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「成長し続ける企業の経営革新術(成長する企業をいかに構築し、維持するか)」
失敗から脱出しようとする企業もあれば、成長し続けている企業もある。我々は、まず対象となる企業の経営診断として一般理論やフレームワークのレンズを通して、その企業に、なぜ、どのようにして課題や機会が生じたかについての原因を検証する。そして、将来起きる可能性の高い課題と機会を予測し、経営者がそれらに対処するためにどのような行動をとる必要があるかを提示する。近年の傾向を観ると、急激な環境変化と、組織内の制度・ルールおよび取引関係の間に、不調和が生じていることが分かった。また、成長し続けている企業の共通点としては、経営者がその不調和に気づき、異質性を取り込みながら経営革新を行っている。本稿では、成長する企業をいかに構築し、維持するかについて議論する。
企業数減少と経営者高齢化
我が国の企業数の推移は、ピークだった1999 年の485万社以降は年々減少傾向にあり、直近の 2016 年には359万社となっている。つまり、17年間で126万社の減少(図1)。直近の2014 年から2016年の2年間の企業数は23万社(6.1%)の減少となっている (中小企業白書, 2019年版)。
近年、中小企業経営者の高齢化の進展を背景として、2018年に全国で休廃業・解散した企業は4万6,724件(前年比14.2%増)であり、中小企業の休廃業件数が増加している。休廃業・解散した企業の代表者の年齢は、60代以上が8割(構成比83.7%)を超え、高齢化による事業後継が難しい課題がより鮮明になってきた(東京商工リサーチ, 2018)。しかしながら、注目するのは、現在70代、80代の経営者でも、事業後継の準備が終わっていない企業が50%以上あるのが実態だ(中小企業庁, 2016)。
一方、日本経済再生本部(2019)による経営者年齢と企業業績の調査では、経営者年齢で最も業績が伸ばせる年齢は40代との調査結果がある(日本経済再生本部, 2019)(図2)。つまり、経営者の年齢上昇に伴って減収企業と赤字企業が増える傾向にあり、明らかに経営者の高齢化が企業の業績悪化の原因となっている。定年延長とともに権力のある経営層が会社に居座る状態が続くと、若者が経営者を目指す機会も減少する可能性がある。そうなると、我が国の活力は益々減退していくであろう。
しがらみと同質性の弊害
このような状況の中で、多くの企業は利益がほとんど上がらなかったり、赤字に苦しんだりしている。木村・徳岡(2017)は、日本企業の業績不振の原因には、しがらみが蔓延している可能性が高いと指摘する。
彼らが定義する「しがらみ」とは、組織ないし企業において、社員の思考や行動を縛り、組織の存在意義ないし企業価値に照らして、合理的な判断を阻害する組織ないし企業内の制度や慣行および、そこから生まれる常識、ひいては文化として内部に定着しているものとし、社内的な人間関係や組織制度・文化とのしがらみや、社外的な取引関係や業界ルールや規制のしがらみなども存在する。
しがらみは、日本だけにあるものではない。
しかし、戦後我が国の企業の目覚ましい復興や、成長における企業の競争力は、長期・成長志向という目標についての特性と、終身雇用・年功序列・年金制度や継続的取引関係、メインバンク制による所有関係のようなマネジメント・システムという同質的、横並び的特徴が促したといえる。
こうした組織は、非連続な環境変化が起こると、今まで築いてきた取引関係、組織能力や組織内に整備された制度・ルールが新しい時代に適応できなくなる。
我が国の企業は、今こそ従来の同質・横並び・単一から異質・特化・多様に視点を変えなければならない時代となり、その猶予はもはやない。
経営革新が必要とされる環境条件
では、経営革新が必要とされる環境条件とはどのようなものなのだろうか。
経営者は、利益機会に気づき、企業組織を方向づけ、戦略を描く。同時に、現状把握を深めていくと、企業の強み、弱みの全体像が把握できる。そして、保有の組織能力とはどのようなもので、提供価値や強みは何かを理解する。また、非連続な環境変化への適応が遅れた結果、不足している経営資源に気づく。ここで、経営者は、どうしたら弱みを克服できるのか、異質な経営資源をどのように獲得したらよいかを検討する。これは、企業組織に必要な「異質性を探求する行為」となる。
さらに、経営者は、組織内に無い経営資源を獲得するために外部との接続が必要となり、探索を始める。異質性の構築手順が設計できれば、企業組織内へ取り込み、組織的調整が行われ、経営革新が実行される。その結果、「異質性が創造」されるということになる。これは、まさに「価値を高めるための戦略」といえる。
また、非連続な環境変化が起こると、現在の取引関係、組織能力や組織内に整備された制度・ルールが適応できなくなる。しかしながら、その業界や組織の中に居るとその変化に気づかない。気づいたとしても変えられない。思考停止状態に陥ることがある。このような状態には、外部からの客観的な分析を受け入れ、何が企業成長の弊害になっているのかを探索する。これが、企業組織における「生存の探求行為」となる。実際には、古くから定着しているしがらみを打ち破ることが必要となる。そのために、資源配分を見直し、組織の再構築を行う。これが、企業組織における「生存の創造」となる。これは、まさに「費用を下げるための戦略」といえる。
