アフターコロナを見据えて加速するゴルフ場のM&A

ゴルフ場業界は、コロナ禍の影響が限定的であったことから、コロナ後を見据えた動きも早かったことが見受けられる。2022年においてゴルフ場業界のM&Aは活発な動きがあり、今後も加速していくものと考えられる。

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コロナ禍からの回復は早く、入場者数はコロナ前を上回る勢い

コロナ禍からの回復は早く、入場者数はコロナ前を上回る勢い

ゴルフ場のタイムリーな業績を反映する公の統計データとして、経済産業省が月次の動きについて調査対象を限定して実施する「特定サービス産業動態統計調査」がある(図1)。

図表1-月次入場者数と客単価の推移

入場者数としては、コロナ禍が本格化した2020年春には大幅な落ち込みとなったが、プレー形態が「密」にならず、屋外で感染リスクも低いことで、2021年春にはコロナ禍前を上回る増加に転じ、夏以降も好調に推移した。

消費単価は、入場者数の回復に比べて遅れをとったものの、着実にコロナ禍前の水準に向けて戻ってきており、コロナ禍前のようなコンペ開催が多くない中では、業績は好調にあると思われる。

2022年もゴルフ場の法的手続は引き続きごくわずか

2022年もゴルフ場の法的手続は引き続きごくわずか

帝国データバンクの調査によると、2022年の企業倒産件数は前年から6%の増加で、コロナ禍で減少が続いてきたなか、2022年5月以降から増加が続いたことで、2019年以来3年ぶりに前年比で増加となっている。

一方でゴルフ場業界では、預託金返還の問題を抱えているゴルフ場が多く存在するものの、2022年も法的手続はごくわずかにとどまっており、民事再生法などの法的手続による再生手続は2事例にとどまった(図2)。

図表2-ゴルフ場における主な法的手続事例(2022年)

民事再生申請に伴うゴルフ場の再生事例では、自主再生型とスポンサー型が1事例ずつとなった。預託金返還が困難となったことによる法的手続と、会員の高齢化や施設の老朽化による先行き不透明感からのスポンサー支援と思われる。

2022年はゴルフ場業界のM&Aが全国で活発化

2022年はゴルフ場業界のM&Aが全国で活発化

業界全体が好調に推移した影響もあるのか、2022年を通して、全国でM&A事例の成約が多数あった(図3)。

ゴルフ場における主なM_A事例(2022年)

公表された主なゴルフ場業界のM&A事例としては、ゴルフ場保有数第1位のアコーディア・ゴルフによる鹿児島ガーデンゴルフ倶楽部と小田急西富士ゴルフ倶楽部の買収、第2位のパシフィックゴルフマネージメントによる足柄森林カントリー倶楽部の買収から、西武ホールディングスによるシンガポールの政府系ファンド関係会社への資産譲渡、東急不動産によるリソルへの売却やシキボウによるマーメイド福山ゴルフクラブの売却などがある。

2022年のゴルフ場業界M&A 5つの特徴

2022年のゴルフ場業界M&A 5つの特徴

2022年のゴルフ場業界のM&Aでは、活発に多くの取引が見られたことから様々なケースがあったが、主に次の5つの特徴がうかがえる。

1 専業による事業拡大のM&A

大手専業においては昨年と同様に、規模拡大によるM&Aが見られた。ゴルフ場保有数第1位のアコーディア・ゴルフは、2022年に2コース買収を行ったほか、同年10月にグループ再編も行われたことから、2023年3月時点で171コースを保有するに至った。

ゴルフ場保有数第2位のパシフィックゴルフマネージメントは、2021年に続き、2022年も1コース買収を行っており、2022年12月時点で146コースを保有している。また、リソルグループは、東急不動産から4コースを買収して、運営コースを2022年12月時点で15コースに拡大している。

また、バンリューゴルフは、2022年は2コースの買収、1コースの売却と、西日本を中心に保有ゴルフ場の入替に伴うM&Aを実施している。他の例も含めて、全国で複数のゴルフ場を展開している専業グループの拡大や再編に伴うM&Aが見られた。

