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話し手
エンデバー・ユナイテッド株式会社
シニアマネージングディレクター
前野 龍三
早稲田大学理工学部卒業。米ロチェスター大学経営大学院修士課程修了(MBA)。1994年に三菱UFJ銀行(旧三菱銀行)に入行、支店での商業銀行業務の後、ニューヨーク支店にて投資銀行業務、投資銀行部門の企画業務、ストラクチャードファイナンス業務等に従事。2008年にフェニックス・キャピタル(エンデバー・ユナイテッドの前身)に参画し、多数の投資先企業のバリューアップに携わる。主な担当先は、㈱ダイヤメット、柳河精機㈱、日本ピザハット㈱など。

ダイヤメットへの投資を決めた経緯

ダイヤメットへの投資を決めた経緯

Q: まず、投資案件として検討することになった経緯について教えてください

ダイヤメットは、過去に品質問題を起こしており、問題収束のために多額の費用をかけて対応していました。

品質という観点で信用を落としていたため新規受注があまりとれていなかったことに加え、事業の縮小に対して費用構造という観点で、有効な手段が講じられていませんでした。それらを主因として、業績が低迷、財務体質が悪化していました。

さらに、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた自動車の減産の影響もあり、事業の見通しが不透明な状況に陥っていました。

そんな折に、フィナンシャル・アドバイザー経由でお話を頂き、本件の検討を開始しました。

■参考資料
株式会社ダイヤメットの株式等の取得に関する基本合意書締結のお知らせ
民事再生手続開始の申立て及びスポンサー支援基本合意書締結のお知らせ

ダイヤメットの強みと成長性

Q:ダイヤメットの事業性、成長性をどのように評価をして、投資の判断をされたのですか?

ダイヤメットの強みは、
①大手自動車メーカー系列のTier1を主要顧客に持つなど安定した顧客基盤
②カスタマイズ部品を長年納入しているなど顧客との強固な関係性
③粉末冶金を用いた焼結部品に関するコア技術
④親会社であった三菱マテリアル株式会社(以下、「MMC」)から会社分割された会社であるため優秀な従業員が多いこと

などがあげられます。

これらの強みに加え、
1)自動車部品という中期的に成長が期待できる市場に属していること
2)焼結部品市場は寡占市場であること
3)EVシフトによる新たな需要増加が見込まれること

など将来性を十分に検討した結果、今後成長できる可能性が十分にあると判断しました。

Q: 焼結部品市場をどのように捉え、勝ち筋を見出したのか詳しく教えて頂けますか?

マーケットデータによる世界の自動車販売予測によると、プラグインハイブリットカー(以下、「PHEV」)や電気自動車(以下、「EV」)の割合の高まりとともに、ダイヤメットの取扱部品が多く使われているエンジン車についてはシェア・台数ともに長期的には減少が見込まれています。

一方で、自動車向け焼結部品は、
部品のライフサイクルが10年前後と長期になること
PHEVの基幹部品として使用される素材であり当面は底堅いニーズが見込まれること
オーダーメイド性が高く、技術面やコスト面からも他に代替することが難しいこと

などの理由により、今後も一定程度の需要が見込めると捉えました。

また、焼結技術を使った新領域への協力についてご相談を受けており、これがダイヤメットや焼結業界にとってポテンシャルとなり得ると考えています。

これらを踏まえて、当面は比較的安定した売上を維持する中で、高品質な製品を低コストで製造する体質への改革を急ぎつつ、顧客のニーズを確認して研究開発を進め、PHEV/EVにも対応できる新領域への参入も可能と判断しました。

ダイヤメットの抱えていた課題と投資判断

ダイヤメットの抱えていた課題と投資判断

Q: そのような強みや成長性がある一方で、課題もあったわけですよね?

投資時のダイヤメットは、大幅な債務超過に陥っておりました。その原因を突き詰めると、生産体制の弱体化と、それに起因する高コスト体質にあると考えました。

ダイヤメットでは、「70年モノ」の古い製造設備がいまだに現役で稼働するなど、設備が老朽化していました。

また、複雑に入り組んだ生産ラインにより、不良率・廃棄率が高く、工程能力の把握すら難しい状態でした。

加えて、品質問題を抑え込みつつ、お客様からの発注にお応えするために、製品の全品検査という非効率な運営が常態化していました。

先ほどお話しした通り、ダイヤメットは過去に品質問題を起こしており、投資実行の判断の際には、適切な対策が講じられているか、かなり慎重に確認しました。

事前のヒアリングにて、不正の要因となり得る仕組みにつき、細かくガイダンスやマニュアルが作成されていること、各機能への牽制体制が働いていることなどを明らかにし、実行のオペレーションにも落とし込まれていることを確認した上で、確証を持って投資実行の判断をしました。

ダイヤメットの再生、再成長のために

Q: 実際には投資後にどのように改善していかれましたか?

