株式交換のメリットや手続きとは?株式移転との違いもわかりやすく解説

株式交換は、1999年の商法改正に伴い導入された制度であり、M&Aにおける組織再編の手法の一つです。子会社となる企業が全ての株式を、親会社となる企業が任意の対価を差し出すことで、2社は完全親子会社となります。この記事では、株式交換のメリットや手続き、最新事例について詳しく解説します。

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株式交換とは?株式移転との違い

株式交換とは?株式移転との違い

株式交換とは、会社法767条から771条で定められている、子会社の全株式と親会社の株式等を一定割合で交換する手続きです。子会社の全株式を取得した親会社は「完全親会社」となり、親会社から一定割合で対価を受け取り、全株式を受け渡した子会社は「完全子会社」となります。

一般的な株式交換の対価は、子会社の株主への完全親会社の株式の交付ですが、現金を交付する場合や、後述する「三角株式交換」を実施する場合もあります。株式交換はもともと、企業間での完全親子関係の構築を容易にするため導入されました(注1)。そのため、しばしば企業再編の手段として用いられます。

株式移転との違い

株式移転は株式交換と似た概念ですが、得られる結果は根本的に異なります。

株式交換は、既存の企業が既存の親会社に株式を譲り渡して完全親子会社化する手続きであるのに対し、会社法772条・773条に定められる株式移転は、子会社となる企業の株式を新設される親会社にすべて取得させ、新たな企業と完全親子関係を作る手続きです。

株式交換は他社の買収手段としても利用され、グループ連携の強化のために用いられますが、株式移転は親会社を新設するため買収にはあたらず、ホールディングス等の持株会社を新設する手段としてよく用いられます。

また、株式交換の効力は「株式交換契約書で定めた効力発生日」に発生し、株式移転の効力は「新設した会社の成立の日」に発生するという違いもあります。

株式交換のメリット

株式交換のメリット

株式交換には、以下のような特有のメリットがあります。

  • 買収資金が不要
  • 株主全員の賛同を得ずにM&Aが実施できる
  • 完全子会社化した後も別法人として運営できる

M&Aには、株式交換以外にも「合併」や「株式移転」などの手続きがありますが、ほかの手続きとの違いや株式交換特有のメリットを知ると、自社に最適な企業再編方法を選ぶことができます。

買収資金が不要

子会社の全株式を取得する対価として、新規に発行した株式や自己株式の交付を選ぶ場合、親会社は買収資金を用意する必要がありません(注2)。

また、株式交換について定める会社法768条においては、「三角株式交換」や「現金対価株式交換」を認める表記もあります。

三角株式交換

三角株式交換とは、買い手となった企業のさらに親会社が発行した株式を子会社に取得させる手法です。混同してしまわないために、買い手となった企業を「株式交換完全親会社」、売り手である子会社を「株式交換完全子会社」と呼びます。

三角株式交換をすれば、親会社自ら株式を発行する必要がないという利点があります。

現金対価株式交換

また現金対価株式交換では、株式ではなく現金を対価として、対象の会社を子会社化できます。現金の交付を受けた子会社の株主にとっては、完全親会社に対して「株式譲渡」を行った状態となります。

株式交換では、親会社の状況に合わせた対価を子会社に支払うことができるのです。

株主全員の賛同を得ずにM&Aが実施できる

株式交換をするにあたり、株主全員の賛同を得る必要はありません。

会社法309条2項では、株主総会に出席した株主の議決権の3分の2以上の同意が得られれば良いとされています。

株式譲渡の場合は、合意を得られない株主から株式を取得するために「スクイーズアウト」という手続きを踏まなければならないため、会社に不利益をもたらす株主を排除する手続きとして株主交換が用いられる場合もあるのです。

ただし、その分債権者保護手続き(債権者や株主に不利益をもたらさないために行われる手続き)も必要となる点や、納得できなかった株主によって「買取請求権」が行使される可能性がある点に注意しましょう。

完全子会社化した後も別法人として運営できる

株式交換後も、完全子会社は別法人として独立した経営が可能です。

子会社における社員の士気の維持が可能であり、子会社が親会社と同じ立場で、グループ内の経営も進められます。株式交換は、両社の経営体制を活かしつつM&Aができる手法といえます。

株式交換の手続き

株式交換の手続き

株式交換は、準備から効力発生までは最低でも1ヶ月以上の期間がかかり、段階を追ってさまざまな手続きを踏まなければならないため、準備期間に余裕を持って進めていく必要があります。

そこでここからは、大まかな株式交換の流れを解説します。

株式交換契約の締結

まずは株式交換契約の締結にあたり、株式交換の計画を立てます。具体的には、以下のポイントを検討すると良いでしょう。

株式交換のスケジュール
株式交換のプロセス
株式交換契約書の内容(対価や効力発生日など)
株式交換の準備は、双方の会社で連携を取りながら進める必要があります。
取締役会設置会社の場合は、事前に取締役会の承認を得なければなりません。

準備が整い、契約書の内容も精査した上で、株式交換契約を締結します。

株主総会決議

株主総会の前に、事前開示書類を準備しましょう。事前開示書類とは、株主が契約を承認すべきか判断するための書類で、株式交換契約や契約内容の根拠や妥当性を示すものです。

