読了目安:7分
「マイナ保険証」一本化、健康経営優良法人認定にも影響か?
2024年12月2日から、マイナンバーカードを健康保険証として利用する「マイナ保険証」への移行が始まった。従来の健康保険証の新規発行は停止され、すでに発行された健康保険証も2025年12月2日以降は使用できなくなる。
本当に今の保険証が使えなくなるのかと懐疑的な人も多いだろうが、日本政府も本気だ。石破政権発足後すぐに、353億円を補正予算で追加計上し、マイナ保険証の利用を強力に進める考えだ。
その対策1には、国民への周知や医療機関への働きかけだけでなく、保険者・事業者への取り組みも盛り込まれている。本稿では、あまり報道されていない、マイナ保険証一本化により会社に求められる対応を説明する。
1 「マイナ保険証の利用促進等について(令和6年1月19日)」(厚生労働省保険局)マイナ保険証は、どれくらい普及しているのか?

マイナ保険証とは、マイナンバーカード保有者が、健康保険証としての利用を申請すると、保険証としても利用できるようになる仕組みだ。
そもそも、マイナンバーカード2は2016年1月に交付が始まった。2020年9月以降はマイナポイント事業がインセンティブとなり申請が増え、2023年1月末には保有率が60.1%に高まった。その後も緩やかに伸び2025年1月末時点で国民の77.6%3が保有するまで普及した(図1)。ただ、マイナンバーカードを持っていて、健康保険証として利用できる状態にあるのは未だに60%程度と低いのが実態である。
出所:「マイナンバーカードの申請・交付・保有状況」(総務省)
(https://www.soumu.go.jp/kojinbango_card/kofujokyo.html)
年齢別にみると、マイナンバーカード保有率は4歳以下、20歳代、80歳以上が低い傾向にある(図2)。幼児は、顔写真などの準備もあり保護者にとって手間であることがボトルネックになっていると推察するが、保険証一体化により保有率は高まるものと見通す。20歳代は利用シーンが少ないため、マイナンバーカートそのものを持つメリットが感じにくいことが要因であろう。80歳以上は他者のサポートがないと手続きが難しい方が多いことが理由と考える。
マイナ保険証利用率とは、医療機関での受診件数(オンライン資格確認利用件数)のうちマイナ保険証を提示した件数の割合を意味する。図2を見ると、2023年11月時点で、最も利用率が高いのは65~69歳だが、それでも7%程度と低い。20~40代の利用率は4~5%にとどまっていた。その1年後の2024年11月時点には18.5%と向上したものの、厚生労働省が意識していた水準は50%であったため、遠く及ばない結果だった。
出所:「マイナ保険証の利用促進等について(令和6年1月19日時点)」(厚生労働省保険局)から抜粋
(https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001193993.pdf)
2 「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(番号法)」(平成25年5月31日公布)の成立によりマイナンバー制度が開始され、マイナンバーカードの交付が始まった。
3 「マイナンバーカード交付状況について(令和7年2月16日時点)」(総務省)
20~40代へのマイナ保険証利用促進対策は?
マイナ保険証への一本化は、政府が掲げる「医療DX令和ビジョン2030」の一丁目一番地の政策で、これを前提に、電子処方せんの拡大、電子カルテ情報を共有する全国医療情報プラットフォームの構築が計画されている。
政府は、全国民がマイナ保険証を利用する社会に向けて、保険者や事業会社にも協力を仰いでいる。特に、20~40代層の利用率向上には、企業健康保険組合や全国健康保険協会(協会けんぽ)からの被保険者への働きかけに期待が高い。2025年度の保険者インセンティブ制度4では、マイナ保険証の利用率の高さが加点評価項目に新規追加された。
政策上は、2025年中に、マイナンバーカード保有率100%、マイナ保険証登録率100%を達成しないと、国民皆保険が成立しないことと同義となるため、保険者を通じた取り組み協力が強まるものと予想する。
例えば、現時点では、マイナ保険証の利用率の目標設定や開示は各保険者の判断に委ねているが、報告義務を課すことも考えられる。
企業健保の場合、特定健診・特定保健指導の受診促進のように、保険者からの協力依頼で加入する事業会社の各組織部門長のマネジメント指標になる可能性もある。
協会けんぽは、マイナ保険証の利用率目標を設定しているため、事業主に従業員へのマイナ保険証での受診の呼びかけを依頼している。
4 特定健診の受診率やジェネリック医薬品普及促進など、健康増進や医療費適正化の達成数値によって保険料率が軽減される仕組み。
健康経営優良法人認定の調査項目にも設定

もうひとつ、健康経営優良法人認定を持つ企業は、政策の動向を注視する必要がある。
健康経営優良法人認定制度とは、2016年に経済産業省が創設した制度で、2024年には大規模法人部門で2,988法人、中小規模法人部門で16,733法人が認定を受けている5。
認定を受けることで、就職希望者が就職先を決める際の決め手になったり、離職率の低下につながったり、補助金を受ける際の加点にもなったりするなどメリットが大きい。
毎年申請をして認定を受ける仕組みとなっているが、2025年度認定の調査項目には、マイナ保険証利用促進の取り組み状況を追加する旨が、厚労省公開資料に明示されている。具体的な調査項目は検討中だが、例年申請開始時期が8月であるため、今春には取り組み状況をどのように確認するのか詳細が明らかになる。
マイナ保険証一本化は、新たな社会インフラへの切り替えであり、医療を受けるのならば、国民も能動的な対応が求められる。ただし、デジタルディバイド(情報格差)へのケアや新しいシステムの意義や価値の理解促進は必要だ。
手続きそのものに不慣れな高齢者には、自治体のサポートが欠かせない。働き盛り層にはメリットの訴求が第一だが、そもそもマイナンバーカードの取得自体、個人の意思が尊重される制度であり、保険証利用の機会も少ないため動機付けが難しい。そのため、保険者や勤務先にも認知向上や利用促進の取り組みを求めている。企業経営とは一見遠い政策ではあるが、従業員に対し、健康増進だけでなく医療DX政策の後押しも求められる時代になってきた。
5 経済産業省「ACTION! 健康経営」WEBページ参照。
コメントが送信されました。