物流クライシスとは?

「物流クライシス(または宅配クライシス)」とは、ECサイトの利用、ネットショッピングの利用拡大などによって急増する宅配荷物量に対して、配送する側である宅配会社の体制が追い付かずにサービス水準の維持が難しくなっている問題です。

総務省の調査結果によるとネットショッピングの利用世帯割合は2000年がわずか5%だったのに対して、2018年には40%まで上昇しています。

ネットショッピングの市場拡大に伴い、各ECサイトは価格競争に加え、小ロットかつスピーディな配送という付加価値でも競い合い、物流業界は多品種少量化かつ多頻度のニーズに応えなくてはいけなくなりました。

さらに新型コロナウイルスの影響で、今後一層、一般生活者のデジタルシフトは進むことが予想されます。

急速に拡大・変化する配送需要に対して、供給体制の維持に必要なリソースの確保やシステムの見直しが間に合わず、その結果「人員の確保」や「運送料の見直し」などのさまざまな問題が浮き彫りになったのです。

物流クライシスの事例

物流クライシスの事例は、2013年に「佐川急便」がAmazonの商品配達から撤退したことが著名です。

この一因として、Amazonによる当日配達の地域拡大や送料無料化といった利用者のサービス向上が、佐川急便の負担となったことが挙げられます。

大手宅配業の一角が撤退したことにより、大量の荷物は同じく大手の「ヤマト運輸」に集中する結果になりました。

ヤマト運輸は急激な仕事量の増大に対応しきれず、同社の労働組合が2017年の春季労使交渉で初めて「宅配便の荷受量の抑制」を求めました。

物流クライシスの原因

物流クライシスは発生する原因について詳しく解説します。

ネットショッピングの拡大による配送量の増加

もっとも大きな要因は「ネットショッピングの拡大」にあります。

スマートフォンやデバイスの普及によって、誰でもいつでも情報を受け取れるようになった現在、消費者ニーズの移り変わりもはやくなっています。

その結果、インターネットショッピングの需要も高くなりました。。

ンターネットによる購買は基本的に宅配便によって購入者に商品が届けられるため、ネット通販利用率の拡大はそのまま「配送する荷物量の増加」につながるのです。

国土交通省の調査によれば、平成29年度の宅配便取扱個数は約43億個で、前年度と比較すると、5,000万個以上、対前年度1.3%の増加となっています。

宅配数は増す一方であり、今後も増加の一途をたどることが予想されています。

労働条件悪化と高齢化による運送ドライバーの人手不足

少子高齢化による労働人口の減少や、労働環境による不人気から、物流業界では運送ドライバー不足が問題になっています。

国土交通省は、このままの現状がつづくと、2027年には需要に対して、24万人のドライバーが不足すると指摘しています。

要因のひとつは過酷であるにも関わらず、低賃金であるという業界イメージがつき、字若年層の入職者が確保できないこと。

ふたつめは、高齢化するドライバーの大量定年が控えていることです。

ビールメーカー各社やコンビニエンスストア各社が一部地域で、協働輸送などを始めていますが、業界の構造改革、働き方改革が求められています。

送料サービスの負担により下がる利益率

宅配の件数を多くする分だけ送料を安くしてほしいという、通販企業からの「ボリュームディスカウント」の要望も大きな要因です。

ECサイトの競争によって、できるだけ安く、早く商品を購入したいユーザーはインターネット上で価格比較をするようになりました。

ECサイト各社も出来るだけコストを抑えようとした結果、物流各社も運送費も低下せざるを得なくなり、ドライバーの賃金も上がらなくなりました。

宅配における「送料無料」などのサービスは購入者にとってはメリットがありますが、宅配便によって商品が届けられる以上は、ドライバーの人件費や移動費などの費用はかかってしまいます。

必ず配送サービスの利用とそれに伴う送料の発生は必要不可欠です。

その結果、「全国一律送料無料」などのサービスによって荷物量・仕事量は増える一方で、ボリュームディスカウントにより配送単価は下がるため、宅配業の利益率が下がってしまうのです。

2020年2月に、配送無料を掲げ、その配送料を出店者負担にした楽天市場に対し、公正取引委員会が緊急停止命令を出すように東京地裁に申し立てたのも、このような加熱するECサイトの競争が遠因となっており、その煽りを受けているのが物流業界と言えるかもしれません。

日常的に発生する再配達の問題

宅配業者の業務を圧迫する要因に「再配達による負担」も挙げられます。

共働き世帯の増加とともに、日中に家にいる人が減ったことにより荷物を受け取ってもらえない事態も多くなりました。

その結果として宅配ドライバーは同じ仕事量をこなすための手間が以前より増える事態につながっています。

物流クライシスの解決方法とその事例

それでは、物流クライシスを解決するにはどう対処すればよいのでしょうか。

その解決策として注目されているのが、AIやロボットなど最新技術を駆使する「物流テック」です。その事例をいくつか紹介します。

車両と幹線輸送の見直しで輸送効率の向上を図る(ヤマト運輸株式会社)

ヤマト運輸では2017年秋より大型トラックに巨大トレーラを連結し、車両長が25メートルに及ぶ車両「スーパーフルトレーラ25(以下、SF25)」を導入し、主要都市間の幹線輸送で運行を開始しました。

その結果、ドライバーが1回の輸送で従来の2倍の荷物を輸送できるなりました。

さらに、ヤマト運輸は最新鋭のマテリアルハンドリング機器(物流拠点内の商品の仕分け作業や運搬作業を自動化するためのシステムおよび機器)を導入した総合物流ターミナルである「ゲートウェイ」の整備を進めています。

物流拠点における仕分け作業や運搬作業の自動化により、作業員の数が少なくても正確な荷物の処理が可能となるため、物流の高速化および効率化につながります。

倉庫内の部品集約作業における移動距離を最大45%短縮(株式会社富士通ITプロダクツ)

富士通は2018年5月に新型コンピュータの「デジタルアニーラ」を販売しました。

その最大の特徴は量子現象に着想を得たデジタル回路によって「組合せ最適化問題を高速に解くことができる」という点です。

この新型コンピュータはさまざまなビジネス分野における活用が期待されています。

デジタルアニーラを導入した事例では、ピッキングの最適動線をマップ上に表示して棚の位置を再考することで、月あたりの作業員の移動距離を45%まで短縮可能という結果が出ています。

物流クライシスを改善には最新の機器やシステムを積極導入する

物流クライシス問題は、近い将来には配送料の値上げや宅配の遅延だけでなく、店舗の商品の在庫補充までもが危うくなるリスクがあります。

だからこそ、物流テックというハード、業務改善というソフトの両面から業界を支えて行く必要があるでしょう。

参考
統計局ホームページ/統計Today No.141
平成30年度 宅配便等取扱個数の調査及び集計方法 | 国土交通省
宅配が崩壊した本当の理由|日経BizGate
トラック運送業の現状等について | 国土交通省

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