インターネット広告増加で変わる「企業と顧客との接点」。変化に対応するために必要なこととは?

ECの隆盛とともにインターネット広告も大幅に増加している昨今、2021年にはインターネット広告費がマスコミ四媒体の広告費を初めて上回った(電通「2021年 日本の広告費」)。 本稿では、インターネット広告費の増加が企業と顧客との接点にどのような影響を与えるのか、BtoBビジネスへの影響も合わせて解説する。

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顧客側で起きている情報取得方法の変化

顧客側で起きている情報取得方法の変化

電通の「日本の広告費」によると、「インターネット広告費」は2021年2兆7,052億円(前年比121.4%)となり、「マスコミ四媒体広告費」(※マスコミ四媒体広告費は「新聞広告費」「雑誌広告費」「ラジオ広告費」「テレビメディア広告費」)の総計2兆4,538億円を初めて上回った。

営業活動においてどのような変化が起きているのか、顧客の観点と従業員の観点でそれぞれ見ていきたい。

まず顧客観点における最も大きな変化は情報の取得源が多様化したことで、顧客自らが検索機能を使って情報を得るようになったことだろう。

ある調査によると、2000年以前の顧客の購買プロセスにおいては、営業パーソンからの情報提供が95%を占めており、営業パーソン以外から情報取得は5%に留まっていたものが、2012年時点において既に顧客は57%営業パーソン以外から情報を得るようになっている。皆様も取引先へ移動中に電車内等で、業務関連のweb記事を読んだこともあるのではないだろうか。

コロナ禍で対面での営業活動が大幅に制約を受けている現在、営業パーソンからの情報取得はさらに減少していると考えられ、顧客自らによる情報取得プロセスの整備の重要性が高まっている。

図表1

また、CSO Insightsの調査によれば、営業パーソンにコンタクトしたいタイミングについて、70%の顧客は社内で「ニーズを明確化してから」と回答。さらに、そのうちの44%(全体の30.8%)は「ソリューション候補に目星をつけた後でコンタクトしたい」としており、20%(全体の14%)はすでに「ソリューションを決めた後にコンタクトしたい」としていることがあきらかになっている。

インターネット広告費がマスコミ四媒体広告費を上回ったことと上述の顧客の観点とを重ね合わせると、今後はこれまでの「マスメディアによるマーケティング」と「顧客への情報提供を通じた営業スタイル」からの転換が必要になりそうだ。

図表2

もう一つの変化として注目したいのは従業員の観点にて起きている変化で、コロナ禍でのリモートワーク導入などによる働き方の多様化や、従業員の転職頻度の増加の影響だ。これにより社内におけるノウハウ蓄積が困難となり、従来型の営業スタイルを続けた場合には効率低下が懸念される。これは昨今多くの経営者が頭を悩ませていることである。

こうした変化への対応に有効なのが、「情報拡散型の営業手法」への転換だ。

変化対応には「情報拡散型の営業手法」が効果的

変化対応には「情報拡散型の営業手法」が効果的

前項で解説した新しい環境へ対応する営業スタイルへの転換へ向けて、有効な手法の一つが、顧客が情報を取得する主な情報源であるオンラインを活用することである。 「顧客のWeb検索」に適したマーケティングのために情報発信プロセスや顧客別に最適化されたアプローチ方法をオンライン上で再設計することで、顧客拡大の強化と効率化が可能となる。

またオンライン上のプロセス設計と同時に必要となるのは、新しい営業スタイルに対応した組織への変化だ。 具体的には従業員一人一人の「現状業務の整理」を行った上で、オンラインに対応した「販売拡大へ向けたプロセス」の変革を行って、顧客が、ほしい情報を、ほしい時に、ほしい場所で手に入れられる環境を、組織として構築・維持できる体制への変化が重要となる。

この2つのポイントを押さえることで、新しい「情報拡散型の営業手法」が効果を発揮するようになる。以下は、簡単に従来型の営業手法と、情報拡散型の手法を比較したものである。

従来型の営業手法:企業からの一方的な発信 アウトバウンド(外側に向かう)型
ダイレクトメール、テレマーケティング、TVCM・ラジオ広告、新聞・雑誌広告、展示会…などが中心

