人的資本経営成功の最難関:人材ポートフォリオ戦略の実践的進め方とは

2023年1月、日本で有価証券報告書に人的資本に関する情報を記載することが義務化された。それに伴い、企業はどこまで自社の情報を開示するかなど、対応を模索しながら進めている。本記事では、そうした現状をふまえ、義務化から2年目を迎えて見えてきた具体的な課題やポイントについて解説する。

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人的資本経営開示2年目の課題

人的資本経営は情報開示2年目となり、エンゲージメントサーベイの実施及び開示企業が増えるなど、企業の取り組みが加速している。他方、まだ遅れているのが、動的な人材ポートフォリオへの取り組みだ。

図表_動的な人材ポートフォリオの取り組み状況

当社も参画している人的資本経営コンソーシアムで2024年6月に実施された会員企業への調査でも、「重要性の認識や議論はしているが、対応策が未検討」という企業が3割弱、「具体的に対応策を検討中」という企業も含めると、約6割弱が検討段階にとどまり、まだ何ら手を打てていないことがわかる。最難関の課題は、「人材の質と量の把握」だ。

動的人材ポートフォリオを進める3STEPと注意点

動的人材ポートフォリオを進める3STEPと注意点

動的人材ポートフォリオ構築への取り組みは、次の3STEPで進められる。

(1)人材ポートフォリオ戦略の策定
(2)人材/スキル定義
(3)タレントマネジメントシステムなどの運営基盤整備・実行

次で、それぞれの具体や注意点について説明する。

(1)人材ポートフォリオ戦略の策定

(1)人材ポートフォリオ戦略の策定については、事業ポートフォリオ戦略との連動が前提となる。

それを実現するためにも、(2)人材/スキル定義が、どこまで具体的にできるかが成否を分ける。ちまたでは、「マネジメント人材」と「プロフェッショナル人材」のように、管理職人材と専門職人材を分けただけのような人材ポートフォリオも散見されるが、これでは実践的価値を伴わない。

(2)人材/スキル定義

構築において最難関と言える(2)人材/スキル定義に際しては、どういう人物像を求めているか、という「ヒト」ベースの要件定義になりがちだ。前述の例も、キャリアルートだけで定義した漠然とした要件定義であり、これでは効果は限定的だろう。当社では「スキル」ベースでの要件定義を推奨している。

スキルベースでの要件定義の進め方は、2パターン考えられる。

まずは「個の『能力』起点」でのスキルの棚卸しだ。社員一人ひとりが持つ能力をスキルとして個々に評価していくやり方だが、これでは膨大な工数がかかってしまう。スキル整理だけで3年以上かかった、という会社も筆者は目の当たりにしてきた。しかしこれでは、事業ポートフォリオの戦略的ピボットのスピード感に合わせられない。

そこで当社では、「個の『所属』起点」でのスキルの棚卸しを提案している。「個の所属起点」とは、人事部で保有しているだろう社員の過去から現在の在籍情報を元にスキルを仮定するアプローチだ。

所属起点のスキル定義とは、つまりこうだ。営業部門○○部△△チームに5年所属、その後経営企画部門××部□□課に3年所属している「Aさん」がいたとする。あらかじめ、営業部門○○部や経営企画部門××部といった部単位で、その部に所属することにより得られるだろうスキルを整理しておく。そこに一定年数所属していた時点で、Aさんは当該スキルが身についているものと見なすのだ。

(3)タレントマネジメントシステムなどの運営基盤整備・実行

前項までで整理したスキル情報を、人事部門が把握している資格などの人事基本情報や、面談記録などの人事把握情報とひもづけ、タレントマネジメントシステム上で一元管理する。これによって、人事部門と事業部門両面の情報が統合され、その後の最適配置など、人材ポートフォリオ検討に生かすことができる。

もちろん、これですべてではない。あくまでこのやり方は「みなしスキル」に過ぎない。これをさらに昇華し、有効活用されているのが荏原製作所だ。

同社はカンパニー別に技術元素を定義し、当該組織に所属していれば身につく可能性のあるスキルを設定し、個人別にスキル評価を実施している。人材戦略に生かせることはもちろん、メーカーとして必要不可欠な技術の継承にも役立てている。

人材ポートフォリオ戦略を成功に導くために外せないポイント

人材ポートフォリオ戦略を成功に導くために外せないポイント

スキルの可視化を起点に、まず社内労働市場を活性化させることが最初のマイルストーンとなる。その後、社外労働市場とも連動させることにより、人材ポートフォリオ戦略の実践が進み、人的資本最適化に向けた動きが加速する。これには、経営陣のコミットメントと、ハード/ソフト両面からの支援が不可欠となる。

人材ポートフォリオの検討は、ハード面に加えて、ソフト面への支援がなければうまくいかない。組織風土は明示されたもののみならず、黙示的な側面もあるが故に、ときに組織の変革を妨げる。ここへ踏み込むには、経営陣から変わらなければならない。組織風土は間違いなく上から形成されるため、まずはトップマネジメント間での風土改革が一番の近道だ。

「人材ポートフォリオ戦略への取り組みが一向に進まない」「組織風土がなかなか改善しない」。そうお考えの経営陣の皆さまは、「隗(かい)より始めよ」の精神で、自分たちから変わることが求められている。当社では、人材ポートフォリオ戦略検討に加え、それに伴う組織変革のための経営チームビルディングについても、引き続き支援してまいりたい。

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