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今後のメタバースとNFTのビジネスポテンシャル
2021年10月に、Facebook(フェイスブック)社が社名を「Meta(メタ)」(正式名称はMeta Platforms(メタ・プラットフォームズ))へ変更しました。また同時にメタバース構築へ21年12月期だけで100億ドルもの巨額資金を投じていること、かつ今後さらに投資を増やし、現在のSNS中心の事業からメタバース事業への大規模な事業転換をする旨も発表しました。 それと時期を同じくして、メタバースという言葉が人口に膾炙しました。メタバースは、NFTという言葉とセットで語られることが多く、現在のモバイルやサブスクリプションサービスといったWeb2.0に代わるWeb3.0の中心となるサービスだと言われています。 本稿では、「メタバースとNFTとはそれぞれ何か?」、「なぜ注目されているのか?」、「どのようなビジネス事例があるのか?」について簡潔に説明します。
メタバースとは
メタバース(Metaverse)とは、一般的には仮想現実(VR)、拡張現実(AR)等の技術を用いて提供される仮想世界サービスです。論者により厳密な定義は異なりますが、仮想世界の中でユーザーが様々な行動、遊戯ができる、その中で自分の服や家などのアイテムを所有できるということが重要な要素であり、VRゴーグルを使ったサービスに囚われないものと考えるべきでしょう。
メタバースの特徴として、以下の点が挙げられます。
- 複数のメタバース空間をまたがった体験が可能
- 個人がその中で自分のアイテムを保有・売買をし、それを使って金銭を得られる(この概念は「Play-to-Earn(遊んで稼ぐ)」と呼ばれています)
2021年12月に発表されたゴールドマンサックスのレポートによるとメタバースの市場規模ポテンシャルは約8兆ドルにものぼると予測されています。
NFTとは
上記、複数プラットフォーム間の経済活動を担保する仕組みとして注目されているのがNFTです。NFTとは「非代替性トークン(Non-Fungible Token)」の略称です。
仮想通貨に用いられているブロックチェーン技術により、データに証明書、鑑定書を付与し、元来はサービス提供者側に依存していたデータの移転、保管をユーザー側で行うことが可能になります。
NFTで有名な事例の1つは、21年3月に、Twitter(ツイッター)社共同創業者CEOのジャック・ドーシー氏の初ツイートのNFTが291万5,835ドルでオークションに落札されたことでしょう。
NFTはあらゆるデジタルコンテンツへ活用されつつあり、ゲームデータやアート作品、スポーツコンテンツ等が代表的です。複製可能なこれまでのデータと異なり、データの唯一無二性が担保されるため、現実世界のモノと同様に、世界に1つしかない限定品であるという「資産価値の付与」がなされます。
NFT Market Reportによると、メタバースに限らないNFT市場の2021年の時価総額は、約170億ドルであるとされており、20年の時価総額から45倍にまで成長しています。
なぜメタバース×NFTは注目されているのか?
ではメタバース×NFTはなぜ注目されているのでしょうか?
メタバースでは、現在のWeb、モバイル体験からさらに没入感を高める体験を得ることが可能になります。そこにNFTの仕組みを取り入れることで、これまでの、データを使用するという体験から所有するという体験も生まれ、ユーザーの体験価値が向上することが考えられます。
また、プラットフォーマーの作った既存の枠組みの中でのみ使用できたものが、NFTを用いることで、プラットフォームを超えてユーザーのデータ所有権、販売権が担保されます。以上より、ユーザー体験とデータの資産価値が向上することで、事業者としてビジネスモデルが大きく変わる、これまでプレイヤーだった側が、自分のデータ資産を創造・活用することができると期待されています。
以上から、既存のビジネスパラダイムを破壊するポテンシャルを秘めており、冒頭のMeta社をはじめ既に、多くの企業が投資、ビジネス展開をしているのが注目されている理由です。
メタバースとNFTの活用事例
では実際にどのようなビジネスが展開されているのでしょうか。ここからは事例を2つ紹介します。
事例➀:The Sandbox
1つ目はオンラインゲーム内にメタバースを実現したPixowl(ピクソウル)社(アメリカのゲーム開発会社)のThe Sandbox(ザ・サンドボックス)です。
The Sandbox はその名の通り、Minecraft(マインクラフト)のようなサンドボックス型(箱庭型)のゲームであり、ユーザーはゲーム世界内でブロックを使って建築物やアイテムを創作したり、作った建築物を使って遊んだりすることができます。
そして、The Sandboxでは仮想通貨「SAND」を使って、土地を購入して所有、貸出しすることが可能です。またSANDで自身や他のユーザーの作ったアイテムを売買できます。この仮想通貨SANDは、仮想通貨取引所を通じて現実の通貨と交換することも可能です。
事例②:NIKE
次はリアル世界でビジネスを展開している企業のメタバース進出事例です。現状の成功モデルとしてNIKE(ナイキ)が挙げられます。
NIKEは21年11月に、オンラインゲームプラットフォーム「Roblox(ロブロックス)」内に、NIKE本社を模した没入型3D空間「NIKELAND」を開設しました。その中でユーザーは自身の操作するアバターを通じてさまざまなアクティビティを楽しんだり、NIKEブランドのアイテムを購入、着用、コレクションしたりすることが可能です。
また、NIKELANDには、米国ナイキの本社敷地内のバスケットボールコートやテニスコートが再現され、他のプレイヤーとのミニゲームで遊べます。ミニゲームでは着用しているアイテムによっては速く走れるなどの恩恵を受けることが可能です。
NIKELANDでは現状、NFTは使われていません。しかしNIKEは21年12月にNFTコレクターズアイテムを提供しているRTFKT(アーティファクト)社の買収を発表しており、今後、リアルの店頭やアイテムとも連動して限定NFTを使ったビジネス展開がさらに加速すると予想されています。
メタバースとNFTにおける現状と今後
しかし、まだまだ現在主要な企業の間でも賛否が分かれています。
ソーシャルVRプラットフォーム「VRChat(VRチャット)」を提供しているVRChat社は22年1月にVRChatにNFTを統合させる計画はないことを発表しました。
また世界最大規模のPCゲームプラットフォーム「Steam(スチーム)」では、NFTや仮想通貨を取引できるゲームを禁止しています。
このように、まだまだ現状では未成熟、発展途上であり推定されているような拡大を望むには、以下の3点が必要とされています。
- 現実での経済活動を代替する複数のメタバースの実現
- 多数のユーザーの参加とユーザー間の活発な交流の実現
- システムや法整備などのそれを担保するための仕組みの整備
日本市場では既存の有力IP(Intellectual Property)が権利関係でがんじがらめになっている間に、メタバース×NFTを活用した新しいIPの出現により、市場を席巻するというシナリオが考えられます。特に既存のIPホルダーはスピード感を持って検討にあたる必要があるでしょう。
まとめ
以上のように、メタバースではNFTがすでに活用されビジネス展開がされており、今後さらに拡大するポテンシャルがあります。
現状をみるとNFTはおそらく当面の間、仮想通貨のようにそれ自体の活用による価値ではなく、資産形成の側面で拡大、話題になることが多いと考えられます。資産形成目的に限らないビジネス展開のためには、ユーザー側がメタバースに参加するための体験価値の向上、インセンティブ設計が重要になるでしょう。
どのような未来が実現するにせよ、今後全く新しいサービスが現れることは確実であり、今後も注視すべきでしょう。
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