リーマン・ショック級のリスクはあるのか? 米国「商業不動産ローン」の今後

アメリカのシリコンバレー銀行(Silicon Valley Bank・SVB)とシグネチャー銀行(Signature Bank ・SB)が2023年3月、相次いで破綻した。アメリカでは2つの銀行が破たんする前から、商業不動産のファンダメンタルズの悪化と商業不動産ローンの不良債権化のリスク、そしてそのリスクが特に中小規模の銀行にもたらす影響についての懸念が高まっていた。さらに最近になって商業不動産ローン、特にオフィスを裏付け資産とするローンのデフォルトが増えており、リスクも顕在化している。今回は、そうした最も低迷している不動産タイプのオフィスの現状・見通しと、それに伴った商業不動産ローンのリスクが、今後どのように顕在化するかについて考察した。

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アメリカでは商業不動産を裏付けとするローンのデフォルトが増加

アメリカでは商業不動産を裏付けとするローンのデフォルトが増加

資産運用会社のブルックフィールド・アセット・マネジメント(Brookfield Asset Management)は最近、ロサンゼルスのダウンタウンにある52階建てのオフィスタワーの777 South Figueroa St.と、もう一つのロサンゼルスのタワーの2棟を担保とした7億5,000万ドル(約980億円)のローンをデフォルト(債務不履行)させた。

一方で同じく資産運用会社のパシフィック・インベストメント・マネジメント(Pimco)も最近、ツイッター社が入居するニューヨークとサンフランシスコのビルを含むオフィスビルのポートフォリオを裏付けとするモーゲージ・ローンをデフォルトさせたと報じられた(Wall Street Journal 2023年3月28日)。

さらには不動産投資会社のRelated Fund ManagementとBentallGreenOakもロングアイランドシティの2棟のオフィスビルを裏付けとするモーゲージ・ローンをデフォルトさせてレンダーに鍵を渡したとメディアは伝えている(BISNOW 2023年2月9日)。

商業不動産ローンのリスクが顕在化しつつある

商業不動産ローンのリスクが顕在化しつつある

そうした商業不動産ローンのデフォルトは、上場REITにも及んでいる。上場REITであるColumbia Property Trust(2021年に39億ドル<約5,070億円>でPimcoに買収された)は、ニューヨーク、ボストン、サンフランシスコ、ジャージーシティにある7棟のビルに裏付けられた17億ドル(約2,210憶円)のローンをデフォルトさせた(BISNOW 2023年2月23日 )。

ローンは変動金利であったため、FRBが2022年3月からわずか1年で4.75%も利上げをした後では利払いの負担が増し、借り換えは困難だったはずだ。

一方で担保となっていた7棟のビルは、2021年には22億7,000万ドル(約2,950億円)という評価だったが、直近の評価はそれを大きく下回っていると推察される。

つまり、金利上昇とキャッシュフローの低下により商業不動産の価値の下落が続いており、それにより商業不動産ローンの不良債権化のリスクが顕在化しつつあるのだ。

オフィスのファンダメンタルズの悪化が主たる要因

オフィスのファンダメンタルズの悪化が主たる要因

商業不動産の価値は下落しているが、どの不動産タイプも同じペースで下落している訳ではない。

賃貸住宅の価値も下落はしているが、一方でインフレから恩恵も受けている。そのため、立地にもよるが、家賃の引き上げは可能だ。

しかしオフィスは、リモートワークの普及により需要が縮小しており、さらに景気の先行き不安が加わっている。それゆえに、キャッシュフローの減少が底打ちするタイミングが見えにくく、資産価値の下落率は他の不動産タイプより大きくなるのだ。

不動産調査会社のGreen Streetが算出する商業不動産価格指数(The Green Street Commercial Property Price Index®)の2023年3月の指数は前年同月比で15%低下しており、商業不動産の中でもオフィスの下落率が最も大きく、質の良い物件でさえ同25%下落した(Green Street:2023年4月6日)。

つまり、商業不動産で顕在化しているリスクの主たる要因は、オフィスのファンダメンタルズの悪化にあるのだ。

オフィスのファンダメンタルズの悪化が主たる要因

オフィス空室率は引き続き上昇傾向。実質賃料は下落が続く

オフィス空室率は引き続き上昇傾向。実質賃料は下落が続く

不動産サービス会社のCushman & Wakefieldの調査によれば、2023年第1四半期(1-3月期)の全米平均のオフィス空室率(サブリースを含む)は18.6%で、前四半期(2022年10-12月期)の18.0%から上昇し、これで13四半期連続の上昇となった。

