リカレント教育とは?

リカレント教育とは、生涯にわたって「就学」と「就労」を繰り返す教育システムのことで、「回帰教育」「循環教育」などと訳されます。仕事に就いてからも必要に応じて教育を受けることから、「社会人の学び直し」「大人の学び直し」とも言われ、近年、働き方が多様化する日本においても注目されるようになっています。

リカレント教育が推進される背景

リカレント教育が推進されているのは、大きく2つの背景があると考えられます。

「人生100年時代」の到来

この数十年で日本人の平均寿命は大きく延びており、「人生100年時代」はそう遠くない未来に現実のものになろうとしています。人生100年時代の到来は、定年後の人生が延びるということではなく、年齢・性別を問わず「働く期間が長くなること」に他なりません。

誰もが長く活躍していくためには、絶えず新しい知識・スキルを習得していく必要があり、そこで注目されているのがリカレント教育というわけです。政府も「人生100年時代構想」を掲げ、生涯学習の重要性を唱えています。リカレント教育によって常に知識・スキルの向上を図ることは、キャリアアップにつながるだけでなく育休・産休後の仕事復帰や定年後の再就職にもつながり、人生をより豊かなものにしてくれるはずです。

「Society 5.0」の到来

政府は、日本の再興戦略の目玉として「Society 5.0(超スマート社会)」の実現を掲げており、2030年を目途に具体化することを一つの目標としています。

Society 5.0が目指すのは、AIやIoT、ロボットなどの最先端技術を活用して、あらゆる人が快適に暮らせる社会をつくること。そこに至るまでには、様々な技術革新が起こり、市場は大きな変化を遂げるはずです。リカレント教育で知識・スキルをアップデートしていかなければ、これから起こる技術革新や市場の変化に対応していくことはできません。目まぐるしく変化する社会に適応し続けていくことこそ、リカレント教育の究極的な目標だと言えるでしょう。

海外のリカレント教育

日本においても社会人になってから大学に入る人、もしくは入り直す人は一定数います。しかしながら、諸外国に比べるとかなり少ないのが現状です。内閣官房人生100年時代構想推進室の資料(※)によると、高等教育機関(4年制大学)への25歳以上の入学者割合は、日本は他国と比べて著しく低く、OECD加盟国の平均が16.6%であるのに対し、日本は2.5%にとどまっています(2015年)。

※参照:リカレント教育 参考資料

欧米では、働きはじめてからも学習機会が必要になれば、比較的長期にわたって就学することが推奨されています。実際に、成人後の学士取得率も高く、リカレント教育が根付いていることが分かります。

スウェーデンのリカレント教育の事例

スウェーデンはリカレント教育という言葉を生み出した国であり、リカレント教育の先進国です。小国で人口が少ないこともあり、国民にリカレント教育を通して能力を高めながら長く働いてもらおうという考えのもと、様々な制度を設けています。

教育休暇法

教育休暇法は、在職者に対して教育訓練のための休暇を保障する法律です。在職者が教育訓練のために2年以上の就学休暇を取れる権利と、その後、復職する権利を保障しています。

成人教育義務資金法

成人教育義務資金法は、成人に学習資金を援助することを定めた法律です。労働市場訓練を受けている者に支給する「労働市場訓練手当」と、初頭・中等教育レベルの学習を希望する低学歴の成人に支給する「成人学生手当」があります。

SFI(Swedish For Immigrants)

SFIは、スウェーデン語を母語としない成人移民向けの教育制度です。住民登録されている16歳以上の者に、スウェーデン語の知識とスウェーデン社会について無料で学ぶ機会が与えられます。

国内のリカレント教育の事例

近年では、日本においても教育機関を中心にリカレント教育のプログラムを提供するところが増えています。

日本初の夜間大学院を運営する筑波大学

筑波大学の東京キャンパス社会人大学院は、社会人のための大学院。全国で最初に開設された夜間大学院として有名です。平日の夜間と土曜に開講されているので、フルタイムで仕事をしている社会人でも通うことができ、働きながら修士や博士の学位取得が可能。ビジネス、法学、心理、保健、医療、教育、福祉、スポーツウェルネスなど、多様な専門職業人育成が可能な大学院です。

女性の学びから就労までを支援する日本女子大学

日本女子大学のリカレント教育課程は、出産などのライフイベントで離職した女性へのキャリア教育を通して、高い技能・知識と働く自信・責任感を養い、再就職まで一貫して支援することを目的としています。1年間で、英語やIT、財務会計や簿記、経営分析や貿易実務、社会保険労務士の資格取得など女性のキャリアアップに役立つカリキュラムを学習可能。再就職支援も手厚く、高い就職率を誇っています。

従業員のリカレント教育を支援する企業

従業員がリカレント教育を通して知識・スキルを向上させることで、深められた専門性や知見が仕事に還元されます。また、外部での学習は人間的にも視野が広がるきっかけとなり、会社に戻ったときにイノベーションの原動力となる可能性もあるでしょう。このような期待から、人材戦略として従業員のリカレント教育を支援する企業も現れはじめています。

