コロナ後の働き方 残業ありのハードワークに「先祖返り」するのか

アフターコロナの働き方は、過去に「先祖返り」してしまうのでしょうか? 先祖返りとは、会社に出社して残業もこなす勤務スタイル(ハードワーク)に戻ること。バブル世代である筆者を含めて、社会人経験が長い人は慣れ親しんだ働き方と言えます。一方で、自宅で残業の少ない勤務に慣れてしまった社員は、元に戻ることを望んでいるのか? どうやら意外な「抵抗勢力」が登場し、一筋縄には出来ない状況になっているケースがあるようです。その抵抗勢力とは誰で、企業側はどのように対処すればいいのでしょうか。

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社員が職場に戻り始めた米国企業

社員が職場に戻り始めた米国企業

コロナの影響で、働き方がリモートワークに加え残業が少ない状況に変化して3年以上が経過しました。企業はそうした状況に対処して、何とかしのいできました。そして、コロナを克服したことで経済も回復基調、勤務スタイルも出社が可能となりました。

先日、HRテクノロジー系の企業代表(米国)と対談をしたのですが、米国で大半の企業は先祖返りを強く望んでおり、そのための工夫に苦慮しているとのこと。

経営者が、オフィスに戻ってくるようメッセージを発信したり、職場環境を再整備したりしつつ、ハードワークする社員を厚遇するなど、柔軟織り交ぜた施策を示しているようです。

Googleでさえ、最高人事責任者が「直接集まることに代わるものはない。一部の従業員に対して完全なリモートワークを認めてきたが、例外的に認められるもの」という認識。出社機会を増やすように呼びかけたことが話題になりましたが、米国企業として特殊な施策ではないようです。

経営環境が回復 「攻め」に転じる日本企業

経営環境が回復 「攻め」に転じる日本企業

余談ですが、そうした背景からオフィスの空室率も下げ止まりが始まってきたようです。そんな動きと呼応しているのか定かではありませんが、日本企業の職場でも先祖返りが行われつつあり、コロナ前の半数以上にまで出社比率が戻ってきているとのデータも出てきています。

帝国データバンクが企業の見解を調査したデータによると、コロナ前の働き方に戻ろうとする企業が4割もあるとのこと。そうした企業に個別に話を伺うと、出社に加えて、多少のハードワークも期待しているとの声が相当に聞こえてきます。

ちなみに先祖返りしたいと考える背景には、企業の経営環境の変化があります。

コロナが蔓延した時期には、業績が一部追い風になった会社もあったものの、大半の企業では逆風の環境となりました。ところがその状況が今、急速に変わりつつあります。

仕事で関わっていたあるサービス業の会社ではコロナ中、売り上げが半減するような過酷な状態だったとのこと。それでも生き残るために経費削減、人員整理などを実施して凌いできました。

ところがこの春以降は急激に業績が回復。今後は、業績回復に向けて経営方針を攻めの方向に大きく転換する予定と話してくれました。6月末で上期の業績見通しと戦略を開示する企業がたくさんありますが、攻めに転じるとの話をよく聞きます。

こうした攻めの経営で、人の側面から阻害要因になるかもしれない心配事があります。それは、攻めの経営によって転換する働き方に対する社員の受け止め方です。

攻めの経営転換が社員の新たな負担に

攻めの経営転換が社員の新たな負担に

先ほどの企業では、サービス拠点の拡大、合わせて営業時間を延ばすといった新しい方針が経営陣から出されました。こうなると、攻めの経営に伴う働きぶりが社員に期待されるようになります。

でも、そうした転換は、社員にとって新たな負担がかかるのは間違いありません。例えば、業績目標が増加すると、勤務シフトが増え、残業も増える。新規採用が増えるので、その育成業務が増える……といったことです。コロナで業績が厳しい時期に、ややのんびりと働いていたとすれば、急激な転換に戸惑う人も少なくないかもしれません。

あるいは物理的な負担に加えて、攻めの経営の象徴として、社員が新規事業やイノベーション開発に取り組むことを期待する動きも出てきています。

例えば、ある機械メーカーでは、新規事業のプランを企画するワークショップへの全社員参加が決定。その経験を踏まえて、次世代に向けた新規事業のプランを提出することが半ば義務化されました。

アフターコロナの成長のためには、新規事業の立ち上げが必要。そうしたプランを考えるのは経営陣だけでなく、全社員が取り組むべき、というのです。提出されたプランの出来栄えは人事評価にも反映されます。当然ながら業務時間内での作業となりますが、本業は忙しさが加速しており、その中で新規プランを、となると残業を増やすしかない状況のようです。

このように、いくつかの面で攻めの経営による負担が社員に強いられつつある企業が増えているように感じられます。しかし、多くの人がコロナ期間中に、これまでの働き方、仕事との距離感に疑問を持つようになりました。この疑問が抵抗勢力を生み出す起因となっているのです。

