「移民」と「東京一極集中」がもたらすのは、衰退か経済回復か

人口の「東京集中」が再度始まった。機会を求める人々の移動は人為的には止められない。日本では、東京一極集中を否定する声が多い一方で、日本への移民については単純労働は否定しつつも、優秀な技能外国人は歓迎する声もある。これはダブルスタンダードではないだろうか。また、これは優秀な人材を日本に獲得された他国への配慮を欠いた主張ではないだろうか。

シェアする
ポストする

東京への人口集中が再び始まった

東京への人口集中が再び始まった

東京の人口が改めて増加傾向にある。総務省が2023年1月30日に公表した人口移動報告によると、東京都の2022年の「転入超過(転入者数と転出者数の差)」は3万8023人だった。

コロナ禍で、2021年は転入超過が5433人とわずかだったが、2022年には大幅な転入超過になった。新型コロナの影響が一段落したことで行動制限が緩和され、人口移動が活発化したことが東京の人口増の主要因と考えられる。

東京23区に限ると、2021年は転出超過だったが、2022年は再度転入超過となり、その超過数は21420人。今後、経済活動が正常化することで、東京への一極集中が再加速する可能性がある。

リモートワークの普及で人口は郊外や地方に分散するという意見もあったが、実際はそうはなっていない。電話の普及時と同じである。電話での会話の増加で、「ならば直接会って、その話をもう少し詳しくしよう」となったことで、結果的に人々の外出は増え、人口集中度は上昇したのだ。

学習や就職の機会、観劇や鑑賞の場所、レストランやカフェ、病院やホテルなど、地方都市に比べて、東京の魅力は豊富だ。匿名性や自由度も大きい(参考:「「匿名性」の魔力~匿名性が経済活動にもたらすもの~」)。

クオリティの高い賃貸住居、資産価値の高い不動産、外国の文化を含めた知的刺激の多さなど、今後も東京は多面的かつ総合的な魅力度で人口を吸引していくだろう。

東京と地方、日本と外国

東京と地方、日本と外国

度々、「東京への人口一極集中は修正されるべきだ」という主張がされている。しかし、この主張が実際に政策として実現されたことはなく、今後も実現される可能性は低いだろう。

人々は限られた「生」を輝かせるため、学習、就職、パートナー探しなど様々な機会を求めて移動する。文化的な生活や刺激のある時間を獲得したいとも考える。各人の欲求に基づく居住地の移動を人為的に留めることはできないのだ。

同じ構造は国と国との間にも存する。政治的迫害や独裁政権からの避難だけではなく、一般的に移民は、新天地により良い社会環境や就労機会を求めて移動する。経済的な理由、社会的な理由での人口移動という意味で、「国と国」と「都道府県間」の移動は相似形だ。

単純労働に従事する移民に対して、心理的な拒否反応を持つ日本人は少なくない。一方でそうした人々も、金融、教育、IT、バイオなどに関して、優秀な技能を持つ外国人の移民については歓迎するのではないだろうか。この考え方は、東京一極集中への批判や地方への配慮とは齟齬がある。

人口の東京集中は、地方経済の衰退を促すので「けしからん」。優秀な外国人には「日本に来てほしい」。この主張は、日本に移住する優秀な外国人の母国から見ると、とても身勝手でダブルスタンダードな論理ではないだろうか。

生産性の高い地域への人口流入が経済を活性化させる

生産性の高い地域への人口流入が経済を活性化させる

筆者は、経済的かつ社会的理由による人口移動に対し、何らかの過度な人為的制限をかけることはマクロ経済にとってプラスにならないと考える。人々が集中して居住することで様々なサービス業の可能性が生まれ、マクロ経済を刺激していく。

そもそも、企業経営に必要な土地と労働は恒常的な価格差がある。土地も労働も、都市部と地方では地方の方が安い。しかし、安さの度合いは異なる。銀座の土地賃貸料は月坪5万円だが、地方に行けば月坪5000円だ。つまり、都市部の土地は地方の10倍の値段だ。

労働の値段は地方でもそれほど下落しない。銀座の時給が2000円、地方の時給が1000円とすると、都市部の労働の値段は地方の2倍でしかない。つまり、地方に比べれば都市部では土地も労働も値段は高いが、相対価格で見れば土地に比べて常に労働が割安なのだ。

合理的な経営者は、都市部では割高の土地の使用を控え、割安な労働を多く使うビジネスモデルを志向する。そして、地方や他国から、野心を持って機会を求める人々を吸引し、高い生産性を実現する。土地と労働の相対価格差が変わらない限り、この構造は続くだろう。

移民の増加は社会不安をもたらすのか?

移民に対する心理的抵抗は、犯罪の増加などの社会不安が背景にあると思われる。「移民と日本社会」(永吉希久子著。中公新書2020年刊行)によると、内閣府の調査では日本の治安悪化の原因を、来日外国人による犯罪増と指摘した人が55%に上ったという。

しかし実際に数字で見ると、移民と犯罪の増加は必ずしもリンクしていない。「移民の経済学」(友原章典著。中公新書2020年刊行)によると、イギリスの移民数は2000年の450万人から2009年には700万人に急増したが、同時期の犯罪数は600万件から400万件に減少したという。

キーワードは、移民の「犯罪の機会費用」だ。十分な就労機会が見込めない移民は、犯罪に手を染める機会費用が小さく、犯罪で糊口をしのぐ。移民に公正な就労機会を供与すれば、彼らの「犯罪の機会費用」は上昇し、犯罪を行う合理性がなくなる。

日本での移民の犯罪率は高いと言われている。日本において、10万人当たりで見た犯罪率は、日本人が0.2%前後、移民が0.4%という数字も出回っている。移民は日本人より2倍も犯罪するというデータに見える。

図:日本における刑法犯検挙人員

しかし、筆者が『犯罪白書』から抽出したデータを見ると、どう感じるだろうか?上図は、刑法犯検挙人数の推移である。

金融不安など経済環境が悪かった2003~2005年は、年間の検挙人数が40万人近くに達し、直近の2倍の数字だったのだ。つまり、移民の犯罪率とは、この当時の日本人全体と言うレベルに過ぎない。

東京への人口集中、海外からの移民は、マクロ経済を前進させる原動力になりうる重要な動きである。感情論、非理性的議論で、これらを押しとどめることは、長期低迷が続く日本経済の回復の芽を摘む可能性すらあるのではないだろうか。

コメントを送る

頂いたコメントは管理者のみ確認できます。表示はされませんのでご注意ください。

※メールアドレスをご記入の上送信いただいた方は、当社の利用規約およびプライバシーポリシーに同意したものとみなします。

コメントが送信されました。

関連記事