アメーバ経営とは

アメーバ経営とは、京セラの創業者、稲盛和夫氏が考案した管理会計手法です。組織を小さなグループ(アメーバ)に分け、各アメーバがそれぞれの目標や計画を作成。売上の最大化や経費の最小化などを目指し、社員一人一人が会社経営に主体的にコミットする手法です。また、時間当たりの付加価値をアメーバごとに算出し、会社の採算管理を行います。

アメーバ経営の誕生は、同社創業から5年が過ぎ、従業員数が300名を超え会社が急速に拡大した頃に遡ります。組織が肥大化し、全ての部門を把握しきれなくなった稲盛氏は、”組織を小さく分け、中小企業の連合体にしよう”などと考案。組織を「アメーバ」と呼ばれる複数の小グループに分割した上で、各アメーバにリーダーを作り、独立採算を用いた経営をスタートしました。これがいわゆるアメーバ経営の始まりでした。

元々アメーバ経営は、稲盛氏が京セラを経営する中、経営理念を実現するために創り出した独自の経営手法。しかし現在は、多くの国内企業でその手法が採用されています。同社ホームページによると、稲盛氏が創業した京セラやKDDIをはじめ、再建に携わった日本航空など約700社がアメーバ経営を導入しているということです。

アメーバ経営の目的

アメーバ経営の目的には、「部門別採算管理の実現」「人材の育成」「全員参加型の経営」の3つが挙げられます。

部門別採算管理の実現
売上や経費、粗利などを部門単位で算出することで、会社経営者らが、数字を整理したり調整したりしやすくします。アメーバ経営では、こうした部門別採算管理を強化し、会社利益の最大化を実現するための最適な意思決定を促します。

人材の育成
各アメーバのリーダーに組織や会計などの管理を任せることによって、経営やマネジメントの意識を持った人材を育成。会社経営の一翼をリーダーが担うことで、社員に対し共同経営者としての意識を醸成させます。

全員参加型の経営
組織を小集団に分けて独立させ、アメーバを構成するメンバーそれぞれを会社経営にコミットさせること。また、経営の意識を社員全員が持つことによって会社の一体感を構築します。これらは、稲盛氏の「経営は一部の経営トップのみが行うのではなく、全社員が関わって行うべき」との考えが貫かれているといいます。

アメーバ経営の仕組み・導入について

ここからはアメーバ経営の仕組みや導入に関するノウハウについて詳しく解説していきます。アメーバ経営の実践方法は、企業規模や形態などによって大きく異なります。このため、まずは大枠を捉えるところから始めましょう。

アメーバの構築

主に営業や製造など会社の採算に関わる組織に着目し、各部門の従業員を職能や事業領域といったカテゴリーごとに10人未満のグループ(アメーバ)に分割。それぞれにリーダーを設置します。従業員はアメーバとしての売上目標や行動計画などを主体的に策定し、メンバーと協力しながら目標の達成を目指します。

ここで重要なのは、アメーバの構築は単なる組織の細分化として行うものではないということ。会社経営の一役を担わせるため、独立性や権限移譲なども考えなければなりません。

部門別採算制度

アメーバ経営では、グループごとに収支などを管理する「部門別(独立)採算制」を採用します。各アメーバは、「時間当たりの付加価値=(売上-経費)÷(労働時間)」を算出する他、総生産(収益)・経費(支出)・差引利益(残高)を記入した「採算表」を作成。アメーバとしての数字や個人としての数字を経営者らが把握しやすいようまとめます。

これらの指標は月や年次で作成し、労働時間の短縮や経費削減、売上増加計画などをメンバー(アメーバ)に促します。

社内売買

「社内売買」とは、各アメーバが生み出した利益を統一のものさしで測るためのシステムです。例えば、顧客とのやり取りを通して利益を生み出す営業・販売部門と、直接的な利益を生み出さない製造部門の間では、単純にそれぞれの利益を金額で比較することはできません。しかしアメーバ経営では、製造部門が利益をいくら出したかを数値で測ることができるよう、独自の仕組み(社内売買)を設けます。

ここでは、製造部門が商品を作り、それを営業部門が販売して10,000円の利益を出したケースを考えましょう。通常、営業部門による利益を10,000円として計上するのが一般的ですが、社内売買の仕組みでは、利益に対する考えがこれとは異なります。

製造部門から営業部門への商品の引き渡しを”社内売買が成立したもの”として捉えるため、10,000円から「製造部門の商品単価」を差し引いた金額が、営業部門の利益として計算される仕組みです。これは、調達・製造・販売といったように、社内のサプライチェーンを組んでいる企業についても同様です。

また、社内売買は部門間で行われるだけではなく、アメーバ間でも行われます。尚、ここでは社内売買の価格に関する決定の方法ついては割愛します。

  • 「(販売部門の利益)=(会社としての粗利)―(製造部門の商品単価)」
  • 「(製造部門の利益)=(販売部門への販売価格)―(調達部門の商品価格)」
  • 「(調達部門の利益)=(製造部門への販売価格)―(調達費)」

アメーバ経営のメリット

アメーバ経営では、経営やマネジメントの機能を持った小グループに組織を分割するため、より小さい経営課題などを吸い上げられるメリットがあります。各アメーバが考える課題を上層部に集約させることで経営陣が見えなかった課題が浮き彫りになり、会社の新陳代謝を促します。

