リアル店舗が生き残るための「第2の道」とは

実際の商品に触れる、新しい商品に出会うといった購買体験はもちろん、カフェでくつろぐといったコト消費の場としての空間提供は、リアル店舗ならではの価値だ。しかし、本当に「体験スペース」だけがリアル店舗が生き残る唯一の道なのだろうか。

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コト消費の次に来るもの 小売業界

allbirds shop harajuku

1月10日に東京・原宿でオープンしたアメリカのD2Cブランド「Allbirds」のコンセプトショップが話題だ。「世界一快適なスニーカー」をうたうAllbirdsの商品は、原則としてオンライン限定の取り扱い。D2Cとは「Direct to(2) Consumer」の略語で、小売店など既存の販路を介さず、ブランド企業による直販チャネルを主とする新興ブランドの総称である。

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D2Cブランドの顧客戦略は、リアル店舗での陳列やプロモーションに頼らずに、SNS、ウェブサイト、オリジナル雑誌の発行などのメディアを通じて自ら情報発信やライフスタイル提案を行い、若年層を中心とした消費者と「友人のような関係」を構築していくことに特徴がある。Allbirdsの他にも、眼鏡の「Warby Parker」、マットレスの「Casper」、アパレルの「Everlane」といったD2Cブランドがアメリカを中心に急成長している。

既存のブランド企業の中からも、リアル店舗を主たる販路とするビジネスモデルからD2Cブランドへの転身を図る動きが出ている。世界最大のスポーツブランドであるNIKEが急速な勢いで販売チャネルの転換(店舗→自社オンライン販売)を進めている。また、音響機器のBOSEは2020年1月、北米、欧州、日本、オーストラリアの全ての店舗(119店)を閉鎖すると発表して、流通業界を震撼させた。

D2Cブランドのような新興企業やアマゾンのようなEC事業者の攻勢を受けるリアル店舗に残された道は、店舗での価値ある体験、いわゆる「コト消費」を提供することにあるというのが、最近の流通業界の定説となりつつある。これは確かに説得力のある話だ。実際の商品に触れる、新しい商品に出会うといった購買体験はもちろん、カフェでくつろぐといったコト消費の場としての空間提供は、リアル店舗ならではの価値だ。しかし、本当に「体験スペース」だけがリアル店舗が生き残る唯一の道なのだろうか。

Googleが買収「Pointy」、Amazon ECへの対抗策とは

買収と対抗策

リアル店舗が生き残る「第2の道」を思索するうえで、「米GoogleがアイルランドのITスタートアップPointy社を買収」という1月14日のニュースは示唆的であった。Pointyのサービスは、リアル店舗の店頭在庫情報を順次把握し、Googleの検索結果などを通じて消費者に公開するというものだ。
ECで商品購入する際の〈検索ツール〉として、往年のGoogleは圧倒的なシェアを誇っていたが、昨今はアマゾンが急速な追い上げを見せている。巨大倉庫を拠点としたアマゾンのECサービスに対して、Googleはリアル店舗網を巻き込んだ陣形を組んだと言えるだろう。

Pointyは小規模小売店向け中心のサービスだが、店頭の在庫情報をリアルタイムで公開するというサービスは、大手小売業がアマゾンやD2Cブランドに対抗するうえでの戦略としても注目できる。身近な店舗に現在どのような商品が並び、いくつ在庫が残っているか事前確認できることは、消費者にとって「時間価値」が高いサービスだ。それがたとえ徒歩5分圏内の店であっても、ほしい商品が欠品していないかどうか、そもそも取り扱いがあるかどうかを確認せずに来店することは、往復10分の移動時間を無駄にするリスクをともなう行為であるためだ。

例えば、家電製品の特殊な仕様、形状の乾電池が切れてしまった場面を考えるとしよう。その家電製品を今すぐに使いたい。アマゾンなら確実に手に入るが、届くのは明日。もし自宅近くのコンビニに取り扱いがあれば、往復10分で手に入る。そんな時に、どのコンビニにほしい乾電池の販売在庫があるのかがわかれば、便利ではないだろうか。

コンビニのリアルタイム在庫情報がわからない現在の消費者が取り得る行動は、上記の電池がほしい場面で言うと、⑴家電製品が使えない不便を1日我慢してアマゾンで買う、⑵乾電池を求めて周辺のコンビニ数件を「はしご」する、⑶コンビニをはしごしたくないのでいっそのこと遠くの家電量販店まで行く――のいずれかだろう。スマホで最寄りのコンビニ店舗の在庫状況を確認してから行く、という新たな選択肢は、これら3つのどの選択肢よりも消費者の利便性や時間価値が高い。

スマホアプリなどによるリアルタイム在庫情報の開示サービスでは、ユニクロや無印良品といった小売専門店が先行している。しかし、在庫情報の提供が消費者にとって大きな価値をもたらすのは、ニッチ商品を含む幅広い品揃えを持つ「ロングテール」型の店舗や、中小型規模で面展開しているチェーン店舗であろう。コンビニ、ドラッグストア、家電量販店、ホームセンターなどが最たる例である。

デジタルサービス隆盛の時代にあって、リアル店舗が生き残る道は、体験型サービスだけではない。新しいデジタル技術を駆使して、店舗の品揃えやリアルタイムの在庫情報をオープンにすることで、EC事業者に対しては「時間価値」、D2Cブランド(NIKEのような既存ブランドの転換も含む)に対しては「品揃えの幅」を強みに、十分に戦っていけるのではないだろうか。

【参考】
Allbirds     https://www.allbirds.com/
Warby Parker  https://www.warbyparker.com/
Casper     https://casper.com/
Everlane    https://jp.everlane.com/ja-jp/

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