リスクから展望する2024年予想図 日米経済と不動産市場はどうなる

予測には必ずリスクが伴う。最近は戦争や紛争等の地政学的リスクが顕在化する一方、中国の不動産問題が引き続き金融リスクとして残るなど、海外発の不安材料が多い。これらは日本に無縁ではなく、グローバル化が進んだ国内の経済や産業に少なからぬダメージを与える。リスクに焦点をあてつつ、2024年の米国経済、日本経済、日本の不動産市場を展望した。2024年は日米ともに実質GDP成長率の減速が見込まれる。一方、東京のオフィス市場は供給の谷間で比較的落ち着いた動きになるだろう。また、東京都心の新築マンションの販売価格は高値が続くが、価格調整の動きもあり得る。

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米国経済のソフトランディング・シナリオにはリスクも多い

米国経済のソフトランディング・シナリオにはリスクも多い

FRB(Federal Reserve Board)は、2022年3月に始まった利上げが事実上終結したとの趣旨の発言を2023年末にしており、その後の米国経済の注目点は利下げのタイミング、回数および利下げ幅に移っている。

市場の期待するメインシナリオは、インフレ率が順調に減速する結果、利下げも着実に進んで、不況への突入は回避されるソフトランディング・シナリオだ。

しかし、このシナリオにはリスクも多い。そもそも、生産拠点のグローバル化の流れが逆転して生産コストが増していることにより、今後インフレ率が3%を大きく下回る水準で安定的に推移する可能性は低い。

また米国では慢性的な労働力不足により、特に低所得分野で賃金上昇圧力は強い。更には、コロナ禍後の拡張的な財政政策により米国債の需給は悪化している。

中東情勢・くすぶる「コロナ後」…景気後退のリスク続く

このような環境下で、イスラエルとハマスの間の戦争が長期化および拡大して中東情勢の深刻さが増し、原油価格が高騰する事態となれば、インフレが再燃するリスクは否定できない。
         
一方、景気は最近まで堅調で、2023年の不安要因であった景気後退は起きていない。しかし金利負担の重さが個人消費の制約要因となっており、これは住宅販売や自動車販売で顕著だ。

またコロナ禍対策の給付金等の「余剰貯蓄」はほぼ使い果たされ、生活必需品を除いた品目では買い控え傾向さえ出つつある。コロナ禍での外出制限の反動で喚起される「リベンジ消費」も減速している。猶予されていた学生ローンの返済も2023年秋から再開した。

なお、中小規模の銀行が抱える商業不動産ローンの不良債権化は金融リスクとして残る。また中国経済の減速ペースが早まれば、米国を含むグローバルで需要が急減するリスクもある。

即ち2024年の米国経済には、引き続き景気後退のリスクが残る。実質GDP成長率は2023年見通しの2%台半ばに対して、2024年は1%台半ばに1ポイント程減速する可能性が高い。またインフレと景気後退が併存するスタグフレーションに陥るリスクも残る。

大統領選 トランプ氏“返り咲き”ならば

さらに2024年は米国大統領選挙の年だ。

現時点の世論調査は、トランプ前大統領がホワイトハウスに戻る可能性が高いことを示唆している。これは米国経済にはリスクとなり得る。トランプ氏が大統領に返り咲けば、まず所得税の減税を行う可能性が高い。これは短期的には経済にプラスだが、財政赤字の拡大から国債価格の下落を経て長期金利の上昇につながるリスクがある。

またトランプ氏は、ほとんどの輸入品に関税を課す政策を打ち出し、特に中国に対しては最恵国待遇の廃止を示唆している。このような政策はインフレを加速させ、個人消費にも影響がおよぶ。また米国第3位の輸出相手に対して、貿易面での対立を深めるのであれば、米国自身も痛みを被るのは不可避だ。  

日本経済のリスクは海外にあり

日本経済のリスクは海外にあり

2023年の実質GDP成長率は2%弱と見込まれ、2022年の1%弱から加速しており、昨年の日本経済は堅調に推移した。

コロナ禍後の経済活動の正常化が順調に進んだことや、インバウンド需要の回復が成長率を押し上げた。米国経済が予想を上回って推移したことも、経済を下支えした。

ただし堅調だったのは上期(1-6月)までで、下期(7-12月期)に入ると失速感が出てきた。2023年7-9月期の実質GDP成長率は前期比年率-2.9%(2次速報値)と、4四半期ぶりのマイナス成長となった。

実質個人消費と実質設備投資の二つの内需の柱がともに2四半期連続でマイナスとなっており、景気は弱含みで推移している。一方、直近の2023年12月の消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)は前年同月比+2.3%となり、伸び率は9月以降4ヵ月連続で3%を下回った。輸入物価の上昇圧力がやや緩和していることが背景にあると考えられる。

