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「ガロア・ポイント」~蛹(さなぎ)の皆様へ
過去の本欄「常識を疑え~『4兆分の1』は絶対か?」で、4兆分の1の精度のDNA検査について書きました。先日の報道によれば、現在最も精緻なDNA検査では「565京に1人」の精度が出せるそうです。驚きです。
さて新社会人のみなさま。1か月が経過しましたが、いかがお過ごしでしょうか。今年就職された新社会人は3年間をコロナ下で過ごしたことになります。その過酷な運命を強さに変えていただけたらと思います。
フロンティア・マネジメントでも新卒入社を迎えるにあたり、30年前の自分へのアドバイスを考えてみました。
未来からの視点
米大リーグ、エンゼルスの大谷翔平選手は、高校生の時にドラフト1位指名されるために必要なことを魔法陣に書き記したそうです。目標を実現するためにはAが必要で、AのためにはBが必要で……となっており、未来からの思考です(ネットで検索いただくとすぐに見つかると思います。高校生がこんなことまで……と驚きます)。
ノーベル物理学賞を受賞したおちゃめな天才・益川敏英氏は、「学生時代に友達とは、ガロア・ポイント<20歳>を過ぎてしまった、次はアーベル・ポイント<28歳>だ、アーベル・ポイントも過ぎてしまった、次はワイヤストラス・ポイント<39歳>だ……と話していた」と書いておられました(同氏の『益川流のりしろ思考』、扶桑社)。
これら3人はその年齢までに偉業を成し遂げた数学者であり、中でも群論に代表される独創的・歴史的な研究を成し遂げながら、20歳で決闘で亡くなったエヴァリスト・ガロアは数学者にとって憧れの対象です。
また、ロックの世界では、「27クラブ」(ジャニス・ジョプリン、カート・コバーンら27歳で多くの天才が早逝している)もあります。
話がそれましたが、我々はいつ死ぬかわからない。何歳までに夢を実現すると決め、そのために逆算して行動することが必要です。これは、自分には全くなかった視点です。
「ニッチ」を確立せよ
この連載でたびたび触れてきたニッチ。決して「隙間」ではありません。その生物だけに許された生物学的地位。もともとは生物学用語の、とても深い言葉です。
産業界では「同業との違いは?」なる質問が一般的ですが、「同業はいません」と答えられる企業が理想です。そして、このことは我々人間にもあてはまります。
ソニー創業者の盛田昭夫氏は面接で必ず同じ質問をしました(『21世紀へ』、ワック)。それは、「あなたの特徴は何ですか?」。そう、ニッチは何かを聞いているのです。ノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏も「製品開発でも人でも、100のうち一つで頭抜けることが大切。他の99はなんとかなる」(『吉野彰 特別授業 ロウソクの科学』、NHK出版)と述べています。
まずは企業社内において「〇〇のことなら〇〇さんだよね」、次に社外からも「〇〇のことなら〇〇社の〇〇さんに聞けばよいよ」と認知されることです。小説や映画でいえば「キャラ立ち」です。良い小説においては、登場人物がキャラ立ちしているので、「〇〇が言った」と書かなくてもだれが言ったがわかるのです。
『全集中』せよ
もちろん、ニッチを確立することは簡単ではありません。まずニッチになりそうな場所をみつける必要があります。これも簡単なことではありません。
ただ、「もしかしたら、僕は私はこれで一生生きてゆくのかも」と思える何かが見つかったら、『全集中』です。
就職して最初の10年の労働時間を2万時間としましょう。その2万時間は、2000時間×10年よりも、例えば3500時間×2年+1625時間×8年のほうが効果的です。時間に色はありませんが労働の効果には「凸性」があります。
「〇〇さん、最近すごくない?」「〇〇さん、成長株だよね」と言われること。そうなると、周りの見る目もちがってきて、より面白い仕事が回ってくるようになります。その後は慣性が効きます。「自己強化プロセス」に入るのです。
賢人に会え
筆者は偶然アナリストなる職業に就きました(何も考えずに就職したので、就職してからその仕事を知りました)。この仕事の何より良い点は、若くして賢人に会えたことです。
取材が終わったあとは全身汗まみれになりましたが、20代で企業経営者と「サシ」で対峙できる職業はそうそうありません。
賢人に会うと、世の中には頭が良い人がいるんだ!と気づかされ、勉強しなくてはいけないと思わされました。
筆者が高校生の頃、何かで読んだエッセーに「人が去っていくときの後ろ姿をみて、その後姿が徐々に大きくなり、やがて視界を覆うほどの大きさになると感じた経験がないなら、精神的に未熟である」と書いてありました。そんなこと一度もないと思いましたが、もしそのような賢人に会えたらその後の人生は違うことでしょう。
自己投資せよ
若い頃はお金がない。したがって、出来ることも限られる。筆者は小心者でこれまで借金を一度もしたことがないのですが、大きな間違いであったと後悔しています。(もちろん常識の範囲で)借金をしてでも、もっといろんなことを経験しておけばよかったと感じます。
ただ、お金がなくても良い投資があります。本です。2,000円、3,000円で人が考えに考えたことを読むことができる。賢人に会うことは難しくとも、賢人の話は聞ける。2,000円で。これほど最高の投資はありません。
機会が来たら躊躇するな
5年後か10年後かわかりませんが、いつか「機会」が訪れるでしょう。その機会はさほど大きくないかもしれないし、人生を大きく変えるようなものかもしれない。それはわかりません。
しかし、もしかしたらこれは? と感じたら躊躇せずにつかみに行くこと。もし失敗したらやり直せばよい。Amazonのジェフ・ペゾス氏は「後戻りできない判断は熟考するが、後戻りできる判断はすぐにする」と書いています(『Invent & wander』、ダイヤモンド社)。現在では産業界の流動性も高まっているので、後戻りも以前よりは容易になっています。
「機会」は全集中を経験した人だけに訪れるでしょう。ただ、それをつかめるかどうか、さらにつかんでも成功できるかどうかはわかりません。
ナシーム・ニコラス・タレブの良書『ブラック・スワン』は、「世界はプラント的でもガウス的でもなくカオス系的である。予想外のこと=ブラックスワンは必ずおきる」と主張し、悪いほうのブラックスワンへの対応に多くが割かれていますが、同時に彼は、良いほうのブラックスワンについても、機会が来たら逃すな、気づかない人が多すぎるとも書いています。
以上、蛹の皆様に送る6か条でした。お気づきかもしれませんが、これはすべてつながっています。
すなわち、何かになりたい(ニッチ)という未来があり、その達成のために賢人に会い、自己投資をし、機会が訪れたら全集中するのです。
皆様の名前がついた「〇〇ポイント」が実現することを祈願いたします。
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