第四次産業革命に伴う技術革新や、発展途上国の経済成長などの外的要因によって、企業を取り巻くビジネス環境は大きく変化しています。そこで必要とされるのが、新規ビジネスの創出に欠かせない「アントレプレナーシップ」です。アントレプレナーシップは「企業家(起業家)精神」と訳されることが多いですが、なぜスタートアップ企業に限らず、様々な企業で必要な考え方とされているのでしょうか。です。この記事では、「アントレプレナーシップとは何か」からスタートし、アントレプレナーシップが必要とされる背景、国内外のアントレプレナーシップ教育の現状について解説します。

アントレプレナーシップとは?「企業家(起業家)精神」を持つ次世代リーダー

最近のビジネスシーンで注目される「アントレプレナーシップ」とは何でしょうか。アントレプレナーシップの意味や、今求められている背景を解説します。

アントレプレナーとは「企業家(起業家)」

アントレプレナーとは、もとはフランス語で、企業経営に関わる「企業家」を指す言葉です。日本では「起業家」の活躍が取り上げられた時期に広まったため、スタートアップ企業の経営者を指す場合もあります。最近は経営者に限らず、社内で新規ビジネスを立ち上げる一般社員もアントレプレナーと呼ばれます。

リーダーのような気質を「リーダーシップ」と言うように、アントレプレナーとしての気質を「アントレプレナーシップ」と言います。ハーバード・ビジネススクールのH・スティーブンソンによると、アントレプレナーシップの定義は「コントロール可能な資源を超越して機会を追求すること」。[1]もしあなたが新規ビジネスを立ち上げるとなったとき、時間・資本・労働力など様々な制約に直面したとします。そうしたリソース不足といった困難を創意工夫で乗り越え、革新的なモノやサービスを生み出すことを追求できる人材こそが、アントレプレナーシップを持った人材と言えるでしょう。

なぜアントレプレナーシップが重要なのか?イノベーション創出が求められる理由

ではなぜ今、アントレプレナーシップを持った人材が注目されるのでしょうか。その一因として、ビジネス環境の劇的な変化が挙げられます。IoTや人工知能、ブロックチェーンなどの技術革新に対応するためにも、新規ビジネスを創出できる人材の価値がより高まっています。また、消費者のニーズが多様化し、製品やサービスのライフサイクルが短くなっているため、イノベーションにもスピード感が求められる時代になりました。海外市場にも目を向けて、グローバルなリーダーを育成することも重要です。多様な価値観を理解し、世界規模で起こるイノベーションに反応するためには、進取の精神に富んだ人材の育成が欠かせません。

しかし、アメリカのコンサルティング会社、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の調査では、日本企業にはイノベーションを起こす力が不足しているという結果が出ています。最もイノベーションに優れるとされた50社の企業のうち、ランクインした日本企業はわずか2社(36位・37位)。[2]トップ10をほぼ独占した形のアメリカ企業や、合計9社がランクインしたドイツ企業と比べると後れをとっています。こうした現状があり、アントレプレナーシップを持った人材が、日本において重要視されているのです。

アントレプレナーシップを持つ次世代リーダーの育成が不可欠

アメリカ企業などに対抗して、日本企業がグローバル市場で競争力を増やすためには、社内でイノベーションを起こせる人材の育成が必要です。持続的なイノベーションを好む大企業においても、既存のシェアを維持するためには、新たなアイデアを創出し続けなければなりません。スタートアップ企業の経営者や、社内での新規ビジネスの立ち上げに関わる人材は、限られたリソースを管理し、新たな経済的・社会的価値を作り出していく力が求められています。どのような企業においても、アントレプレナーシップを持つ次世代リーダーの育成が必須条件になりつつあります。

・アントレプレナーシップに必要とされる3つの資質
では、企業内でイノベーションを起こす人材はどんな能力を持っているのでしょうか。アントレプレナーシップは次の3つの資質に分けられます。

マネジメント能力と力強いリーダーシップ

まず必要とされるのが、マネジメント能力とリーダーシップです。新規ビジネスの創出を期待する企業は、多くの場合、イノベーションに特化した部門を社内に設置します。こうした部門を機能させるためには、力強いリーダーとしてゴールに向けたビジョンを示し、集団の合意形成や相互理解をうながせる的確なマネジメント能力が重要です。

