ポストコロナ 地方銀行の生き残り戦略を探る ㊦戦略編「今、とるべき経営戦略」~経営統合、M&Aも視野に~

地方銀行のビジネスは、新型コロナショック後の混迷の時代にどのような戦略をとるべきなのだろうか。㊦の「戦略編」では、経営統合の可能性も含め、より実践的な生き残り戦略を検討する。

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マイナス金利下の地方銀行の基本事業戦略について

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事業戦略(基本形)

地方銀行の基本的な事業戦略は、顧客に対し融資をして金利収入を得ることであり、これ自体はストックビジネスである。よって、顧客に対する融資残高が大きければ、この部分の収益は大きくなる。そして、この部分の顧客ニーズは、特に景気悪化局面においては大きいが、一方で信用コストの増大のリスクが出る。

逆に、昨年までの顧客における金余り状態においては、逆に、この部分の残高が積みあがらないという面があった。このような状況の中、「マイナス金利」によって金利差益が小さくなっている地方銀行の「持続可能なビジネスモデル」は、以下の通りに考えるべきではなかろうか。

 

A 固定費を極力下げて、損益分岐点売上高を下げること

  

このためには、店舗(ATMを含む)の統廃合やオンラインバンキング化の促進により、人件費及び物件費等においてコスト面での競争力をつけることが重要である。そのために、店舗の統廃合を進めやすい隣接エリアの地方銀行との経営統合は、更にシステムの統合によるコスト削減も可能となるので、地方銀行にとっては重要な戦略である。

同一地域の地方銀行同士が統合を行う場合、独占禁止法の抵触の問題が生じる可能性がある。

しかし、地方銀行の再編を促進させるため、今年の3月3日に、乗合バス会社と地域銀行を対象として、主務大臣の認可を受けた場合には独占禁止法の適用除外となる法案が閣議決定さた。この法律が今後施行されれば、地方銀行の統合等がより促進されるものと思われるので、注目に値する

 

B 顧客向けサービス部門には、一定数の専門性の高い人材を雇用し、組織としてのノ   ウハウを構築することにより比較的利益率の高い役務収益を得ること

 

顧客に対するコンサルティング等のサービス収益は、そのサービスを担当する人材の専門性の高さに比例する。そのためには、専門人材の中途採用を行うとともに、外部とも連携して、社内の優秀な人材に対し、徹底した専門人材としての社員教育を行うことが必要である。加えて、そのような専門性の高い人材は、待遇面の要求も高い上、自己の希望しない人事異動を好まない場合が多いため、地方銀行内で従来から尊重されている、人事的な衡平性やバランス(待遇面、人事異動等)といった人事慣行を崩して対応することが必要だ。

 

大手の地方銀行は自行でこのような組織を作ることが可能だ。しかし、そうではない中堅以下の地方銀行は、外部コンサル会社又は隣接するエリアの地方銀行との間で共同のコンサル会社等をつくることも一案だ。相互にルールを決めて専門人材を養成し、プロフィットをシェアしていくことができる。

より高度なノウハウを持った専門家集団は、より大きな顧客基盤の中で働きたいという希望を持っており、そのようなマインドを踏まえる工夫も大事である。

  

もちろん、隣接するエリアでの地方銀行同士の経営統合が行われれば、両行共同でのコンサル等のサービス会社の設置により、メリットを享受しやすい面がある。

 

C 法人顧客の企業価値向上のための情報提供(ビジネスマッチング先の紹介を含む)を行うこと

   

 

地方銀行が管轄するエリアの地域企業においては、自己が所属する業界における他地域、または海外の情報や、自社の商品・製品等に興味を持ちそうな取引先、又は自社の使用する部品等を製造してくれる業者等に関するビジネス情報を欲している場合が多い。

地方銀行は、他の地方銀行、公的機関及び外部専門ファームとの連携が容易な立場にあるので、そのような組織との連携により法人顧客に対する有用な情報提供に力を入れた方が良いと思われる。このような情報の収集が、自行で行うコンサルティングやM&A助言の業務にも資することは間違いない。

 

D 法人顧客に対して、他業者と提携して融資以外のサービスを含めたワンストップサービスを提供し、顧客との緊密な信頼関係を構築すること

 

地方銀行が管轄するエリアの地域企業においては、コンサルティングやM&A助言だけでなく、上記Cの経営情報の提供、専門家の紹介及び人材面の供給等の支援ニーズがある場合が多い。地方銀行は、そのようなソリューションの多様化を外部専門ファームとも連携して提供することが可能な立場にある。

