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ゼネコンの枠組を超えて進化を目指す…インフロニアの挑戦
昨年10月から、準大手ゼネコンの前田建設工業とほか2社の共同持株会社であるインフロニア・ホールディングス(以下インフロニア)がスタートした。今後国内の新規建設の請負市場が縮小すると予想される中で、インフロニアは、従来のゼネコンの枠組を超えて総合インフラサービス企業へと進化することで、2030年度に営業利益を現在の倍の1000憶円にするとの野心的な計画を発表している。現在日本の建設業が置かれている事業環境と、インフロニアがどこへ向かおうとしているかを考察する。
ゼネコンは「請け負け」業
日本の建設業では、まず工事を発注する発注者がいて、次にその工事を請負って工事全体をまとめる元請=ゼネコンが存在し、元請の下で下請がそれぞれ各担当の工事を請負うという構造になっている。
そして工事を始める前にほとんどの場合、請負契約を取り交わす。請負契約は、元請であるゼネコンが事前に工事金額の見積もりを出し、発注者と合意した価格と工期で工事を完成させる契約形態で、設計変更や追加工事などが発生して当初の契約条件が変わらない限り、発注者から支払われる金額は変わらない。
しかし実際には、工事は数年間続くことも多いため、工事期間中に資材価格や労務費等のコストが上昇するリスクがある。また工事開始後に予期せぬトラブルが発生して、工期が長引くリスクが顕在化することも少なくない。
請負契約の場合、そういった価格の上昇による追加コストはゼネコンの負担になることが多い。また、発注者=施主と当初合意した工期は、よほどの事情がない限り延長されないのが一般的である。工期の延長を回避するためには、人員を多く投入するなどして突貫工事を行うが、そのコストもゼネコンが負担することになる。
このように発注者の立場が極めて強く、工事に関わるほとんどのリスクをゼネコンが負担する契約形態を、建設業界では「請け負け」と表現している。
過当競争から抜け出せない業界体質
過去50年の期間で、ゼネコンが売上に対して相応なまともな利益を計上した時期は2回しかない。
最初は1980年代後半のバブル期で、次は2013年頃から始まったアベノミクスと東京オリンピックで需要が高まった時期だ。それ以外の期間は業界全体でずっと薄利が続いてきた。
原因は過当競争だ。ゼネコンが顧客に提供するプロダクトは建設工事というサービスだが、このプロダクトは本来差別化がしにくい。なぜなら、発注者から指定された仕様で工事をすれば、どのゼネコンが施工しても同じものが出来上がるからだ。
まさにこのサービスはコモディティー化している。そこで受注獲得のための他社との差別化は、価格が中心となる。特に民間から受注する建築工事の価格競争は激しい。それでも薄利とはいえ、個々の工事で利益が出ているうちはまだいい。ゼネコンは、バブル崩壊後やリーマンショック後のような経済の深い落ち込みがもたらす建設需要の低迷期には、売上を確保する目的で赤字工事の受注に走る傾向がある。
インフロニアは売上高より利益率を優先
インフロニアグループの中核企業である準大手ゼネコンの前田建設工業は、現在でも、官庁工事であれ民間工事であれ、大半の建設工事を請負契約で受注している。それでも、利益率は大手ゼネコンと比べて遜色ない水準にある。
ちなみに直近の2022年度第1四半期の単体の建築工事の売上総利益率は、前田建設工業が8.1%であったのに対して、大手ゼネコン4社は、大成建設が4.5%、大林組が5.9%、清水建設が5.0%、鹿島が8.9%であった。
前田建設工業の完成工事の利益率が高いのは、個々の工事の受注活動の際に、受注高(≒売上高)ではなく、受注時利益率の高い案件を優先して受注する方針であることによると考えられる。具体的には、赤字工事の受注回避の方針がほぼ徹底されていると推測されること、単なる相見積もりによる受注ではなく顧客の建設計画立案の初期段階から関与する案件の受注に注力して価格競争を極力回避していること、に加えて、前田建設工業が推し進めている「原価開示方式」による受注がわずかずつだが貢献してきていると推測されること、等が挙げられる。
原価開示方式で適正利益を確保
前田建設工業が採用している原価開示方式では、契約時に目標とした工事価格に加え、元請として受け取る報酬や資材費、下請に支払う報酬など、実際に支払ったコストのすべてを発注者にリアルタイムで開示する。
実際にかかったコストにフィーを載せて契約するため、この契約方式は一般的には「コストプラスフィー」と呼ばれる。原価を開示することで工事価格に透明性が確保され、それにより顧客から信頼を得ることができ、結果として適正利益の要求が受け入れられやすくなる、との考えが原価開示方式の背後にある。
2005年9月に導入して以降、原価開示方式による受注は累計で2000億円に達している(2021年12月現在)。17年前に前田建設工業が始めたこの契約方式は、国土交通省が入札契約として導入するなど、徐々に市場で認知されつつある。
インフラ運営のすべてに関わり成長軌道に乗る
前田建設工業は「脱請負」を経営戦略の柱としている。脱請負という言葉は、「請負を脱する」という意味だが、会社の説明では、請負のビジネスをやめてしまう訳ではない。
従来の建設工事の請負のビジネスに加えて、社会インフラの運営プロジェクトの事業主体となり、事業リスクを取るビジネスを拡大して利益成長したいとの意思が込められている。具体的には、空港や上下水道、有料道路のような社会インフラの運営権を一定期間取得するコンセッション事業を拡大し、社会インフラの施工(EPC)のみならず、開発・出資に始まり、竣工後の運営・維持管理(O&M)から売却まで、インフラ運営に関わるすべてのビジネスを一気通貫に手掛けて成長するとの計画だ。
その背景として、今後日本では高齢化と人口減少が加速する一方、戦後に構築された社会インフラの老朽化が進み、それらの維持管理や更新にかかるコストが増えるという読みがある。そのコストを公的資金だけで賄うのは財政上困難なため、政府は官民連携の手法であるPPP/PFI(コンセッションを含む)の推進アクションプランを策定し、2022年から10年間の事業規模目標を30兆円と設定している。
インフラ運営事業の利益の存在感が増しつつある
前田建設工業は2011 年に脱請負を宣言した後、愛知県有料道路や愛知県国際展示場、仙台空港など、国内のコンセッションプロジェクトを獲得してきた。最近では、大阪市の工業用水道のコンセッションが今年の4月にスタートした一方、来年4月から神奈川県三浦市の下水道コンセッションがスタートする予定である。
コンセッションや再生可能エネルギー等の脱請負のビジネスからの収益のほとんどは、「インフラ運営事業」のセグメントに集約されている。今年度(2022年度)の会社の見込みでは、インフラ運営事業の連結営業利益への貢献額(インフラ運営事業セグメントの営業利益にインフラ運営事業により創出される建設工事の営業利益を合わせた数値)は109憶円となり、前期の72億円から増加する一方、426憶円の連結営業利益予想に対する割合は25.6%となり、前期の19.2%から上昇して存在感が増しつつある。
まとめ
インフロニアが追及するビジネスモデルは、日本のゼネコンの中ではユニークなものであり、今後の成長ペースは注目に値する。現在のところ、国内のコンセッション事業で実績を積み重ねつつあり、会社は総合インフラサービス企業への道を着々と歩みつつある。
一方で、コンセッションやM&Aに大きな資金を投じることは、バランスシートが拡大することを意味する。減損リスクを含めて、いかにバランスシートリスクをコントロールできるかが、今後問われることになるだろう。
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