住宅の95%がHDB(公営住宅)かコンドミニアムといった集合住宅であり、戸建てはわずか5%に留まる。これら集合住宅では、戸建てと比してチャージが容易ではないし、チャージステーションを設置するハードルも高い。

1回の充電で500㎞超走れるのであれば狭いシンガポールでは十分ではあるのだが(なお、シンガポールからマレーシアのクアラルンプールまで約300㎞である)、他方で一般的な乗用車の年間走行距離が17,500km、1日の走行距離にすると約50㎞というデータも公表されている。計算上は10日に1回充電で済むため必ずしも自宅にチャージステーションがある必要は無いのだが、心理的にはこの点を解消する必要があるだろう。

なお、通常、自動車の販売において問題となるアフターセールス(修理等)対応は、シンガポールでは負担とはならないだろう。30分あれば国の端から端まで到達できる面積で、かつ整備された道路網があり、1か所サービスセンターがあれば最初のスタートには十分だからだ。後は売れ行きに応じ、徐々に拡張・新設すればよいはずだ。

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政府のEV後押し

政府のEV後押し

日本ではあまり知られていないかもしれないが、シンガポール政府は環境意識が高い。2021年2月公表の環境行動計画「シンガポール・グリーンプラン2030」では、EVの後押しにも積極的だ。2030年までにチャージポイントを60,000台設置すると公表している(40,000台は公共の駐車場、20,000台は民間の不動産を想定)し、2040年までに全てのICEs(internal combustion engine、内燃機関)自動車を環境配慮型(ハイブリッド・EV)に入れ換える野心的なビジョンも公表している。この動きはテスラのシンガポール進出に確実にプラスとなるだろう。

他方で、シンガポールは「公共事業の国」という印象が持たれることがあるように、政府は地元企業への支援を優先しがちな面がある。テスラにとっては地元企業との連携や、太陽光発電に係る家庭用蓄電池Powerwallの供給など、何らかの形での貢献が出来るとなおスムーズだろう。チャージ問題の解決につながるような地元企業、例えばショッピングモールを運営するデベロッパーとの協働もよい印象を与えるのに資すると考えられる。早速、2021年7月19日にオーチャードセントラルにスーパーチャージャーが設置されたという報道も出ている。

シェアトップを視野に

この政府の姿勢、また価格の下落により、よりシンガポール市場はテスラにとって攻めるに値する市場となった。短期的なチャージ問題を乗り越えさえすれば、市場でトップクラスのシェアを中長期で得ることも夢ではないはずだ。一般的な乗用車はシンガポールに約64万台存在しており、台数トップシェアはトヨタ(23.3%、約15万台)だが、中期的にテスラの取れる最大数としてこの水準が目線に入るだろう。

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