コロナ影響を除くと、大幅増益!?

国内の大手電機メーカーの2020年4-6月期業績は8月12日、東芝の発表で出揃った。従来からコメントしてきた大手8社(日立製作所、東芝、三菱電機、富士通、パナソニック、シャープ、ソニー、キヤノン)の集計値は、売上高8兆4069億円(前年同期比15.7%減)、営業利益3115億円(41.8%減)。営業利益率は5.4→3.7%へと低下した。

「巣ごもり」でゲームが好調なソニーを除く7社は、決算発表時にコロナの業績に対する影響額を公表。その集計値は売上高で1兆1982億円、営業利益で3231億円と巨額になる。

コロナの影響額を足し戻すと、売上高は9兆6051億円(3.7%減)、営業利益は6346億円(18.5%増)、営業利益率は6.6%と試算される。

もちろんコロナの影響が本格化した3月以降、様々なコスト面での対策が取られ、単純に足し戻した数値は、実体は異なると推測されるが、4-6月期の減収の中で利益率を大幅に向上させるコストダウンや事業ポートフォリオ改変が行われたのであろうか?

Withコロナで企業間格差が拡大、富士通・ソニーが好調

個別企業の営業利益は、国内の法人向けサービスが好調だった富士通がコロナ影響を加味しても大幅増益、コロナ影響額をコメントしなかったソニーが実質営業増益維持、と2社が突出して好決算だった。

一方、キヤノン・東芝は営業赤字化し、パナソニックも調整前営業利益は赤字化。日立製作所・三菱電機・シャープの3社の営業利益は概ね半減した。

同じ業界内の個別企業で、これだけ収益変動率が異なるのは珍しい。
8社間で現実に過去数年にわたり事業ポートフォリオ転換を積極的に推進してきた企業群と、改革途上で既存事業の落ち込みにより営業損益が赤字~収支均衡前後まで悪化した企業群には、明らかに収益面での差があり、その格差が拡大している。

個別企業でコロナの影響を足し戻すと、さらに格差が興味深い。富士通が突出しているのは変わらないが、足し戻した営業増益率は、東芝>シャープ>パナソニック>キヤノン、となる。日立製作所・三菱電機の2社は減益だったとしている。
これらには事業別収益構成から見てかなり違和感があり、やはり構造改革において遅行している企業群が、結果としてコロナの影響が大きく、また業績悪化要因をコロナに「寄せている」とのイメージが強い。

ようやく出そろった20年度業績予想

19年度決算発表時に20年度予想の公表を見送っていた企業も、4-6月期決算発表と併せ20年度予想を公表した。
8社計では売上高39兆円(7.3%減)、営業利益1兆7110億円(34.9%減)。コロナの影響額(ソニーが未公表のため7社合計値)は、売上高で3兆160億円・営業利益で8970億円。
これを足し戻すと、売上高は42兆160億円(0.2%減)・営業利益は2兆6080億円(0.8%減)とちょうど横ばいとなる。ただし、個別企業ベースではコロナの影響額を足し戻すと、特に4-6月期と同様に大きく企業間での違いが鮮明となる。
コロナ影響額を足し戻したベースで営業増益率の高い順に並べると、シャープ(108.7%増)>東芝(53.3%増)>キヤノン(23.1%増)>富士通(18.3%増)>パナソニック(2.1%増)>日立製作所(0.6%減)>三菱電機(1.8%減)>ソニー(26.7%減)、となる。

構造的なコロナの影響、現在各社の事業別収益構成、構造改革の動き、現時点で判明しているM&Aのインパクトなどを考慮すると、2020/7-9月期からの鋭角的回復→拡大を前提とするこの増益率順には違和感を持つ。
現在の予想営業増益率順が、今後の下方修正率順になるリスクも感じる。

予想上回る米国企業の業績

米商務省が7月30日に発表した2020年4-6月期米国GDP成長率(速報値)は、-32.9%と統計開始以来のマイナスとなったが、7月中旬から発表されている米国企業の決算は、事前予想を上回っている企業が大半のようだ。
ゴールドマン・サックスのレポートによると、4-6月期決算で事前のアナリスト予想を上回った会社数は過去最多となった模様だ。
今後の見通しも上方修正方向に動いており、SP500ベースでの2020年のEPS予想は2019年比で19%減だが、前回予想比で+13%上方修正、2021年は31%増益が見込まれるとしている。
特に個別企業で見ると、テクノロジー系の大企業における収益拡大が全体をけん引している印象が強い。GAFAに代表されるこれら企業群は、Withコロナの環境で成長率・収益性ともに向上させている企業も多くみられる。
大半のテクノロジー企業は、コロナウイルスの影響額等、外部環境激変による定量的ネガティブインパクトをコメントしておらず、日本とは対照的だ。

事業環境激変を転換のチャンスに!

事業環境がドラスチックに変化する中、モデレートな構造改革や事業ポートフォリオ転換・ビジネスモデル転換、などでは追い付かない。レガシーによる非効率性を持たない新興事業者が参入・台頭し、過去のビジネスモデルを破壊しながら、新たな成長を遂げるのは何度も繰り返してきた歴史だ。
過去日本の大手企業は後手に回ってきたが、逆に激変期に入り再び大きなチャンス期を迎えているとも考えられる。現実に富士通やソニーの収益性向上、比較的堅調な日立製作所・三菱電機は良い例だ。これらは、企業それぞれのMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)をクリアに定義し、事業の取捨選択を行ってコア事業を明白化。コア事業では勝てる方程式を詳細なベンチマーキングと中長期予測により策定、素早く実行するべきだ。

勇気をもってレガシーの切り離しを!