米中の景気減速が変動要因に

2024年の日本経済において、前年と比較した変動要因としては、中国経済と米国経済の減速による輸出の減少が挙げられる。

日本の最大の輸出相手国である中国の景気減速は、2024年も続く可能性が高い。中国政府は2023年10月に1兆元の国債の追加発行による景気対策を打ち出したが、1兆元は2022年の名目GDP120.4兆元の0.8%で、景気浮揚効果は限定的と考えられる。

日本の2番目の輸出相手国である米国経済は、2024年はGDPの約7割を占める個人消費が減速すると予想される。

国内では依然として物価高が足かせに

国内をみると、引き続き物価高が個人消費の抑制要因となる。2023年は1年を通じて名目賃金上昇率は物価上昇率を下回り、実質賃金上昇率は前年比マイナスであった。この傾向は2024年も続くと考えられる。

またインバウンド需要の回復は一巡しつつあり、2024年の成長率への寄与は2023年と比べて小さくなると予想される。

なお、政府が2023年11月に決定した総合経済対策も、所得減税と給付金の総額5兆円強は名目GDPの1%以下に過ぎず、景気の押し上げ効果は限定的と考える。

その結果、2024年の成長率は1%前後となり、2023年の2%弱と比べて1ポイント程度低下する可能性が高い。

春闘での予想を上回る賃上げ率および実質賃金の前年比プラスへの転換などは景気の上振れ要因となる。逆に、米国経済の本格的な景気後退、中国経済の減速ペースの加速、米国および中国での不動産ローンの不良債権化がもたらす金融リスク、イスラエル・ハマス戦争やウクライナ戦争の長期化や他国を巻込んでの戦線拡大等は、日本の景気にとっても下押しリスクとなり得る。

なお、2024年は日本銀行がこれまでの金融政策を修正する可能性が高い。

具体的には、イールドカーブ・コントロール(YCC)の撤廃とマイナス金利政策の解除を行う可能性が高い。ただし景気の現状を考えるとゼロ金利政策の解除までは至らず、当面は緩和的な金融環境は維持すると考えられる。

しかし日銀が早期の金融政策の正常化が必要と考え、2%の物価安定の目標達成にはこだわらず、ゼロ金利政策の解除を含む抜本的な政策修正をする可能性もゼロではない。このような修正が行なわれれば、金利の上昇や為替の急速な円高を通じて、景気に逆風となるリスクも否定はできない。

2024年のオフィス市場 新規供給が一時的に減少

2024年のオフィス市場 新規供給が一時的に減少

オフィス市場に目を転じると、2023年12月の東京都心5区の平均空室率は6.03%となり、7月以降6カ月連続で前月と比べて低下、もしくは横ばいとなった。

一方、平均賃料は19,748円/坪で、1年前の12月の20,059円/坪から1.6%の低下にとどまった(三鬼商事調べ 2024年1月11日)。

より長期の推移をみると、2020年2月に1.49%で底打ちした空室率は、コロナ禍がもたらす在宅勤務の拡大の影響もあり、その後右肩上がりの上昇に転じた。2021年2月には、賃料の増減の分岐点と市場で見られている5%を超えたが、同年6月以降、現在までの2年半は6%をわずかに上回る程度で、概ね横ばいで推移している。

2024年に向けての需要面を表す指標としては、森ビルが昨年9月から10月にかけて実施した調査で、オフィス床の「新規賃借予定あり」と回答した企業が27%で、前回調査から3ポイント増加した。

うち過半数の55%が、新規賃借面積を「拡大予定」と回答した、との調査結果が出ており、需要の増加を示唆している(森ビル「東京23区オフィスニーズに関する調査」2023年12月14日)。

ただし、企業が実際にオフィス床の拡大に踏み切るか否かは景気次第であり、2024年は景気の減速が予想されていることは留意したい。

また近年、大企業は、本社や拠点オフィスへの出社とサテライトオフィスでの勤務および在宅勤務を組み合わせたハイブリッドな勤務形態をとる例が多いため、使用するオフィス床のサイズについては抑制傾向だ。外資系企業も、一昨年の秋以降続く需要の減退傾向が落ち着きつつある程度で、反転の兆しはまだない。

結局、現在の需要の中心は、中堅以下の企業やスタートアップなどからの小規模面積の需要の積み重ねであり、このタイプが大きく伸びて全体の需要を牽引することは期待しにくい。

