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事業承継とは その方法や検討ポイントについて解説
団塊の世代が後期高齢者を迎える「2025年問題」がメディアに取り上げられる中、中小企業庁によると、全国の約3分の2の企業は後継者不在の状況だという。雇用創出、地域経済の発展、ひいては国力維持の観点からも、とりわけ日本の企業の99%以上を占める中小企業の事業承継問題は極めて重要な課題である。 本稿では、事業承継の定義、その方法や検討すべきポイントについて解説する。
事業承継とは
そもそも、事業承継の定義を大きく分けると以下の3つに分類できる。
- 経営権を引き継ぐ「経営の承継」
- 自社株式や資産を引き継ぐ「資産(財産)の承継」
- 経営理念やブランドを引き継ぐ「知的資産の承継」
後継者にはこれらを計画的に引き継ぐことが求められる。
仮に事業を引き継ぐ人や会社がいない場合には、経営が安定していたとしても廃業の道を選択せざるを得ず、雇用を失うとともにその地域経済がダメージを被ることに繋がる。
事業承継の方法
事業承継には3つの方法が挙げられ、それぞれの特徴について以下に記載する。
①親族内承継
親族内承継は経営者の子どもや親族に事業を承継する、今でも最も主流な方法である。関係者からの理解を得やすく、後継者がいる企業では、約3分2が親族への承継を予定している。
事業承継税制など国からの補助も出ており、今後も優遇されることが想定される。しかし、自社株式も個人の相続財産の一部であるが故に、多額の贈与税や相続税を支払う事例も多いのが「資産の承継」の観点で悩ましいところである。
「知的資産の承継」においては、経営者から子へきちんと想いが引継げていれば、比較的スムーズなバトンタッチが可能である。
一方で、昨今の少子化の影響で経営者に子どもがいないケースや、いたとしても事業を継がないケースも多くなってきている。この背景には、働き方の多様性や、今後の先行き不透明感の中で債務(連帯)保証を引き継がなければならない重責への抵抗感などが挙げられる。
また、「経営の承継」の観点では、そもそも子どもや親族が経営者と同等かそれ以上の能力を持つ人物でなければ、自社をさらに発展させられないため、その見極めも重要なポイントである。
②内部(従業員)承継
社内(内部)の従業員に事業を承継する方法である。上記と同様、該当者の有無は見極める必要があるものの、自社のことをよく理解し、かつ優秀な従業員を選んで承継させられる。その意味で「経営の承継」と「知的資産の承継」の観点では、比較的スムーズな事業承継が期待できる。
また、最近では上場企業においても、MBOという形で経営陣が既存株主から株式を買い取り、自社をよりよくするために非公開化へ舵を切る事例が増えている。
一方で、「資産の承継」という観点では大きな問題が残る可能性がある。一般的には企業の成長とともに、自社株式の評価も上がるため、特に純資産が厚く利益が出ている会社の株式を買い取る際には、多額の資金が必要となる。引き継ぐ従業員が買い取る資金を有していれば話は別だが、一般的には受け皿となるSPC(特別目的会社)を設立し、金融機関から多額の借入を行った上で株式を買い取るケースが多い。そのため、債務(連帯)保証の問題が発生する点に抵抗感を示される事例が多いのが現実である。
③第三者承継(M&A)
社内以外の第三者へ事業を承継する方法であり、最近ではこの手法での事業承継が急増している。かつては「乗っ取り」など悪いイメージがはびこっていたものの、資本と経営が一致するオーナー系中小企業においては、友好的なM&Aがほとんどである。昨年度公表されているM&A件数は国内だけで4,000件以上の報告が挙がっている。
M&Aにおいては、「資産の承継」はもちろん、「経営の承継」、「知的資産の承継」いずれの問題も一気に解決できる可能性が高い。もちろん、どこと・誰と組むかによりけりではあるものの、相手先によっては、以下のように様々なシナジー効果が発揮されるケースもある。
- クロスセルや販路拡大による売上のアップ
- スケールメリットを生かした物品の共同購買によるコスト削減
一方で、相手先・タイミング・条件が読めない不確実性がある点においては、①や②とは異なり留意が必要である。そのため、M&Aによる事業承継を検討する際には、なるべく早いタイミングで信頼できるアドバイザーの選定をお勧めしたい。
経営の承継 | 資産(財産)の承継 | 知的資産の承継 | |
---|---|---|---|
親族内承継 | ○ | △ | ◎ |
内部(従業員)承継 | ○ | △ | ○ |
第三者承継(M&A) | ○ | ◎ | ○ |
事業承継の現状
冒頭に述べた通り、国内において事業承継が思うように進んでいないのが現状である。下図の通り、2000年に経営者年齢のピークが「50歳~54歳」であったのに対して、2015年には経営者年齢のピークは「65歳~69歳」となっており、経営者年齢の高齢化が進行している様子が見て取れる。また、2020年においても、70歳以上の経営者の割合が高止まりしているため、近い将来いずれかの形で事業承継を行わなければならない状況である。
事業承継を実施する際のポイント
経営者が事業承継を先送りしてしまう理由としては、主に以下が挙げられる。
- 日々の経営で精一杯
- 何から始めれば良いかわからない
- 誰に相談すれば良いかわからない
後継者の育成期間を含めれば、事業承継には5年以上を要すると一般的に言われている。しかし、やはり足元の経営に目が行きがちで、経営者が元気なうちは自身で頑張ろうというケースが非常に多い。そのため、そもそもの事業承継の進め方や実情に対する認識が不足している企業・経営者が多いのが現状である。
もし、方法①や②のように、親族内もしくは社内に後継者がいるのであれば、なるべく早い段階で育成を図り「経営の承継」を進めるとともに、「資産(財産)の承継」においてもどのような形で進めるのか、よく計画を練った上で取り組まなければならない。
また、方法③のケースでは、不確実性がある点は先にも述べた通りだが、昨今では経営環境が悪化してからアドバイザーへ声が掛かるケースも増えている印象を受ける。もちろん、相手先次第ではあるものの、一般的にはそのような状況に陥ってからでは、従来手を挙げるはずの企業が出てこない可能性も高くなる点に留意が必要である。
後継者の有無と企業パフォーマンスの関係については、相関関係にあると言われている。事業継続を希望しながらも後継者不在が課題となっている企業においては、以下が重要なポイントであると言えよう。
- なるべく早い段階で後継候補者の選定や意思確認を進める
- 事業の見直しや経営改善に取り組むなど、企業の磨き上げに注力する
最後に
経営者の高齢化が進み、今後数年で多くの中小企業が事業承継のタイミングを迎えるとみられている。地域経済にとって重要な役割を担うという観点でも、国にとっても極めて重要な問題である。
今後も事業を継続・発展させるためにも、前述の通り、なるべく早い段階で事業承継に向けて準備を始め、次世代にスムーズな形で受け継いでいただくことをお勧めしたい。
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