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フィジカルインターネットとは?物流業界変革の構造や業界動向を解説
ECの普及により物流量が増加している今、物流業界は人手不足や労働環境の悪化、トラックの積載率の低下(注1)など深刻な課題を抱えています。 この課題を解決する方法として注目されているのが「フィジカルインターネット」です。 フィジカルインターネットは、インターネットの網の目のような通信網をフィジカル(物理的)な物流業界で応用する考え方です。 本記事では、フィジカルインターネットの構造を解説し、実現へ向けた企業各社の動きを紹介します。
フィジカルインターネットとは
フィジカルインターネットの考え方では、通信のインターネットのような網の目状に配達ルートを張り巡らせ、最も効率的なルートでの配達を実現します。
そこに、積載率の高いトラックを、複数のドライバーでリレー形式に配達することで、物流業界の多くの課題を改善できると期待されています。
この効率的な物流構造の実現には、3つのポイントがカギとなります。
シェアリング
フィジカルインターネットの構造では、物流施設や車両の企業の壁を超えたシェアを前提としています。
現在の物流は自社の大規模拠点に荷物を集め、そこから目的地近隣の倉庫を経由し、自社のトラックで目的地に荷物を届けます。
この構造では、自社の大規模拠点を通過するために、発送地から目的地への最短距離を通ることができません。
また、同じ方向の荷物が少ない場合にはトラックの積載率が低い状態での走行となり、効率的とは言えません。
そこで、企業ごとの物流資産をシェアし、自社・他社問わず最も効率的なルート上にある、施設や車両を利用することで、無駄を省いた配送ルートを確保できるという考え方がフィジカルインターネットです。
企業独自ではなく業界全体として物流資産をシェアすることがフィジカルインターネットの革新的な考え方と言えるでしょう。
荷物サイズの標準化
トラックの積載率を向上させるカギとなるのが荷物サイズの標準化です。現在は商品に合わせてパッケージが作られており、形状は多種多様です。
結果、荷物が標準のパレットに収まらず、トラックの積載率低下要因の1つになっています。
大きさは様々でも、組み合わせて標準パレットに収まる形状が揃えば、トラックの荷台を最大限活用でき、積み込み作業の効率も上がると期待されています。
情報網の整備
フィジカルインターネットの実現には、通信インターネットの情報網のように緻密な配送ルートを管理するための、高度なシステムが欠かせません。
労働者の負荷を減らし、スピーディーな配送を実現するためには、人の判断や指示を介さずにシステム自体が荷物ごとの最適なルートを判断し、ドライバーへ指示することが理想的です。
そのために「IoT(モノのインターネット)」「AI(人工知能)」のような高度なIT技術を駆使したシステム整備が求められます。
フィジカルインターネットが注目される理由とは?
フィジカルインターネットが提唱された背景には物流業界の深刻な課題があります。
現在の構造では解決が難しい課題が重なっており、業界内のみならず、社会問題として捉えられています。
また、海外でも同様の問題を抱えており、物流業界は変革を求められています。
ここでは、物流業界の課題について3つのポイントを紹介します。
物流業界の人手不足
日本の労働市場は少子高齢化により、2040年には2017年に比べ500~1,000万人の労働人口減少が予想されています(注2)。
全日本トラック協会の調べによると、物流業界では2014年の消費税増税前の駆け込み需要を契機に、トラック運送業の約60%前後の企業が人手不足を感じると回答しています(注3)。
さらには、物流の要となるトラックドライバーは長時間労働・低賃金から若手の就職希望者が少なく、全産業の平均以上のペースで高齢化が進んでいます。
そのため、今後定年退職により、人手不足が加速すると予想されます。
運ぶ荷物の小口多頻度化
Amazonや楽天といったネットショッピングの普及により、宅急便の利用が大幅に増えています。
実際に国土交通省が発表している宅急便取り扱い個数は2009年の31億3,694万個(注4)から10年後の2019年では43億2,349万個(注5)まで増加。
個数は10億個以上増えていますが、宅急便の取り扱い荷量はほぼ横ばいで推移しています(注3)。
これは一般家庭の向けの小口荷物が増え、多頻度化していることを意味しています。
小口多頻度化により、ドライバーの配達先へ向かう頻度や荷物の上げ下ろしの回数が増え、労働環境の悪化に繋がります。
環境問題への配慮
地球温暖化対策により、各業界ではCO2削減の取り組みを求められています。2019年度に2013年度比較で、各業界が17%以上のCO2削減を達成している中、運輸業界の削減率は8.1%に留まりました(注6)。
先に述べた荷物の小口多頻度化により、環境負荷の高い大型トラックの走行台数が増えていることが影響しています。
さらには、一般家庭用の荷物が増えることで、再配達の件数が増え、CO2排出量削減に向けた動きで他業界に大きく遅れをとっています。
