「寒の戻り」で電力不足が発生

「寒の戻り」で電力不足が発生

2022年3月22日、首都圏ではあわや大停電となり得る極端な電力不足が発生した。

東京電力の電力使用率(消費量/供給量)は106%を記録し、他電力からの融通や需要家の節電を受けて乗り切る事態となった。マスメディアやSNSでは節電の呼びかけが行われ、一部のテレビ番組では、コメンテーターが「テレビを消して」と視聴者に呼びかけたことが話題となった。

今回の電力需給ひっ迫の背景は、想定外の春の寒波により暖房需要が急増したことに加え、2022年3月16日に発生した福島県沖地震により、広野や勿来などの太平洋岸の多数の大型火力発電所の設備が損傷し、運転を停止していたことが大きい。

ひっ迫した天然ガス市場

ひっ迫した天然ガス市場

コロナ禍によるロックダウン解除以降の世界的な経済回復や、原油価格の上昇などを背景に、世界の天然ガス需給はひっ迫傾向にあり、天然ガス価格は高騰している。

北東アジアのLNG(液化天然ガス)スポット価格指標であるJKMは、2021年4-6月期は8~10ドル/mmBTUで推移していたが、2021年秋には35ドル/mmBTUにまで上昇した。

さらに、マレーシアと豪州の液化設備のトラブルや、2月のロシアによるウクライナ侵攻により、ロシアの天然ガス輸出が停止されるリスクが懸念され、価格は一時84ドル/mmBTUまで急騰した。

足元では春の不需要期を迎え、JKMは30ドル台まで反落しているが、依然として、2021年前半の10ドル弱のレンジと比較すると、高水準を保っており、ガス需給のひっ迫観測が続いている。

円安が進行、130円を突破か

為替市場ではドル高・円安が進行し、足元では1ドル=130円前後で推移している。

日米のインフレ観測や金利格差拡大が直接の要因であるが、日本の貿易収支が赤字体質であることも円が売られている背景となっている。

円安の進行は、輸入品の円建て価格の高騰を介して国内物価の上昇や、長期金利の上昇を招く恐れがある。

LNG輸入で貿易収支悪化

円安の構造要因は、近年、国際収支における経常収支及び貿易収支の赤字が定着していることである。

近年の貿易赤字には、スマホや新型コロナワクチンなどの輸入増も影響しているが、大きな構造要因の一つが、巨額のLNGの輸入である。

2021年のLNG輸入額は、4兆2,779億円に達した。LNGの輸入量を顕著に減らすことができれば、貿易収支の改善に寄与することができると考えられる。

多くの原発は今なお停止している

多くの原発は今なお停止している

現状で既に稼働している原子力発電所は、関西電力の高浜・大飯原発や四国電力の伊方原発、九州電力の玄海・川内原発などの計9基である。

原子力発電所は、原子力規制委員会が設けた規制基準の審査をクリアした施設から順次再稼働を行っているが、審査及び工事に2年程度を要しており、東日本大震災から11年が経過した現時点でも再稼働は道半ばだ。

現状において、将来的に再稼働のポテンシャルがある原子力発電所は、23基程度となっている。

再稼働の為替インパクト

再稼働の為替インパクト

23基の原発を再稼働した場合、どの程度のインパクトがあるだろうか。

再稼働に伴い、火力発電の稼働を減らし、燃料消費を削減できる。主にLNG火力発電所の稼働を落とすことになり、LNGの消費量の減少が期待できる。

貿易赤字を半減できる

2021年の国内LNG消費量は7,432万トンであった。これに対し、原子力発電所23基を今後稼働させた場合に期待できるLNG消費の削減量は、年1,300万トン程度と試算される。金額ベースでは年間7,500億円程度となる。

2021年の貿易統計を基準に考えた場合、原発の再稼働は、1兆4,700億円の貿易赤字を半減できるインパクトとなる。

日本の低成長率に起因する円安の基本的な方向性は変えられないと思われるが、円安圧力を一定程度低減するインパクトは期待できそうである。

対ロシア経済制裁に協力が可能

原発再稼働により余剰となったLNGを欧州へ転送することにより、対ロシア経済制裁に協力できる効果も期待できる。

消費地を限定する仕向地ルールがない米国産LNGを中心に、余剰となったLNGを欧州諸国に転売することで、ロシア産天然ガスの輸入削減策を補完する支援策になり得る。

日本の原発再稼働により、余剰となる1,300万トン前後のLNGは、ドイツにおける天然ガスの年間消費量の約2~3割に相当する規模であり、一定の対ロシア経済制裁の効果が期待できる。

まとめ 暫定的な再稼働を許容すべきか

昨今の貿易収支対策や対ロシア経済制裁、寒波や地震による電力需給ひっ迫は、いわば緊急事態である。

その対応策の一つとして(地元の同意を得た上で)、一定の保安リスクを負いつつ原子力発電所の暫定的な再稼働を進めることは、そのインパクトの大きさを鑑みれば、十分検討に値する政策と考えられる。

既存の規制基準に基づいた規制当局の審査の完了前に稼働を再開することは、安全基準を無視しているように見えるが、各電力会社はこれまでに耐震補強工事や非常用電源の強化、津波対策などの多数の安全対策工事を進めており、東日本大震災当時と比べると、安全性は大きく改善されている。

原子力規制委員会の審査手続きは運転と並行して従来通り進め、何らかの事情で規制基準を満たす見込みがなくなった場合に、規制当局が運転停止を命ずれば良いと考える。

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