PEファンドの底力①TCapによるロピアの事例から

PEファンドはどのように投資先を選び、どのような取り組みで投資先企業を成長させているのか。このシリーズでは、具体的なケースから普段のPEファンドの姿を紹介したい。第1回は、ティーキャピタルパートナーズ(TCap)の取締役マネージング・パートナー小森一孝氏にお話を伺った。

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話し手
ティーキャピタルパートナーズ株式会社
取締役マネージング・パートナー
小森 一孝
1990年に東京海上火災保険㈱(現東京海上日動火災保険㈱)に入社し、金融事業戦略の企画・立案及び資産運用・ALMの企画業務に従事。2002年3月より東京海上キャピタル(現ティーキャピタルパートナーズ)に参画し、小売・流通・サービス業を中心に、大企業グループのカーブアウト案件から事業承継に係る案件まで幅広く主導。2019年10月にマネージング・パートナー、2020年3月に取締役に就任。現在、㈱ロピア、コンフェックス㈱、㈱WITHホールディングスの非常勤取締役。
慶応義塾大学経済学部卒業。ミシガン大学ロスビジネススクールにてMBA取得。

ティーキャピタルパートナーズ(TCap)について~「ゼロからの信頼積み重ね、更なる拡大のための独立」~

ティーキャピタルパートナーズ(TCap)について~「ゼロからの信頼積み重ね、更なる拡大のための独立」~

Q:TCapは21年間にわたって東京海上グループ傘下で「東京海上キャピタル」として活動し、2019年8月にMBO(Management Buyout)で独立されています。この決断に至った背景・経緯について教えて下さい。

私達がPE投資を始めた1990年代の後半は、日本ではまだPE投資が産業界、金融界で認知されていない時代であり、ゼロから信頼と実績を積み重ねていく必要がありました。

その際、当時親会社であった東京海上グループが持つ社会的信頼や企業ブランドは大きな後ろ盾になっていました。

一方で、PE投資は保険事業とは全く異なるビジネスであり、この点を親会社と相互理解した上で、独立した意思決定や人事制度を早期から導入していました。

金融グループ傘下にあるファンドは所有組織のために投資を行う「キャプティブファンド」と呼ばれます。当社は外部投資家からの資金を集め、実態は独立したPEファンドとして、堅実に投資実績を積み重ねてきました。

着実にファンド規模を拡大してきたのですが、海外の投資家になると、「キャプティブ」というだけで投資対象から除外するところもあります。

この制約を払拭してさらなる成長を目指そうと考え、独立することとしました。

「横から目線」のサポート

「横から目線」のサポート

Q:2020年12 月に新しいファンドの募集を完了されています。コロナの影響もある中でLP(Limited-Partner))投資家との対応に変化はありましたか?

コロナ禍では海外の投資家は来日できず、全てオンライン対応になりました。それでも多くの投資家からの信任を得ることができ、800億円を超えるファンド規模になりました。このうち海外の投資家は約40%を占めています。

ファンド規模が大きくなった今でも、投資方針に変わりはなく、安定した実績を有する国内の優れた中堅中小企業を投資対象にしています。

経営関与についても変わりなく、経営陣と相互信頼と適度な緊張関係のもとで、共同して企業価値を向上させていくスタイルを維持しています。

「上からの目線」ではなく、常に「横から目線」で経営陣や社員の方々と寄り添い、必要に応じて経営サポートに入るのが私達の特徴です。

Q:PEファンドは、経営派遣チームを持ち経営に直接関わるところもありますが、TCapはいかがでしょうか?

確かに、自らが経営者として深く関与し、投資先企業をその流儀で牽引していくような強いハンズオンの姿勢のファンドもあります。

しかし、長期的な投資先企業の発展を望むのであれば、自らの力で業績を伸ばしていける企業になれるように経営を支援すべきというのが私達の投資の根底にある考えです。

Q:伴走型の支援ですね。

ロピア(愛知県)の成功事例から

ロピア(愛知県)の成功事例から ロピア(愛知県)の成功事例から

Q:当社(フロンティア・マネジメント)でも当初ご支援させて頂いた製菓メーカー「ロピア」(愛知県清須市)のことを伺いたいと思います。初めに投資案件として検討することになった経緯について教えて下さい。