長時間労働への疑問 意外にもミドル層が「抵抗勢力」に

長時間労働への疑問 意外にもミドル層が「抵抗勢力」に

コロナ期間に人事の世界で話題になったキーワードの1つがリカレント教育です。

スウェーデンの経済学者であるゴスタ・レーンが提唱し、1970年代に経済協力開発機構(OECD)で取り上げられ世界中で注目されました。循環・再発するという意味が込められ、就労と就学を交互に繰り返しながらアップデートしていくことを目指します。

社会人の学び直しとかリスキリングともいわれることですが、コロナ期間に会社の支援の有無に限らず、取り組んだ人が増加しました。

その結果、人生100年時代と言われる長い期間を前向きに生き切るためには、自分で何度も学び直し、職業も変え、子育てに専念したり、さまざまな経験をしたりと、充電をたっぷりしながら、社会との関係を保ちながら生きていく。そんな人生をエンジョイすることこそが本質かもしれない。そう考えると、長時間労働が常態化していたかつての自分には戻りたくない。そう思うようになった人も少なくありません。

そんな気づきが醸成されたのは、コロナ中に在宅ワークが増えたことに加えて、仕事のペースがややスローになった人が多かったからではないでしょうか。

転職サービス「doda」が調査した職種別の残業時間の実態によると、1カ月あたりの平均残業時間は20.6時間で、コロナ前と比べて、7.5時間短くなりました。

当然ながら、残業の減っている業種はコロナで業績が厳しいケースが大半。飲食業界以外では旅行業や営業職全般も残業が大幅に減ったようです。

こうした業界の知人から、残業に忙殺されていたコロナ前の自分に戻りたくない、との声を何人からも聞きました。それだけ、人生を考える時間やきっかけが不足していたのでしょう。

ちなみに、出社やハードワークに対する抵抗勢力は誰なのか?若手社員に違いない…と思みがちですが、そうとは限りません。ここまで、ハードワークに慣れ親しんだミドル層が疑問を抱き、抵抗勢力になっているケースが相当にあるようです。

例えば、知人で社会人20年目のDさんはハードワークの権化のような存在でしたが、コロナ期間にオンラインで大学院に入学。まさに学び直しを行い、その機会に自分を見つめなおしたとのこと。

子どもも大きくなり、まもなく大学を卒業して社会人。親離れしたあとに、自分に何が残るのか?ハードワークで身についた経験やスキルでは、次の人生は乗り切れないと痛感。もはや、元の働き方には戻りたくない。同じような想いを抱いている同世代が多いと話してくれました。

Dさんは職場で管理職ですが、部下に対してリモート勤務を推奨。残業は極力しないようなマネジメントを徹底しています。将来に向けた学びの機会の提供にも積極的です。人事部から出社率を上げるよう指導の連絡があっても、消極的に対処しているようです。コロナの期間が後戻り出来ない気づきの機会になっていたのかもしれません。

企業が対立するのはNG 人事の複線化で多様性容認を

企業が対立するのはNG 人事の複線化で多様性容認を

こうした抵抗勢力に対して、企業も対立は望まず、理解を深めて対処をすすめることが重要です。

その1つは、多様な働き方を容認するため、人事制度の複線化。

例えば、勤務時間を限定する。勤務地を限定する。あるいはジョブ型で職種を限定する。それに加えて、100人いれば100人の働き方を容認しようとしている企業も出てきています。

そうした取り組みの典型が、サイボウズ社の働き方宣言です。いわゆる複線型人事制度がフリー選択型になったものです。コロナ前から取り組みを開始しており、社員が自分で決めた働き方のスタイルを文章で社内向けに明示します。

例えば、

  • 基本的に9時から17時まで出勤しています
  • 日によっては18時退社にしても大丈夫です
  • 月に3日ほど、在宅勤務となる可能性があります

といった具合です。

働き方を登録すると、グループウェアのプロフィール欄にその情報が表示され、実際にその働き方で勤務できるとのことです。

さすがにここまでの自由度を容認する会社は少ないと思いますが、多様な働き方を求める社員の要望に応えられる複線型人事制度の導入や、残業に関しても個別の事情に合わせて柔軟に対応している企業が増えています。

攻めの経営を掲げる「人的資本経営」の文脈においても、多様な働き方の容認は必須です。

まとめ

自分がどのように働きたいのか? 明確に宣言すれば、それをある程度は容認する度量が会社側にも備わりつつあるように思います。

企業としても多様な働き方の容認に向けて、複線型人事制度の取り組みを検討・実施している可能性は高いと思います。そうでなければ、優秀な人材が集まらないからです。

経営者の立場からすれば、攻めの経営を宣言しつつも、社員の意向を個別に汲まなければならない状況になってきたのは大変なことです。でも、社員視点に立てば、それを乗り越えようとする会社であれば、信頼できるし貢献したいという思いも高まるはずです。

逆に、自分の会社は負担ばかり強いるが、多様な働き方は容認してくれない、というケースもあると思います。そんな場合はどうするか。

引き続き、日本は慢性的な人手不足です。望む働き方を容認してくれる会社を探し、転職を考えてみる、そんなひとつのきっかけにしてみてもよいかもしれません。

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