2 上場会社からの売却に伴うM&A

2022年は、東証プライム市場に上場している企業グループによるゴルフ場の売却事例が複数見られた。西武ホールディングスの事例では、資産譲渡後も連結子会社による運営業務の受託が前提となっているが、この事例以外は、運営を含めてグループ外に経営権を譲渡している。

シキボウによるマーメイド福山ゴルフクラブの売却は、IR資料によると、12億円近くの特別損失の計上となるが、同社にとってはゴルフ場事業がノンコア事業であり、「中核事業に経営資源を集中させることで企業価値向上に資する」として、事業分離の決定に至っている。なお、今般の売却後も、これまで通りのパブリック運営のようである。

また、東急不動産は4コースをリソルグループに、小田急電鉄はアコーディア・ゴルフにそれぞれ売却している。IR資料では明記されていないが、双方とも預託金のある会員制コースで、退会会員への預託金返還に全て応じる運営を可能としていたことから、預託金は全額返還して会員制を解除した上で、経営権の譲渡がなされたものと推察される。

3 多様なストラクチャーによるM&A

一般的には、シキボウによるマーメイド福山ゴルフクラブの売却のように、ゴルフ場事業会社の株式譲渡が多い。また、アコーディア・ゴルフによる小田急西富士ゴルフ倶楽部の買収では、ゴルフ場事業会社が複数のゴルフ場を運営していたことから、当該ゴルフ場の運営事業を新設分割して、完全子会社となる新設会社の全株式を譲渡している。

特定の事業を譲り受ける場合、ゴルフ場という対象に不動産アセットが多く占めるゴルフ場事業では、登録免許税や不動産取得税の移転コストを軽減できる会社分割のスキームが選択されることも多い。

なお、小田急西富士ゴルフ倶楽部を売却した小田急電鉄はその後、2023年2月に、会社分割による売却後も子会社に残った小田急藤沢ゴルフクラブの運営子会社と、別の子会社の富士小山ゴルフクラブの運営子会社を子会社間の合併により事業再編を行っている。両ゴルフ場の連携強化やサービス拡充に加え、本社機能の統合等による経営資源の集約も図っており、ゴルフ場のM&Aを契機に運営体制の効率化に舵取りが取れていると思われる。

西武ホールディングスによるシンガポールの政府系ファンド関係会社への資産譲渡では、ホテルも売却対象となっているが、ゴルフ場も9コースが譲渡されており、アセットライト化の推進がなされている。

このアセットライトでは、ゴルフ場資産も流動化して信託受益権等を譲渡することで、キャッシュ創出と共に、当該資産と当該資産に係る損益等を連結対象から外すことで、企業価値の極大化を図っている。

2014年にアコーディア・ゴルフが大和証券グループに対して、ゴルフ場とゴルフ場関連資産を対象にビジネス・トラストの活用でアセットライトを実施しているが、今回の場合、ホテルのほうが対象としては多いとはいえ、久しぶりのアセットライトの手法となる。

4 全国エリアでのM&A

西武ホールディングスによる資産譲渡もあり、2022年は関東近郊に限らず、北海道、東北(岩手県)から、関西(京都府、和歌山県及び兵庫県)、中国(広島県及び山口県)や九州(宮崎県及び鹿児島県)と全国にわたり多くのM&A事例が見られている。

5 M&Aプレイヤーの増加

買手候補としては専業グループから、売却候補としてはゴルフ場を本業としない上場事業会社も見受けられた。買手候補としては、プレスリリースではなく新聞報道などの情報ではあるが、韓国系とみられる海外勢も複数案件で見受けられる。

アフターコロナを見据えて、今後もM&Aの活発化が想定

ゴルフ場業界は、コロナ禍の影響が限定的であったことから、事業としての業績回復も早く、現状は収益ベースでの事業価値評価も進めやすい環境にある。

多額の負債である預託金を抱えたゴルフ場では株式価値を見出しづらいが、体力のある上場会社では預託金返還を行った上でのM&Aから、預託金を残したままでの株式譲渡や第三者割当増資での経営交代の例もある。

外国為替市場の円安による外部環境で、海外勢によるM&Aも引き続き想定されることから、当面はゴルフ場業界のM&Aは活発に動くのではないかと考えられる。

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