事前開示書類が揃ったら、株主総会招集通知を発送します。

公開会社なら株主総会の2週間前までに、非公開会社なら1週間前までの送付が必要です。

株主総会は契約の効力発生前日までに行います。決議には、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要となる特別決議が不可欠です。

反対株主がいる場合は、株式交換契約の効力が生じる20日前から前日まで、株式買取請求権が行使できる旨を知らせます。

また、株式交換によって債権者が不利益を被る可能性がある場合は「債権者の異議手続」ができる旨を知らせることが必須です。

債権者保護にかかる期間は、20日から1ヶ月です。株式交換契約の効力発生日の前日までに、買取や弁済を済ませておきましょう。

株式交換の効力発生・登記

契約書記載の効力発生日から、2つの会社は完全親子化し、子会社の株式はすべて親会社に取得されます。

株式交換によって資本金などが変更される場合は、効力発生から2週間以内に登記を行う必要があります。

また株式交換後は、債権者に対して事後書類を開示します。
契約の内容や対価、効力発生日などを記載した事後書類は半年間の開示義務があるため、株式交換後約6ヶ月間は、事前開示書類と共に公開しておくことが必要です。

簡易株式交換と略式株式交換

会社法の784条や796条で定められている簡易的な手続きとして「簡易株式交換」と「略式株式交換」を紹介します。

簡易株式交換

完全子会社に取得させる対価が純資産の5分の1以下に相当する場合、簡易株式交換に該当し、完全親会社の株式総会決議の省略が親会社にのみ認められています。

ただし、反対株主が完全親会社の発行済み株式数の6分の1を超える場合や、完全親会社が非上場で株式譲渡に制限がかけられている場合などでは、株主総会を省略できません。

略式株式交換

略式株式交換では子会社側の株主総会を省略できます。完全親会社が完全子会社の90%以上の議決権を保有していることが条件です。公開会社である子会社が完全子会社となる際、株主に交付する株式に譲渡制限が設けられている場合や、完全親会社となる際に、完全子会社が全株式譲渡制限会社である場合は、株主の承認を得なければなりません。

株式交換における注意点

株式交換における注意点

株式交換は2社の事業を存続させつつ、完全親子会社化できる事業再編手続きです。
完全親会社による買収資金の調達や、株主全員の賛同が必要ないことから、メリットの大きい手続きといえるでしょう。

しかし他のM&Aに比べて、やや手続きが煩雑であるため、株式交換のリスクは把握しておく必要があります。

株価が下落する可能性がある

完全子会社の全株式を取得する対価として新株を発行した場合、発行済み株式の合計数が増えるため、1株あたりの価値が小さくなり、親会社の株価が下落する可能性があります。

株式が単元未満株化する可能性がある

親会社が株式を対価として提供すると、「株式交換比率」によっては子会社の株主が持つ株式に単元未満株が発生する可能性があります。

単元未満株は、金融商品取引所での売買ができません。単元未満株が発生した場合は、端数の株式を現金化する、親会社が買い取るなどの方法をとる必要があるため注意が必要です。

株式交換比率

株式交換比率とは、子会社の保有株式数に対して、交付できる親会社の株式の比率です。比率は親会社と子会社の企業価値を比較し、交渉で決められるため、正確な企業価値の算出が求められます。

適格株式交換かどうかで仕訳が変わる

「適格株式交換」とは、同グループ内で株式のみを対価として行われ、効力発生後も両社の関係性が変わらない株式交換を指します。
いくつかの要件を満たした場合は「適格株式交換」に当てはまり、税務上有利になります。

適格株式交換の場合、親会社は税務上、子会社からの取得価額を簿価または簿価純資産で算出します。
親会社、子会社どちらに対しても課税は発生しません。

一方、非適格株式交換の場合、子会社に対して課税が発生する場合があります。
親会社からの対価が金銭等を含んでおり、子会社から譲渡した株式よりも価額が高かった場合は、譲渡損益が計上されます。

また、子会社は一部の資産の時価評価が必要です。時価と簿価の間に発生した利益に対して税金が発生します。

株式交換の最新事例

株式交換の最新事例

実際に行われた株式交換の事例を紹介します。

三菱電機と北弘電社

2024年1月9日、三菱電機は関連会社の北弘電社を4月15日付で完全子会社化すると発表しました。北弘電社の1株あたり0.260株の三菱電機株の交付が予定されており、保有株式11万8834株の交付予定を公表しています。北弘電社は電気設備工事や産業設備機器の販売などを主要事業としています。財務状況が悪化していたところ、株式交換によって経営破綻を回避し、再建を目指しています。

エイチ・ツーオー・リテイリングと関西フードマーケット

エイチ・ツーオー・リテイリングは2024年7月31日に関西フードマーケットとの株式交換の実施を発表しました。関西フードマーケットの1株に対し、1株交付する予定ですが、関西フードマーケットが株主に対して100円の配当を支払うため、実質的にはエイチ・ツーオー・リテイリングの1株に対して、関西フードマーケットの1.11株という交換比率となりました。

中小企業でも柔軟に企業再編できる株式交換

株式交換は、資金がなくても実施できるため、会社の規模を問わず実践できるM&Aの1つです。手続きはやや複雑ですが、手続きの流れや税制などを正しく理解すれば、
メリットの大きい手段として活用できるでしょう。

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【引用(参考)】
注1:企業再編法制における公正と効率 | 周劍龍
注2:いまさら人には聞けない株式交換のQ&A | 横山 淳

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