さらに、アメーバのリーダーと経営陣、アメーバ内の各メンバーといった縦・横のつながりが強固になることで、会社組織としての強い基盤が実現できるでしょう。

また、経営やマネジメントに関わってこなかった従業員らが積極的に関わることにより、将来の経営者を担う人材育成にも大きくつながるかもしれません。同時に、売上や経費、自身の成果などの詳細を従業員に把握させるため、これまで育まれることがなかった経営の当事者意識を従業員に引き起こすメリットをもたらします。

アメーバ経営のデメリットや注意点

同時に、アメーバ経営にはさまざまなデメリットも存在します。例えば、会社経営などを考える組織の単位が増えるため、グループ間の軋轢が生まれやすくなるでしょう。また、業務が増えることで従業員の負担増につながる傾向もみられます。

加えて、複雑な仕組みを持つアメーバ経営は、経営手法として導入が大変難しいことでも有名です。一つの商材に関わるプレイヤーが複雑に絡み合う企業では、アメーバ単位で利益や経費、労働時間に関する数字を正確に集計することはとても困難。したがって、アメーバ経営の仕組みを運用するための、仕組みや規定、システムなどが必要になるかもしれません。

最新のビジネス事情についてはFMIに相談を

アメーバ経営に関する理解は深まりましたでしょうか。フロンティア・マネジメント株式会社(FMI)では、ビジネスの成功に必要となるノウハウやプロセスに関して、経営のスペシャリスト集団がきめ細かに顧客をサポート。また以下のメールマガジンでは、ジャンルを問わずさまざまなビジネス事情について配信しております。

関連記事

「経営論点主義の弊害」を防げ コーポレートガバナンス強化のための取締役会運営の改善策

コーポレートガバナンス・コードが2021年6月、再改定された。上場企業のコーポレートガバナンスの強化が求められる中、独立社外取締役の役割がより一層重要となってきている。しかし、独立社外取締役にとって、実質的な議論がなされるような取締役会運営ができているのであろうか。本稿では、「経営論点主義の弊害」を取り上げ、それについての対応策を述べる。

マーケティング・コミュニケーションとは?役割や成功事例を解説

商品やサービスを売るために役立つコミュニケーション活動が「マーケティング・コミュニケーション」です。メディアのデジタル化により企業と顧客の双方向のやり取りが可能になり、その重要性は高まっています。 企業は広告や広報、SNSといった多彩な領域でマーケティング・コミュニケーションの展開が求められていますが、正しく実行できている企業は多くありません。 本記事では、マーケティング・コミュニケーションの意味から役割、成功事例まで解説していきます。

東京オリンピック縮小から考える、「ROE」と「ESG・SDGs」

コロナの影響により、東京オリンピック・パラリンピックはいまいち盛り上がりに欠け、「開催するべきか否か」という「二項対立」議論がわき上がる。勝敗がはっきりしているスポーツの現場とは異なり、ビジネスの現場おいて「二項対立」の思考は、最適解を見失うトラップとなりやすい。今回は、「ROE」と「ESG・SDGs」の関係性に当てはめ、考察した。

ランキング記事

1

国による「中小企業いじめ」の社会的リスク

菅政権のブレーンとして中小企業の淘汰・再編を指摘するデービッド・アトキンソン氏。彼の出身である英国の中小企業事情を調べてみた。英国では、日本以上に中小企業数が多く、企業数の増加も続いている。米国と中国を除けば、日本は中小企業数が極端に多いわけではない。中小企業の淘汰・再編にフォーカスする経済政策が本当にマクロ経済の復活につながるのだろうか。

2

注目を集めるCSV経営とは?実現のための戦略と事例を解説

CSVとは、「Creating Shared Value(共通価値の創造)」の略語です。社会的価値を戦略的に追求すれば、経済的価値も自然に生まれるという考え方を指します。 社会の利益と一企業の利益を同時に追求できることから、持続可能な経営に必要な考え方として注目されているCSV。しかしCSRとの違いや具体的なメリット、経営への落とし込み方について詳しく知らない人も多いでしょう。 そこでこの記事では、CSV経営のメリット・デメリットや国内大手企業のCSV経営事例を解説。またCSVを実践するために必要な経営戦略についても、分かりやすく説明します。

3

破壊的イノベーションと持続的イノベーションの違いは?メリットや事例を解説

破壊的イノベーションとは、既存事業のルールを破壊し、業界構造を劇的に変化させるイノベーションモデルです。 この概念は、ハーバード・ビジネススクールの教授であった故クレイトン・クリステンセン氏の著書『イノベーションのジレンマ』で提唱されました。それ以降、飽和状態となりつつある市場に必要なイノベーションとして注目されています。 本稿では、破壊的イノベーションの理論や企業の実践例から、破壊的イノベーションを起こすために必要となる戦略までを解説します。

4

中国で「食品ロス削減令」 農業振興の必要性高まる

農業国から先進国=工業国へ発展を進めてきた中国が、大食いや食料ロスを規制するとともに、農業拡大を強調している。背景には、都市化率上昇と共に、中国の食料課題が、世界にも大きな影響を与えている事情がある。

5

理想のコーポレートガバナンスを考える上で重要な「エージェンシー理論」とは?

多くの企業が、株主の利益を守るため企業経営を監視し、統制するコーポレートガバナンスを推進しています。 コーポレートガバナンスを考えるうえで有効なのが、ハーバード大学のM・C・ジャンセン氏らの論文で有名な「エージェンシー理論」(プリンシパル=エージェンシー理論)です。 コーポレートガバナンスの目的を達成するためには、まずエージェンシー理論の視点に立ち、経営者と株主の利害関係をとらえなおす必要があります。 本記事では、エージェンシー理論の意味やポイントを解説します。

人気のキーワード

海外スタートアップ情報はこちら!  寄稿・執筆者募集中