創発的戦略とは? 意図的戦略との違い

事業における戦略は、大きく「創発的戦略」と「意図的戦略」に分けられます。

創発的戦略とは、イレギュラーな事態に対応しながら流動的に生まれていく戦略のことです。

反対に、意図的戦略とは、あらかじめ決め打ちされた戦略のことを指します。

一般的な「経営戦略」は、意図的戦略のことを意味する場合が多いです。

しかし実際は、意図的戦略と創発的戦略のどちらが欠けても盤石な経営体制は築けません。

特に創発的戦略は、企業の成長や時代への適応などに必要です。

創発的戦略の成功事例

事業を進める中で、イレギュラーな事態は付き物です。
景気の悪化や、市場の動向変化など、外的要因を加味した経営戦略が求められます。

スムーズに事業を進めるカギとなるのが創発的戦略です。

ここからは、「トヨタ・モーター・コーポレーション・オーストラリア」「野村不動産株式会社」「ライオン株式会社」と、「ふるさと納税」の事例を紹介します。

歴史の長い大企業はいずれも、さまざまな予期せぬ事態を創発的戦略で乗り越えてきました。

意図的戦略だけにとらわれず、臨機応変に創発的戦略を用いた企業の成功事例から学ぶことは多いでしょう。

トヨタ・モーター・コーポレーション・オーストラリアの事例

自動車産業に対する政策が変わり、逆境に直面したトヨタ自動車のオーストラリア子会社「トヨタ・モーター・コーポレーション・オーストラリア」が、経営スタイルを柔軟に変えながら新たなビジネスの展開に成功した事例です。

1984年、オーストラリアで今までの国内自動車産業を保護する政策が緩和され、輸出指向政策が打ち出されました。

国内企業の競争激化に直面した同社は、業務の合理化を図るため人員削減を進めつつ、自動車部品や完成車の輸出と輸入を同時に拡大させました。

そして完成した車だけを作って売るのではなく、組み立て工場を新設するなどして、グローバルな自動車、部品供給ネットワークのコア的な立場を確立しました(注1)。

野村不動産株式会社の事例

バブルの崩壊に伴いビル開発事業から撤退した野村不動産株式会社(以下、野村不動産)が、長いブランクを経て2008年に日本初となる中規模ハイグレード・オフィスビル「PMO」を手掛けた事例です。

当時、野村不動産にはビル開発の知識やノウハウが全くない若手社員も多くいました。

そこで、コンセプト作りの段階からプロジェクトの実施までを、営業主体で進行して、顧客が求めているものを正確に汲み取り、ニーズに合わせてビルの設計を都度変更した結果、PMOが誕生したのです。

PMOは、「1フロア1テナントで、なおかつハイグレードな中小ビル」という、当時では新しいニーズを満たすオフィスビルとなりました。

その後も入居予定企業の声に耳を傾け続け、ノウハウを蓄積して物件をカスタムした結果、PMOはシリーズ化にも成功しています(注2)。

このプロジェストスタイルは、元来の野村不動産が行っていた計画的な開発とは異なり、創発的に形成されたものです。

ライオン株式会社の事例

衣料用洗剤や柔軟剤などの「ファブリックケア」をはじめとするライオン株式会社(以下、ライオン)の各事業は、これまで培われた技術と優れた柔軟性を持った運営体制によって支えられています。

たとえばライオンは商品開発部門だけでなく、3つにわたる研究部門と連携を取りながら商品開発を進めます。

また、開発の中心となるブランドマネージャー個人が責任を担うのではなく、社員全員で連携して商品開発を進めることが特徴です。

責任が分散することで多くの部門が平等に意見し、積極的に参加する体制ができるのです。

このように、ライオンは研究所や他の部署などとの連携と情報共有を通して、流動的な顧客のニーズに合わせた商品を実現しているといえます(注3)。

ふるさと納税の事例

1つの企業による創発的戦略とは異なりますが、さまざまな要因が重なったことで公的制度に「ふるさと納税」が取り入れられ、創発的に変化した事例です(注4)。

きっかけは、2004年、福井県豪雨災害の復旧作業が続く中、福井県知事のもとへ匿名で2億円の当選宝くじが送られてきたことです。

これを受けて、知事が「ふるさと寄付金控除」を提案して、多くの議員からも賛同を得たことで、「ふるさと納税」として正式に制度化されました。

当初はほとんど注目されなかったふるさと納税ですが、東日本大震災を機に広く周知されるようになり、そこから仲介サイトが複数立ち上がり、自治体による返礼品の種類も増え、今や日本における一般的な制度として認知されるようになりました。

