オーバーアロットメントとは 株価への影響や事例とともに解説

企業において新規株式公開や公募増資を担当されている方、また証券会社でこれから引受を請け負う方、または今後それらの仕事を志す方等に向けて、今回は「オーバーアロットメント」という公募・売り出しの関連手法・用語について解説していきます。

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オーバーアロットメントとは

オーバーアロットメントとは

日本取引所グループによるとオーバーアロットメントとは、以下のように定義されています。

企業が公募・売出しを実施する際において、公募・売出しの数量を超える需要があった場合、主幹事証券会社が対象企業の大株主等から一時的に株券を借りて、公募・売出しと同一条件で追加的に投資家に販売することをいいます。
日本取引所グループ

このオーバーアロットメントは、PO(Public Offering/公募増資)でもIPO(Initial Public Offering/新規株式公開)でも同様に使われる販売方法です。POとは、現在の株主や特定の第三者以外の一般投資家も対象に株式を発行し、追加の資金を調達する手法です。一方、未上場企業が新規に上場して実施する株式の発行をIPOと呼びます。

なお、元々の公募・売り出しの追加として行われるため、その公募・売り出しの数量に需要が満たない場合は行われることはありません。

オーバーアロットメント制度は、株式の需要と供給のバランスを維持する機能として導入されました。またIPO直後、株価の急変を緩和し、市場を安定化させる仕組みとして認識されています。日本国内においては2002年1月より新たに公募・売り出しされる案件から使用が許可され始め、近年では多くのIPOで実施されています。

オーバーアロットメントにおける株式の交換方法

オーバーアロットメントにおける株式の交換方法

オーバーアロットメントにより主幹事証券会社が投資家に販売した株券を、借入先に返却するにあたっての株券の調達方法には「グリーンシューオプション」と「シンジケートカバー取引」の2つの方法があります。それでは、それぞれの方法について解説します。

グリーンシューオプション

グリーンシューオプションとは、主幹事証券会社が持つコールオプションです。またの名をオーバーアロットメントオプションと言います。コールオプションとは、市場価格に関係なく、あらかじめ決めた特定の価格で株式を買う権利です。

株券の販売後に市場価格が、借用した際の引受価額よりも高く推移している場合、主幹事証券会社は市場で株券を調達すると割高になってしまいます。そのため、引受価額で株券を調達できるコールオプション(グリーンシューオプション)の行使によって、引受価額で株券を調達した上で借入先の株主に株券を返却できます。

また、グリーンシューオプションには「第三者割当型」と「買取型」があります。

第三者割当型は主幹事証券会社が、発行体の「第三者割当増資」を引き受けて取得した株式を返還するグリーンシューオプションです。

第三者割当増資とは、特定の第三者に株式を有償で割り当てる会社の資金調達方法です。第三者割当増資では、特定の第三者が株式を割り当てられるため、既存株主の持株比率が低下します。また、引受価額が市場価格を大きく下回る場合は、一株あたりの時価総額が下落する、株式価値の「ダイリューション」(希薄化)が生じます。

同じ手法をとる第三者割当型のグリーンシューオプションの実施では、既存株主の利益や株式の価値に与えてしまう影響を理解しておきましょう。

買取型のグリーンシューオプションは、新株発行はせず、権利行使の後、金銭で返還する方法です。株式を引受価額で買い取るため、貸し出した株主にとっては、発行体と同時に売出しに参加して売却した場合と同じ結果になるという点が特徴です。

グリーンシューオプションで でオーバーアロットメントが行われる場合、売り出し後の需給関係の悪化を防止(株価の過度な高騰を抑制)するという動機が働いている場合が多いです。

シンジケートカバー取引

シンジケートカバー取引とは、上記グリーンシューオプション(コールオプション)を行使せず、市場で株券を買い付けて必要数量を調達する取引方法を指します。

株券の販売後に市場価格が引受価額よりも低く推移している場合、主幹事証券会社は市場で株券を調達する方が割安になるため、オプション権利の行使をせずともそのまま市場で調達できます。

主幹事証券会社が、引受価額と市場価格の差額分の利益をあげられるというメリットだけでなく、シンジケートカバー取引による購入が需給の好転につながるため、下降傾向にある株価を底上げし、結果として株価形成が安定するという効果が期待できます。

IPOで新規に上場した銘柄に初めてついた市場価格である「初値」が、発行価格を下回る「公募割れ」という状態になった際、実施されるシンジケートカバー取引は「誠意買い」と呼ばれています。

主幹事証券会社は買い戻す際の市場価格が、引受価額と比べて低ければ低いほど利益を上げられますが、公募割れの際は引受価額あたりで買い戻し、株価を下支えする動きが一般的に見られるためです。

なお、シンジケートカバー取引ができるのは、公募・売り出しの申込期間終了日の翌日から最長30日以内となります。

オーバーアロットメントの規制

オーバーアロットメントの規制

オーバーアロットメントには、いくつかの規制が定められています。

まずは、オーバーアロットメントが可能な数量の上限です。オーバーアロットメントが可能な数量は、元々の公募・売り出し数量の15%が上限(日本証券業協会「有価証券の引受等に関する規則」第29条)となっています。国内募集と海外募集を並行で実施する場合は、国外募集と海外募集の合算した数量の15%が上限です。(日本証券業協会「『公開価格の設定プロセスのあり方等に関するワーキング・グループ』報告書」)

