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ChatGPTの時代を生き抜く 流通小売セクターの活用戦略は
生成AIのChatGPTが、米国OpenAI社による2022年11月の公開以来、世界を席巻している。本稿では、海外企業の活用事例に触れながら、流通小売セクターにおけるChatGPT(生成AI)の活用戦略について論考する。
ChatGPTは世界を変えるのか
ChatGPTの登場で一躍市民権を得た「生成(ジェネレーティブ)AI」とは、利用者が入力する少量の情報(プロンプト)をもとに、人工知能が多様なコンテンツ(文書、画像、プログラムコード)を自動生成するテクノロジーだ。
あたかも人間が行うかのように、0からコンテンツを作成してくれるChatGPTは、チャット対話型という親しみやすい設計も相まって、爆発的な勢いでユーザー数を獲得している。
国家や企業の機密情報漏洩リスクの観点から、中国や欧州等ではChatGPTの利用に慎重あるいは禁止とする国・地域も少なくなく、その社会的影響を巡っては、人権、教育、雇用、犯罪等の多くの議論も呼んでいる。
つい最近まで、流通小売セクターにおける人工知能の応用分野の花形は、コンピューター・ビジョン(機械学習とニューラル・ネットワークを活用した画像認識)であった。2018年に発表されて大きな話題となった無人店舗「Amazon GO」を実現させた技術と言えば、分かりやすいであろうか。
行き過ぎた期待も禁物 「AIの限界」指摘も
筆者は、ChatGPTが(Amazon GOのように)忘却される日が来るとまでは言わないが、行き過ぎた期待も禁物と考えている。
もちろん、OpenAIをグループ傘下に置くMicrosoftが2023年5月に発表したMicrosoft 365 Copilotのようなサービスは、多くのホワイトカラー職の業務効率を飛躍的に改善させるであろう。
かたや、ChatGPTは、過去におけるタイプライター、電卓、パソコン、移動通信機器等と同じように、我々の生活や仕事の品質や効率を向上させる「ツール」に過ぎないという冷静な視点も忘れてはならない。
消費者の熱狂を横目に、AI研究や事業化の第一線で活躍してきた専門家は、AIの輝かしい未来を信じる一方で、その限界も指摘している。
Google中国法人のトップを務めた人工知能研究者のカイフ―・リー氏は、著書「AI 2041~人工知能が変える20年後の未来(2022)」において、人工知能を駆動する深層学習は、倫理的判断はもちろんのこと、抽象的概念は理解できないし、もたらされた結論を説明することができないと指摘している。
また、日本のAIベンチャーの先駆者であるABEJAの代表取締役CEOの岡田陽介氏は、著書「AIをビジネスに実装する方法(2018)」の終章で、「(安全性や精度において)AIには永遠に超えられない壁がある」と結んでいる。
根強い脅威論 かつてはコンピューターも標的
楽観論とは対極といえる「AIが人間の仕事を奪う」という脅威論も根強いが、こうした論争も過去に繰り返されてきたものだ。
1979年のILO(国際労働機関)や翌年の1980年の欧州委員会(EC)の報告書では、コンピューター(当時は主として事業用)やロボットの台頭が雇用に深刻な影響を及ぼすと警鐘を鳴らした。
とりわけ、後者のEC報告書では、米国の雇用者数は2000年までに2%減少、フランスの事務職600万人(当時の雇用者数の26%相当)が失業するといった悲観論が展開されたが、実際には、2000年までに米国の雇用者数は30%、フランスも10%近く増加した。
先進テクノロジーは、その周辺領域で新規の製品・サービスや雇用機会を創出する。コンピューターで言えば、消費者向け製品化(PC)、エンジニア、ウイルスソフト等だ。
AIについても、新しい利用者体験を生みだすスタートアップだけでなく、大量のデータの入力・分析、情報セキュリティ強化、AIによる贋作(ディープフェイク)や犯罪の検知・監査を行う企業や政府機関が新たな雇用を創出するであろう。
なお、当時(1980年代半ば)の新聞記事等を見る限り、日本は戦後経済の全盛期にあり、コンピューターやロボットによる雇用影響については、欧米よりもずっと楽観的な論調が多かった。
筆者が専門とする流通小売業では、POS(販売時点情報管理)システムや発注/検品ハンディ・ターミナルの導入による店舗運営の高度化が進み、それらを武器に大手スーパーやコンビニエンスストアが破竹の勢いで事業を拡大すると同時に、膨大な新規雇用を創出していった。
