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上場廃止とは? 基準・メリット・事例を解説
2022年のIPO(株式新規上場)数は100社以上と活況を呈している一方で、同年で70社以上が「上場廃止」しました。 新規上場セレモニーで鐘を叩いている華やかなイメージがあるIPOに対して、上場廃止にはどことなくネガティブな印象を持ってしまいがちです。ただ、様々な理由で戦略的に株式上場を廃止する企業も多いようです。今回は株式上場を取り巻く環境を踏まえ、上場廃止の基準やメリットについて、事例を通じてご説明します。
上場廃止とは
上場廃止とは、証券取引所(以下、東京証券取引所について記載します)に上場している自社株式の上場をやめ、非公開化することです。
上場廃止をする理由
東京証券取引所が公表している上場廃止銘柄の上場廃止理由を見てみると、大きく以下の6つの類型に分かれています。
- 第三者による買収に起因する上場廃止
- 親会社による完全子会社化や持ち分比率の上昇による上場廃止
- 合併により消滅会社となることによる上場廃止
- MBO(マネジメントバイアウト)による上場廃止
- 経営戦略としての上場廃止
- 破産や倒産、またはそれに準じる財務状況となり上場廃止基準に抵触したことによる上場廃止
上場会社を対象とする買収や、親会社による完全子会社化、経営者による経営権の取得(MBO)は、市場に出回っている株式を買い集める必要があるため、一般的にはTOB(株式公開買い付け)という手段がとられます。
TOB成立後、残った株式に売渡請求をかけることや、新大株主主導で保有分を1株に併合し、残る株式を単元未満株(端株)とすることで買い取るなどの手法で上場廃止させるケースが多いといえます。
上場廃止基準に抵触する可能性が出た場合、証券取引所はその銘柄を監理銘柄に指定し、諸々の状況を確認したのち、上場廃止が決まった時点で整理銘柄に指定します。
上場廃止を目的とした買収や親会社による完全子会社化、MBOなどの事例では、その事象が発生した段階で監理銘柄に指定され、事象が決定的となった時点で整理銘柄に指定され、上場廃止となります。
6つの上場廃止基準
証券取引所は、公正かつ透明性の高い市場を提供する役割を担っており、そのためには上場企業が一定の基準を満たすことが必要です。これらの基準は、投資家保護を目的としており、流動性が低い、財務状況が不安定、または経営上の問題がある企業に対しては、上場を廃止することがあります。
上場廃止基準は、以下の6つの主要なカテゴリーに分けられます。
- 上場維持基準への不適合:株主数、流通株式比率、売買高など、企業が市場で持続可能であるための基本的な要件。
- 有価証券報告書の提出遅延:定められた期間内に財務報告書の提出がない場合。
- 虚偽記載又は不適正意見等:財務報告書に不正確な情報が記載されている場合や、監査法人からの適正な意見が得られていない場合。
- 特設注意市場銘柄等:内部管理体制に問題があり、改善の見込みがないと判断された場合。
- 上場契約違反等:上場に際しての契約や宣誓に対する違反がある場合。
- その他:銀行取引の停止、破産手続きの開始、事業活動の停止など、その他の特別な状況に対応する基準。
上場企業にとっては、これらの基準に違反しないように業績を維持することが重要です。また、投資家とのコミュニケーション(IR)を積極的に行うことや、ガバナンス体制の強化に努めることも、企業の長期的な信頼性と市場での地位を保つために不可欠です。
上場廃止のメリット
上場廃止のメリットを考える前に、そもそも上場をしていることの意義と、上場することよるコストについて紹介します。
上場の意義と上場コスト
自社の株式を上場させることは、一般的に知名度や信用力の改善につながるといわれ、取引先との取引条件の改善や採用活動による優秀な人材確保に寄与するものと考えられています。
一方で、株式上場を維持するためには上場手数料や監査法人への監査費用などの目に見える多額の出費を要します。それに加え、株式関連事務が煩雑なことや四半期開示やIRのための人的コストがかさむ側面もあります。
これらを上場コストといいますが、上場していることで得られるメリットと、上場コストのバランスの観点から戦略的に上場廃止を選択する企業もあるようです。次に上場していることにより経営のスピード感が阻害されるといった意見についてもみてみましょう。
上場していると経営の自由度が阻害される?