全社レベルで「生産工程の清流化」という大きな目標を掲げ、EUの全面的な関与に加え、様々なコンサルタントの方々のお力をお借りし、「総力戦」で再生・再成長のプロセスを確かにすべく取り組んでいます。

具体的には、老朽化した設備の入れ替え、工場レイアウトの適正化、ITの活用による工程の見える化、などの施策により、生産性・工程能力の向上を目指して取り組みを強化中です。

特に、ダイヤメットとして最重要課題であるモノづくり力という観点では、フロンティア・マネジメントにもコンサルティングに入って頂き、現場レベルでの品質改善に精力的に取り組んでいます。

再成長への道筋はなるべく早期に付けるべきと考えているため、今後も必要なリソースは惜しみなく投入する方針です。

また、主要顧客への拡販強化・新規受注の回復は重要な命題と捉え、投資前から主要顧客と密にコミュニケーションを取り、投資実行後も株主であるEU自ら足を運び、逐次情報及び今後の方針の共有を行うなど、リレーションの回復に努めました。加えて、営業体制を強化し、引き合いに対する回答スピードを上げ、原価低減活動を進めることで、徐々に受注が回復・強化されてきました。

企業風土改革への取り組み

Q: 品質問題が起こった際の調査報告書内にて、製造体制や監視体制が不十分であったことの他、品質より納期を優先する風土など、企業風土の改善の必要性について言及がありました。EUが株主として入られてから、どのように企業風土の改革に取り組んで行かれたか、お聞かせ頂けますか?
 
品質問題に対する製造体制や監視体制については、弊社が参画する前に対策は講じられていましたので、引き続きオペレーションの実行・モニタリングに努めております。

主に経営会議で、品質関連の取り組みの進捗状況、月単位でクレームの報告を求めることにより、品質に対する危機意識を高めるようにしています。

他方で、企業風土の改革については時間がかかることもあり、重要な課題として継続的に取り組んでいます。

具体的には、経営陣による従業員面談などにより現場の声を吸い上げること、逆に従業員説明会(いわゆるタウンホールミーティング)の開催などにより会社の現状を従業員の皆様にしっかりお伝えすることなどです。

これからもコミュニケーションの頻度及び情報量・内容の向上により、風通しのいい文化を構築していくことが重要だと考えています。

また、今後はITを活用して生産状況や不良品情報などをタイムリーに従業員の皆様に還元することで、情報の速度も上げていきたいと考えています。

Q: EUの株主としての関与度合いと、役割をお聞かせ頂けますか?
 
ダイヤメットの取締役全6名のうち、半数の3名をEUから非常勤役員として派遣しております。

経営への関与度合につきましては、毎月の経営会議に出席して会社の現況を確認するだけでなく、会社に半常駐して、経営陣や各部長陣と共に課題の整理、組織の在り方、モチベーション向上に向けた取り組み等について徹底的な議論を交わし、構造改革のスピードを高める役割も担っています。

きめ細かいPMI

きめ細かいPMI

Q:株主や経営陣が変わることは従業員の方々にとって大きな変化になると思います。従業員の方々の中に溶け込むため、日々どのように接して行かれましたか?