 

そのような法人顧客と地方銀行との多様な関係性の構築により、単に、金銭の貸借だけでない地方銀行と法人顧客との関係性が構築できるはずである。

 

事業戦略(新型コロナショックの影響を考慮)

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新型コロナショックによって、各地方銀行は、資金繰りに窮した中小企業からの危機対応融資の相談に忙殺されている昨今である。もちろん、そのような中小企業の中には、今回のコロナショックの前から課題を抱えていた企業も少なくないが、現時点では、そのような企業も含めて資金繰り支援を行うことが求められている。

 

また、少しタイミングが後になるかもしれないが、それまでは健全な経営を実施してきた地域中核企業も、内需型産業の会社においては、観光客の減少や外出自粛等の影響により経営が厳しくなる企業も出てくる。また、域外又は海外の顧客向けに事業を行っている製造業の会社においても、欧米又は中国・アジア等の混乱により、需要が大幅に衰退し、経営が厳しくなる企業もこれから出てくることが想定される。

 

このような状況になると、地域企業のみならず、地方銀行も信用コストが膨れ上がることにより重大な局面を迎えることは必至である。しかしながら、その時こそ、新型コロナショック後の世界を見据えて、融資のみならず、顧客のニーズに応じた資本提供又はメザニン等の手段を駆使し、顧客との信頼関係を太くして、顧客企業の業績回復のために地方銀行が役割を担うべきではなかろうか。

単に、担保を取得して融資を行うだけの関係ではない、地方銀行の多様な収益獲得を構築するチャンスということもできる。

 

 

戦略実現のために大事なこと

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地方銀行の今後の戦略をこれまで述べてきたが、それを実現するために大事なことをいくつか述べる。

 

1 専門家育成のための人事制度を大胆に導入せよ

 

顧客向けサービスを行って稼ぐためには、人材の高度化が不可欠である。そのためには、これまでのゼネラリスト育成中心の人事制度ではなく、専門分野に専念する人材を育成する人事制度を導入すべきである。

 

その制度では、待遇面や人事異動面での優遇のみならず、将来は、地方銀行の幹部になるルートも構築すべきである。顧客企業に対し経営指導ができる本当に優秀な専門家は、経営者になる能力をも備えている場合が多い。決して、専門家を専門家だけの人生で終わらせてしまってはならない。何故なら、専門業務は年を取るにつれて遂行することが難しくなってくることから、そのような専門社員が40歳台になったとたんに将来を憂いて転職を考えるケースも出てくるからである。

 

2 投資を行ってリスクテイクできる人材を採用・育成せよ

昨年10月の銀行法施行規則の改正により、銀行が一定期間において一定の要件(事業再生又は事業承継)を満たした地域企業の株式保有が可能となった。

投資は、これまでは案件発掘が容易でなく、リスクも大きい。一方で、うまくいった場合は大きな収益を上げるといった性質の仕事だ。担保付き融資に馴染んできた銀行員が行う業務とは異質な業務だ。しかしながら、このようなストックビジネスは、コンサルティング業務を地域企業に対し行うことと併用すれば、リターンが大きい業務になる。

 

新型コロナショックの収束後においては、事業再生案件も増加すると思われる。投資(メザニンも含む)の機会は飛躍的に増加するため、ここの部分の強化が不可欠だ。

特に、最近あまり利用されていないDES(債務の株式化)を活用した投資業務は、事業再生の手段として大変有効だ。顧客企業に対してガバナンスを利かすことができないDDS(劣後債務化)ではなく、DESを利用することによって、コンサルティング業務の併用により地方銀行のリターンは大きくなるものと思われる。

 

隣接エリアの地方銀行との戦略的な経営統合を検討せよ

 

新型コロナショック後の混迷の時代に地方銀行がビジネスをしていく上では、強固な財務体質を地方銀行自身が有していることが必要となる。そのためには、上記戦略(基本形)でも述べた通り、隣接エリアの地方銀行との経営統合(持ち株会社方式を含む)を今一度考えてみてはどうか。

 

新型コロナショックによる一時的な信用コストの大幅増に耐えるコスト構造を構築するだけでなく、専門家人材を集約し、その後の時代の勝利者になるためにも、経営統合を考えるのに良い時期が来ているのではないだろうか。

以 上

 

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