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閉店相次ぐ銀座 コロナ禍で商業施設苦境に
東京の代表的な商業地である銀座で、店舗の閉店が増えつつある。メインストリートの「中央通り」から中に入った通りでは、閉店した店舗が目立ち、中央通りに立地するビルでも空室が散見される。
インバウンド消滅 空室率が上昇
CBREの調査によれば、2020年12月末時点の銀座の商業施設の空室率は3.3%で、3カ月前の9月末の2.6%から0.7ポイント上昇した。
テナントから解約予告が出ていて後継テナントがまだ決まっていないスペースを含めれば、潜在的な空室率は更に高いと考えられる。
空室率上昇の背景は、言わずと知れたコロナ禍による店舗売上の落ち込みにある。昨年はインバウンド消費の消滅により苦戦を強いられた銀座の商業店舗は、今年に入ってから2度目の緊急事態宣言が発令されて再び人の移動に制限がかかり、先行きの見通しが立ちにくい状況が続いている。
2021年1月7日の緊急事態宣言再発令以降、銀座の人通りが極端に落ち込んでいる事実は認められないものの、商業店舗の売上の落ち込みは大きいと推測される。
百貨店の三越銀座店の2021年1月の売上は速報ベースで前年比50.1%(三越伊勢丹ホールディングス ホームページ)で、5割近い落ち込みと開示されている。銀座の他の大型商業店舗の売上の落ち込み幅も、それと同等もしくはそれを上回ると推測される。
売上がこれだけ落ち込むと、銀座の高額の賃料を支払って収支をコントロールするのは極めて厳しい状況になっているのは想像に難くない。
郊外店舗と対照的な都心店舗
売上の大きな落ち込みが続いているのは銀座の商業店舗だけではない。六本木や表参道、青山などに立地する大型の商業施設や商業店舗でも売上不振が続いている。
つまり、都心商業全体が苦境に陥っている構図が浮かび上がる。
これは、郊外に立地するショッピングモールとは対照的だ。郊外のショッピングモールは、コロナ禍が家計を直撃したことによる消費の生活必需品へのシフト、およびテレワークによる在宅勤務がもたらす、「巣ごもり需要」に伴う身の回り品への需要のシフトを背景に、売上の落ち込みは限定的であった。
イオンモールの第3四半期(2020年9月から11月の3カ月累計)の国内の既存83モールの専門店売上は、増床リニューアルの効果もあり、前年同期比8.2%減にとどまった(イオンモール ホームページ)。
都心から郊外へ 転出超過の東京
在宅勤務や郊外のサテライトオフィスでの勤務の普及により、都心への通勤が減っているのみならず、都心から郊外への住居の移動という現象が起きている。
東京都の人口は昨年5月に2013年7月以来初めて509人の転出超過となり、その後も7月から12月まで転出超過が続いている(総務省 住民基本台帳人口移動報告)。
都心からオフィスを郊外や地方へ移転する企業もあり、極端な例ではあるもののパソナグループのように東京から淡路島に本社機能を移転する企業まである。
これらのトレンドは、インバウンドの蒸発とEコマースの普及とも併せて都心商業への逆風となり、来客数と客単価の減少となって収益に大きな影響を及ぼしている。
コロナ後は都心に戻る?地方移転は限定的
悪材料ばかりが続いている都心商業の事業環境だが、これらの悪材料もいつかは収束する、もしくは底打ちする。
在宅勤務に伴う都内から近郊への人口移動は一定期間続く可能性は高い。ただし交通の利便性に劣る遠隔の郊外や地方への移動は限定的だろう。
ザイマックス不動産総合研究所の2021年12月の調査によれば、調査に回答した首都圏の411社の企業のうち、コロナ危機収束後に目標としたいオフィスへの出社率は「50%以上100%未満」(62.0%)が最も多い。「100%」(21.2%)という回答とあわせるとコロナ危機収束後には8割以上の企業が、出社率を50%以上にしたい意向を示している。
即ちコロナ前の水準は下回るかもしれないが、コロナ危機収束が視野に入る段階で、都心に人出が戻ってくる可能性が高い。
すべてがECにはならない
一方、Eコマースの拡大は今後も続くだろうが、すべての消費がEコマースでカバー出来るわけでもない。また、リアル店舗での買い物の楽しみやニーズは無くなるものでもない。
Eコマースと組合わせたリアル店舗の運営により、来店数を確保するというやり方もある。
そして、2020年の年初を最後に消滅してしまったインバウンドも、かつての水準に戻るには時間がかかるだろうが、コロナ危機が収束すれば徐々に戻る可能性が高いのも事実である。
インバウンドが戻れば都心商業で消費する。コロナ危機収束の時期が見えにくいのが問題だが、グローバルでみてワクチンの接種も始まっており、徐々にではあるが収束の方向に向かいつつある。
揺るがない銀座の優位性
その中で、立地間の競争は続くとはいえ、歴史や街並や交通の利便性などからみて、銀座は今後も東京を代表するハイグレードな商業立地として存続し続ける条件が揃っている。
特にメインストリートの優位性はゆるがないだろう。現在でも銀座の好立地では、いくつかのラグジュアリーブランドが新規出店や立地改善もしくは店舗拡張の目的での移転を検討しているようだ(CBRE:ジャパンリテールマーケットビュー2020年第4四半期)。
ただし銀座であってもメインストリートやメインエリアから離れた立地では、たとえ事業環境が改善しても、高い賃料で容易にテナントを確保できるという訳にはいかないだろう。
またメインストリートであっても、ラグジュアリーブランドだけでスペースが埋められるわけでもない。別の言い方をすれば、従来と同じタイプの飲食や物販が中心のテナントが高い賃料で戻ってくる保証はない。
たとえ銀座であっても
たとえ銀座であっても、この街に訪れる人々が消費という行為に踏み切る対象は、変化し多様化している。
またそのような変化や多様化は時間帯によっても違ってくる。そこで銀座が高い賃料をとれる商業立地であり続けるためには、スペースの用途や運営を画一的なものに限らず、人々の多様なニーズを敏感に察知して対応できる柔軟性のある商品企画や運営が求められるだろう。
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