止まない企業の不正・不祥事

止まない企業の不正・不祥事

コロナ禍でリモート化が進む中、一時は減少していた不正・不祥事も、残念なことに増えつつあるのが現状である。

上場企業において不正・不祥事に伴い調査委員会等の設置が公表されたケースは2020年に一旦65件に減少したものの、2021年には71件と2018年のピーク時の89%となっている。海外渡航の規制がより緩和され、国内移動が活性化し、対面での業務監査等が進めば一層件数が増加することが想定され、減少傾向というよりは高止まりの様相を呈している。

このような中で、2020年以降を取っても、複数回の調査委員会の設置または報告書を開示している企業がいくつか見られる。具体的には、大和ハウス、パナソニック、東レ、東芝、関西電力などいずれも日本を代表する企業(子会社を含む)である。

不正・不祥事が複数見られることそのものは必ずしも悪いとは言えない。不正・不祥事を経験したことにより、不正・不祥事が見過ごされずに発見されやすくなったこともあれば、企業の社会的責任の観点からネガティブ情報であっても開示し、再発防止策に取り組もうという姿勢の現れともとれる。隠蔽し、大事化してしまうよりは遥かに良い。

しかしながら、過去に不正・不祥事が発覚していながら、同種または異なる不正が継続して起きていることは、事実であり、再発防止策がうまく機能していないことを物語っている。

なぜ不正は繰り返されるのか

なぜ不正は繰り返されるのか

調査報告書には、基本的に再発防止策の提言が含まれている。

再発防止策をみると、規程・ルールの整備や組織体制の見直し、けん制を利かせるための仕組みの導入といった対象となる不正・不祥事案件を防ぐための直接的な再発防止策と、経営層及び職場のコンプライアンス意識の欠如、ガバナンスの欠如、職場風土といった問題が根本原因として指摘されている。間接的な再発防止策として、トップメッセージの発信、コンプライアンス研修の実施、内部通報制度の周知、活用促進といった例が並ぶ。

テキストマイニング

テキストマイニング
出所:ユーザーローカルのAIテキストマイニング

2020年1月~2022年4月にかけて調査委員会等を設置し、再発防止策(提言を含む)を公表した一部上場(プライム)企業の再発防止策をマイニングした結果。文字の大きさは頻度と重要度を、色は同一系統を指す。

実際に、各社の再発防止策の項目(見出し等)をテキストマイニングすると、コンプライアンス、内部統制、ガバナンスなどの文字が並び、多くの会社で共通した対策が採られていることがわかる。

会計不正や横領、品質不正、資格の不正取得と不正の種類は多様であっても、コンプライアンス、内部統制、ガバナンスなどが共通して挙がっているところをみると、この点が根本原因とみている専門家や企業が多いことがうかがえる。

なぜ不祥事が繰り返されるのか

不正の種類に関わらず、共通の再発防止策を取りながらも、不正・不祥事が繰り返されている理由としては、根本的な原因に対する、具体的な再発防止策が機能していない可能性と、そもそも再発防止策をやりきっていないことが考えられる。

実際に、2020年以降に調査委員会等を設置した企業の大半が再発防止策を公表しているものの、進捗状況の報告や調査結果の続報など継続的な公表を行っている企業は14%※注1に留まり、継続して取り組んでいる様子が見えてこない。このことから、再発防止策をやり切っていない企業の比率が一定程度存在していることが考えられる。

※注1 当社調べ。2020年1月から2022年4月末までに公表された東証一部(またはプライム)企業の不正・不祥事案90件の中で、継続的な情報発信、再発防止策の進捗状況を公表している件数(13件)の比率。

再発防止策が機能していない点についてみると、組織風土の問題といった根本原因に言及しつつ、その対応策として挙がるものは、トップメッセージの発信であったり、コンプライアンス研修の実施、人事制度の見直しといったものが多い。

