カニバリゼーションとは

「カニバリゼーション」とは、もともとは「共食い」を意味する言葉です。転じてマーケティングの世界では、自社の製品や事業同士が競合し、お互いの売上を食い合う――”共食い”状態になる現象を指します。略して「カニバリ」と読んだり、口語では「カニバる」と動詞にして使用したりもします。

カニバリゼーションのデメリット

カニバリゼーションは基本的に好ましくない現象として捉えられます。では、具体的にカニバリゼーションにはどのようなデメリットがあるのでしょうか。

市場の奪い合い

たとえば、新商品を市場に投入したとします。その新商品とまったく同じ用途やターゲットを想定している既存商品が、自社から発売されていたとしたらどうなるでしょうか。

新商品は売れるかもしれませんが、その結果、既存商品の売上が落ちるかもしれません。どちらも自社の商品ですから、結局全体の売上は変わらないことになります。カニバリゼーションが起きると、このように自社商品同士で市場を奪い合ってしまう危険性があるのです。

競合他社との競争力を失う

自社商品同士でカニバリゼーションを起こしている間に、他社にシェアを奪われてしまう可能性もあります。たとえば自社から20代女性を対象とした化粧品が発売済みで、さらにそこへ新商品として同じ層を対象とした商品を発売したとします。両者はカニバリゼーションを起こしてしまい、売上を食い合ってしまいます。

一方、競合他社はその間に40代女性を対象とした化粧品を販売し、大きなシェアを獲得してしまいました。本来なら、この未開拓の市場こそ自社で狙うべきだったのに、開発コストを投入するところを誤った結果、会社としての売上も伸びず、市場も他社に奪われる結果になってしまったのです。

これは一例ですが、このように市場を見誤った結果、カニバリゼーションを起こしてしまうことも少なくありません。

カニバリゼーションの事例

では、ここからは具体的なカニバリゼーションの事例を紹介します。

食品会社の新商品展開

カニバリゼーションの例としてわかりやすいのが、ビール会社による事例です。とあるビール会社はあるとき、発泡酒を市場に投入しました。発泡酒とはビールと似た雰囲気ながら、ビールよりも安価に購入できるお酒です。

発泡酒は普段ビールを飲まない消費者の需要を掘り起こすことを目的とした商品でしたが、実際には普段からビールを飲んでいた消費者が価格の安さを目当てに発泡酒へ切り替える現象が起きてしまったのです。つまり、既存の自社商品であるビールの顧客とカニバリゼーションを起こしてしまったというわけです。

出版業界の電子版展開

出版業界もカニバリゼーションに悩まされる業界の一つです。かつて雑誌や書籍などは紙の本で販売することが一般的でしたが、現在はスマートフォンやタブレット等で気軽に読めることから電子書籍の需要が増しています。

そこで出版社は雑誌や書籍を電子化し、デジタル媒体向けにも配信しているのですが、そのせいで紙媒体の売上が悪化してしまう事態も起きているようです。

ECサイト導入で実店舗の売上減

小売店にとってECサイトによるネット販売は重要なビジネスです。ECサイトは日本中どこからでも購入できるため、顧客層を広げるのに寄与してくれるからです。

ただ、ECサイトを訪れるのが全員新規の顧客というわけではありません。もともと小売店で購入していた顧客がECサイトの利便性を知って、ECサイトばかりを使うようになることもあります。結果としてECサイトの売上は上がっても、実店舗の売上が下がってしまうということも起こり得るのです。

ドミナント戦略による失敗もカニバリゼーションの一種

ドミナント戦略とは、特定の地域に同じコンビニなどを集中して出店してシェアを確保する戦略のことです。「なぜ、同じコンビニがこんなに近くに何店舗もあるんだろう?」と思ったことはないでしょうか。それこそがドミナント戦略です。

ドミナント戦略は成功すれば効果が大きいのですが、失敗すると同じ商圏の顧客を取り合うことになり、結果として共倒れするリスクも秘めています。

カニバリゼーションを避けるには

このようにカニバリゼーションには様々なデメリットがあります。では、カニバリゼーションを避けるためにはどうすれば良いのでしょうか。

異なるターゲットを設定

カニバリゼーションは、新商品と既存商品のターゲットが重なってしまうからこそ起きる現象です。ですから、カニバリゼーションを防ぐには最初から新商品のターゲットを既存商品と違うところに設定してやれば良いのです。

もちろん、既存商品と違うところに設定したつもりだったのに、蓋を開けてみれば顧客が被ってしまったという読み違いもありえます。その場合はもう一度新商品の立ち位置を見直すことも必要です。

競合への優位性を訴える

本来、新商品は既存の自社商品ではなく他社の商品と比較され、選んでもらうべきものです。ですから、自社商品ではなく他社の競合商品と比較した際の優位性を訴求するようなプロモーション活動が重要です。

カニバリゼーションの成功例も

デメリットばかりに思えるカニバリゼーションですが、実は戦略的にあえてカニバリゼーションを起こす高等戦略も存在します。ここではカニバリゼーションの成功例を具体的に紹介します。