このように、非連続な環境変化と企業のしがらみや同質性との不調和な状態が、経営革新を必要とする環境条件となる(図3)。
異質性を取り込み、新たな価値創造へ
創業100年以上の企業を調べると、更なる長寿のために重要なこととして、①異質性を取り込んだ経営革新、②戦略に基づいた社員への動機づけ、③後継経営者の育成の3点が挙げられる。特に多くの企業の場合、創業のようにゼロから企業を創っていくわけではなく、既に存在している企業だ。このため後継した企業に先代経営者の影響が強く残っていると、経営革新を行う場合には、新しい経営者や彼の経営戦略に対して抵抗が生まれる可能性がある。こうした背景から、後継経営者が既にある企業体と自らの理念との折合いをつけるためには、後継後のしばらくの間、経営者と企業の「すり合わせ」のための調整期間が必要となる。
実際に、異質性を取り込み、経営革新を行った具体的事例は以下の通り。
・鎌倉新書:祖業である仏壇仏具業界向けの出版社から情報加工業社に会社の定義を変え、異質な役員陣を外部招聘し、事業領域をライフエンディング市場に拡大
・メガネスーパー:経営危機を脱却するために、経営者を外部招聘して「スーパー」のような安売り路線を脱却し、高齢化による目の健康需要や、一時的に老眼のような症状が現れる「スマホ老眼」などのニーズに対応して、高価でも、質の高く眼の健康に配慮した商品・サービスに転換し、付加価値の高い「アイケア」重視を展開
・五日市商工会:厳しい経営環境の中で地域経済のために小規模事業者を支援するためのマル経融資や補助金制度と合わせて、専門家を派遣して事業計画策定から計画実行としての広報支援、販路開拓、事務サポートなど伴走型経営支援を実施
では、成長し続ける企業となるためには、具体的にどうすれば良いのだろうか。
1. 異質性を取り込んだ経営革新(新たな価値創造)
経営革新を実行する経営者は、大胆な変革を行い、短期間で業績を上げることを期待されており、「価値を高めるための戦略」と「費用を下げるための戦略」を同時に実行し、企業の創出価値の最大化を目指す(図表4)。経営者は、創出価値を高めるために異質な資源を探索し、外部連携によって獲得する。同時に、陳腐化した資源やネットワークにより上昇した費用削減のため、資源配分を見直し、組織の再構築を行う。経営者は、外部の専門家からの客観的分析や意見を取り入れ、閉鎖的な企業組織を開放し、しがらみや同質性を打ち破る。経営者は、異質性を取り込むための触媒とならなければならない。
2. 戦略に基づいた社員への動機づけ(組織行動の方向づけ)
組織能力を最大限に発揮するためには、まず組織とは何か、何故組織を形成するのかを理解しなければならない。某大手企業の将来幹部候補の次世代リーダー育成プログラムでは、人事ローテーションが2-3年毎に様々な部署を経験させている。したがって、5年から10年後に成功する鍵となる事業プロジェクトを推進した場合、成果が出た時にはその任務についていた人の功績になってしまうため、任期中に完結できるレベルの事業しかやらなくなる。また、経営者に権力が集中し、組織メンバーが自由闊達に意見を言えない組織も存在する。このように、現行の組織行動と戦略において不一致が発生している部分を明らかにし、社員一人ひとりの動機づけの度合いによって、組織活性度が強くもなれば弱くもなることを理解しなければならない。
3. 後継経営者の育成(外部の経営人材との伴走)
今後、少子高齢化の中で、企業数および経営者数の減少は避けられない。しかしながら、成長し続ける企業を構築し、維持するためには、新たな経営者の育成が不可欠となる。では、経営者になれる機会が減少する中で、どうやって経営者を育成し、輩出すればよいのだろうか。
経営人材としては、ある程度の実務経験と年齢が求められる。しかしながら、そう簡単に革新的経営者になれるものではない。革新的経営者とは、簡単に成し得ないような大改革を短期間で行い、業績を上げる存在だ。そのためには、現状を正確に把握し、環境変化と企業組織の不調和な部分を発見するとともに、克服していかなければならない。
まとめ
解決策としては、経営革新の実行期間において経営人材を外部から招聘し、異質的視点を取り入れることだ。
後継経営者が外部招聘した経営陣と伴走することが、異質的視点を養い、経営革新を成功へと導き、経営者としての育成につながる。2018年に経済産業省の「DXに向けた研究会」が「DX推進のためのガイドライン」を策定し、少子高齢化の中で、いかに企業が生産性を向上させることができるのかを検討している。戦略経営において市場競争を理解し、経営革新に向けた異質的経営の視点をどのように取り込むのかが重要となる。
参考文献
・五日市商工会『伴走型経営支援活用事例集2019』.
・沖永翔也(2017)「メガネ「スーパー」やめます 安売り路線見直し」日本経済新聞.
・起業tv「12月IPO予定の鎌倉新書が、葬儀・お墓・相続の領域で人と人とをつなぐ」.
・木村雄治・徳岡晃一郎(2017)『しがらみ経営-価値を生み出す「関係性」のマネジメント』日本経済新聞出版社.
・東京商工リサーチ(2018)「2018年「休廃業・解散企業」動向調査」.
・中小企業庁(2016)『中小企業白書 2016年版』.
・中小企業庁(2019)『中小企業白書 2019年版』.
・日本経済再生本部(2019)『未来投資会議(第30回)配布資料』.
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