上場廃止の基準・メリット・事例を解説 2022年以降はどうなる?

2020年のIPO(株式新規上場)数は93社と活況を呈している一方で、同年で57社が「上場廃止」しました。 新規上場セレモニーで鐘を叩いている華やかなイメージがあるIPOに対して、上場廃止にはどことなくネガティブな印象を持ってしまいがちです。 ただ、様々な理由で戦略的に株式上場を廃止する企業も多いようです。 今回は株式上場を取り巻く環境を踏まえ、上場廃止の基準やメリットについて、事例を通じてご説明します。

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上場廃止とは

上場廃止は証券取引所(以下、東京証券取引所について記載します)に上場している自社株式の上場をやめ、非公開化することです。

東京証券取引所が公表している上場廃止銘柄の上場廃止理由を見てみると、大きく以下の6つの類型に分かれています。

  1. 第三者による買収に起因する上場廃止
  2. 親会社による完全子会社化や持ち分比率の上昇による上場廃止
  3. 合併により消滅会社となることによる上場廃止
  4. MBO(マネジメントバイアウト)による上場廃止
  5. 経営戦略としての上場廃止
  6. 破産や倒産、またはそれに準じる財務状況となり上場廃止基準に抵触したことによる上場廃止

上場会社を対象とする買収や、親会社による完全子会社化、経営者による経営権の取得(MBO)は、市場に出回っている株式を買い集める必要があるため、一般的にはTOB(株式公開買い付け)という手段がとられます。

TOB成立後、残った株式に売渡請求をかけることや、新大株主主導で保有分を1株に併合し、残る株式を単元未満株(端株)とすることで買い取るなどの手法で上場廃止させるケースが多いといえます。

上場廃止基準に抵触する可能性が出た場合、証券取引所はその銘柄を監理銘柄に指定し、諸々の状況を確認したのち、上場廃止が決まった時点で整理銘柄に指定します。

上場廃止を目的とした買収や親会社による完全子会社化、MBOなどの事例では、その事象が発生した段階で監理銘柄に指定され、事象が決定的となった時点で整理銘柄に指定され、上場廃止となります。

上場廃止基準

証券取引所は円滑で安全な株式取引を行う場所を提供するため、財務状況が相応に優良で、かつ円滑な株式売買取引が可能な会社に上場を維持させる使命があります。

投資家保護の観点から、「保有する株式を売りたくても売れない」状況や「財務状況があまりにも悪い」状況、「社長の独断専行がひどくて牽制機能が働いていない」状況等の会社に対しては、一定の基準を設けて上場を廃止させます。

その基準を上場廃止基準といいます。

主な上場廃止基準は「株主数」や「流通株式比率」、「売買高」といった株式の流動性に関する基準や、「債務超過」といった財務状況に関する基準。そして「有価証券報告書の虚偽記載」といった、会社体制やガバナンス体制に関する基準が存在します。

上場企業にとっては上場廃止基準に抵触しないように業績悪化させない努力をすることはもちろんです。
それに加え、IRを積極的に行うことや、企業としてのガバナンス体制の強化に努めなくてはなりません。

新たな市場区分ではどうなる?

東京証券取引所は2022年4月を目途に市場区分の見直しを実施する予定です。
現在東証には、市場第一部(流通性が高い企業向けの市場)、市場第二部(実績のある企業向けの市場)、マザーズ(新興企業むけの市場)、JASDAQ(多様な企業向けの市場で、「スタンダード」と「グロース」に分かれる)の5市場が存在します。
その5市場を、プライム市場、スタンダード市場、グロース市場の3市場に見直す予定です。

プライム市場

大木の機関投資家の投資対象となりうる希望の時価総額(流動性)を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資家との建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場

スタンダード市場

公開された市場における投資対象として一定の時価総額(流動性)を持ち、上場企業としての基本的なガバナンス水準を備えつつ、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場

グロース市場

高い成長性を実現するための事業計画及びその進捗の適時・適切な開示が行われ、一定の市場評価が得られる一方で、事業実績の観点から相対的にリスクが高い企業旨の市場

新たな市場区分の変更の目的は、現在の東証一部上場社数は2,191社(2021年1月31日現在)と、東証の全上場企業数(3,752社)の実に3分の2を占めており、事業規模の大小やガバナンス体制の優劣が混在している状況を是正し、投資家にとって投資によるリスクがわかりやすい市場構成にすることといえます。

