「ESG」が企業価値に直結する

「ESG」が企業価値に直結する

2021年2月13日付の日本経済新聞の記事によると、大手小売業のイオンが全国290のショッピングセンターを自治体に貸し出し、新型コロナウイルスのワクチン接種会場として提供する方針を固めたようだ。

同記事では、旅行代理店大手のJTBや人材派遣-サービスのパーソルHDが、ワクチン接種関連事務を自治体から請け負う方針でもあることも伝えている。

これらのワクチン接種支援に限らず、コロナ禍による非常時対応と「ESG(環境、社会、ガバナンス)経営」の機運の高まりが相まって、社会貢献活動による企業価値への「正のフィードバック」の経路は複線化しつつある。

筆者が注目するのは以下3点だ。

ブランド価値の高まり

第1に、社会貢献活動を通した企業の「ブランド価値」の高まりである。2020年には、コロナ禍で窮境にあるサービス業を積極的に利用する「エール(応援)消費」が話題となった。それ以前からも、企業やブランドがアクティブに発信する価値観や社会的な取り組みに対するエンドユーザーの共感を背景とした「ダイレクトマーケティング」の機運は高まっていた。D2Cブランドや売らない店舗等が端的な例だ。

株式価値(時価総額)に影響するESG

第2のフィードバック経路は、企業価値の主な構成要素である「株式価値(株式時価総額)」に対するESG等の非財務情報が与えるインパクトである。上場企業の株価への影響力が大きい機関投資家によるESG投資(環境、社会、ガバナンスに配慮した投資銘柄の選別)の動きに加えて、ESG関連銘柄で組成される株価指数やETF(上場投資信託)も増加傾向にある。

ESGへの取り組みは、いまや企業価値向上とは不可分である。

若い人材獲得とESG

若い人材獲得とESG

第3のポイントは、ESGの取り組みを通じた人材獲得だ。例えば、国内外の評価機関によるESGスコアで高評価を獲得する丸井グループでは、サステナビリティの取り組みや情報発信を強化した結果として、自社の企業理念に共感する若年層人材の獲得において、顕著なプラス効果が見られたという。

「守り」のESGから「攻め」のESG

「守り」のESGから「攻め」のESG

企業にとってのESG戦略の位置づけは、環境規制やコーポレート・ガバナンス・コード(CGC)等の遵守といった「守り」の戦略から転じて、消費者、株主、従業員の支持獲得による企業価値向上という「攻め」の打ち手として再定義されていくであろう。

冒頭で紹介したイオン等のケース以外にも、コロナ禍におけるESG強化によって「社会的資本」としての企業価値向上の事例は多数あった。

マスク不足への対応

マスク不足への対応

コロナ感染拡大後に消費者が最初に直面した問題が、マスクの流通在庫の枯渇であった。これに対して、シャープやアイリスオーヤマといった(マスク製造とは畑違いの)製造業が急遽マスクの生産ラインを稼働させたことや、ファッション企業がマスクや消毒液の製造に乗り出したことは記憶に新しい。

ユニクロを運営するファーストリテイリングは、2021年11月末時点で世界26の国・地域に計1,600万枚超の医療用マスクを寄贈している。

航空会社の人材受け入れ

家電量販店大手のノジマが、国際便の運航停止で苦境に陥った日本航空や全日空から出向社員を受け入れると表明したことも世間の注目を集めた。

また、コロナ禍による「巣ごもり消費」の追い風を受けるフードデリバリー業界でも、同業界大手の出前館が飲食店の従業員を配達スタッフとして受け入れる取り組みを拡げている。

医療従事者へのサービス提供

逼迫する医療現場で働く人々に対する支援の動きも拡がった。リラクゼーション施設運営のりらくは、横浜市と協力して、医療従事者に対する無償のサービス提供を行った。

化粧品大手のコーセーは、医療従事者を対象に化粧品36万点を寄贈すると発表した。婦人靴の企画・開発を行うダブルエーは、医療従事者向けに「ORTR」ブランドのスニーカー5万足を提供することを21年2月に発表し、多方面から反響を呼んでいる。

