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世界に後れを取る日本のプラスチックごみ対応
世界的なプラスチックごみ(プラごみ)対策の潮流が、3R(削減、再利用、再生利用)からRefuse(禁止)に大きく舵を切ろうとしている中、日本企業の出遅れが目立っている。欧州の使い捨てプラスチック使用規制が2020年、バーゼル条約による廃プラスチックの輸出規制が21年に迫る中、日本企業の多くはプラごみの削減、再生目標すら明確にしていない場合も多い。 少なくともグローバル展開を行う消費財企業にとっては、積極的な使い捨てプラスチック発生の抑制が急務だ。
化粧品・トイレタリー業界における、プラスチックごみへの対応と課題/抜本的な見直しが求められる使い捨てプラスチック削減の取り組み
2019年6月のG20大阪サミットでは、「2050年までにプラごみによる新たな海洋汚染をゼロにする」という首脳宣言が採択された。
議長国である日本は、国民1人当たりの発生量が世界2位の「使い捨てプラごみ大国」だ。小売業界の過剰包装が従来から指摘されているが、日本国内の回収プラスチックごみのうち包装容器などの割合は7割弱(プラスチック循環利用協会報告)。世界平均の約5割(国連環境計画・UNEP報告)を大きく上回り、プラごみ発生の大要因のひとつと考えられている。
環境省は、廃プラ削減の取り組み指針「プラスチック資源循環戦略」を今年5月に策定、2030年までに使い捨てプラスチックを25%削減(Reduce)、2035年までに使い捨てプラスチックを100%再利用(Reuse)または再生利用(Recycle)するという3Rの数値目標を示した。
世界では既に76の国・地域がレジ袋や食品容器などの使い捨てプラスチック製品の生産禁止、有料化などの規制措置をとっている(国連環境計画・UNEP)。
また、汚れた廃プラスチックの国境を越えた移動は2021年より「バーゼル条約」による規制対象となる。民間レベルでも、アメリカを含む多くの企業が「新プラスチック経済・グローバルコミットメント注」共同宣言に署名し、対応を始めている。
世界的なプラごみ対策の潮流が3RからRefuse(禁止)に大きく舵を切ろうとする中で、我が国では、基準年を示さない削減目標も、サーマルリサイクル注を含む再生利用目標も、物足りないと言わざるを得ない。
化粧品・トイレタリー(衛生用品)業界でも、プラスチックごみの大部分は包装容器に由来する。食品・飲料と比較して回収システムが未整備ということもあり、効果的な対策は発生段階での使用量削減に偏り、内容物の濃縮による製品コンパクト化、詰め替え・レフィル化、材料素材の薄膜化など、メーカーの取り組みに依存している状況にある。
トイレタリー主要企業が加盟する日本石鹸洗剤工業会では、1995年から業界を挙げた容器包装プラスチック使用量の削減を目指す自主行動計画を推進しており、製品生産量原単位での容器プラスチック使用量は2017年には1995年比42%低減した。
一方で実使用量は、液体洗剤の比率が上昇したことや製品の多様化による市場拡大に伴って、2017年には前年比2.5%、1995年比8.8%増加している。実態のあるプラスチックごみ削減のためには、「使い捨て」を前提としない発想で、小売や消費者を巻き込んだ容器回収や詰め替え販売も含む抜本的な改革が必要と考えられる。
化粧品業界におけるプラスチック問題といえば、2012年に「スクラブ」として洗顔料などに含まれるマイクロビーズが魚から検出された海洋汚染事案が大きい。これをきっかけに世界的にプラスチックマイクロビーズの使用規制が進み、日本でも2016年に業界団体が自主規制を開始、主要メーカーは洗浄系スクラブ製品への石油由来マイクロビーズの使用を速やかに中止した。製品本体への規制に対するメーカーの優先度と対応能力が示された。
一方で、プラスチック海洋汚染の量的要因としてより大きい容器包装プラスチックへの対応は、依然として進んでいるとは言えない。価格が数千円から10万円超にも及ぶ化粧品では、容器の高級感やデザインなどの見た目も消費者への提供価値として重視される。このため、レフィル製品や詰め替え容器導入の余地は限られ、デザイン変更による樹脂素材の削減も、トイレタリー領域と比べて困難とされる。生分解性プラスチックなどへの代替も、耐久性や強度に加えて複雑な成型や印刷特性などが求められる化粧品容器の場合は、素材の機能に加えて、容器メーカーの加工技術力やコストがハードルとなっている。
企業間や地域・消費者との協働が広がる海外先進市場
海外では、多くのグローバル企業が環境へのスタンスや脱プラスチック目標を明確にしている。そのうえで、可能な場所、領域から課題解決に向けた様々な取り組みを始め、業界内外をまたいだ協働を通じてビジネスモデルの変革を生み出しそうとしている。
ロレアル( L’Oréal、フランス)、ユニリーバ(Unilever 、オランダ)は、プラスチック容器の2025年までの100%リユーズ、リサイクル、コンポスト可能化を宣言している。
具体的な取り組みとして、ユニリーバやヘンケル(Henkel、ドイツ)は、開発途上国におけるプラスチックごみ回収インフラの構築を通じたプラごみ削減の後押しを開始している。米国ではP&G(米国)やユニリーバが参画し、宅配のUPS(米国)、リサイクル大手のテラサイクル(TerraCycle、米国)、小売や他メーカーを含めた共同事業として、使用済み容器の回収・レフィル・配達を行うLOOPTMと呼ばれる販売方式が試行されている。
ロレアルは2018年にクアンティス(Quantis、スイスの環境コンサルタント)と共に、業界を横断して環境負荷の少ない化粧品パッケージの研究開発に取り組むコンソーシアムSPICE(Sustainable PackagingInitiative for Cosmetics)を立ち上げた。
動きだす日本勢
日本では消費者の利便性へのこだわりや容器回収・再利用システムの不備もあり、業界のプラごみ削減対策は不十分な状況が続いてきた。しかし、グローバル市場での生き残りを望む企業には、ここからの周回遅れを挽回する必要がある。
容器開発、回収・再利用システムの構築、消費者啓蒙などの全段階で、目標を明確にし、自治体、流通など他企業との協業を視野に入れた取り組みの加速が必要だ。
大きな一歩としては、花王が2018年11月に発表したイノベーション素材AFB(Air-in Film Bottle)が注目だ。AFBは再生プラスチック100%の単一素材、残液ゼロの使い切り可能な設計によって、100%リサイクルが容易な容器素材となっている。花王は日本に先行して、需要の大きい欧州市場などに向けた販売も検討しており、業界他社への提供も視野に入れるビジネスの可能性が期待している。
資生堂は日本企業として唯一、SPICEに立ち上げから参加した。化粧品の本場である欧州において、脱プラ容器素材の知見を他社と共有し、業界の潮流をリードしようとするスタンスを示したといえる。同社はまた今年、化学メーカーのカネカと海水中生分解性ポリマーの化粧品容器への活用に向けた共同開発を開始した。「美」を標榜するリーディング企業として、「環境配慮」という化粧品の新たな価値を、どのように消費者に訴求するのかが試される。
※機関誌「FRONTIER EYES」vol.27(2019年11月発行)掲載記事を修正の上再掲
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