新たな市場区分においては時価総額(流動性)に加え、ガバナンスの充足状況が注目されています。

ガバナンスについては、コーポレートガバナンスコード(CGコード)が今春に改定が予定されています。

どのような「あるべき姿」を提示するかが注目されており、プライム市場を目指す企業は新たなCGコードが要請するガバナンス体制の充足を目指すことになります。

新CGコードの内容は現状定かではありませんが、ガバナンス体制の未健全が指摘されやすい親子上場をしている企業にとっては逆風かもしれませんし、また、ガバナンス強化のための追加的なコストも発生する可能性もあり、いわゆる上場コストの上昇も懸念されています。

上場廃止のメリット

上場廃止のメリットを考える前に、そもそも上場をしていることの意義と、上場することよるコストについて考えてみたいと思います。

上場の意義と上場コスト 

自社の株式を上場させることは、一般的に知名度や信用力の改善につながるといわれ、取引先との取引条件の改善や採用活動による優秀な人材確保に寄与するものと考えられています。

一方で、株式上場を維持するためには上場手数料や監査法人への監査費用などの目に見える多額の出費を要します。それに加え、株式関連事務が煩雑なことや四半期開示やIRのための人的コストがかさむ側面もあります。

これらを上場コストといいますが、上場していることで得られるメリットと、上場コストのバランスの観点から戦略的に上場廃止を選択する企業もあるようです。次に上場していることにより経営のスピード感が阻害されるといった意見についてもみてみましょう。

上場していると経営の自由度が阻害される? 

上場していると否応なく「外部株主」からの意見や要望に耳を傾ける必要がありますし、大株主から役員を迎え入れることもあり、上場企業の経営者にとっては経営の自由度が制限されてしまっていると感じられる側面もあります。

株式会社が社会の公器であるとの前提に立てば、経営者の独断専行をけん制する外部の声に耳を傾ける必要があります。しかし、スピード感をもった経営意思決定のためには、時として経営者に権限を集約させて成長を加速させる必要があるかもしれません。

上場廃止の事例

戦略的に上場を廃止した事例を3件ご紹介します。

まずは経営の自由度獲得のために上場廃止をしたカルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下CCC)の事例です。

上場廃止により経営の自由度を獲得したCCCの事例 

TSUTAYAを運営するCCCは、2000年に東証マザーズに上場し、2011年7月に創業者の増田宗昭氏によるMBOにより、上場を廃止しました。

上場を維持すると株主に対する利益成長を約束する必要があり、企画会社としてのCCCとして、リスクを取れなくなると説明しています。

上場廃止後、当時はハイリスクと評価された代官山蔦屋書店を開業するなど、株主への説明を意識した経営ではなかなか取れない戦略を矢継ぎ早に行い、大きな成果を上げていることでも知られています。

次に抜本的な経営再建のためにMBOによる上場廃止をし、再上場を果たしたすかいらくの事例です。

上場廃止を行いスピーディな経営再建を実現したすかいらーくの事例 

2000年代初頭に業績悪化に陥った同社は、「5万人の株主がいたら改革は進まない。もう一度会社をつくりなおすため」との理由で2006年にMBOを行い、上場を廃止しました。
投資ファンドの支援を受けながら再建し、再上場するといった、こちらも戦略的な上場廃止の事例ということができます。

最後にご紹介するのは記憶に新しい、2020年12月に上場廃止となったNTTドコモの事例で、最近の潮流である親子上場解消の典型的な事例です。

親子上場の解消でグループ経営の強化を図ったNTTドコモの事例

NTTドコモは親会社であるNTTによるTOBの成立を受けて上場廃止なりました。

その目的は、NTTによる「稼ぎ頭」であるNTTドコモの完全子会社化により、その利益を配当として外部流出させることなくグループとして海外展開をはじめとする戦略の加速に向けることにあるといわれています。

NTTが投じた株式の買い集め資金は、実に4兆3000億円にもおよび、過去最大規模のTOB案件となりました。

まとめ

上場企業であることは一種のステータスである一方で、上場コストが多額にかかることや、外部株主への配慮から経営の意思決定のスピードが鈍化してしまうこともあり、メリット・デメリットが存在します。

また、CGコードの改定など、今後、更なるガバナンス強化の要請が想定されることから、親子上場の解消や経営戦略の加速といった目的での上場廃止が増加するでしょう。

確固たる目的をもって上場廃止を行うということは、主要な経営戦略の一つなのではないでしょうか。

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