ロピアは愛知県に本社を置くチルドデザートのメーカーで、コンビニエンスストア(CVS)と食品スーパー(SM)向けに様々なデザートを製造しています。

もともとはオーナー家が経営していたケーキ屋さんが、愛知地盤のCVS向けに商品を供給していたのが事業の始まりで、CVSの発展とともに、ロピアも急成長を遂げてきました。

私達に相談があった時は、ロピアの主要取引先であった「サークルKサンクス」と「ファミリーマート」の経営統合の準備が進んでいた時です。

愛知県地盤のサークルKに対し、ファミリーマートは全国展開です。規模的、地域的に更に拡大する取引先のニーズに、経営ノウハウが乏しいオーナー家での対応が難しいと判断され、この分野での投資経験と実績があったTCapに事業承継の相談がありました。

Q:ロピアの事業性、成長性をどのように判断をして、投資の決断をされたのですか?

CVSとSMを通じたデザート市場は成長が見込まれ、ロピアは厳しい品質管理基準と安定供給を求める取引先に対応できる数少ないメーカーでした。

他社と比較しても圧倒的に多くの種類のチルドデザート商品を企画・製造する能力を持っていて、顧客の嗜好の変化に対応できる。CVSのスイーツ市場で更に売上拡大を図ることが可能と判断しました。

一方で、課題を見つけることもできました。例えば、製造プロセスには手作り工程が多く含まれているため、生産工程の見直しや自動化ラインの導入により生産性の大幅な改善余地がありました。
また、後述する営業と製造の連携不足により、売上を伸ばしても生産への負荷ばかりが増大し、利益につながらない状況にありました。

私達は、こうした課題を解決できれば、ロピアも利益を伴った事業の拡大ができると判断し、2016年12月に投資を実行しました。

牽引役のリーダーの招聘

牽引役のリーダーの招聘

Q:優先的に実施したことや、それに対してTCapはどのように関与されたのか教えて下さい

まず、収益構造を抜本的に改革する必要があると感じていました。

そのために取引先別、商品別、販売地域別の収益性を詳細に分析し、不採算な取引、商品から撤退することが必要でした。
こうした分析や損益シミュレーションによるシナリオ作りは私達が得意とするところですが、実際にそのシナリオに沿って取引先と交渉しながら、生産体制の見直しを進めるのはロピアの役職員です。

彼らに会社が進むべき方向性や経営のビジョンを示し、またモチベートしながら、徹底してやりきるには強いリーダーシップを持つ経営トップが必要でした。

残念ながらオーナーの下で経営されてきたロピアには、そうした経営人材に乏しく、私達のネットワークで外部から社長を招聘することにしました。それが現在の吉田直哉社長です。

吉田社長は、北海道でデザート事業の会社(株式会社KCC/小樽洋菓子舗ルタオ)を経営されてきた経験があり、強いリーダーシップをお持ちで、まさに適任でした。吉田社長の就任後、製造やサプライチェーンの責任者も外部から採用し、マネジメント体制の強化を進めました。

「負のスパイラル」から勝利の方程式を生む組織へ

Q:何故ロピアに収益構造の問題が生じていたのでしょうか?

各部署の目標設定と、部署間の連携不足が大きな原因でした。以前のロピアは、営業には売上の数値目標だけが与えられ、製造側は発注を受けた商品を、決められた納期通りにとにかく作って出荷することだけを一生懸命やっていました。

これだと、営業は工場や物流の採算は気にせずに、売りやすい商品を売りやすい先に売り込む動きになります。その結果、小ロットで商品数が多くなり、生産ラインへの負荷が大きくなります。工場は正社員やパートだけでなく、単価の高い派遣社員にも頼ることになり、これが製造人件費アップをもたらしました。

入れ替わりの多い派遣社員が増えると、作業の習熟が進まず、生産過程での材料ロスも増えてしまうので、材料費率も上がってしまいます。

生産の遅れが生じると、時間通りのチャーター便の物流に載せることができず、コストの高い特別便を使う頻度も増えます。小口の取引先が全国に広がると、トラックの積載率も低下し、物流費率も上がってしまいます。

当時のロピアはこのような「負のスパイラル」に陥っており、これでは利益を出すことはできません。

Q:この負のスパイラルを断ち切きるのは容易ではないですね。どのような工夫をなされたのでしょうか?