フィジカルインターネット実現の動き
フィジカルインターネットは、欧米を筆頭に世界各国で専門家による研究が進められてきました。
現段階では業界全体の変革までは行かずとも、国を跨いだ研究結果の共有や、企業間の連携など、確実に成果に結びついています。
企業や業界ごとでのフィジカルインターネット実現に向けた取り組み事例も出ています。
ここでは海外と国内での取り組みを、事例と共に紹介します。
海外の取り組み
欧米では2014年より毎年国際フィジカルインターネット会議(IPIC)が行われ、世界中の有識者が一堂に会し、研究結果や事例の共有が行われています。
フィジカルインターネットを一早く実現している例として、米Amazonの取り組みが挙げられます。米Amazonは配送を委託していたFedExとの契約を2019年に終了させ、独自の配送網を拡充しました。
その配送拠点を外部企業へも解放し、物流資産のシェアを実現させています。
また、航空物流の拠点である米シンシナティ空港を独物流大手のドイツポストDHLと共有しています。
これはアメリカとドイツの時差によるピークタイムの違いから、お互いの空き時間を利用し、物流資産の無駄を減らす取り組みとして注目されています。
日本国内の取り組み
日本で初めてフィジカルインターネットの研究を始めたのが物流大手のヤマトホールディングスです。
2019年にヤマトホールディングスは野村総合研究所と連携し、実現に向けた研究や、国内での認知度向上のためのフィジカルインターネット懇話会の発足など、着実に取り組みを進めてきました。
その成果が国際的に認められ、2021年のIPICにて初めて日本でのフィジカルインターネットに関する取り組みを発信しました。
また、2020年にはSGホールディングスがフィジカルインターネットへの対応を進める意向を表明し、従来の大規模拠点を通した配送と並行して、拠点を通さない最適配送の実現を目指すと発表しました。
宅急便へのフィジカルインターネットの活用は、着実に進んでいるものの未だ研究段階です。
一方で、具体的な取り組みが始まっている例として、日清食品とアサヒ飲料が挙げられます。
日清食品とアサヒ飲料は2020年9月より、日本通運と連携し、関東~九州間のトラック共同輸送をスタートしました。
これは、重量貨物のため2段積みができないアサヒ飲料の荷物と、軽量である日清食品の荷物を混載させることで、トラックの積載率向上を目指したものです。
従来はサイズが異なるために、組み合わせることが困難だったパレットの種類や数量を調整することで、効率的な積載を実現し、トラックの使用台数を20%削減することに成功しました。
フィジカルインターネット実現の障壁とは
フィジカルインターネットは専門家による研究が進み、その必要性について発信されることで、物流業界のみならず賛同する企業や機関・業界が増えてきています。
また、IoTやAIといったIT技術の進歩により、実現に近づいていることは確かでしょう。
しかし、業界全体の変革には2つの大きな障壁があります。
顧客ニーズ
現状日本の物流は非常にスピードが早く、今日注文した商品が明日届くことも珍しくありません。
そのスピード感が「当たり前」になっている今、スピードが遅くなる=サービス品質の低下と捉えられます。
フィジカルインターネットを実現した際の、配送納期は現状研究段階ではありますが、荷物の載せ替えや積み下ろし回数によっては、配送納期が長くなる可能性が指摘されています。
現状のスピードを維持したまま物流構造を根本から変えることは容易ではありません。
現在の高いサービス品質と顧客の期待値が、フィジカルインターネット実現への高い障壁となっています。
既存物流との置き換え
フィジカルインターネット実現のための配送網や管理システムは何もないところから構築するのではなく、現状すでに運用されている物流網と置き換えていく必要があります。
既存の構造では各物流企業や業界ごとに独立しており、連携していません。
別々に運用されている仕組みを、資産や運用ルール、システムなどの全ての要素を統一し、置き換えるには莫大な資本と時間を要すると考えられます。
フィジカルインターネット実現で物流革命
フィジカルインターネットは世界各国で重要課題として取り組まれています。個々で独立した物流網をオープン化し、シェアする構造は従来の考え方を覆す革命的な取り組みです。
深刻な物流業界の課題解決だけでなく、環境問題や持続可能な社会の実現に向け、今後の研究にも注目されていくでしょう。
引用(参考)
注1:貨物自動車運送事業における生産性向上に向けた調査事業の報告について|国土交通省
注2:令和2年版厚生労働白書「第1章 平成の30年間と、2040年にかけての社会の変容」|厚生労働省
注3:物流を取り巻く動向について|国土交通省
注4:平成21年度宅配便等取扱実績について|国土交通省
注5:令和元年度 宅配便取扱実績について|国土交通省
注6:日本の CO2排出動向と貨物輸送の課題|大和総研
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