人脈・人的ネットワークを構築する力

また、社内の人的資本や金融資本といった限られたリソースを管理し、ビジネスチャンスを最大限に活かすためには、周囲のサポートが欠かせません。アントレプレナーシップを持った人材になるには、組織内の既得権益や利害関係にとらわれず、冷静なアドバイスを与えてくれるサポート体制を構築する能力も求められます。

イノベーションを生み出す創造性

もちろん、新商品の開発や、新たなビジネスモデルの導入には、高い創造力が必要です。しかし、これまでにないアイデアだけが重要なのではありません。収益を改善するために、製品の値上げや人員の増加といった単純な戦略が有効なこともあります。時流やマーケットの変化をすばやく察知し、柔軟な戦略を立てられる能力が求められているのです。

アントレプレナーシップは後天的に身につけられる

近年、アントレプレナーシップを学ばせる教育は、大学やビジネススクールで盛んに行われています。アントレプレナーシップ教育の現状について、具体的な事例をもとに解説します。

海外の大学ではアントレプレナーシップ教育が熱心に行われている

海外の大学ではアントレプレナーシップ教育が盛んで、様々なプログラムが用意されています。とくにトヨタ自動車の豊田章男社長を輩出した米ハブソン大学は、学生全員に実際に起業してもらうプログラムを用意するなど、実践的なアントレプレナーシップ教育が高い評価を受けています。また、ハーバード・ビジネススクールでは、ケースメソッドと呼ばれる手法を使い、会計管理、競争戦略論、マーケティング、オペレーションマネジメントなど、アントレプレナーシップを身につけるのに必要な素養を分野別に学ぶことができます。

日本の大学やビジネススクールでの事例を紹介

日本でも近年、アントレプレナーシップ教育に力が入っています。

たとえば、東京大学の「アントレプレナー道場」というプログラムでは、起業に必要な素養や心構えを学べます。早稲田大学もアントレプレナーシップ教育に力を入れており、2014年にはグローバルリーダーの育成を目的としたグローバルエデュケーションセンター(GEC)」を設立しています。民間のビジネススクールでも、新規ビジネスの創出に関心がある人に向けたセミナーの開催が増えてきました。

文部科学省も「次世代アントレプレナー育成事業(EDGE NEXT)」を実施

文部科学省は、2017年から「次世代アントレプレナー育成事業(EDGE NEXT)」を実施し、国内のアントレプレナーシップ教育を推進しています。EDGE NEXTとは、起業やイノベーション創出に挑戦する人材育成プログラムを全国各地の大学などから公募し、通過者に年間3,000万円~5,000万円程度を支援する事業です。アメリカと比べるとやや後れが見られるものの、日本でも徐々にアントレプレナーシップを学べる環境が整いつつあります。

アントレプレナーシップを学んだ人材を獲得するか・育成するか

アントレプレナーシップは誰でも学ぶことができます。学生は大学のプログラムに参加でき、社会人は民間のビジネススクールを利用できます。新規ビジネスを創出したい企業は、アントレプレナーシップを学んだ学生を採用しつつ、若手ビジネスマンを中心に社内教育を施すことで、アントレプレナーシップを持つ自社社員の数を増やせるでしょう。アントレプレナーシップを持つ人材を確保したい企業は、今からでも遅くありません。

【参考サイト】
https://relic.co.jp/battery/articles/9681
https://bizhint.jp/keyword/113941
https://docoic.com/48494
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/chiiki/kyouiku/2019/190408kyouiku03.pdf

アントレプレナーシップ教育の事例
http://www.yuhikaku.co.jp/static_files/studia_ws/data/isbn_9784641150027/case_1.pdf
https://www.agos.co.jp/blog/news/2017/04/22/%E3%80%90%E3%82%B3%E3%83%A9%E3%83%A0%E3%80%91%E6%97%A5%E7%B1%B3%E3%81%AE%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E6%95%99%E8%82%B2%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E8%B5%B7%E6%A5%AD%E5%AE%B6%E6%95%99%E8%82%B2%EF%BC%88-2/
https://www.mext.go.jp/a_menu/jinzai/edge/1346947.htm
[1] ハーバードビジネスレビュー:ハーバードにおける「アントレプレナーシップ」の定義
https://www.dhbr.net/articles/-/1947

[2] ボストン・コンサルティング・グループ:イノベーション企業ランキング トップ50を発表 BCGイノベーション調査2019
https://www.bcg.com/ja-jp/d/press/21march2019-most-innovative-companies-rise-ai-platforms-ecosystems-216695

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