勉学休職制度:ヤフー株式会社

ヤフー株式会社の勉学休職制度は、普段の業務を離れて専門的知識や語学力をより集中的に習得できる機会を提供するための休職制度です。勤続3年以上の正社員を対象にしており、最長2年の期間で勉学休職を取得できます。休職期間に海外留学をする場合は、直近2年間のTOEICスコアが600点以上あること、などの条件があります。

育自分休暇制度:サイボウズ株式会社

サイボウズ株式会社の育自分休暇制度は、「自分自身を育てる」という趣旨で設けられた制度で、会社を退社した後、最長6年以内の復職が認められます。「他の仕事を経験したい」「海外でボランティア活動したい」といった社員のチャレンジを応援する制度であると同時に、将来性の高い社員に幅広い視野を身に付けてもらうための制度だと言えます。

個人も企業もリカレント教育で競争力を高める時代へ

人生100年時代に備えるためにも、Society5.0に適応していくためにも、まずは個人がリカレント教育の重要性を認識することが重要です。さらに、国や大学などの教育機関だけでなく、企業も従業員のリカレント教育を支援するために既存の慣習を見直し、新しい制度を創設していく必要があるでしょう。これからの時代を生き抜く競争力を得るためには、個人にも企業にもリカレント教育が必要なのは間違いありません。

関連記事

API化の効用とは? ~オープンイノベーションを加速させるビジネスツール~

API(Application Programming Interface)とは「あるシステムから別のシステムの機能やデータを容易に使うための仕組み」のことである。この記事では、APIを活用したビジネスの成功事例を紹介するとともに、そのメリットについて解説する。

バリュエーション(企業価値評価)とは 主な指標やアプローチも解説

M&A(Mergers and Acquisitions)はその名の通り企業の合併と買収なので、値付けはその最も重要な要素になります。つまり企業の値付けを行うバリュエーションはM&Aにおけるキーワードであるわけです。今回はそんなバリュエーションとは一体どういうもので、現場ではどのように用いられているか等について解説します。

村上春樹さんから学ぶ経営⑯「文章はいい、論旨も明確、だがテーマがない」

前回のテーマは「変えてはならないことがある」でした。そこで今回は、本田宗一郎氏――「社の連中に技術的な話をしたことがない。話すことは、みな技術の基礎になっている思想についてである」「技術はテンポが早く、すぐ陳腐化してしまう。技術はあくまでも末端のことであり、思想こそ技術を生む母体だ」(『起業家の本質』プレジデント社)――のようなお話です。それでは今月の文章です。

ランキング記事

1

国による「中小企業いじめ」の社会的リスク

菅政権のブレーンとして中小企業の淘汰・再編を指摘するデービッド・アトキンソン氏。彼の出身である英国の中小企業事情を調べてみた。英国では、日本以上に中小企業数が多く、企業数の増加も続いている。米国と中国を除けば、日本は中小企業数が極端に多いわけではない。中小企業の淘汰・再編にフォーカスする経済政策が本当にマクロ経済の復活につながるのだろうか。

2

注目を集めるCSV経営とは?実現のための戦略と事例を解説

CSVとは、「Creating Shared Value(共通価値の創造)」の略語です。社会的価値を戦略的に追求すれば、経済的価値も自然に生まれるという考え方を指します。 社会の利益と一企業の利益を同時に追求できることから、持続可能な経営に必要な考え方として注目されているCSV。しかしCSRとの違いや具体的なメリット、経営への落とし込み方について詳しく知らない人も多いでしょう。 そこでこの記事では、CSV経営のメリット・デメリットや国内大手企業のCSV経営事例を解説。またCSVを実践するために必要な経営戦略についても、分かりやすく説明します。

3

破壊的イノベーションと持続的イノベーションの違いは?メリットや事例を解説

破壊的イノベーションとは、既存事業のルールを破壊し、業界構造を劇的に変化させるイノベーションモデルです。 この概念は、ハーバード・ビジネススクールの教授であった故クレイトン・クリステンセン氏の著書『イノベーションのジレンマ』で提唱されました。それ以降、飽和状態となりつつある市場に必要なイノベーションとして注目されています。 本稿では、破壊的イノベーションの理論や企業の実践例から、破壊的イノベーションを起こすために必要となる戦略までを解説します。

4

中国で「食品ロス削減令」 農業振興の必要性高まる

農業国から先進国=工業国へ発展を進めてきた中国が、大食いや食料ロスを規制するとともに、農業拡大を強調している。背景には、都市化率上昇と共に、中国の食料課題が、世界にも大きな影響を与えている事情がある。

5

理想のコーポレートガバナンスを考える上で重要な「エージェンシー理論」とは?

多くの企業が、株主の利益を守るため企業経営を監視し、統制するコーポレートガバナンスを推進しています。 コーポレートガバナンスを考えるうえで有効なのが、ハーバード大学のM・C・ジャンセン氏らの論文で有名な「エージェンシー理論」(プリンシパル=エージェンシー理論)です。 コーポレートガバナンスの目的を達成するためには、まずエージェンシー理論の視点に立ち、経営者と株主の利害関係をとらえなおす必要があります。 本記事では、エージェンシー理論の意味やポイントを解説します。

人気のキーワード

海外スタートアップ情報はこちら!  寄稿・執筆者募集中