流通小売セクターの活用戦略
ChatGPTの社会的な影響に関する考証は専門家の議論の成熟を待つとして、以下では、個別企業による具体的な生成AIの活用戦略について考えていきたい。
本稿主題である流通小売セクターでは、ChatGPTの発祥地である米国を中心に、海外から具体的な導入事例に関するニュースが続々と届き始めている。
海外企業の導入事例 小売大手も続々
米国小売最大手のウォルマートは、ChatGPTのオンラインショッピングカートとの連携に加えて、商品の仕入れ交渉にAIによるチャットボット機能を活用し始めたと報じられている。
米国の会員制倉庫店コストコのECサービス支援も手掛ける食料品ECのインスタカートは、ChatGPTを利用したレシピや食材の検索機能を2023年内に導入することを発表した。米国の大手薬局チェーンのCVSは、服薬指導や健康相談にChatGPTを活用する方針を表明している。
日本発祥のフリマアプリ大手・メルカリの米国法人も、2023年4月にChatGPTによる商品検索アシスト機能「Merchat AI」のβ版を公開した。
また、フランスの食品小売最大手のカルフールは、広告コンテンツの作成にChatGPTを活用することで、サービス品質の向上とコスト削減に乗り出す。
これらの事例を大括りに整理すると、
1大量の商品情報をデータベース化しているEC企業による商品検索アシスト機能の強化
2カスタマーサポートの効率化
3広告制作や仕入交渉等の本部機能における省人化/効率化
となる。
ただし、これらの機能を実装するためには、その前工程として顧客/商品データ基盤が整備されている必要があるし、ChatGPTのようなテキスト入力を主軸とした対話形式の検索機能を活かせるのは、アマゾン(ChatGPTと異なるAIを自社開発中)やメルカリのようなEC企業がやはり大本命である。
リアル店舗/オンライン販売のハイブリッド経営を手掛ける多くの流通小売業が優先するべきは、収益インパクトが大きくない事業領域や新規事業でのチャットボットの導入ではなく、本部機能や店舗の後方部門における業務効率の改善ではないであろうか。
対面かAI代替か 2つの評価軸を判断材料に
海外企業の事例にみた広告コンテンツ作成や商品調達に加えて、総務、経理、人事、経営企画、店舗/出店管理での業務効率の改善を進めるとともに、店舗オペレーションにおいても、これまでもAI活用が進められていた在庫管理、発注、棚割に加えて、パート社員のシフト管理や本部報告業務でも、ChatGPTを同期したMicrosoft Copilotがその有能性を発揮してくれるであろう。
リアル店舗や人間による対面サービスに軸足を残すべき業務・機能と、AIに任せるべき業務のバランスを考えるうえでは、2つの評価軸によるマトリクスが有用だ。
1つ目の軸は、業務・機能が「社会的」かどうか。もうひとつが「創造的(あるいは機械的か)」という軸だ。
このマトリクスを提示したのは、先述した元Googleのカイフ―・リー氏の著書だ。同氏が2軸で整理した「AIによって代替されやすい/されにくい職業」のハイライトが以下の図解である。
■図解:AIによって代替されやすい/されにくい職業
人間による複雑な認知能力や状況判断が求められる「創造的」な業務(図解右下の④)や、人間にしかできない意思決定や動機付けが求められる業務(左上の①)では、人間とAIの適正な役割分化や、AIの補助的な利活用を進める必要がある。
左下にあるAIの代替可能性が高い業務(③)は、思い切った省力化投資を行う経済合理性がある一方で、右上のAIに替えられにくい業務(②)は、いわゆる人的資本への投資強化(人員増強、研修実施、環境整備等)の対象となるであろう。
右上のグループには経営者も含まれるが、社内外の情報を捕捉する手段は高度化されてゆき、経営者に求められる資質として、状況判断力、意思決定力、リーダーシップ等のソフトパワーの重要性が高まるであろう。
終わりに
ChatGPTに代表される生成AIは、多くの論点や毀誉褒貶はあるものの、将来の社会に重大なインパクトをもたらす可能性を秘めた先進技術だ。経営者やビジネスパーソンは、情報セキュリティに十分配慮しながら、自社のビジネスモデルの特性を再検証したうえで、適正かつ巧みに経営戦略に実装していく必要がある。
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