2024年の需要は昨年と比べて概ね横ばいとなる可能性が高い。一方、東京23区のオフィス床の新規供給は、2023年の126万㎡に対して2024年は42%減少して73万㎡となり、供給圧力が減る。ただし翌年の2025年は前年と比べて86%増加し、136万㎡が供給される見込みだ(森ビル「東京23区の大規模オフィスビル市場動向調査2023」2023年5月25日)。

そこで、東京都心5区の平均空室率は、2024年上期(1-6月)で6%弱と概ね横ばいで推移し、2025年に供給されるビルのリーシングが活発化する2024年下期(7-12月)には7%へ向けて上昇傾向になると予想される。

一方、2024年の平均賃料は、前年比5%減程度と比較的小幅の減少による調整が1年を通して続く可能性が高い。

ただし、好立地で築年数が浅く、設備に優れアメニティ(快適性や心地よさ)の整った大型ビルでは賃料の値上げが起こる一方で、それらの条件に満たない古いビルは賃料を下げてもなかなか埋まらないという2極化が、一段と進むと思われる。

なおオフィス市場にとってのリスクは景気そのものだ。更に言えば、景況感が重要だ。上振れも下振れもある。

マンション価格は高値が続くが価格調整の動きも

マンション価格は高値が続くが価格調整の動きも

2023年(1-12月)に発売された東京23区の新築マンションの戸当たり平均価格は、前年同期より39.4%高い1億1,483万円となり、初めて1億円を突破した(不動産経済研究所調べ 2024年1月25日)。

「三田ガーデンヒルズ」「ワールドタワーレジデンス」など戸当り平均価格で2億-4億円程度の超高額マンションが都心で相次ぎ売り出されたことによる。

価格高騰の背景には、資材価格や労務費等、建築費の上昇がある。土地のコストである用地価格も上昇している。デベロッパーが、これらのコスト増を販売価格に転嫁していることにより、新たに発売されるマンションの平均価格は増大している。

価格高騰の二つ目の背景は、高額マンションに対する需要の強さにある。この場合の需要は、自らの居住目的で購入する「実需」が殆どであると説明されることが多い。

ただし、都心の人気立地の超高額マンションを実需として購入出来るのは、数十億円の資産を持つスーパー富裕層や世帯収入が数千万円のスーパーリッチカップルなどに限られる。実需だけでは現在の高額マンションの売れ行きの良さを説明出来ない。

つまりは、実需に加えて、個人や外国人などからの投資目的の購入が、高額マンション購入者全体の20-30%存在すると推定される。

これらの投資家の多くは、2013年から始まったアベノミクスでの不動産価格の上昇局面で、マンション投資で利益を得た成功体験を持つ。そこで買い意欲は旺盛で、良いマンションと判断すれば、高い価格でも買いを入れる傾向がある。

需要の強さに加えて、最近4-5年の首都圏の新築分譲マンションの供給量は毎年約3万戸と低い水準であり,需給がタイトに推移していることも、販売価格が上昇する一因となっている。

2024年の新築マンションの販売価格は、ここからさらに上がる可能性も否定は出来ない。というのも、デベロッパーにすれば、用地=土地は既に上昇した価格で仕込み済であり、建築費も上昇した価格および更なる上昇を見込んだ価格で発注済なので、これらのコスト増を販売価格に転嫁せざるを得ないという事情があるからだ。

しかし一方で、現在東京の都心で供給される新築マンションの販売価格はアフォーダビリティ(値ごろ感)をはるかに超えており、もはや一部の富裕層もしくは投資目的でしか手が出せない商品に向かいつつある。

2024年は販売価格の見直しや供給する商品群の商品構成の見直しにより、市場の平均価格が調整局面入りする可能性がある。

住宅ローン 変動型の金利上昇はまだ先

住宅販売にとって、金利上昇は間違いなくリスクである。

現在日本では、新しく住宅ローンを組む人の約9割が変動金利型を選択しているといわれる。これは約9割が長期固定型とされる米国とは対照的だ。

日銀が金融政策を見直して利上げを視野に入れようとしている現段階で、金利上昇のリスクを認識し、変動型から固定型への借り換えを考えるのは自然だろう。ただし現在の経済環境を考えると、変動型の金利上昇はまだ先である可能性が高い

というのも、住宅ローンの変動金利は短期プライムレート(短プラ)に連動して動くが、短プラはマイナス金利政策の解除で上がる可能性は低いからだ。ゼロ金利政策の解除によってはじめて上昇し始めると考えられる。

ただしゼロ金利政策の解除は景気に悪影響を与える。そのため、グローバルで景気の減速が予想される2024年に日銀が踏み込める政策ではないと考えられる。

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