地方創生の担い手として

外観

「地方創生」という言葉が使用されて久しいが、その苦労は実際に携わった企業の方々のみが知るところだ。「地方創生」の概念は分かったとしても、地域企業の実際の姿を知らない方は、多いものと思う。
当社(フロンティア・マネジメント)では2016年より、経済産業省の「グローバルネットワーク協議会」という、地域中核企業の新規事業を支援するプロジェクトの事務局を毎年担当しており、私はそこの事務局長を務めている。グローバルネットワーク協議会における支援の一環としての戦略コンサルプロジェクトとして、当社がコンサルを担当した企業のうちの一社がオオアサ電子であった。
その中でも、オオアサ電子は最も印象に残る案件であり、私も何回か担当者と一緒に現地を訪問した。

液晶機器の下請けとして創業

風景

広島県北広島町は、島根県境に位置する山間の町で、人口は1万8340人(2020年4月末時点)。鉄道はなく、広島市から高速道路を利用して約1時間かかる。
オオアサ電子は1983年5月、現在の代表取締役社長である長田克司氏が、広島県山県郡大朝町(2005年の合併で北広島町)にて設立した会社であり、液晶表示装置の製造(ライトパネル、電源機器の製造)の下請けを主たる事業としていた。

創業者の長田氏は、大学では法学部だったが、地元で就職した後、故郷のために頑張りたいという思いで、オオアサ電子を起業した。
地元の有力者の支援を得て設立したものの、創業当初は採算が取れる事業を見つけるのに四苦八苦をしていた。そのような中、利益を出せる液晶パネル製造の仕事をみつけて、地元の人を中心に雇用しながら、年々事業を拡大していった。

オオアサ電子は、大手液晶製品製造メーカーの下請け(OEM)として、約20年超の間、国内外に車載用の液晶パネル製品を中心に送り出し、2008年頃までは概ね順調に業績を伸ばしていった。しかしながら、リーマン・ショックがおきた2008年以降、液晶機器の元請けメーカーの多くが製造拠点を海外に移管させたため、下請けとして仕事をしてきたオオアサ電子は、受注の激減による経営危機に直面することになる。

リストラはしない

会社外観

このような状況の中、社長の長田氏は、「社員を路頭に迷わせるわけにはいかない。会社を存続させなければ」との思いが強くあり、元請けメーカーの経営に大きく左右される下請けだけでなく、「自社ブランドを立ち上げたい」と考えるに至った。

この頃は、社員をリストラすることによってコストダウンを図る中小企業は沢山あったが、長田社長は、むしろ大事な社員の団結と力の結集を図ることによって、苦境を乗り切ろうと考えた。

オオアサ電子には、それまで約26年間社員の地道な努力とともに育んできた経験と独自の技術があった。内部留保を使いながら、精鋭の社員を集めて新規製品の開発に取り組むことにした。
この話を社長から伺い、私は経営者としての責任感と地域の雇用を守って会社を存続させるという強い姿勢が、必ずしも経営環境として恵まれているわけではない、地域企業の存立と地域の雇用の確保を支えていることを実感した。

新製品開発の夢と苦悩

デスク

そうして生まれたのが、自社オーディオブランドである「Egretta(エグレッタ)」だ。

オオアサ電子は、20数年前からオーディオメーカーのOEMも手がけていたため、音響機器作りのノウハウがあったことから、自らのブランドで製造し消費者に販売する製品としてオーディオを選択した。

その中でも注目したのは、ある社員から提案があった無指向性スピーカーである。
無指向性とは、一方向だけでなくその空間全体に音が広がるように伝わるものであり、部屋の中で無指向性スピーカーの音を聞くと、部屋全体から音が聞こえるような感覚となる。
私自身も、オオアサ電子本社にあるショールームでこの無指向性スピーカーの音を実際に聞いたが、通常のスピーカーよりも、音色に深みや広がりが感じられ、とてもリラックスした気分になった。

また、無指向性スピーカーは、当時は海外製の高級製品しかなく、日本では、手ごろな値段で無指向性スピーカーを手に入れることはできなかった。このため、長田社長は、多くの人に手ごろな値段で高品質な音を届けたい、多くの人を音でリラックスさせたいという思いが強くなり、この自社製の無指向性スピーカーの製造開発に着手したのであった。

初期のころは、オオアサ電子が一般向けのオーディオ製品を、最終製品化できると思っていた人は少なかった。
しかし、長田社長と社長が集めた精鋭の社員たちは、消費者に届く製品を作るという夢と理想に共感し、また、様々な公的機関、金融機関及び外部専門家の支援を受けながら、試行錯誤の上で、2011年には現在の製品である「Egretta(エグレッタ)」を開発することに成功した。

販路開拓を実現するために、経験のある外部人材の採用にも成功し、2017年には海外展開もスタートさせている。

「Egretta(エグレッタ)」の魅力

白鷺

「Egretta」は、イタリア語で白鷺という意味の言葉だ。長田社長は、「Egretta」の開発において、以下のことに拘った。

1 ハイレゾ音響効果に関する技術を多分野で活用
「Egretta」においては、ハイレゾ音への対応ができるようにした。このハイレゾは、皆様もご存じの通り「High Resolution」の略語であり、CDを圧倒的に上回る情報量を持つ音楽データのことであり、聴き手にとっては、解像度が高ければ、繊細な表現や奥行きを感じることができる。これによって、「Egretta(エグレッタ)」を人間のストレス緩和等に関する医療的な領域にも展開できないか検討中とのことである。