ファンドが株主になり、また経営陣も新たに就任するということで、従業員の皆様とのコミュニケーションは極めて重要であると改めて感じました。

特に、ポストマージャ―インテグレーション(以下、「PMI」)活動は「戦略」×「実行力」が鍵になりますが、その担い手となる管理職や従業員の皆様に至るまで、の現状や取り組み方針についてお伝えするために、今まで以上にきめ細かいプロセスやアプローチが必要になりました。

まずEUから派遣した新経営陣は、全従業員との面談やランチミーティングなど、積極的にコミュニケーションを図る場を設定して、従業員一人ひとりが考えている会社の課題、可能性、要望や不安等の声に真摯に耳を傾けるといった取り組みを行ってきました。

これは、新経営陣が従業員から信頼され、従業員のモチベーションを向上させることが、旧体質や組織風土等を変えていく原動力となると考えていたからです。従業員から寄せられた声にコミットして改善を果たすことにより、新経営陣に対する信頼が高まり、彼らが発信し続ける会社の今後のビジョンや経営方針に共鳴する従業員が徐々に出始め、その輪が段々と広がっていったことにより、新経営陣は会社に溶け込むことができたと考えています。

Q: ダイヤメットの更なる成長余地をお聞かせ頂けますか?

EUが参画させていただいてから1年以上が経過し、近年ではお客様から積極的に新規の引き合いのお話を頂けるようになりました。これは、会社として再成長するために必要不可欠ですので、とてもありがたいと考えています。

今後は、日本の各拠点(新潟、藤岡、ピーエムテクノ社※注1)を中心に、海外現地法人(中国・広東、マレーシア)の活用も進め、オールダイヤメットとしての成長を目指したいと考えています。また、機会があればM&Aなどによる事業拡大などの、ファンドならではの取り組みも考えています。

自動車部品業界は新型コロナウイルス、EV化、CASEなど100年に一度の変革期を迎えていると言われています。そのような環境下においても、製造業としてのモノづくりの力を着実に蓄積しつつ、ファンドが投資したことでこれだけ会社が良くなったという実績を、皆様にお伝えしたいと考えています。

また、ダイヤメットの経営陣は、2021年に新潟市役所を訪問(※注2)し、市長にご面談を頂きました。今後、色々な形で地元との共生を図っていくための大事なプロセスであったと考えています。

もちろん、EUとしても長い間ダイヤメットで働いてくださった従業員、取引先及び地域社会に支えられてきたという特別な思いがございますので、今後は新潟県に根付き、ステークホルダーや地域社会に貢献できる会社として成長させて行きたい、と考えています。

(※注1)(株)ピーエムテクノ(ダイヤメットの100%子会社)は、ダイヤメットからの受注で自動車用燃結部品の研削などを行う

(※注2)ダイヤメット社長、22年3月期の黒字転換めざす: 日本経済新聞

Q: 最後にPEファンドの役割で重要な点をお聞かせ頂けますか?

PEファンドの役割は、会社が目指している「あるべき姿」に対して、何かしらのギャップや課題を抱え、単独ではその課題が解決できずに悩んでいる企業に、必要に応じて、ヒト、モノ、カネ、情報・ネットワークや経営ノウハウ等を提供して課題を解決し、「戦略」×「実行力」の最大化、ひいては企業価値の最大化に向け支援させていただくことだと考えています。

そのためには、会社の「あるべき姿」を見直して、どのような戦略でアプローチするかを定め、経営計画で具体化し、それぞれアクションプランに落とし込んでPDCAを回していくことが重要です。

策定した事業戦略や中期経営計画を実際に実行していくのは組織であり、ヒトです。最適な組織をつくる上で不足する人材の採用を進め、業務を実行するヒトのモチベーションを上げるために人事制度の改定など、施策を講じるところで、ヒト、ネットワークや経営ノウハウ等を提供することができます。

時には大きな設備投資やロールアップといった非連続的な施策により成長を見込むこともありますので、その場合には、カネ、情報等を提供するなど様々な場面に応じて効果的にサポートできると考えています。

企業の成長ステージや状況によって求められる役割も様々ですが、その会社に応じて柔軟に対応し、企業の潜在力を最大限に引き出せるように支援していくことが、我々の役割だと考えています。

Q:本日は、貴重なお話をお伺いさせて頂きまして、有難うございました。

インタビュー後記

エンデバー・ユナイテッドは、国内有数の事業再生ファンドであったフェニックス・キャピタルが前身であるが、再生に留まらず、より投資先の成長にコミットするために日々苦闘している。当時、この件は誰もが手を挙げる状況でなく、「自分たちがやらねば誰がやる」という気概で取り組んだとのこと。このような専門家集団が、今の日本には必要不可欠だと感じた。

エンデバー・ユナイテッド株式会社
株式会社ダイヤメット

以上

▼PEファンドの底力(シリーズ通してお読み下さい)
PEファンドの底力シリーズ

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