戦略的カニバリゼーション

戦略的にカニバリゼーションを狙うことで、どのような効果が得られるのでしょうか。たとえば自社の既存製品「A」が市場で50%のシェアを持っていたとします。そこに「A」と似た新商品「B」を投入しました。AとBはカニバリゼーションを起こし、「A」のシェアは30%まで下がってしまいます。しかし、一方で「B」は「A」から奪った20%のシェアに加えて、これまで「A」に興味を示していなかった新規の顧客も獲得し、シェアを40%まで伸ばしました。

「A」のシェアはたしかに下がったかもしれませんが、Bと合わせると結果的に自社のシェアは70%まで伸びたことになります。多少のカニバリゼーションは納得した上で、自社のシェアを増やせる可能性もあるのです。

トヨタなどの自動車メーカーの事例

カニバリゼーションをうまく活用し成功を収めたのがトヨタ自動車です。トヨタは販売店を同じエリアにいくつも展開し、競争を促しています。販売店同士はある程度カニバリゼーションを起こすことになりますが、結局のところ顧客はトヨタの販売店のいずれかで車を購入することになるため、トヨタ全体として見れば地域シェアを最大限に確保できるというわけです。

さらに、カニバリゼーションを起こしているということは、既存商品と新商品の顧客が重なっているということでもありますから、既存商品の顧客は車の買い替え先として迷わず新商品を選ぶことができます。自社内での買い替えを促すことで、他社への顧客流出を防ぐことにも成功しているのです。

カニバリゼーションのメリットデメリットをおさえておく

カニバリゼーションはデメリットばかりが目立ちますが、実際には良い面もあります。意図せずに起きてしまったカニバリゼーションは企業に打撃を与えてしまいますが、戦略的にカニバリゼーションを起こすことでビジネスを拡大につながる可能性もあるのです。

顧客の購買行動が多様化する現代では、カニバリゼーションをうまく取り入れながらビジネス戦略を考えることも重要です。

関連記事

戦略と戦術の違いは?具体例やマーケティングにおけるポイントを解説

企業が成長し続けていくために、全体の方針を示す「戦略(経営戦略)」を立てることは必須です。 しかし、戦略を立てるだけでは、経営には不十分といえます。自社の強みを活かし、戦略を実現するために競合とわたりあっていくには、具体的な方法である「戦術」の策定も必要です。 戦略と戦術は、似ているようで異なります。そこで本記事では戦略と戦術の違いを解説し、事例やポイントを紹介します。

子会社設立のメリット・デメリットとは?経営者視点から徹底解説

子会社とは、意思決定の場面で親会社の支配を受ける会社のことです。節税効果の向上や経営の安定化などのメリットが期待され、M&Aなどでもよく採用されています。 メリットが注目される子会社設立ですが、もちろんデメリットもあります。また、子会社の設立や管理に際してのポイントを把握しておくことが大切です。 そこで本記事では、子会社の意味とともに、子会社設立のメリット・デメリット、子会社を有効活用するためのポイントについて経営者視点から解説します。

「経営論点主義の弊害」を防げ コーポレートガバナンス強化のための取締役会運営の改善策

コーポレートガバナンス・コードが2021年6月、再改定された。上場企業のコーポレートガバナンスの強化が求められる中、独立社外取締役の役割がより一層重要となってきている。しかし、独立社外取締役にとって、実質的な議論がなされるような取締役会運営ができているのであろうか。本稿では、「経営論点主義の弊害」を取り上げ、それについての対応策を述べる。

ランキング記事

1

アシックスの逆襲「箱根駅伝着用ゼロ」から復活

2022年の箱根駅伝は、青山学院大学が6度目の総合優勝を遂げた。記録は自らの大会記録を大幅に更新する10時間43分42秒。この記事では、レースの高速化を支えるランニングシューズを例に、21年の大会で「箱根駅伝着用ゼロ」に沈んだアシックスの巻き返し戦略に焦点を当てる。

2

2022年展望 不動産 住宅販売のリスクは、金利動向次第

2020年から2021年にかけて住宅の売行きが増加して、特に戸建住宅の売行きが好調だ。しかし、世界各国でインフレが進行しており、各国の利上げ次第では日本の長期金利にも影響し、高額物件の販売にブレーキがかかる可能性もある。

3

バルミューダ事例に学ぶインサイダー取引対応

2021年11月中頃、洗練されたデザインが人気の家電メーカー「バルミューダ」が華々しくスマートフォン市場に参入といった話題に、冷や水を浴びせるようなニュースがメディアを賑わせた。社外取締役によるインサイダー取引に係る社内規程違反と関係者の処分についてだった。本件を題材にインサイダー取引対応について考えてみたい。

4

2022年展望 中国 急激な規制から安定的な政策へ

中国は2021年、経済や文化、教育など様々な方面で、規制や制限を強化した。前年の急激な政策の影響を和らげるため、2022年の中国の経済政策は「穏」(安定)に変化していくとみられる。

5

TSMC熊本進出の衝撃㊤:進出の短中期影響は1.3兆円

半導体の世界最古にして最大のファウンドリーメーカー、TSMCが熊本県に進出することを発表した。フロンティア・マネジメントの試算では、熊本県を中心に中短期で1.3兆円の経済効果を予想する。この記事では㊤㊦に分けて、熊本県を中心に九州ひいては日本の半導体産業発展に向けた提言をしたい。

人気のキーワード

海外スタートアップ情報はこちら!  寄稿・執筆者募集中