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M&A を成功に導くデューデリジェンスとは?目的や種類を徹底解説
近年、国内M&A は年々増加して おり、2019年には国内のM&A件数が4,000件を超えました。また、近年の傾向としてスタートアップ企業の資金調達額も右肩上がりで、ベンチャーキャピタル(VC)や投資ファンドを中心とした投資市場も堅調に成長しています。 M&Aやスタートアップ投資の増加によって、昨今需要が増しているのが「デューデリジェンス(DD)」です。今回は、デューデリジェンスの目的や種類、必要な期間・費用などについて解説していきましょう。
デューデリジェンス(DD)とは?意味と目的
デューデリジェンス(Due Diligence)とは、企業の価値やリスクなどを評価するためにおこなう企業調査のこと。M&Aの準備として、譲受企業が譲渡候補企業に対してデューデリジェンスをおこなうのが一般的です。また、ベンチャーキャピタル(VC)などが投資先企業に対してデューデリジェンスをおこなうケースも増えています。
デューデリジェンスの目的
デューデリジェンスの目的は、M&Aに際して、実施の判断や方針の意思決定をするために、客観的な情報を得ることです。対象企業に対してデューデリジェンスをおこなうことで、M&Aに影響を及ぼすようなリスクを把握して、実施の可否や条件等の判断材料にするわけです。
デューデリジェンスの結果、リスクが見つかった場合は、「それでもM&Aや投資をする価値があるか?」「譲渡価格や投資額の見直しは必要か?」「将来的にリスクを回収できるだけのメリットがあるか?」などを判断します。M&Aのスキームを精査するための情報入手という意味合いも大きくなります。
デューデリジェンスの種類
デューデリジェンスの範囲は幅広く、対象企業を財務、税務、法務、人事などの様々な観点から調査します。一般的な6種類のデューデリジェンスについてご説明します。
財務デューデリジェンス
財務DD(ファイナンシャルDD)は、対象企業の財務状況を調査するデューデリジェンスです。単に「デューデリジェンス」と言う際は財務DDを指すケースが多く、M&A の最終ジャッジに影響を及ぼす重要な調査になります。
財務DDでは、対象企業の財務状況や収益性を正確に把握し、財務リスクを調査します。財務調査には専門性が必要なので、公認会計士や会計事務所に依頼するのが一般的です。
法務デューデリジェンス
法務DD(リーガルDD)は、対象企業の法的問題の有無を調査するデューデリジェンスです。特にM&Aでは、法的な阻害要因が見つかるケースや、訴訟に繋がり後に大きな損害になるケースも少なくないため、法務DDによってリスクを把握することが重要です。
法務DDでは、登記や株主・株式や子会社・関連会社との契約状況、知的財産権の状況、許認可、顧客・取引先との契約、従業員との雇用契約などを細かくチェックして、法的なトラブルの種がないかを確認します。多岐にわたる各種法令への理解が欠かせないため、専門機関に依頼するのが一般的です。
事業デューデリジェンス
事業DD(ビジネスDD)は、M&Aの対象企業の具体的なビジネスについて調査するデューデリジェンスです。経営管理や事業モデル、商品力やブランドイメージ、市場動向などの外部環境、マーケットにおけるシェアやポジショニングなどを把握することで事業の将来性を見極めます。
事業・ビジネスの将来性を見定めるとともに、期待できるシナジー効果を測るなど、事業の価値を測る視点が欠かせないため、コンサルティングファームなどに依頼するのが一般的です。
人事デューデリジェンス
人事DDは、対象企業における人材配置や合併後の人材活用、労使間の問題などを調査するデューデリジェンスです。M&Aにおける人事上のリスクの把握とともに、合併時のリスクを事前に把握し、事前に準備を進める目的もあります。
人事制度や企業文化が異なる組織を統合することで、想定外の問題が生じることがあります。問題なくM&Aを実施できたとしても、後々人事的な問題が発生し、期待していたシナジー効果が得られないケースも少なくありません。このような事態を避けるために欠かせないのが人事DDです。
税務デューデリジェンス
税務DDは、対象企業が抱える税務上のリスクを明らかにするデューデリジェンスです。過去の税務処理を調査して、申告漏れや納税処理の誤りがないかを確認します。これは、M&Aの実施後に誤りなどが発覚すると、譲受企業が追徴課税などで損失を被るリスクがあるためです。
また、M&Aにともなって発生する税金の調査もおこない、税負担を最小化できるM&Aのスキームを検討します。
ITデューデリジェンス
ITDDは、主にM&Aを前提に、対象企業で運用されているITシステムについて調査をするデューデリジェンスです。M&AによってITシステム環境の再構築が必要か、コストはどの程度必要か、またITシステム統合による業務への支障がないかなどを把握したうえで、自社システムと統合する方法を精査します。
デューデリジェンスにかかる期間は?
デューデリジェンスに要する期間は、対象企業の規模や調査する内容などによって変わってきます。
あくまで一般論になりますが、中小企業や非上場企業を対象とするデューデリジェンスであれば1ヶ月程度が目安になります。規模の小さい会社であれば、事前に準備を進めておけば1~2週間で終わることもあります。一方で、大企業や上場企業を対象とするデューデリジェンスは2~3ヶ月に及ぶケースも少なくありません。
デューデリジェンスはM&Aの成功のために欠かせないものです。期間を十分に確保しておくと良いでしょう。また、資料を事前に揃えておくことでデューデリジェンスがスムーズになるので、譲渡企業は事前に準備をしておくと良いでしょう。
デューデリジェンスにかかる費用相場は?
デューデリジェンスはM&Aの譲受企業、または投資を検討する企業からの依頼を受けて、公認会計士や監査法人、税理士、弁護士、コンサルティングファームなどがおこなうのが一般的です。このときの費用は、それぞれの専門家・専門機関によって、また対象企業の規模や調査範囲などによって大きく変わってきます。
財務DD・法務DDの費用相場
デューデリジェンスの中心になるのが財務DDと法務DDです。この2つで100〜200万円程度は見積もっておくとよいでしょう。
財務DDでも法務DDでも、専門家1時間あたりの単価は2~5万円だと言われます。そのため調査に10時間を要したら20~50万円という計算になります。一般的に、財務DDと法務DDで、合わせて100~200万円は想定しておくとよいでしょう。
「時間単価 × 作業時間」という報酬体系の場合、期間と予算に応じて調査範囲を決定しましょう。調査範囲によって必要な期間が変わるためデューデリジェンスの費用も変わります。また、時間当たりの調査の進行、調査の質は担当者の手腕・経験にも左右されるため、デューデリジェンスの依頼先選定が重要です。
入念なデューデリジェンスで精度の高い意思決定を
年間1億円の利益を出す企業だと見込んでM&Aをしたのに、蓋を開けたら、利益どころか年間1億円の損失を出す企業だった・・・。極端な話だと思われるかもしれませんが、実際にこのような例があるのも事実です。
デューデリジェンスは、M&Aや投資の成否を左右する非常に重要なプロセスです。デューデリジェンスを実施しなかったり、出費を抑えるために中途半端なデューデリジェンスで終わらせたりすると、後々頭を抱えることになりかねません。入念なデューデリジェンスをおこなうことで、最適な意思決定が可能になります。
ぜひ、信頼できるパートナーとともに精度の高いデューデリジェンスを実施しましょう。特にM&Aの場合は、その後のプロセスである「PMI」においても大きな効果を発揮します。
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