一度出来上がったオペレーションを組み直すのは、大変な作業です。

取引先には丁寧な対応が必要ですし、取引先に納得頂いてから物流と工場の体制の見直しに取り組むことになるので、最終的に月次で利益が安定して出る形になるまでには、2年以上を要しました。

先行して売上が落ち、物流費や人件費は高止まりしますので赤字が出ます。この状況に耐えながらロピアの経営陣、役職員が最後までやり切った結果、2019年初めから月次で利益が出るようになりました。

実際に結果が現れてくると、課題だった部署間の連携も良くなり、今度は好循環が生まれるようになりました。
ロピアが得意とする商品を中心に安定的に生産できるようになると、派遣社員に頼る必要性がなくなりました。社員とパートの習熟度が上がり、製造人件費率と材料費率は大きく改善しました。

物流便も統廃合することで積載率が向上しました。予定通り出荷できれば高コストの特別便も不要になるので、物流費率も大きく下がりました。

今の工場の人員シフトに負荷を与えない商品は何か。既存の物流便に載せられる取引先はどこか。営業、製造、サプライチェーンの部門が一緒になって考え、そういう商品、取引先には戦略的に特売の販促を仕掛けていくなど、上手く利益を増やしていくような動きもできるようになりました。

人員・給与は削らず。人への投資を進める

Q:利益が出るようになるまで2年以上、相当な改革を行ったことが理解できます。ここに至るまでの間、コスト削減や投資抑制も厳しく行ったのでしょうか?

無駄なコスト削減はしてきましたが、人員や給与の削減は一切していません。むしろ、赤字の期間もロピアの競争力につながるものに対しては、中長期的な観点から積極的に投資しました。

例えば、ロピアの主力商品であるカップデザートやシュークリームのクリーム自動充てん機、タルトの自動化ラインといった生産の自動化・省力化につながる設備投資は継続して行ってきました。

また、機械への投資だけでなく、人材教育にも力を入れてきました。この点は吉田社長が当初から最も重視されていたことの一つで、組織としての力を引き上げるため、幹部社員に対するマネジメント研修を導入しました。

私達から東京海上グループの人材教育・研修を提供している会社をご紹介し、ロピアのニーズに合わせた研修プログラムを作ってもらいました。

大企業とは異なり、中小・中堅企業には人材教育に力を入れていないところも多く、実際にロピアの幹部社員もこうした研修を受けたことがある方は殆どいませんでした。

多忙な業務に加えての研修ですから皆さん大変だったとは思います。会社が自身の能力開発を考えてくれていると感じて、モチベーションが上がった方が多かったようです。

すぐに結果につながるものではありませんが、だからこそ単年度の損益にとらわれず、長期的な視点で企業の成長を支援できるファンドがやるべきことだと思います。

自らの力で業績を伸ばしていける企業になるには、人材の底上げが必ず必要になります。

著名ブランドとのコラボによって次のステージへ

著名ブランドとのコラボによって次のステージへ

Q:次のステージとして、ロピアではどのようなことを考えていますか?

新型コロナウィルス感染症の流行が続いているこの1年半の間も、CVSとSMを通じたチルドデザートの販売は堅調で、今後も市場は安定して成長していくことが見込まれます。

ロピアは吉田社長の下で自立した運営がされており、経営幹部社員が中心に今後の事業成長に向けた取り組みを推進しています。

成長の方向性としては、ロピアの強みである

①大手CVSと全国のSMの顧客基盤

②顧客が求める多様な商品を企画開発し、一定の品質で安定して供給できる生産体制

を、いかに活用するかがポイントになります。

例えば、①についてはTCapも支援させて頂いたものですが、アップルパイで有名なグラニースミス(東京都世田谷区)とコラボレーションして、ファミリーマート向けにグラニースミス・ブランドのチルドデザートやアイスクリームを開発、販売する取り組みも行っています。

また②の企画開発や生産機能の活用方法としては、ホテルのビュッフェ用デザートやお土産物デザートのOEMの取り組みを検討しています。

Q:アフターコロナも見据えた取り組みですね。今後のロピアにも期待したいと思います。

インタビュー後記

小森さんがPE業界に身を投じてから20年経つという。これまで担当した数は12件、まさに業界を牽引された一人と言えよう。物腰柔らかく、まさに伴走型経営支援を体現されているが、過去の道のりは決して平坦でなく、そのために投資候補企業の良い面だけでなく、投資後の難しさも見えて慎重になり過ぎる自分がいるとのこと。逆に言えば、支援をされる企業にとってはこれ以上頼りにできる人はいないだろう。

ティーキャピタルパートナーズ株式会社
株式会社ロピア

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