ESGで企業価値の共創を

多くの企業にとって、消費者、株主、従業員等のステークホルダーとの価値共創に向けたESG対応の重要性が高まっている。コロナ影響のみならず、コーポレート・ガバナンス・コード(CGC)改定や東証市場区分変更などの資本市場改革、国際的な環境規制の強化、ネットメディア・SNSの隆盛によって、この傾向は2021年以降も加速していくであろう。企業価値の最大化に向けた「攻めのESG戦略」の検討が急がれる。

関連記事

アナログな小売業 DX成功への処方箋

小売企業の多くが、DXへの取り組みを進めている。しかし、実際にデジタル革新が進んでいると、胸をはる業者は少ない。どうしてうまく進まないのか、ではどうすればいいのか。この記事では当社(フロンティア・マネジメント)のコンサルティング業務から見えてきた、DXの頻出課題と突破するための処方箋を提示したい。

国による「中小企業いじめ」の社会的リスク

菅政権のブレーンとして中小企業の淘汰・再編を指摘するデービッド・アトキンソン氏。彼の出身である英国の中小企業事情を調べてみた。英国では、日本以上に中小企業数が多く、企業数の増加も続いている。米国と中国を除けば、日本は中小企業数が極端に多いわけではない。中小企業の淘汰・再編にフォーカスする経済政策が本当にマクロ経済の復活につながるのだろうか。

EVは本当に最適か?② ガソリン車はなくなるのか 次世代燃料「e-fuel」とは

日本の自動車産業にとって、EVは最適な手段なのであろうか。第2回では、次世代燃料「e-fuel」について紹介するとともに、それが将来のHEV(ハイブリッド車)とBEV(外部充電式電気自動車)の販売シェアに及ぼす影響などについて考察する。

ランキング記事

1

国による「中小企業いじめ」の社会的リスク

菅政権のブレーンとして中小企業の淘汰・再編を指摘するデービッド・アトキンソン氏。彼の出身である英国の中小企業事情を調べてみた。英国では、日本以上に中小企業数が多く、企業数の増加も続いている。米国と中国を除けば、日本は中小企業数が極端に多いわけではない。中小企業の淘汰・再編にフォーカスする経済政策が本当にマクロ経済の復活につながるのだろうか。

2

破壊的イノベーションと持続的イノベーションの違いは?メリットや事例を解説

破壊的イノベーションとは、既存事業のルールを破壊し、業界構造を劇的に変化させるイノベーションモデルです。 この概念は、ハーバード・ビジネススクールの教授であった故クレイトン・クリステンセン氏の著書『イノベーションのジレンマ』で提唱されました。それ以降、飽和状態となりつつある市場に必要なイノベーションとして注目されています。 本稿では、破壊的イノベーションの理論や企業の実践例から、破壊的イノベーションを起こすために必要となる戦略までを解説します。

3

中国で「食品ロス削減令」 農業振興の必要性高まる

農業国から先進国=工業国へ発展を進めてきた中国が、大食いや食料ロスを規制するとともに、農業拡大を強調している。背景には、都市化率上昇と共に、中国の食料課題が、世界にも大きな影響を与えている事情がある。

4

注目を集めるCSV経営とは?実現のための戦略と事例を解説

CSVとは、「Creating Shared Value(共通価値の創造)」の略語です。社会的価値を戦略的に追求すれば、経済的価値も自然に生まれるという考え方を指します。 社会の利益と一企業の利益を同時に追求できることから、持続可能な経営に必要な考え方として注目されているCSV。しかしCSRとの違いや具体的なメリット、経営への落とし込み方について詳しく知らない人も多いでしょう。 そこでこの記事では、CSV経営のメリット・デメリットや国内大手企業のCSV経営事例を解説。またCSVを実践するために必要な経営戦略についても、分かりやすく説明します。

5

任天堂は、新たな黄金期到来か?「サイクル」のピークか? 新体制下での最高益更新

任天堂はGW明けの2021年5月6日、過去最高益となる2021/3期決算を発表した。Wiiが大ヒットしていた2008/3期以来13年ぶりの更新となり、現在時価総額は8兆円を超えた。コロナ禍の「巣ごもり」による追い風はあったものの、40代で老舗企業を率いる古川俊太郎社長の下、若い力とシニア世代の力を融合させたガバナンス例として注目される。任天堂の好調は循環的な「波」によるものか、新たな成長トレンド入りなのか、検証した。

人気のキーワード

海外スタートアップ情報はこちら!  寄稿・執筆者募集中