次に、株券の調達における規制です。主幹事証券会社が売り出しする企業の上場先の金融商品取引所に対して、シンジケートカバー取引またはグリーンシューオプションの行使の総数量等の報告を行うことが義務付けられています(東京証券取引所「シンジケートカバー取引の報告に関する規則」第2条第2項)。

オーバーアロットメントのメリット・デメリット

オーバーアロットメントのメリット・デメリット

主幹事証券会社と発行体、投資家にとって、オーバーアロットメントの実施によって享受できるメリットは異なります。また、発行体と投資家にとっては、デメリットもそれぞれ存在します。オーバーアロットメントの全体像の理解に必要な、各視点のメリット・デメリットについて説明します。

オーバーアロットメントのメリット

そもそもオーバーアロットメントが行われるのは、主幹事証券会社、発行体ならびに投資家全員にメリットがあるためです。

主幹事証券会社にとっては、オーバーアロットメントの実施によって引受株数が増加するため、引受手数料による収益増が見込めます。そのため、多くの場合、主幹事証券会社は機関投資家向けのロードショーや、個人投資家等向けのブックビルディングで取り扱い案件に対する需要が高くなるように営業努力をします。

一方、発行体にとっては、結果的に当初計画以上の資金を調達できるという点がメリットです。さらに、オーバーアロットメントが行われる案件に対して、市場では取引価格にプレミアムが付く場合が多いため、発行体に好意的な株価形成がされるという点でも有効な手法と言えます。

投資家にとっては、オーバーアロットメントにより取引できる株数が増えるため、当初の予定では購入できなかった人も購入できる可能性が出るほか、上述の通り株価形成の安定化が見込めます。

オーバーアロットメントのデメリット

一方で、注意しなければならないデメリットも存在します。

発行体にとっては、主幹事証券会社が取り扱う引受株式数が増加するため、支払う手数料が増額してしまうというデメリットがあります。

投資家にとっては、上場直後の株価の急変がデメリットです。オーバーアロットメントによって注目を集め、公募価格に対して初値が跳ね上がる場合もありますが、多くの投資家がその時点で売却しようとし、株価が急落してしまう危険性があります。

オーバーアロットメントの事例

オーバーアロットメントの事例

グリーンシューオプションとシンジケートカバー取引における株価への影響の具体的な事例をみてみましょう。

事例紹介(グリーンシューオプション):アリババ・グループ

グリーンシューオプションが行使された近年の事例で言うと、2014年9月の中国電子商取引大手アリババ・グループの新規株式公開の事例があげられます。

21世期に入りインターネットの時代になってからは、市場の覇権を握っているGAFAやアリババのような巨大IT企業の株式公開時には極めて旺盛な需要が巻き起こります。

2014年のアリババIPO時には、そうした需要に応え、より多くの投資家に参加してもらうこと、および価格の抑制を目的としてグリーンシューオプションが行使されています。

その結果、当案件は上場後の株価も急落することなく安定推移しており、同じく大型IPOであったFacebookのように公開後株価が急落するという事態の回避に、このグリーンシューオプションが一役買ったと見られています。

Facebook株のIPOについては、初日の公開価格38ドルに対して瞬く間に45ドルを上回ったのも束の間、その日のうちに34ドルまで下がったという流れがありました。さらにその後も下げ止まらず、3カ月後には当初のおよそ半分程度の20ドル前後で推移しました。

なぜこのような事態になったかというと、NASDAQのシステム障害による初期の発注の遅れや機関投資家からの需要の冷え込み等諸説ありますが、有力な原因として、Facebookによる公開直前の公募価格引き上げがしばしば指摘されています。これに伴い、発行株式数も当初の予定から25%も増加しました。この結果、同社株式の供給が市場の需要を大きく上回り、瞬間風速的には値上がりしたものの、全体としては最初から下落基調に陥ってしまったということです。

つまり、いくら大注目の巨大IT株であったとしても、価格が実力を大きく超えると見做された際に需要が喚起しきれず、Facebookの事例のように“身の丈”にあった価格水準に収斂してしまうということです。この点、アリババは市場の動向に合わせて後から価格形成に影響を及ぼせる仕組みを取り入れ、望ましい価格推移を実現したと言えます。

事例紹介(シンジケートカバー取引):HDS

次にシンジケートカバー取引が行われた事例、2018年2月のハーモニックホール・ドライブ・システムズ社の第三者割当増資です。

当案件の発行条件

売出価格:7,332円
引受価格:7,010円
決定時終値:7,790円
期間:1月25日〜2月23日
このような条件下、2月6日〜2月16日の株価が5,930〜6,920円の間で推移し、引受価格を下回ってしまったことにより、シンジケートカバー取引が実施されました。

ここ数年を通して業績好調な当社ですが、この時期は通期営業利益の着地見込を下回る予想や、成長投資のための多額の支出による最終利益の前期比4割減などが嫌気され、株価の下げに繋がったと見られています。

適切なオーバーアロットメントで市場の安定化を目指す

発行する株式の需要に対し供給が追い付いていない場合、オーバーアロットメントによって供給を増やすと、株価の急騰を抑えられます。

しかしながら、オーバーアロットメントは注目銘柄を見つける目印にもなり得るため、むしろ需要を高める場合もあります。

市場環境の分析や、発行体と投資家に及ぼす影響への理解が、オーバーアロットメントの活用に不可欠です。

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