上場していると否応なく「外部株主」からの意見や要望に耳を傾ける必要がありますし、大株主から役員を迎え入れることもあり、上場企業の経営者にとっては経営の自由度が制限されてしまっていると感じられる側面もあります。
株式会社が社会の公器であるとの前提に立てば、経営者の独断専行をけん制する外部の声に耳を傾ける必要があります。しかし、スピード感をもった経営意思決定のためには、時として経営者に権限を集約させて成長を加速させる必要があるかもしれません。
上場廃止の事例
戦略的に上場を廃止した事例を3件ご紹介します。
まずは経営の自由度獲得のために上場廃止をしたカルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下CCC)の事例です。
上場廃止により経営の自由度を獲得したCCCの事例
TSUTAYAを運営するCCCは、2000年に東証マザーズに上場し、2011年7月に創業者の増田宗昭氏によるMBOにより、上場を廃止しました。
上場を維持すると株主に対する利益成長を約束する必要があり、企画会社としてのCCCとして、リスクを取れなくなると説明しています。
上場廃止後、当時はハイリスクと評価された代官山蔦屋書店を開業するなど、株主への説明を意識した経営ではなかなか取れない戦略を矢継ぎ早に行い、大きな成果を上げていることでも知られています。
次に抜本的な経営再建のためにMBOによる上場廃止をし、再上場を果たしたすかいらくの事例です。
上場廃止を行いスピーディな経営再建を実現したすかいらーくの事例
2000年代初頭に業績悪化に陥ったすかいらーくは、「5万人の株主がいたら改革は進まない。もう一度会社をつくりなおすため」との理由で2006年にMBOを行い、上場を廃止しました。
投資ファンドの支援を受けながら再建し、再上場するといった、こちらも戦略的な上場廃止の事例ということができます。
続いて紹介するのは、2020年12月に上場廃止となったNTTドコモの事例で、最近の潮流である親子上場解消の典型的な事例です。
親子上場の解消でグループ経営の強化を図ったNTTドコモの事例
NTTドコモは親会社であるNTTによるTOBの成立を受けて上場廃止となりました。
その目的は、NTTによる「稼ぎ頭」であるNTTドコモの完全子会社化により、その利益を配当として外部流出させることなくグループとして海外展開をはじめとする戦略の加速に向けることにあるといわれています。
NTTが投じた株式の買い集め資金は、実に4兆3000億円にもおよび、過去最大規模のTOB案件となりました。
今後の経営に期待のかかる東芝の事例
東芝の非上場までの経緯は、経営上の混乱と重大な決断によって特徴づけられます。2015年に発覚した不正会計問題と、2017年の原発事業の巨額損失により、同社は経営危機に陥りました。これに対処するため、主要なメモリ事業や医療事業、白物家電事業、テレビ事業、パソコン事業などを売却しました。
2021年11月、東芝は会社を3つに分割し、それぞれを上場させるという前例のない方針を発表しました。この決定は大株主からの指摘に基づくものでしたが、3分割にかかる高コストと主要株主からの反対により、2022年2月に方針を修正し、2分割案へと変更しました。
2022年4月、東芝は株式の非上場化に向けて動き出し、日本産業パートナーズが提案した公開買い付けを受け入れました。これにより、株式の78%以上が取得されました。2022年11月22日、東芝は臨時株主総会で株式の買い取りを完了するための議案が可決され、東京証券取引所と名古屋証券取引所で整理銘柄に指定されました。そして、2023年12月20日に上場廃止が決定し、74年に及ぶ上場企業としての歴史に幕を閉じ、非上場企業へと移行しました。この決定は経営の安定化を目的とし、今後は長年にわたって混乱が続いた経営を正常化し、グループの成長をどう進めていくかが課題となります。
まとめ
上場企業であることは一種のステータスである一方で、上場コストが多額にかかることや、外部株主への配慮から経営の意思決定のスピードが鈍化してしまうこともあり、メリット・デメリットが存在します。
また、CGコードの改定など、今後、更なるガバナンス強化の要請が想定されることから、親子上場の解消や経営戦略の加速といった目的での上場廃止が増加するでしょう。
確固たる目的をもって上場廃止を行うということは、主要な経営戦略の一つなのではないでしょうか。
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