「リーマン後」牽引した中国の経済対策

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コマツが公表している世界の建設機械需要は、リーマン・ショック時には、2007年度の32万台強から2009年度には約21万台にまで急減した。しかし、同需要は、2010年度約30万台、2011年度約32万台と、底打ちから約2年で過去最高水準にまで回復した。

この牽引役となったのは、中国の経済対策だ。中国政府は、4兆元(約60兆円)の資金を投じ、低価格の分譲・賃貸住宅の建設、農村インフラ整備、高速道路、鉄道などの交通インフラ整備などのために公共投資を積極化させた。

これに伴い、中国での建設機械需要は、2008年4.4万台→2009年度7.4万台→2010年度11万台と急増し、世界需要に占める中国の構成比は2007年度の15%から2010年度には36%を占める規模にまで拡大した。

新興国での建設機械需要も急回復

建設機械の需要

前述の中国の経済対策は、中国の高い経済成長を持続させ、リーマン・ショックで大幅に下落していた鉄鉱石、銅、原油などの資源の需要と価格の回復をもたらした。これに伴い、東南アジア、中南米、中近東などでは、資源国の財政状態が改善したため、インフラ投資が活発化。これが新興国での建設機械の需要回復にも繋がり、日米欧と中国を除く地域の建設機械需要は、2009年度約7万台をボトムに、2011年度には約13万台と中国と同様に急回復を見せた。

新型コロナの影響が資源価格を直撃

Oil pump, wellhead, pipeline silhouette

今回の新型コロナウィルスの影響拡大は、資源価格の下押し要因となっている。新型コロナの影響により、世界各国での外出自粛・禁止や海外渡航の禁止・手控えなどによる原油需要の減少、世界各国での自動車生産の減少、などが、原油や鉄鉱石の価格に逆風となっている。

原油価格(WTI先物価格)を見ると、2009年のリーマン・ショック時のボトムである約40ドル/バレルから2011年には100ドル/バレル超と急回復したが、4月20日には15ドル割れと21年振りの安値を記録した。4月12日には「OPECプラス」(石油輸出国機構と非加盟の主要産油国で構成)で日量970万バレル(各国の基準生産量の23%相当)という歴史的規模の減産で合意したものの、原油需要の減少懸念を払拭できるものとはならなかった。今後は、新型コロナ収束後の経済活動の回復ペースが鍵となろうが、その回復ペースが鈍いようであると、原油価格の低迷が長引く可能性もあろう。

また、鉄鉱石のトン当たり価格は、原油と同様にリーマン・ショック後の下落から2011年には150ドル超と過去最高値を更新したが、直近では80ドル台で推移している。2020年に入っての鉄鉱石の価格は、産油国での供給減少や中国での増産により、比較的堅調な推移となっているが、新型コロナの影響によって、自動車生産や建設投資の停滞が長引くことになれば、鉄鉱石価格は軟化する懸念もありそうだ。

WTI

建設投資に向かわない経済対策

新型コロナの影響が経済活動に与えるマイナス効果が大きくなってきているため、主要国では経済対策を打ち出し始めている。既に、米国では、約2兆ドル(約220兆円)の経済対策を打ち出している他、日本や欧州諸国などでも経済対策を検討している。

ただ、リーマン・ショック後に世界景気を牽引した中国は、新型コロナウィルスの影響で全国人民大会が延期されていることや中国国内での感染者数の増加が抑制されていることもあり、リーマン・ショック後のような大規模な具体的な経済対策を公表していない。

各国から打ち出されている経済対策は、金融、所得、税制面などが主体であり、インフラ整備など建設投資の拡大を誘発させるものは乏しい。また、原油価格の急落に伴い、北米でのシェールガス・オイルの開発投資を抑制する動きが強まっている。こうした状況を勘案すると、今回は、リーマン・ショック後とは異なり、経済対策の効果がインフラ投資の拡大、資源の需要拡大と価格上昇に繋がる可能性は低いため、建設機械の需要低迷が長期化するリスクもありそうだ。

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