それぞれ導入実績や実施回数や参加者数など、具体的に活動が見え易く取り組み易い。

不正・不祥事の直接的な対応と合わせ、全く同じ不正・不祥事を防ぐ点で一定の効果は期待できる。

その結果、現場では、複雑で多岐にわたるルールの遵守やその遵守状況をチェックするための仕組み等で非効率極まりない状況に陥っている。こうした現場の疲弊が、別の不正・不祥事の原因となっていることが推察される。

「やり方」と「あり方」

「やり方」と「あり方」
出典:スコラ・コンサルト

企業風土改革で実績のあるスコラ・コンサルトの企業風土の氷山モデルに当てはめると、再発防止策で挙がっている対策は、いずれも「やり方」に分類される取組みである。

考え方や人と人、組織と組織の関係性といった「あり方」まで踏み込んだ対策を行っている企業は見られない。別の例えをすると「やり方」は組織のアプリケーションであり、「あり方」は組織のOSと言える。

古いOSの上にいくら新しいアプリケーションを導入したところでうまく稼働させることは難しい、将来的にバグもでずに安定することは保証できない。

不正・不祥事の再発防止についても同様のことが言える。組織風土の変革を持続させるには、OSである「あり方」のバージョンアップを併せて行う必要が重要である。

三菱電機にみる組織風土改革への取り組み方

調査委員会に指摘された不適切行為件数総括
2021年10月公表 2021年12月公表 2022年5月公表 累計
調査拠点数 2 5 22 22
うち、不適切行為発生拠点数 2 5 15 16
品質不適切行為発生件数 18 29 101 148

出所:三菱電機 2022年5月25日 「品質不適切行為の原因究明及び再発防止策(第3報)」についての会見資料を基にFMI作成

2022年5月25日、三菱電機による三回目の調査報告が公表された。

元々2021年6月に不正認識した鉄道車両用空調装置の品質不正に端を発し、同年7月から外部調査委員会を設置して調査を行っているものである。

当初の品質不正事案が実に35年以上も続いていたことにも驚かされたが、調査が進むにつれて品質不正の件数が大幅に増加していることや、一部の管理職が調査委員会が実施していたアンケート調査への協力を妨害していたことが報道されるなど、同社の企業風土そのものの問題が露見していった。

一方で、2021年7月に立ち上がった調査委員会が発足後10カ月以上にわたって調査を継続し、これまで3回の調査報告を行っている点に注目したい。

その理由の一つは、品質不正以前にも労務問題で世間を賑わせたこともあり、徹底的に膿を出し切る覚悟を持って取り組んでいることがうかがえることである。

加えて、三菱電機では、再発防止策を含む 「品質風土」「組織風土」「ガバナンス」の3つの改革に着手しており、調査報告と合わせて進捗報告を行っているからである。特に注目しているのは「組織風土」改革である。

「ありたい姿」を共有し腹落ちさせる

三菱電機では公募で全社から45名のメンバーを選出し、社長をリーダーとする風土改革チーム創生を立ち上げ、組織風土の改革に着手している。そこで広くヒアリングを行い、真因追及を行った後に「ありたい姿」を想定し、ありたい姿実現に向けた解決策を検討するといった手順を踏んでいる。

組織風土改革において「ありたい姿」を共有することは極めて重要である。そして何より重要なことは、メンバー間で「ありたい姿」を単に共有するだけでなく、腹落ちしていることである。腹落ちしなければ、行動に結びつかないからである。

三菱電機の取り組みがどこまで深く行えているか、調査報告書や報告資料の中だけでは十分に把握できないが、少なくともその他多くの調査報告や経過報告に比べると「あり方」の変革を伴って再発防止策に取り組んでいることがうかがえる。

企業風土改革を見守りたい

「ありたい姿」を共有し、そこから課題を抽出し、課題解決に向けた施策にトライ&エラーで取り組むこと。企業風土改革には、このプロセスが欠かせない。

三菱電機の再発防止の取り組み、組織風土改革の取組はまだ緒に就いたばかりだとは思われるが、今後の進展をしっかりと見届けたい。

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