結果的に地域による税収入の格差を少なくすることにも成功しており、ふるさと納税は自治体にも国民にもメリットのある制度として成立しています。

時代背景に合わせ、公的制度が創発的に変化した事例です。

創発的戦略が生まれやすい環境づくりのポイント

創発的戦略はある意味、予期せぬ事態や時代の流れなどが生み出す副産物ともいえます。

しかし、どの企業でも創発的戦略を形成できるかというと、そうとは限りません。

イレギュラーな事態に対応しきれず、事業そのものが頓挫してしまう場合もあるでしょう。

適切なタイミングで創発的戦略を形成し、実践するにはいくつかのポイントがあります。

重要なのは創発的戦略を生み出しやすく、実践しやすい事業体制を作ることです。

市場のニーズを常にリサーチする

創発的戦略をより早く生み出せるようにするには、まず景気や市場動向の「変化」に気づく必要があります(注5)。

創発的戦略は、市場ニーズや時代背景に合わせて流動的に生まれるものです。

そのため、まずは事業を取り巻く環境や顧客ニーズについて、常にアンテナを張って調べておくことが大切です。

早い段階で変化の兆しを察知できれば、余裕を持って創発的戦略を生み出し、実践できるでしょう。

情報の共有に高い自由度を持つ

社員一人ひとりレベルの情報も広く共有される体制を整えることで、創発的戦略が形成されやすくなります(注6)。
なぜなら情報が広く認知されることで、どこの部署からでも創発的戦略が生まれやすくなるからです。

創発的戦略が生まれるとき、どこの部署の誰から優れたアイディアが生まれるか分かりません。

部署間や上下間に限らず、あらゆる情報が迅速に、そして広く共有されることが理想です。

そのためには、社内ネットワークを強化し、誰もが情報をやりとりしやすい環境づくりが必要となります。

ミドル・マネジメントの役割を明確化する

創発的戦略を形成し実践するには、現場スタッフと経営者層の橋渡し役となる「ミドル・マネジメント」の役割が非常に重要です。

ミドル・マネジメントが部下の創造性を引き出し、現場の声を上層部に届けて経営戦略に反映させることで、創発的戦略が生まれやすくなります(注7)。

創発的戦略を妨げる要因

何らかの要因によって、創発的戦略の創造が妨げられる場合もあります。考えられる要因が以下の2点です。

  • 社員同士の保守的な配慮
  • 組織内における情報の偏り

事業を簡単に傾かせないためにも、考えられる要因はできるだけ排除した上で創発的戦略の形成されやすい経営スタイルを目指しましょう。

社員同士の保守的な配慮

創発的戦略が生まれやすい環境を作るには、事業の基本方針を打ち破りやすい環境づくりが必要となります。

しかし、社員同士の保守的な配慮が働くと、既存のルールやスタイルを壊す提案がしにくくなります。

結果として、創発的戦略も形成されにくくなるのです(注7)。

役職関係なく発言・提案ができるよう、フランクなコミュニケーションを普段から社風として定着させることが必要です。

組織内における情報の偏り

事業が直面する状況に対して共通認識を持ち、最善の戦略を企業全体で形成・周知していくことで創発的戦略は生まれます。

しかし、分業体制の徹底などにより情報がうまく伝わらない場合、創発的戦略は形成されません(注7)。

上下関係や部署間を超えた、柔軟な情報伝達が必要です。

創発的戦略は将来を見据えた経営に不可欠

創発的戦略が生まれることで、企業は意図的戦略の枠に収まらない柔軟なビジネスを実践できます。

また時代背景や市場の変化に応じて創発的戦略を実践することで、企業としてのタフさも養われるはずです。

Frontier Eyes Onlineでは、経営戦略以外にもビジネスに役立つ情報を幅広く提供しています。

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引用(参考)
注1:創発的グローバル戦略 オーストラリア自動車産業の事例から | 藤本隆宏
注2:野村不動産における創発的戦略形成プロセス | 富田純一ほか
注3:経営戦略に関する事例研究(3) | 馬塲杉夫
注4:税制度における創発的ビジネスモデルのイノベーション | 伊藤嘉浩
注5:変化への気づきと創発 | 奥村経世
注6:非連続イノベーションに関する戦略策定プロセスの研究 | 石井正道
注7:戦略的組織学習とホット・グループ | 周炫宗

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