事業再生の方法とは 実務歴30年の専門家が解説

「事業再生」という言葉はよく聞くものの、その方法や全体像、それぞれの特徴は、専門家以外ではあまり知られていない。筆者は、弁護士として事業再生の仕事に関わり、約30年のキャリアを有する。これまでの経験を踏まえ、難解な事業再生の特徴と方法について、やさしく解説していきたい。

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事業再生とは?知っておくべき基本知識

事業再生の基本知識

「事業再生」とは、不振な事業の業績を改善するとともに、約束の弁済期日に支払ができない債務の弁済時期や債務額の減免を債権者と協議し、財務の健全化を図る手続き、という意味である。要は、続けてきた事業を終わらせるのではなく、事業の存続を図る方法だ。これは債権者にとっても回収できる金額を多くできるので、事業再生を行う側と債権者の双方にメリットがある。ここでは事業再生の基本知識として知っておいていただきたい点を解説したい。

事業再生と企業再生の違い

「企業再生」という言葉も使用されるが、これは、事業を営んでいる企業の業績改善と財務健全化の手続きとして意味で使用されるのが一般的だ。

企業再生と事業再生は、企業そのものの再生か、企業が営んでいる事業(全部または一部)の再生か、によって使い分けられる。優良な事業を他社に譲渡した上で企業自体は清算するという方法もあるが、、これは「事業再生」の範疇に含まれるが、「企業再生」とは言わない。これらはいずれも法律用語ではないが、事業再生の言葉の方がより広く浸透している用語と思われる。

事業再生の方法は大きくわけて2種類

事業再生の方法と種類

事業再生とは、全ての債務の支払を法的に停止して事業再生を行う「法的整理」と、金融機関からの債務に限定して支払を停止して事業再生を行う「私的整理」とに分かれる。再生計画の成立の難易度という点でみると、法的整理の場合は多数決で成立するのに対し、私的整理の場合は、金融機関の債権者全員の同意が必要となるため、私的整理の方が難易度は高い。

しかしながら、私的整理は、取引先に対する債務の支払を継続しながら再生を図ることができるため、事業への悪影響を最小限に留めることができる。その点で、債務者である企業やそれを支援するメインバンクは、私的整理での再生を優先的に検討するのが一般的だ。
 
法的整理による事業再生には民事再生と会社更生があるが、事業を停止し清算するための「特別清算」も、後述する「純粋私的整理」と組み合わせて使用される場合が多い。一方、私的整理による事業再生には、「事業再生ADR」と「中小企業再生支援協議会」の他、これらの制度を利用しない「純粋私的整理」がある。

法的整理による事業再生の手続き

法的整理による事業再生

法的整理とは、裁判所の管轄下で行う倒産手続きのことだ。会社を清算して資産を債権者へ分配する「清算型」に加え、事業を再建していく「再建型」に分かれる。ここでは事業再生にて事業継続を図る「再建型」の法的整理の方法について解説していく。

民事再生とは

「民事再生」<とは、債務超過のおそれがある場合、または弁済期に債務を弁済することが困難な場合に、事業の再生と財務の健全化を図るために、債務者である企業が、裁判所に対し全ての債務の支払を停止することを求める手続きである。この手続きは、債務者である企業が主導的に再生手続きを進めることができるため、企業の大小を問わず広く利用されている。ただしその場合、企業の経営者がそのまま経営を継続して自力での再生を図る場合もあるが、多くの場合対外的な信用を喪失していることから、新たな企業の所有者(スポンサー)の支援を得て再生をするケースの方が多い。 ここ10年で言うと、自動車エアバッグの品質問題に直面したタカタや航空会社のスカイマークの民事再生事例が有名である。

会社更生とは

会社更生

「会社更生」とは、民事再生と同様、債務超過のおそれがある場合又は弁済期に債務を弁済することが困難な場合に、債務者である株式会社が裁判所に申し立てる法的整理での再生手続である。民事再生と違って、裁判所から選任された管財人(弁護士が就任する場合が多い。)が手続きを主導することや、担保権の実行も阻止できる点で強力な法的整理の手続きであるため、利用の頻度は多くない。

会社更生は、このように重装備の手続きであるため、比較的規模の大きい会社に対して利用され、ここ10年で言うと日本航空やウィルコムの会社更生事例が有名である。

私的整理による事業再生の手続き

「私的整理」には、次のように3種類の手続きがある。債務の弁済期限の猶予だけを求めるリスケジュール型の私的整理と、債務額の減免まで伴う債権放棄型の私的整理とに大別される。下記のいずれの手続きでも、両方の私的整理が行われている。

ただ後者の債権放棄型私的整理では、金融機関に債権放棄による損失を求める。そのため、経営者責任及び株主責任という観点から、企業の第三者への譲渡や経営者の交替を求められる場合が多い。この点は、あらかじめ頭に入れておくことが必要である。

中小企業再生支援協議会とは

中小企業を対象に再生支援を行う公的な専門組織として、全国の商工会議所内に設置されている組織が「中小企業再生支援協議会」である。この手続きでは、中小企業の申し出に基づき、協議会の職員である統括責任者が、外部の専門家(弁護士、会計士等)とともに再生計画の策定や金融債権者との利害調整を行う。
各都道府県に設置されているため、地域の中小企業が、メインバンクである地方銀行の支援を受けて再生を図る際に頻繁に利用されている。

事業再生ADRとは

事業再生ADR

裁判所の外で紛争を解決する手続きをADR(Alternative Dispute Resolution)と言うが、債務者である企業が、中立的なADR機関に対し、金融機関に対する債務の支払の一時的に停止し、事業再生計画の検証や金融機関との利害調整を求める手続きを「事業再生ADR」という。