ヒューストン、ロサンゼルス、ミネアポリス、フェニックス、サンフランシスコの空室率は25%程度にまで上昇し、シカゴ、アトランタ、ニューヨーク、ダラス、シアトルなどの空室率も20%を超えている。

ただしアメリカ東南部の州では、マイアミのように空室率が緩やかな低下に転じた都市もある。また、都市を問わず一部のAクラスビルでも空室は減少傾向にある。

一方で第一四半期の全米平均の募集賃料は$37.03/sfで、前四半期の$37.02/sfと比べてほぼ横這いだった。ただ、これはサブリースを含む表面賃料の数字に過ぎない。

空室が増加する市況下で、ビルオーナーはテナント確保のためにフリーレント(一定期間の無料契約)の設定や、本来テナントが負担すべき内装工事費の一部を負担している。

そのため、それらのインセンティブ(アメリカではコンセッションという)を含む実質賃料はまだ下落していると推定できる。

ニューヨーク・ミッドタウンで新築の One VanderbiltやHudson Yards が、眺望の良い上層階で$200/sfを超える超強気の賃料で成約する例もあるが、それはあくまでも好立地、かつ、新築でアメニティの充実したハイグレードの一部のAクラスビルに限られる。

オフィス需要低迷の要因はリモートワークだが最近はオフィスへの出社も増える

オフィス需要低迷の要因はリモートワークだが最近はオフィスへの出社も増える

全米の多くのオフィスが苦境に陥っている背景には、コロナ禍で普及したリモートワーク(在宅勤務やシェアオフィスなどでの勤務)や、ハイブリッドワーク(リモートワークとオフィスへの出社の組合せ)へのワークスタイルの変化がある。

コロナ禍に落ち着きが見られる現在、日本では勤務態様をコロナ前に戻したり、コロナ禍の時と比べてオフィスへの出社の頻度を増やしたりする企業が増えている。

一方のアメリカでは、コロナ禍が収まりつつある現在でも、コロナ禍で実施したリモートワークやハイブリッドワークを継続している企業は多い。

リモートワークやハイブリッドワークを続けるならば、当然企業はオフィスの総面積を減らす。ワークスタイルの変化がもたらす企業のオフィススペースの縮小が、特に築年数の古いオフィスビルの先行きに暗い影を落としている。

ただ最近はアメリカでもリモートワークをしない企業が徐々に増えている。アメリカ労働統計局の調査結果によれば、従業員がリモートワークをまったく、もしくはほとんどしていない事業所は、2022年8-9月は72.5%で、2021年7-9月の60.1%から上昇している(U.S. Bureau of Labor Statistics 2023年3月22日)。

オフィス需要低迷の要因はリモートワークだが最近はオフィスへの出社も増える

商業不動産ローンの出し手は中堅以下の銀行、MBS、生保などが中心

商業不動産ローンの出し手は中堅以下の銀行、MBS、生保などが中心

アメリカ抵当銀行協会(MBA)によると、2022年第4四半期での全米の商業不動産ローンの残高は、4兆5,322億ドル(約590兆円)。そのうち最も多い資金の出し手は銀行で、全体の38.6%。その次に政府系金融機関が組成するMBS(資産担保証券)の21%、生保の14.7%と続いている(MBA Quarterly Databook Q4 2022)。

格付け機関のMoody’sによれば、アメリカの銀行4,715行のシェア38.6%をさらに分解すると、資産規模1,600憶ドル(約20兆8,000憶円)以上の大手25行(large bank)が12.1%、資産規模100憶ドル(約1兆3,000憶円)から1,600憶ドル(約20兆8,000憶円)の中堅クラスの地方銀行(regional bank)135行が13.8%、資産規模10憶ドル(約1,300憶円)から100憶ドル(約1兆3,000憶円)のコミュニティ銀行(community bank)829行が9.6%、資産規模10憶ドル(約1,300憶円)以下の小規模な地方銀行(small bank)3,726行が3.2%となる。(Moody‘s ANALYTICS 2023年4月4日)。

