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i-Construction・ICT施工の最前線。建設業界のDXの兆し
現在、建設業界では、「i-Construction(アイ・コンストラクション)」と呼ばれる「建設現場にICTを導入する新しい取り組み」が進められています。 i-Constructionとは、2016年から国土交通省が推進している建築業界の生産性の向上を目指すプロジェクトです。なぜ国をあげて建設業界にICTを導入する必要があるのでしょうか。また、i-Constructionにはどのようなメリットがあるのでしょうか。本記事では、i-Constructionの基本知識や導入背景、メリットやデメリットなどを、具体的な導入事例をもとに解説します。
i-Constructionとは? 国土交通省が推進する建築業界のIT化
2015年11月24日、国土交通省は建築業界をIT化する「i-Construction(アイ・コンストラクション)」の構想を発表しました。i-Constructionとは、測量・設計から、施工、管理までの全プロセスにICT(情報通信技術)を導入し、生産性を最大5割向上させるとともに、技能労働者にとって魅力を感じられるような建設現場を作る試みです。2016年より本格的にスタートしました
建設業界は3K(きつい、汚い、危険)と呼ばれ、若年層の入職者が少なく、離職率が高い。同時にこれまで業界を支えてきた熟練の技能者の高齢化が進んでいる状況です。このような状況を打破し、新3K(給料、休日、希望)を実現するための施策がi-Constructionです。
たとえば、測量や構造物の点検にドローン(無人機)を使う建設現場が増えているのはi-Constructionの代表例と言えます。
i-Constructionの3つの特徴
i-Constructionには次の3つの特徴があります。
特徴1. ICTの導入による生産性向上
建設業でも特に土工の建設現場において、情報化施工やCIM、3DMC(3Dマシンコントロール)などのICT建機を導入し、生産性と品質を向上させる。
特徴2. 規格の標準化
コンクリート工の現場において、部材の規格の標準化や効率的な工法の導入をおこなう。さらにITシステムを活用し、サプライチェーンの最適化を図り、生産工程から配送・消費までの一連の流れを全体最適化する。
特徴3. 施工時期の平準化
閑散期・繁忙期の偏りを解消して、建設業界の施工時期を平準化する。そのため、2ヵ年国債やゼロ国債を導入し、単年度予算主義を転換する。
i-Constructionが導入された背景は?深刻化する建設業界の人手不足
建設業界は深刻な人手不足に陥っています。建設業の就業者数は年々減少しており、2020年(令和2年)1月の就業者数は459万人で、前年より14万人の減少です。一方、ハローワークにおける「建設・採掘の職業」の有効求人倍率は上昇傾向にあり、2020年1月には前年同期比0.02増の5.17倍となっています。
建設業界の需要に対し、人材の供給が追いついていない現状です。さらに、建設業界は高齢化が進み、技能労働者の約3割が55歳以上である一方、29歳以下の若年従事者は約1割しか存在しません。 少子高齢化によってとくに若年従事者の減少が著しく、50歳以上の技能労働者が今後退職することを考えると、長期にわたって持続可能な体制構築が求められます。
そこで、ICT技術を導入し、建設現場を省力化・効率化することで人手不足に対応するのが、i-Constructionの狙いです。
i-Constructionが建設業界にもたらす3つのメリット
i-Constructionを導入には、3つのメリットがあります。
測量・設計におけるメリット:より短時間でより正確に
ドローンの空撮による三次元測量や、地形や構造物の三次元モデルを使ったCIMにより、従来の手作業よりも測量・設計の工程が大幅に効率化します。
施工におけるメリット:ICT建機で誰でも簡単に
建設機器の免許や操作経験がなくても、モニターを通じて、コンピューターなどの端末からオペレーションを行うことが可能です。一定の情報処理能力があれば、女性や、若手人材の活躍の場が広がります。
検査・点検におけるメリット:作業工程を大幅に削減
従来の検査・点検の工程は、およそ200メートルごとに測量検査を行い、計測結果を1件ずつ手作業でまとめていました。i-Constructionを導入した建設現場では、ドローンによる定点観測を行い、点群データをコンピューターで処理するだけで工程が完了します。検査書類を作成する事務作業も減少し、作業工程全体を大幅に効率化可能です。
i-Constructionの3つのリスクとその対策
i-Constructionには3つのリスクもあります。どのように対応すればよいのでしょうか。
大規模な導入の場合は費用負担が重い
i-Constructionのデメリットの1つは、設備投資の負担です。ICT建機をいくつも購入し、全行程をICT化 する場合、大手ゼネコンでなければ実現が難しいこともあります。ドローンなど比較的安価な機器や、ICT建機のリースなど、コスト面を抑える工夫が必要です。
ICT建機やソフトを使うには別のスキルが必要
ICT建機は大型機械の免許や経験がない方でも操作できます。しかし、コンピューターでの情報処理や、ソフトウェアを使った作図やデータ処理など、従来とは異なるスキルが求められます。技能労働者の約3割が55代歳以上であることを鑑みると、新規に研修をおこなうことをためらう企業もあるかもしれません。
そこで、厚生労働省の「人材開発支援助成金」制度や、その他自治体による支援制度の活用も検討してみましょう。
ICTへの投資効果の見極めが必要
ICT建機やソフトの購入には、一定の設備投資が必要です。たとえば、銀行から融資を受けたとして、その投資額に見合う効果が得られているか、しっかり見極めることが重要です。せっかく高額な建機を購入しても、現場の生産性向上につながらなければ、費用負担ばかりがふくらみます。本当にICT建機が必要かどうか検討し、合理的な投資を行いましょう。
i-Constructionに取り組む企業事例
i-Constructionに取り組み、生産性の向上と多様な人材の活躍を達成した事例を紹介します。
ICT建機の導入で魅力的な建設現場に
株式会社道端組は、測量や設計の工程でドローンによる3次元測量を取り入れています。ドローンによる定点観測で得た3次元データを図面化し、地形や土壌の観測から、構造物の検査まで、省力化と生産性向上を達成しました。
また、従来は職人による手作業で動かしていた重機をICT 化し、若手や女性が活躍できる建設現場を目指しています。
ウェアラブルで作業時間の短縮
株式会社鴻池組はi-constructionに関する様々な取り組みを行っています。
例えば、ウェアラブル端末を現場作業員に装着することで、作業発注者はリアルタイムで作業が確認できます。現場作業員は作業発注者による指示が直ちに届くため、検査における作業時間の短縮が可能になりました。このほか、BIM/CIMによる品質管理の効率化や、MMS(レーザースキャナを搭載した車両による計測システム)による高精度な計測も実現しています。
i-Constructionで人材不足に苦しむ建設業界が変わる
設備投資などにかかる負担が大きいため、ICT建機の大規模な導入は、資産力の乏しい中小企業では難しいケースもあります。しかし、今後少子高齢化が進み、ますます人手不足が深刻化します。まず、ドローンなどの比較的低コストな機器を導入し、費用対効果を考慮しながら投資を進めていきましょう。
参考
総務省:労働力調査(基本集計) 2020年(令和2年)1月分
厚生労働省:職業別一般職業紹介状況
国土交通省:建設業及び建設工事従事者の現状
国土交通省:i-Construction(ICT施工)の導入に関する補助金
首相官邸:平成28年9月12日 未来投資会議
株式会社鴻池組:i-constructionへの取り組み事例
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