オーバーアロットメントとは

日本取引所グループによるとオーバーアロットメントとは、以下の定義になります。

企業が公募・売出しを実施する際において、公募・売出しの数量を超える需要があった場合、主幹事証券会社が対象企業の大株主等から一時的に株券を借りて、公募・売出しと同一条件で追加的に投資家に販売することをいいます。
日本取引所グループ

このオーバーアロットメントは、PO(Public Offering/公募増資)でもIPO(Initial Public Offering/新規株式公開)でも同様に使われる販売方法です。

なお、元々の公募・売り出しの追加として行われるもので、その公募・売り出しの数量に需要が満たない場合は行われることはありません。また、オーバーアロットメントが可能な数量は、元々の公募・売り出し数量の15%が上限(日本証券業協会「有価証券の引受等に関する規則」第29条)となっています。

オーバーアロットメント制度は、日本国内においては2002年1月より新たに公募・売り出しされる案件から使用が許可され始め、近年では多くのIPOで実施されています。

オーバーアロットメントにおける株式の交換方法

オーバーアロットメントにより主幹事証券会社が投資家に販売した株券を借入先に返却するにあたっての株券の調達方法には「グリーンシューオプション」と「シンジケートカバー取引」の2つの方法があります。

なお、これら手法を用いる場合、主幹事証券会社が売り出しする企業の上場先の金融商品取引所に対して、シンジケートカバー取引またはグリーンシューオプションの行使の総数量等の報告を行うことが義務付けられています(東京証券取引所「シンジケートカバー取引の報告に関する規則」第2条第2項)。それでは、それぞれの方法について解説します。

グリーンシューオプション

グリーンシューオプションとは、主幹事証券会社が持つコールオプションです。またの名をオーバーアロットメントオプションと言います。

株券の販売後に市場価格が引受価額よりも高く推移している場合、主幹事証券会社は市場で株券を調達すると割高になってしまいます。そのため、引受価額で株券を調達できるコールオプション(グリーンシューオプション)の行使によって、引受価額で株券を調達した上で借入先の株主に株券を返却することとなります。

また、グリーンシューオプションには「第三者割当型」と「買取型」があります。

第三者割当型では、主幹事証券会社が当該権利の行使により、発行体より新株が割り当てられるため、その株式を返還することとなります。

買取型は、新株発行はせず、権利行使の後、金銭で返還する方法です。

これらの方法 でオーバーアロットメントが行われる場合、売り出し後の需給関係の悪化を防止(株価の過度な高騰を抑制)しようとする動機が働いていることが多いと言われています。

シンジケートカバー取引

シンジケートカバー取引とは、上記グリーンシューオプション(コールオプション)を行使せず、市場で株券を買い付けて必要数量を調達する取引方法を指します。

株券の販売後に市場価格が引受価額よりも低く推移している場合、主幹事証券会社は市場で株券を調達する方が割安になるため、オプション権利行使などせずともそのまま市場で調達することとなります。

なお、シンジケートカバー取引ができるのは、公募・売り出しの申込期間終了日の翌日から最長30日以内です。

グリーンシューオプションと反対に、シンジケートカバー取引は市場価格が公募・売り出し価格を下回った状態の時に行われます。そのため、この取引を行うことで下降傾向にある株価を底上げする効果が期待でき、 結果として株価形成が安定するという意味で、市場参加者(投資家)にとってもメリットのある取引と言えます。

オーバーアロットメントが行われる背景と株価への影響

そもそもオーバーアロットメントが行われるのは、主幹事証券会社、発行体ならびに投資家全員にメリットがあるためです。

主幹事証券会社にとっては、オーバーアロットメントを行うことによって引受株数が増加するため、その分の引受手数料による収益増が見込めます。そのため、多くの場合、主幹事証券会社は機関投資家向けのロードショーや、個人投資家等向けのブックビルディングで取り扱い案件に対する需要が高くなるように営業努力をします。

一方、発行体にとっても、結果的に当初計画以上の資金を調達できるという点でメリットがあることに加え、オーバーアロットメントが行われる案件に対して市場ではプレミアムが付いた価格で取引されることが多いため、発行体に好意的な株価形成という点でも有効な手法と言えます。

投資家にとっては、オーバーアロットメントにより取引できる株数が増えるため、当初予定では購入できなかった人も購入できる可能性が出るほか、上述の通り株価形成の安定化が見込めるというメリットがあります。それでは、グリーンシューオプションとシンジケートカバー取引における株価への影響の具体的な事例をみてみましょう。

事例紹介(グリーンシューオプション):アリババ・グループ

グリーンシューオプションが行使された近年の事例で言うと、2014年9月の中国電子商取引大手アリババ・グループの新規株式公開の事例があげられます。

21世期に入りインターネットの時代になってからは、市場の覇権を握っているGAFAやアリババのような巨大IT企業の株式公開時には極めて旺盛な需要が巻き起こります。

2014年のアリババIPO時には、そうした需要に応え、より多くの投資家に参加してもらうこと、および価格の抑制を目的としてグリーンシューオプションが行使されています。

その結果、当案件は上場後の株価も急落することなく安定推移しており、同じく大型IPOであったFacebookのように公開後株価が急落するという事態を避けることに、このグリーンシューオプションが一役買ったと見られています。

Facebook株のIPOについては、初日の公開価格38ドルに対して瞬く間に45ドルを上回ったのも束の間、その日のうちに34ドルまで下がったという流れがありました。さらにその後も下げ止まらず、3カ月後には当初のおよそ半分程度の20ドル前後で推移しました。

なぜこのような事態になったかというと、NASDAQのシステム障害による初期の発注の遅れや機関投資家からの需要の冷え込み等諸説ありますが、有力な原因として、Facebookが公開直前で公募価格を引き上げたことがしばしば指摘されています。これに伴い、発行株式数も当初の予定から25%も増加しました。この結果、同社株式の供給が市場の需要を大きく上回り、瞬間風速的には値上がりしたものの、全体としては最初から下落基調に陥ってしまったということです。

つまり、いくら大注目の巨大IT株であったとしても、価格が実力を大きく超えると見做されてしまうと需要が喚起しきれず、Facebookの事例のように“身の丈”にあった価格水準に収斂してしまうということです。この点、アリババは市場の動向に合わせて後から価格形成に影響を及ぼせる仕組みを取り入れたことで、望ましい価格推移を実現したと言えます。

事例紹介(シンジケートカバー取引):HDS

次にシンジケートカバー取引が行われた事例、2018年2月のハーモニックホール・ドライブ・システムズ社の第三者割当増資です。

当案件の発行条件

  • 売出価格:7,332円
  • 引受価格:7,010円
  • 決定時終値:7,790円
  • 期間:1月25日〜2月23日

このような条件下、2月6日〜2月16日の株価が5,930〜6,920円の間で推移し、引受価格を下回ってしまったことにより、シンジケートカバー取引が実施されました。

ここ数年を通して業績好調な当社ですが、この時期は通期営業利益の着地見込を下回る予想がされていたり、成長投資のためではあるものの多額の支出により最終利益が前期比4割減となったことなどが嫌気され、株価の下げに繋がったと見られています。

まとめ

オーバーアロットメントは、単に想定より需要が多かったことに対応する手法に留まらず、価格形成の安定化を図ったり、証券会社がより多くの収益を得たりするために活用されている側面もあることがわかりました。

こうしたことを知ると、現在多くのIPO/POでオーバーアロットメントが用いられていることにも納得がいくのではないでしょうか。

本解説が少しでも読者の皆様のお役に立てれば幸いです。

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