銀行で注目すべきは、それぞれの規模別カテゴリーでの、商業不動産ローンの総資産に占める比率だ。大手25行が4.3%なのに対して、中堅地方銀行135行は16.5%、コミュニティ銀行(community bank)829行は24.3%、資産規模1憶ドル(約130憶円)から10憶ドル(約1,300憶円)の小規模地方銀行(small bank)2,965行は18.3%、資産規模1憶ドル(約130憶円)以下の小規模地方銀行(small bank)761行は7.2%と、中堅以下の地方銀行の総資産上で、商業不動産ローンの存在感が大きいことがわかる。

商業不動産ローンの借り換えは簡単ではない

商業不動産ローンの借り換えは簡単ではない

インフレかつ景気の先行きに不安がただよう現在の環境下で、商業不動産ローンが今後次々に返済期限を迎える。

ストラクチャード・ファイナンスの調査会社のTreppによれば、4,480億ドル(約58兆2,400憶円)の商業不動産ローンが今年償還期限を迎える。そして、そのうち約60%にあたる2,700憶ドル(約35兆1,000億円)が銀行からの融資であり、さらにそのうちの約30%にあたる800憶ドル(約10兆4,000億円)がオフィスを担保とするローンなのだ。

また2023年から2027年までの累計で、2兆5,600億ドル(約332兆8,000憶円)が償還期限を迎える(Trepp 2023年3月27日)。金融引き締めと金利高の環境下での借り換えは、より高いコストゆえに交渉は厳しいものとなるだろう。

また過去の景気後退期のように、銀行や生保などは、商業不動産向けの融資残高を減らそうとするだろうから、交渉はさらに厳しさを増すことが予想される。

今後、商業不動産ローンのデフォルトの増加は避けがたい

今後、商業不動産ローンのデフォルトの増加は避けがたい

リモートワークやハイブリッドワークが定着する一方で、IT業界や金融業界を中心に人員削減が続けば、アメリカの多くの主要都市でオフィス空室率は高止まりが続き、オフィスの価値も下がり、オフィスを裏付けとする商業不動産ローンのデフォルトも増える可能性が一層高まっていく。

デフォルトが増えれば、銀行の財務を圧迫する。商業不動産向けのローン残高が高水準の銀行は、深刻な経営危機に陥る可能性もあるだろう。

さらにデフォルトが増え続ければ、中小規模の銀行を中心に経営危機に陥る金融機関が続出する展開も、シナリオの一つとしてはあり得る。程度の差はあれ、今後アメリカの商業不動産ローン市場が痛手をこうむることは避けがたいと考えられる。

リスクを低減させる要因もある

一方で、金融引き締めと金利高の環境下であっても、リスクを低減させる要因もある。第一に、マイアミなどの都市や一部のAクラスビルでは、オフィス空室率は低下に転じており、リモートワークからオフィス出社に戻す企業が少しずつ出ている。

第二に、オフィスを含む商業不動産のキャップレートをみると、10年米国債利回りとの間のスプレッドは、平均して300ベーシス程度に保たれている。そこで直近の金利上昇の一部はこの厚目のスプレッドに吸収されて、不動産価格の下落幅の拡大が抑制されることが期待できる。

第三に、リーマン・ショック(Global financial Crisis)以降、銀行の資本は増強されているのに加えて、商業不動産向けの融資基準は厳しくなっている。
特にLTV(Loan-To-Value:負債の不動産評価額に対する割合)は、リーマン・ショック前と比べてかなり低い。銀行が抱える商業不動産ローンのLTVは、2000年頃の70%強から10ポイントほど低下して、現在は60%強程度になった(Moody‘s ANALYTICS 2023年4月4日)。低いLTVは不動産評価額の低下に際して、銀行の評価損引当額を軽減する働きを持つ。

リーマン・ショックの再来ほどの大きな危機となる可能性は大きくない

いくつかの中小規模の銀行の経営危機がシステミック・リスクにまで発達することを阻止できるか否かは、銀行からの預金流出をいかに最小限にコントロール出来るかが重要であると考えられ、その場合行政の役割が大きい。

メディアによれば、シリコンバレー銀行とシグネチャー銀行の破たんを受けて、財務省と連邦準備制度(Fed)の政策担当者がホワイトハウスに集まり、約20兆ドル(2,600兆円)の市場である商業不動産の潜在リスクを検証したと報道されており(Washington Post 2023年3月27日)、セーフティネットを検討したことを示唆している。

これらいくつかの要素を考慮すると、今後商業不動産ローン市場が痛みを被ることは不可避だが、リーマン・ショックに続くシステミック・リスクの再来となる可能性は、現段階では限定的だと考えられる。

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