経済産業省が後援する団体の「事業再生実務者協会」が、このADR機関を担っている。東京や大阪で事業再生を専門としている弁護士や会計士等の専門家が、手続実施者という立場で、事業再生計画の検証や金融機関との利害調整を行う。そのため、事業再生ADRは、債権者数や債務額が多い大型再生案件において利用されることが多い。

純粋私的整理とは

私的整理は、中小企業再生支援協議会や事業再生ADR機関の関与なく行われる場合も多い。それを特に「純粋私的整理」と呼んでいる。この場合、企業が主体となり、弁護士・コンサルタント等のアドバイザーの支援を得て、再生計画の策定から金融機関との利害調整までを行なう。

直ちに金融機関への債務の支払を停止しない限り、資金繰りが厳しい場合や、再生計画の内容において柔軟な対応が必要となるような案件では、純粋私的整理で事業再生が進められている。

特に、会社の事業をGOOD事業とBAD事業に分けて、GOOD事業を新設会社又はスポンサー会社に譲渡し、BAD事業は特別清算という法的手続きで清算する手法は、「第二会社方式の私的整理」と呼ばれているが、これを純粋私的整理にて行う場合が多い。

私的整理による事業再生の条件とは

私的整理による事業再生の条件

私的整理による事業再生が進められるかどうかを見極めることは容易でないが、そのための主要な条件は次の3つである。

事業の改善可能性があること

再生企業は、事業自体が赤字の場合が多い。コスト削減や業務効率化、そして商品力や営業力の強化によって、収益を上げて債務を返済していける可能性があることが最初の条件となる。例えば、業界自体の市場規模が縮小しており、再生会社の事業において競合他社と比較して差別化できる要素が全くない場合は、事業の改善可能性があるとは言えないであろう。

資金繰りが半年は持ちこたえられること

私的整理を行う場合、再生計画の策定後、計画を金融機関に説明して同意を得るまでの期間が長くて半年かかる。このため、少なくとも半年は資金繰りが持ちこたえられない限り、私的整理での再生は難しい。その場合の資金繰り計画は、金融機関に対する債務(元本)の弁済の停止と、在庫商品・製品等を担保に金融機関から新規融資を受けられる見込みを織り込むことは許容される。反対に、公的機関の手続きに要する費用や再生を支援する専門家(弁護士、会計士、コンサルタント)の費用を織り込むことが必要となる。

メインバンクの支援が見込めること

最後に重要な要素は、メインバンクの支援だ。私的整理において再生計画が成立するためには、前述の通り全ての金融機関債権者の同意が必要だが、大口の債権残高を有しているメインバンクが支援する見込みがないなら、他の債権者の同意も期待できないため、私的整理での再生は難しい。事業再生を考える場合、日頃からメインバンクとの信頼関係を構築してきたか否かで、明暗が分かれるのであるので、注意をされたい。

事業再生の事例紹介

事業再生の事例

それでは実際の事業再生のケースを見ていきたい。多くの現場に関わってきたが、ここでは印象深い自動車部品メーカーと地方百貨店の2社を事例として紹介させていただく。

自動車部品製造業の再生事例(リスケジュール・中小企業再生支援協議会)

年商約60億円で金融機関からの借入金が約30億円の自動車部品会社の再生事案である。自動車完成車メーカーの「Tier2」(サプライヤーに部品供給する)として自動車部品を製造していたが、取引先である「Tier1」(直接メーカーに納入するサプライヤー)企業への依存度が非常に高かったため、Tier1企業の製造台数の減少や納入単価の下落によって業績が悪化していった。

再生計画では、派遣社員の雇止めや残業調整による労務費の削減、仕入単価のコストダウンおよびTier1企業以外の新規顧客の開拓等を主要施策とした。事業DD(デューデリジェンス)および財務DDを実施した後、中小企業再生支援協議会手続きを活用して、リスケジュールを内容とする再生計画を策定し、全金融機関の同意を取得し、再生計画の実行をスタートさせた。

地方百貨店の再生事例(債権放棄・ファンド)

西日本の地方百貨店の再生支援事例であるが、地域の人口減少や大手小売会社のモール出店による競合激化等により赤字転落して、資金繰りに窮するようになった。このため、再生計画では、地方銀行系列の再生ファンドや地元企業から新規出資を受けて、店舗の大規模な改装等を実施し、顧客数の増加と収益増加を果たすことができた。
 
この案件では、再生計画に基づきスポンサー等の出資した新会社にコアとなる百貨店事業を譲渡し、残った企業については、純粋私的整理で利害調整を行った後、特別清算の手続きで処理するといった第二会社方式の私的整理を採用した。

事業再生の判断は、早期に

2021年は、コロナの影響による再度の緊急事態宣言の発令によりスタートしたが、資金繰りに窮する中小企業は増加の一途を辿っている。そのような中小企業の経営者に、少しでも事業再生のイメージを理解していただき、資金繰りに窮する場合の備えとして本稿を執筆したものである。

ただ、事業再生をスタートさせるのであれば、その開始時期は早期でなければ意味がない。赤字決算を継続し、大幅な債務超過の状態で私的整理をスタートさせても、債権放棄を伴う私的整理しか可能性がないので、経営者がそのまま再生を担っていくことは難しい。

病院で癌の発見が早期にできれば、生存率が高いと言われていることと考え方は一緒だ。本稿で事業再生の特徴と方法を理解し、少しでも早期に事業再生の手続きをスタートしようと考える経営者が増えれば、幸いである。

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