情報拡散型の営業手法:企業と顧客の双方向の情報共有 インタラクティブ(双方向)型
顧客に情報を見つけてもらい、自社やその商品・サービスに興味を持ってもらう仕掛け
顧客がほしい情報を、自社ウェブサイトやブログ、ソーシャルメディア、メールマガジン、動画…などを通じて提供

「情報拡散型の営業手法」を実現する方法

「情報拡散型の営業手法」を実現する方法

こうした情報拡散型の営業手法の実現方法としてのプロセスは以下の4つに大別できる。

  1. 顧客への情報提供
  2. 顧客のリード化(アクセス可能状態へ)
  3. 顧客の育成
  4. 顧客化(商談へ連携)

ここで、上記プロセスの実現のための「コンテンツ」と「実行体制の整備」のポイントが以下である。

  • 「顧客が興味を持つコンテンツを、見たい場所からいつでも見られる状態」となるコンテンツの準備
  • 「顧客のアクセス」から「顧客のコンタクト先」を最大限に獲得する体制
  • 獲得したコンタクト先に、適したタイミング・コンテンツ・手法でアプローチする体制
  • 顧客の機運が醸成された後、購買活動に連携させる仕掛けと体制

顧客と顧客のフェーズに応じた「コンテンツ」がオンラインで必要になるのは当然として、上記プロセスを個々の従業員に依存する形ではなく、それらを組織として継続できる「実行体制の整備」が重要となる。

新規領域での販売拡大をいかに進めたか。実際の取り組み事例を紹介

新規領域での販売拡大をいかに進めたか。実際の取り組み事例を紹介

これまで記してきた、「環境の変化に企業がどのように対応すべきか」という点について、過去の事例として、技術に強みを持つ企業のケースを紹介したい。

某企業は、高い製品技術力と独自の商品化ノウハウを持ち堅実な経営をしていた。しかし、事業拡大にあたって、ニーズが確かな先端的な領域での新規事業の拡大に苦慮していた。

この先端領域では、製品の説明に技術力と営業力が求められるため、販売を担当できる人材育成に時間がかかる。そのため、事業拡大を進めるには営業リソースが逼迫していたのである。

そこで、営業活動のプロセスを「有望な顧客とコンタクトするフェーズ」と「顧客への提案活動・受注するフェーズ」の大きく2つのフェーズに分けて対応したのだ。簡単に見えるが、これまでの取り組み方を変えるにあたって、ポイントを押さえながら組織としての方法論を確立していった。

まず、顧客とコンタクトする1つ目のフェーズでは、情報拡散のためにオンラインでプレスリリースを配信したり、顧客の使用インタビューや事例を顧客視点で積極的に配信したりすることで、顧客が問い合わせフォームに自然な流れで接続。その結果、興味をもった顧客を幅広く拾い上げるプロセスを作り上げた。

ここで、上記体制づくりを自社だけで実施しようとするとリソースが不足するため、彼らは初期対応をシンプルなマニュアルに落とし込み、実行についても外部サポートを活用することで、対応品質を一定に保ちながら、既存メンバーの負荷を最小化しながら幅広い問い合わせに対応できる体制構築に成功したのだ。

顧客への提案・受注の2つ目のフェーズでは、購入見込みの高い顧客に対して、上記のプロセスで身軽になったベテランのセールスが密に対応できるようにした。 既存顧客は対応品質に満足し、顧客グループ内での紹介案件を取りやすくなるなどの効果も上がり、事業拡大につなげることができた。

この事例のポイントは、「事業戦略」と「営業・マーケティング戦略」を環境変化に合わせて再構築しながら、外部リソースの活用や、ツールの導入等を行うことで営業プロセスそのものを変革したことだ。

「個別ツールの導入」を目的化せず、戦略に合わせて、プロセスとツールを統合した営業活動のアップデートの重要さを理解した経営陣と営業・ITを巻き込んだ業務変革の成功例である。

企業が顧客のために意識すべきこと

情報量が増える昨今、BtoCだけではなくBtoBにおいても、顧客はほしいと思ったタイミングで情報を入手し、購入の検討を進めるようになった。 多くの顧客は情報を得るときに、情報の入手元を強く意識することは無い。 企業は事業戦略を実現するために、マーケティング手法全体を顧客目線で熟慮した上で、営業プロセスを設計し、組織変革を行うことが重要となってくる。

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