アクティビストの台頭に加え、CGC(コーポレートガバナンス・コード)導入でガバナンス体制が大きく変わり、少なくとも名目上は企業価値の持続的拡大が経営の最大目的となった中、日本企業における経営体制への株主からの圧力は、過去類を見ないほど高い。
現在時点で予想される範囲で2021年は多くの企業が経営者交代時期・中計最終年度などを迎える。
コロナ等外部環境の影響による収益悪化と事業環境の急速な変化、Withコロナを前提とする新たなMVV・中長期ゴール等の経営方針を含む経営チームの交代、等がレガシー切り離しの理由となりえる。

余力あるうちに構造改革を

幸い大半の企業は財務的に余力のある状態にあり、現在は抜本的な構造改革やM&Aを含むコア事業への投資が可能な状態と推測される。ピンチをチャンスに変えるため、まずは企業・事業規模の大幅な縮小を伴ったとしても、勇気をもってレガシーを切り離す必要があろう。少なくともここ半年のニュースフローでは、パナソニック・東芝・シャープ等も抜本改革へ向けた準備を行っているとの印象が強く、今後注目される。

関連記事

国による「中小企業いじめ」の社会的リスク

菅政権のブレーンとして中小企業の淘汰・再編を指摘するデービッド・アトキンソン氏。彼の出身である英国の中小企業事情を調べてみた。英国では、日本以上に中小企業数が多く、企業数の増加も続いている。米国と中国を除けば、日本は中小企業数が極端に多いわけではない。中小企業の淘汰・再編にフォーカスする経済政策が本当にマクロ経済の復活につながるのだろうか。

EVは本当に最適か?② ガソリン車はなくなるのか 次世代燃料「e-fuel」とは

日本の自動車産業にとって、EVは最適な手段なのであろうか。第2回では、次世代燃料「e-fuel」について紹介するとともに、それが将来のHEV(ハイブリッド車)とBEV(外部充電式電気自動車)の販売シェアに及ぼす影響などについて考察する。

任天堂は、新たな黄金期到来か?「サイクル」のピークか? 新体制下での最高益更新

任天堂はGW明けの2021年5月6日、過去最高益となる2021/3期決算を発表した。Wiiが大ヒットしていた2008/3期以来13年ぶりの更新となり、現在時価総額は8兆円を超えた。コロナ禍の「巣ごもり」による追い風はあったものの、40代で老舗企業を率いる古川俊太郎社長の下、若い力とシニア世代の力を融合させたガバナンス例として注目される。任天堂の好調は循環的な「波」によるものか、新たな成長トレンド入りなのか、検証した。

ランキング記事

1

プロスポーツチームの戦略オプション コロナ禍でとるべき選択とは

近年、国内においてサッカー、野球、バスケットボールを中心に各種競技でプロスポーツチームが多数誕生しており、スポーツ市場は拡大傾向にある。一方、経営状況が厳しいチームが多く、組織の維持・発展に向けては、地域・チーム特性を活かした独自戦略の構築が求められている。

2

中国で「食品ロス削減令」 農業振興の必要性高まる

農業国から先進国=工業国へ発展を進めてきた中国が、大食いや食料ロスを規制するとともに、農業拡大を強調している。背景には、都市化率上昇と共に、中国の食料課題が、世界にも大きな影響を与えている事情がある。

3

マスクの基準ない国、日本 JIS規格採用で生活の「質」改善を

マスク着用は、「生活習慣」として定着した。COVID-19(新型コロナウイルス)感染症の拡大から約1年半、性能や品質に基準のなかった日本で、業界団体によりJIS規格導入の動きが進む。本稿ではマスクの機能的な進化と課題、今後の方向性について考察した。

4

破壊的イノベーションと持続的イノベーションの違いは?メリットや事例を解説

破壊的イノベーションとは、既存事業のルールを破壊し、業界構造を劇的に変化させるイノベーションモデルです。 この概念は、ハーバード・ビジネススクールの教授であった故クレイトン・クリステンセン氏の著書『イノベーションのジレンマ』で提唱されました。それ以降、飽和状態となりつつある市場に必要なイノベーションとして注目されています。 本稿では、破壊的イノベーションの理論や企業の実践例から、破壊的イノベーションを起こすために必要となる戦略までを解説します。

5

任天堂は、新たな黄金期到来か?「サイクル」のピークか? 新体制下での最高益更新

任天堂はGW明けの2021年5月6日、過去最高益となる2021/3期決算を発表した。Wiiが大ヒットしていた2008/3期以来13年ぶりの更新となり、現在時価総額は8兆円を超えた。コロナ禍の「巣ごもり」による追い風はあったものの、40代で老舗企業を率いる古川俊太郎社長の下、若い力とシニア世代の力を融合させたガバナンス例として注目される。任天堂の好調は循環的な「波」によるものか、新たな成長トレンド入りなのか、検証した。

人気のキーワード

海外スタートアップ情報はこちら!  寄稿・執筆者募集中