2 デザインの重視
「Egretta」は、そのネームの由来である白鷺をイメージさせるシルエットと「和」テイストを醸し出す高いデザイン性に拘って開発したため、グッドデザイン賞を2011年から関連商品で3年連続受賞することができた。

3 手ごろな値段の設定
ハイレゾ対応無指向性タワー型スピーカー「Egretta TS1000F」は38万5000円(税込み)であるが、家庭用でより小型で安価なナチュラルサウンドスピーカー「Egretta TS550」(アンプ内蔵型)は8万3600円(税込み)となっており、通常の家庭でも購入しやすい値段設定にしている。
また、昨年末に出たニューモデルの「Egretta TS-A200as」は、卓上にも設置できる高性能のスピーカー(21万5600円、税込み)であり、音質に拘る方にはお勧めである。

コロナの影響が少しずつ収まりつつあるが、未だ自宅等で過ごす時間も多い今日この頃だ。在宅勤務のストレスを少しでも発散するために、是非この機会に「Egretta」を購入し、心安らかな音色でリラックスするのはいかがだろうか。

室内空間

地域企業として誇り

オオアサ電子のすばらしいところは、幾多の危機を乗り越えながら、地元の雇用を拡充し続けているところだ。長田社長は、「自社のブランドの製品をつくると、そこには夢があるので、いろいろな良い人材が集まってくるのですよね」「地元できちんと雇用を継続することが地域企業としての責任であり誇りです」と話していた。
私は、このような責任感と夢を同時に持つ経営者が地方創生の担い手としてふさわしいと思うし、是非とも、大きな成功をしていただきたいと切に願うものである。
以 上

オオアサ電子株式会社

(ご参考:購入サイト)
ヤフーショッピング
アマゾン

関連記事

事業承継M&A オーナー経営者に配慮すべき4つの視点

事業承継M&Aを進める際に最も大切なのは、売り手側のオーナー経営者との向き合い方だ。多くの場合、オーナー経営者は大株主であり、資産家であり、地域の名士でもある。個人と会社の資産が一体となっている場合も多く、経済合理性だけでは話が進まない場合も多い。M&A交渉においてオーナー経営者と向き合う際の留意点を4つの視点からまとめてみた。

GMO、あえて進める親子上場 古くて新しいガバナンス

今回は、GMOグループのガバナンスに関する考え方を取り上げたい。GMOグループは2020年12月現在、10社が上場。今後もグループ約130社のうち、20~30社程度を上場したほうが良いと考えている模様だ。いわゆる「親子上場」の解消に動く昨今の流れと逆行する背景には、創業以来進めている熊谷正寿代表の基本的な考え方が反映されている。

RIZAP(ライザップ)をやってみた 社外取としての体験記

筆者は2020年6月、RIZAP(ライザップ)の社外取締役に就任した。同社のマネジメントに外部の目を生かして関わる以上、RIZAPの商品・サービスを経験しなければ始まらない。ということで、就任と同時に「ボディメイク」と呼ばれるRIZAPのサービスを開始。コロナによる自粛生活で生涯最高水準に達した筆者の体重は、現在ピーク比で▲10kgとなった。

ランキング記事

1

テスラの躍進とESG/SDGs投資 GAFAに続くプラットフォーマー

イーロン・マスク氏が率いるテスラ社の時価総額が2020年中にトヨタ自動車を上回り、一時US$8000億を突破し、既に4倍近い差をつけた。20年中に7倍以上という株価上昇の背景は、ESG/SDGs投融資資金の拡大、同氏が率いる宇宙開発会社「スペースX」社(非上場)の企業価値急拡大などと推測される。この記事では、テスラの急伸長の背景にあるESG/SDGs投資の拡大と、エネルギー分野におけるプラットフォーマーを視野に入れた成長戦略について考察する。

2

GDP2065年までに4割減予想 中小企業の生産性向上が不可欠

日本の生産年齢人口がこのまま減り続け、企業の生産性が向上しなければ、日本のGDPは現在より2065年には約4割減ることになる。そうならないためには、企業数の99%以上を占める中小企業の生産性向上が不可欠だ。中小企業再編の議論が高まる中、特に地方企業が何をするべきか、考察した。

3

コロナ禍に有効なアーンアウト条項とは シンガポール案件からの考察

コロナ状況下でもASEAN地域においてPEファンドによる売却が積極的に行われている。アーンアウト条項を通じ、コロナ状況下のリスクを買い手と売り手で分担している例もみられ、危機時の参考事例として紹介・考察したい。

4

2021年展望  化粧品業界 急回復もレッドオーシャン化する中国市場

国内化粧品市場は厳しい環境が続く中で、多くの化粧品企業が来期以降の業績回復の牽引役として、中国経済圏での売上拡大を掲げている。しかし、中国市場は欧米、中国、韓国メーカーの勢いが増しており、レッドオーシャン化しつつある。グローバル競合が激化する化粧品市場において、消費者に向き合ったコミュニケーションの進化が差別化のカギとなる。

5

村上春樹さんに学ぶ経営⑨どや、兄ちゃん、よかったやろ?クーっとくるやろ?

過去2回、「ニッチ」とは「すきま」ではなく、はるかに深い概念であることを見てきました。では、どんな状態になると真の「ニッチ企業」になったといえるのでしょうか?

人気のキーワード

海外スタートアップ情報はこちら!  寄稿・執筆者募集中